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■春卒(7)

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「取り敢えず今夜は少しお休み。青葉、神経が高ぶって眠れないんでしょ」
「うん、まあ」
「そういう時はね。クリちゃんをいじって自分で逝くと自然と睡魔に包まれるんだよ」
 
「ちょっとぉ!」
 
「青葉性転換した後、あまりオナニーしてないでしょ?」
「えっと・・・」
「ちゃんとオナニーしてないと、彪志君とのラブライフも楽しめないよ」
「うーん・・・」
 
「じゃおやすみ」
「うん。おやすみ」
 
青葉は電話を切ってから「はあ」とため息をついた。
 

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翌3月7日。
 
少し熟睡することができた青葉はホテルのバイキングで朝食を取ると福島西ICそばまでバスで移動し、自分の車に乗ると、一路東京を目指した。
 
そして昨夜千里に言われた占い師の事務所のそばまで行き、じっと観察した。その後、無藤激勝・準子夫妻の家に行ってみた。
 
なるほど〜。
 
片方だけ見ただけでは気づかないのだが、両方を見てみると確かに両者の間に霊的なラインが作られている。これは女性の行動を抑圧するラインである。おそらく、激勝さんあるいはその親の関係者が依頼して、激勝さんと準子さんが離婚しないように霊的な縛りを掛けているんだ。
 

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青葉は近くのファミレスに入るとネットで無藤激勝に関する噂を検索してみた。すると出てくる出てくる。
 
某有名タレントや某政治家の息子が関わったのではと噂された女性薬物死事件に彼も関わっていたのではと噂されていること。彼は準子さんとは再婚だが、前の奥さんからDVで訴えられかけて巨額の賠償金で示談したという噂があること。銀座でかなり豪遊している噂があること。そして最近では誰かは特定できないものの大物女優と不倫しているのではという噂があること。
 
彼は今無職のようだ。お兄さんの方は現在大阪支店の営業部長の地位にありそれなりにまじめに仕事をしているようで、恐らく将来的には本社取締役になりいづれ社長になる可能性もあるという話だ。しかしどうも弟のほうは色々問題があるようだ。
 
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「準子さんもお兄さんの方と結婚すれば良かったのに」
と青葉は独り言を言ったが《雪娘》が
 
『お兄さんは既に結婚していたから弟と結婚させたんだよ』
と教えてくれた。
 
なるほど〜。
 

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青葉は考えている内に少しずつ怒りが出てきた。
 
出来の悪い息子と結婚させた上で霊的な縛りで離婚も考えられないようにしておくなんて非道い!
 
それで青葉は企業の権力闘争とは無関係にこの呪術ラインを壊してしまいたくなった。そこで★★院の瞬醒さんに電話した。
 
「**の法を使いたいんです。例のあれを1個もらえませんか?」
「へー。珍しいね。青葉ちゃんがそういう破壊工作するというのは」
「ちょっと私怨です」
「うん。青葉ちゃんはそういう汚れ仕事も経験した方がいいと思っていた。霊能者はね。表の仕事も裏の仕事もできなきゃ1人前になれないし、裏の仕事を経験していないと、裏の仕事が得意な霊能者と戦えないんだよ」
 
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「それは実は菊枝さんからも何度か言われたし、生前の師匠からも言われていました」
「じゃ用意しておく。でも料金は300万円取るよ」
 
「代金は5月まで待ってもらえません?」
「いいよ。貸しにしとく」
「ありがとうございます」
 

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それで青葉はアクアを東京駅近くの24時間出し入れ可能な駐車場に駐めると、新幹線で大阪まで行く。そのあと電車とレンタカーで夕方頃、★★院に到着した。
 
「じゃこれ。使い方は分かるよね?」
「はい」
「気をつけてね。反動は普通の霊鎧では防御できないからね」
「それは守れると思います」
「まあ青葉ちゃんが死んだら線香くらい供えてあげるから」
 
「死にませんよ」
 
それで青葉はその呪具を持って大阪まで舞い戻り、最終の新幹線で東京に戻った。そしてアクアに乗って無藤さんの家から1kmほど離れた所にあるファミレスの駐車場に駐めた。歩いて現場まで行く。
 
霊鎧をまとった上で、自分の内部にある「珠」を起動して周囲に強いバリアを張り巡らせる。
 
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その上で呪具を「ライン」に向けた上で念をそそぎこんだ。
 
発動する!
 
一瞬青い炎がアーチ状にあがったのを見た。
 
そして明かにラインは消えた。
 
たぶん無藤家に密かに置かれていた「呪具」は破壊されたはずである。そして・・・これを仕掛けていた呪者も結構なダメージを受けたはずである。青葉は自分自身が無事なことで、その効果を確信した。実際問題として念のため周囲に張っていたバリアには何も反作用は来なかったのである。
 

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青葉はふっと息をつくと霊鎧を解除して、とりあえず歩いて車を駐めたファミレスまで行き、そこで料理を注文したまま、数時間放心状態にあった。
 
その内桃香からメールが着信する。時計を見るともう朝の6時である。青葉は周囲に他に客がいないのを見てこちらから電話を掛けた。
 
「青葉東京に来てるんだっけ?」
「うん。来てる。ちょっと疲れてたから途中で休んでた。そちらに行っていい?」
「うん。ついでに買物して来てくれない?」
「いいよ。じゃ、そちらに行って朝御飯作るね。そうそう。お正月の例のお酒も持って来たから」
「おお、それは素晴らしい」
 
桃香と話していたら青葉も心が少し柔らかくなって微笑みが出た。
 
「そうだ。桃姉、私、こないだ桃姉たちに貸してもらったお金で買った車を運転してきたんだけど、どこか駐める所あるかな」
 
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「ああ。うちの近くの駐車場のいつもミラ駐めている所に駐めればいいからアパートまで来たら教えるよ」
「ミラ駐めてる場所なら分かるけどミラは?」
「昨日、千里が使うと言って用賀の方の駐車場に持っていったんだよ」
「へー」
 
実際は青葉がアクアを駐められるように空けてくれたんだろうな。
 
それで電話を切ると、青葉はテーブルの上にほとんど手つかずで残っている料理をこっそりとビニール袋に詰めバッグに入れた。そして伝票を持って席を立ち、会計の所に行った。
 

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どっちみち荷物を降ろすしと思い、青葉はコンビニで少し食料品を買った上でアクアをいったん経堂のアパートそばに停める。桃香が出てきて車を見て
 
「凄い色の車だ!」
と言った。
 
「キャンセル車があってすぐに入手できるということで買ったんだけどね。でも私っていつも控えめだから、こういう色の方が私のためにはいいって友だちから言われた」
 
「ああ、それは私も賛成。青葉って地味な色を選びがちだし。白とか水色じゃ青葉の運気は沈んでしまうよ」
と桃香は言う。
 
「桃姉が運気なんて言葉使うの珍しい」
「私は唯物論者だけど、人は結構気の持ちようで変わるんだよ」
「そうだね」
 
それで荷物を降ろしてからいったん駐車場まで車を移動させ、歩いてアパートに戻る。
 
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「桃姉、そこに落ちている赤いストッキング、誰の?」
と青葉が言うと
 
「わわわ」
と桃香は慌てた様子でそれを台所の大きなゴミ収集箱の中に放り込み、その上から部屋のゴミ箱の中身を入れて、見えなくしていた。
 
なるほどー。ちー姉が最近遅いのをいいことに他の女の子を連れ込んでいたのか。桃姉もちー姉のこと凄く好きみたいなのに、なんで浮気するんだろう?どうもよく分からないなあと青葉は思った。
 

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青葉はそのあとコンビニで調達してきた食材で朝御飯を作り、桃香と一緒に食べた。それから桃香が「食糧の買い出し頼む」と言ってお金を3万円置いて会社に出かけるので、それを見送った。
 
青葉は昼くらいまでぐっすり寝てから、棚の隅にあった賞味期限が2012年のそうめんを茹でてお昼御飯にし、そのあとアクアで買い出しに出た。
 

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約半日前。
 
「まだまだ詰めが甘いなあ」
 
とトボトボとした足取りで現場を去りファミレスの方に向かう青葉の背中を見送って千里はつぶやいた。
 
「今のは不意打ちに近かったから相手はやられたけど、相手の攻撃の道具を残しておいたら、今度はこちらが反撃くらうじゃん」
 
5分ほどで《こうちゃん》と《いんちゃん》が別方向から戻って来る。
 
『こうちゃん、いんちゃん、お疲れ様』
 
『結界を完全に破壊したから、あの占い師を恨んでいる数人の占い師からの攻撃がまともに入るようになった。水晶玉も鏡も《割れちゃった》し祭壇も《壊れちゃった》から、あそこは霊的に再建するのに半年はかかるだろうね。本人に再建できるだけの気力と霊力が残っていたらだけど』
 
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と《こうちゃん》
 
『ありがとう。そのくらいはしておかないとね』
と千里は言う。
 
『本当は殺しちゃうのがあとあと面倒が無いんだけど』
『それは禁止』
『へいへい』
 
『今日進行中だった浮気現場の写真、無藤家のポストと、週刊**の郵便受けに放り込んだから。相手が女優の**だし、週刊誌は絶対飛び付くよ』
と《いんちゃん》。
 
『そこまでやれば、後は自動的に進んでいくだろうね』
 
『女に暴力ふるった上で浮気するような奴は本当は殺してやりたかったよ』
と《いんちゃん》は言う。
 
『私の配下に居る限り、正当防衛の場合以外、人殺しは禁止』
『はいはい』
 

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『でもあのラインを一撃で消し去った青葉のパワーはやはり凄まじいよ』
と《こうちゃん》は言う。
 
『あの子って自分のパワーが人間の領域を越えていること自覚してないよね』
と《いんちゃん》。
 
『あのラインが消去されたことで結果的に結界にも穴が空いたから、その後のこちらの工作もできるようになったからな。まあ物が壊れちゃったのは事故で』
と《こうちゃん》。
 
『そういう呪いのシステムを破壊するとか、やはり青葉は凄いよね。元々能力があった上に、小さい頃から厳しい修行を重ねたからできるんだろうね。私にはとても伺い知れない世界の力だなあ。私なんて何の修行もしてないし、そもそも霊的な能力からして全然無いし』
と千里。
 
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『・・・・・』
 
『どうしたの?こうちゃん』
『千里の発言ってマジなのか、冗談なのかどうもよく分からん』
『私はいつもマジだけど』
 
『まあいいや。今回は結構俺も楽しんだし』
と《こうちゃん》は言った。
 

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