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■春卒(14)

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青葉は東京から戻ってきた翌日の3月12日に再び自動車学校に行き普通二輪のコースに入学した。
 
春休みの間にバイクの免許を取っておこうという計画である。実は税金を払うための資金を千里から少し余分に振り込んでもらったので若干の資金の余裕があるのである。
 
既に普通免許を持っている場合、必要な教習時間は第1段階が実車9時間、第2段階が実車8時間+学科1時間なので卒業検定まで入れて9÷2+8÷3+1=9日間で卒業することができる。
 
青葉はこれを順調にクリア。連休明けの3月22日に卒業検定を受けて合格、翌日23日には運転免許センターに行って普通二輪の免許を取得した。
自動車学校への通学や運転免許センターに行くのも自分のアクアを使ったが
 
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「凄い色の車が駐まっていると思ったら君のか」
と親しくなった教官から言われた。
 
なお夏に普通免許を取りにいった時は性別問題で揉めた(?)ものの今回は
 
「あら、あんた今度は二輪を取るのね」
と言われただけで、ふつうに性別男の書類を通してもらい、免許センターでも
 
「フルビットに向けて順調に進んでいるね」
とだけ言われた。
 
それで青葉は原付・小特・普通の免許がセットされたブルーの免許を返納して代わりにそれにプラス「普自二」の免許まで入った新しいブルー免許を受け取った。有効期限は今までの免許と同じ平成30年6月22日である。
 
(免許の種別表示は紛らわしいが「普自二」が普通自動二輪で、「普二」は普通二種である。なお二種は普通免許を取ったあと3年以上経過しないと取得できない)
 
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青葉が自動二輪の教習に行ったのが3月12日から20日までだが、教習が終わった翌日の21日には明日香たちと一緒にKARIONの金沢公演に出かけた。人数も7人だし、会場には駐車場が無いので素直に高速バスで金沢駅まで行き、シャトルバスで会場入りした。その前日20日に美由紀が受けた美大の合格発表があっていた。
 
「美由紀の美大合格祝いも兼ねて行こうよなんて言ってたんだけどね」
などと明日香は言っている。実際には「残念会を兼ねて」などと言いながら計画したのだが、明日香もなかなか調子が良い。
 
「悔しいなあ。けっこういい出来だと思ったし、面接の感触も良かったのに」
と美由紀。
「きっともっといい出来の人がいたんだよ」
と世梨奈。
「入試って絶対評価じゃなくて相対評価だからね」
と星衣良も言う。
 
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シャトルバスを降りて会場の方に歩いて行っていたら今回はサマーガールズ出版の秋乃風花さんが通り掛かる。
 
「川上さん、こないだはごめんねー」
と声を掛けてきた。
「いえ。もうインフルエンザはもう大丈夫ですか?」
「うん。一週間寝込んだけどね」
 
それで秋乃さんが「時間あるし、楽屋においでよ」というので、結局また7人で楽屋に行く。
 

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「なんかいつもこのパターンで楽屋にお邪魔している気がする」
と美由紀。
「川上さんなら、KARIONやローズ+リリー、槇原愛、スイート・ヴァニラズあたりのライブには顔パスで楽屋に入れますよ」
と秋乃さんは言っている。
 
「スイート・ヴァニラズさんの楽屋に行くと、色々可愛がられそうで怖いです」
「確かに確かに」
「ケイさんはキスを奪われたと言っていたな」
「ああ。光帆さんもキスを奪われたらしい」
「槇原愛はバージン奪われそうになって必死で逃げたという噂が」
「バージン奪われるものなの!?」
 
「エリゼさんは酔ってない限り女の子襲ったりしませんよ」
「男の子なら大丈夫だけどね」
「なんか怖い話を聞いた気がした」
 
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「おはようございま〜す」
と言って楽屋に入っていく。
 
「おお、可愛い女の子が7人も来た」
と海香さんが言う。
 
「あ、性転換した元TAKAOさんですか?」
と明日香が言う。明日香はこの手の情報はつかむのが速い。
 
「そうそう。女になっちゃったけど、よろしくね〜」
などと海香さんは言っている。
 
「え?性転換なさったんですか?」
とこの話をまだ知らない星衣良が訊くが
「まあ詳しいことはステージで」
などと隣で小風が言っていた。
 

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唐突に和泉が言った。
 
「青葉ちゃん、来たんならサックス吹いてくれない?」
「え〜〜!?」
 
「『月に想う』を演奏曲目に入れようよ。ねえ、蘭子」
「ああ、いいかもね。じゃ青葉よろしくー」
「私サックス持って来てないです」
「備品で持って来てるよ。マウスピースはいつも何個か予備があるし」
 
「でも三重奏ですよね? 私とSHINさんともうひとりは?」
「蘭子が歌いながら吹く」
「歌いながらですか!?」
 
「まあいいよ。三重奏になる部分は歌が無いから。自分のウィンドシンセは持って来ているし」
と冬子は言っていた。
 
「蘭子は以前別のバンドの演奏会でクラリネットとグロッケンシュピールを同時に演奏したこともある」
と和泉は言う。
 
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「すごーい」
 
「いや、あれは本番中にグロッケンの担当者が怪我して、苦肉の策だったんだよ。『くるみ割り人形』の『金平糖の踊り』なんだけど、バスクラリネットとグロッケンシュピールは掛け合いで、同時には音を出さないから出来た」
と冬子。
 
「蘭子さんって、そういう非常事態に物凄く強いみたい」
と青葉が言うと
「それって一種の才能だよね」
と小風が言う。美空も青葉を見ながら
「醍醐春海さんなんかも圧倒的にやばい時に強い」
と言う。
 
「あの子は誤魔化し方も巧いんだよ。その辺りが私は下手なんだよね」
と冬子は言っていた。
「醍醐さんは自分は90%がハッタリだからと言ってた」
と美空。
 
「でも逆に実力はあっても見せ方の下手な人は評価されないですよね」
と日香理が言う。
 
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「そうそう。人はいかにも自信があるかのような言い方すると結構信用する」
と美空は言っていた。
 
すると金沢名物笹寿司をひたすら食べていたマリが唐突に発言した。
 
「男の娘も多少外観自体に問題があっても、堂々と女の子ですって顔してれば誰も男だとは思わないよね」
 
「うん、それは女装の基本だよ」
などとなぜか海香さんまで言っていた。
 

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『月に想う』を入れる件は、すぐに男性用控室に居る黒木さんに連絡を取って了承を得た。この曲は途中の休憩をはさんだ後半の先頭に入れることにしたので、青葉は休憩時間になった所で客席から抜け出してバックステージに行き、その1曲だけ演奏に参加した。
 
青葉たちはライブ終了後「お疲れ様言いに行こうか」と言って再度楽屋に行った。すると「おお、若くて元気そうな子が7人も」と三島さんから言われ、撤収作業を手伝うことになる。それで作業が終わった所で「あんたたちも良かったら、ついでに打ち上げにおいで」と言われ「タダなら行きます」と言って、市郊外の焼肉店に行った。
 
「結局妹さんだったんですね。本当に性転換なさったのかと思ってびっくりした」
と星衣良。
 
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「でも私ギターの演奏が男らしいと言われて、実は性転換した元男じゃないの?ってよく言われるのよね」
と海香さんは言っていた。
 
「他のバンドにおられたんですか?」
「1年くらい前までは友人で集まって作ったバンドやってたんだけどね。みんな仕事が忙しくて自然消滅という感じ」
「ああ」
 
「お仕事とかはなさってなかったんですか?」
「私は大学院生なんだよ」
「おっ、すごい」
「だから学校を出るまでは一応学業優先にしてもらう約束」
「なるほどー」
「どちらの大学ですか?」
「調布市のD大学」
「あ、なんか凄い」
 

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「みんな進学先は決まったの?」
と小風が青葉たちに訊いた。
 
「私と山田(星衣良)が金沢市のK大学、田中(世梨奈)と鶴野(明日香)が同じ金沢市のH大学、石井(美由紀)は同じくG大学、寺島(奈々美)は富山市のT大学、大谷(日香理)は東京の東京外大です」
と青葉は説明する。
 
「東京とか大阪とか出てくるのは1人だけですか?」
と花恋が訊く。
 
「私は関学にも合格したんですけど、親が同じ私立なら地元に行けと言うし」
と明日香。
「関学って関東学院?」
「いえ、関西(かんせい)学院です」
「あ、そちらか」
 
「青葉も東京の△△△大学に通ったんでしょ?」
「いや、私は先にK大の合格が出たから△△△大学は受けなかった」
「私立の入試より早く決まったんだ!」
 
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「私も東京のW大学にも合格したんですけど、地元の国立のT大学に通(とお)ったから、お金も無いし、地元の方に行こうかと」
と奈々美。
「奈々美はW大学ならバスケ強いから良かったのにね」
と明日香が言う。
「うん。大学よりむしろW大のバスケ部に入りたかった」
 
「ああ、バスケするの?」
「この子インターハイにも行ったんですよ」
「すごーい」
 
その時海香が言った。
「奈々美ちゃんって簿記できる?」
「あ、えっと一応日商簿記の2級取りましたけど実務はしたことないです」
「2級なら凄いじゃん。英語は?」
「英検の2級は取りましたけど、あまり自信は無いです」
「運転免許は?」
「大学に入ってから夏休みに取りに行こうかなと言ってたんですが。入試でお金使い果たして今お金が無いので」
 
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「うーん。その辺はまあいいかな。奈々美ちゃん、お料理は上手い?」
「お料理ですか? えっと、あまり上手いとまではいえませんけど」
と本人は言ったが
 
「奈々美はすぐお嫁さんに行ける程度に料理しますよ」
と世梨奈が言う。
 
すると海香さんが言う。
「ね、ね、だったら物は相談だけど、奈々美ちゃん、私と同居するつもり無い?」
 
「え〜〜!?」
 
「もしかして食事作る係ですか?」
「それと旅館の東京事務所のバイト」
「それ何するんですか?」
 
「うちの実家で旅館やってて、孝郎がこないだ新社長になったんだけどさ。いろいろ広報活動するのに東京事務所を作ることにしたのよ」
「へー!」
 
「旅館自体も施設を拡充させる。今築50年の古い建物使っているから、取り敢えず鉄筋コンクリートの新館の建設を決めた」
 
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「凄い」
「テレビでこんなに報道されたりして絶対客が増えるからと言って銀行から融資を取り付けたんだよ」
「頑張りますね」
「夏休みに間に合わせるから」
 
「間に合うんですか!?」
 
「ユニット工法なんだよ。80%は工場で作られて現地では組み立てるだけ。それと実は新館建設の計画は5年前にもあって基礎工事までした所で施工していた工務店が倒産して放置されていた。調査してもらったらその基礎が再利用できると出たんだ。だから地上だけ積み重ねればいいから、今の所、7月上旬に完成させられると言ってる」
 
「手抜き工事になりませんよね?」
「兄貴が目を光らせているから大丈夫じゃないかなあ。それで私、その東京事務所の所長に突然予告無しに任命されちゃって。金曜日にいきなり名刺郵送してくるんだよ」
 
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「あはは」
 
「東京事務所のお仕事としては広告関係を雑誌社とかに流したり、時には取材に応じたり、大口の予約の交渉に行ったりすること。まあそういう営業くらいは私がやるつもり。でも事務所に常駐できないからさ、私の友人を日中の留守番・受付と電話番として月2万で雇うことにしたけど、彼女、簿記は自信が無いというのよね」
 
「月2万ですか!?」
 
「予算があまり無いのよ。それで誰か簿記をやってくれる人を探してた。給料月2万で」
 
「それも2万なんですか!?」
 
「それと私、料理が全然できなくてさ。今も外食とインスタント・レトルトばかりなんだよね〜。でも院生やりながらトラベリング・ベルズもして、更に東京事務所までやったら、食糧を買い出しに行く時間も無くなるなと思って。それで、学生さんでいいから泊まり込みで食事を作ってくれる人で、簿記もしてくれたらいいなとか昨日あたりから考えてたのよね。食事係もしてくれるなら月3万払ってもいい」
 
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「ほほぉ」
 
「場所は神田の一角のマンションの2階。家賃が50万円もしたらしいけどさ、兄貴がこういうのは少し高くても山手線の中に作らなきゃいけないって」
 
「お兄さん、商売のこと分かってますよ」
「でも人件費は無いんだ?」
「人件費は実はゼロ」
「え〜〜!?」
「だから私の友人の金子ちゃんという子に払う給料も、奈々美ちゃんに払う給料も私のポケットマネーで」
「わっ」
 
「実際には借りたマンションの表半分を事務所として使い、裏半分は私の住居にする。今私調布市内の安アパートに住んでいるんだけど、そこを引き払って引っ越しする。ちょっと大学に通うには不便なんだけどね」
 
「いや朝夕の移動方向が大半の人と反対だから何とかなると思いますよ」
「逆にトラベリング・ベルズをやるのには便利なんだ」
と言っていると、少し離れた所で冬子・川原姉妹と話していた和泉が
 
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「そこ私のマンションからも近所なんだよ。良かったら私も御飯食べに行かせて」
などと声を掛けてきた。
 
「いづみさん、お料理は?」
「私、インスタント・ラーメン作るのは上手いよ」
「その程度か!」
 
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