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■春卒(4)

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翌日は朝5時半に起きて身支度を調え6時に1階ラウンジに降りて行って朝食を食べた後、指定のスタジオに楽器を持って移動した。相沢さんがもう来ていて
 
「先日からありがとうね」
と言う。
「いえ、そちらこそ本当に大変でしたね」
と答えておいた。
 
こんな朝早くからリハーサルで美空は大丈夫かな?と思ったが7:05に花恋に付き添われてやってきた。ちゃんと起こしに行ったようである。それでリハーサルが始まったが、完全に本番通りの進行でMCもまじえて演奏した。
 
今回の演奏メンバーはKARIONの4人のほか
 
Gt.相沢孝郎 B.木月春孝 Dr.鐘崎大地 Sax.黒木信司 Tp.児玉実 KB.川原響美 KB/Vn.川原夢美 Fl.川上青葉
 
というラインアップである。川原響美(おとみ)さんは冬子の親友・夢美さんのお姉さんで過去にも何度もKARIONのライブに蘭子の「代理演奏者」時には「ダミー演奏者」として参加しているらしい。なお、今日はグロッケンが省略されていて、どうしてもグロッケンの音が必要な所は響美さんか夢美さんがキーボードで出していた。
 
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青葉は持参のフルート(YAMAHA YFL-261 白銅製:元々は中学時代に政子(マリ)さんが使用していた初心者用のフルート)で吹き始めたのだが、黒木さんが「川上さんはその楽器合ってない」と言い出す。
 
「蘭子、備品で何本かフルート持って来てるよね?」
と冬子に尋ねる。
 
「総銀製のYamaha YFL-777, Muramatsu DS と純金の Muramatsu 24K 1本持って来てる」
と冬子。
 
「この子の息の力なら純金でもいけると思うけど、いきなり純金では吹きこなせないだろうから、総銀を使わせてみて。同じYamahaの方がすぐなじむかな?」
と黒木さん。
 
それでその総銀製のヤマハのフルートを借りて吹く。あ、これ結構吹きやすいし良く鳴ると青葉は思った。
 
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「うん。この方がいい。今日はそれで吹いてよ」
「はい」
 

今回は基本的にはフルートを吹き、青葉自身の作品である『白兎開眼』だけ篠笛(ドレミ調律)を吹いた。またKARIONのライブではいつも最後に演奏することになっている『Crystal Tunes』でピアノを弾いてくれないかと言われる。
 
「それは川原さんの方がうまいのでは?」
「私はオルガン弾きだから、ピアノは微妙に不得意で」
などと川原夢美さんは言っている。
 
「それでも私よりずっと上だと思いますけど」
「私はグロッケンの方を打つからさ」
 
「お姉さんの響美さんは?」
「私素人だから」
と響美さん。
「私も素人です!」
と青葉。
 
「いや、実は私も今まで思い至ってなかったけど、今日はこのピアノも風花に弾いてもらう予定だったんだよ」
と冬子が申し訳なさそうに言う。
 
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それで結局『Crystal Tunes』は青葉と夢美で伴奏することになった。
 

途中何度も停めて、調整してやり直したりということをしていたので1時間のステージのリハーサルが終了したのがもう9時すぎである。
 
「お疲れ様」ということでいったん解散する。
 
「じゃ13:00集合、時間厳守で」
ということであったが、美空は最初のゴールデンシックスだけ見てから後はホテルに戻って寝ていると言っていた。和泉は「私は今すぐから寝てよう」と言っていた。
 
和泉がマジでホテルに戻っていたので、冬子、美空、小風、青葉の4人で一緒にいったん市内某所まで行き、そこに待機してくれているスタッフ専用のタクシー(数台を丸一日チャーターしている)で会場に移動した。会場に通じる道路はシャトルバス、スタッフ専用のタクシーとマイクロバス以外は基本的に通行禁止になっている。
 
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会場に入り、スタッフエリアのところで鑑賞することにする。近くに24-25歳くらいの感じの女性2人がいて、美空・小風と手を振り合っている。
 
「どなたでしたっけ?」
と青葉が小さい声で訊くと、美空が
「チェリーツインの少女Xと少女Y」
と答える。
「へー!」
 
「ステージでは基本的に顔出しNGだけど、ここでは覆面とかしてる方が目立つから」
「なぜあれ顔を隠すんですか?」
「まあ文楽の黒子と同じで、そこに存在しないという意味なんだよね。あくまでチェリーツインのボーカルは星子と虹子だから」
 
星子と虹子は「歌が大好き」ではあるものの実際には言語障碍で声が出せないので、少女Xと少女Yが覆面をしたり背景に擬態して代理歌唱しているのである。
 
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「美空さん、小風さん、お知り合いだったんですか?」
「まあ古い知り合いだね」
と小風が懐かしむように言った。
 

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「そういえば少女Yの男の娘疑惑というのがありましたね」
「ああ、あの子は男装趣味があるだけだよ。天然女だよ」
「そういうことだったんですか」
「洋服も男物、女物が半々だと言っていた」
「なるほどー」
「実は男声も出せる」
「それは凄い」
 
「男装している時にドリームボーイズの蔵田さんにナンパされたのがデビューのきっかけ」
「そういうつながりが!?」
 
「実際にはその曲を書いたのは蘭子だよね?」
「まあ私はまとめただけだけどね。でも少女X・少女Yの素顔は私も久しぶりに見た。美空だけじゃなくて小風も知り合いだったんだ?」
「そのあたりは企業秘密ということで」
 
「でも今回チェリーツイン7人の交通費・宿泊費は美空が出してあげたんでしょ?」
「うん。あの子たちこそ純粋なボランティアだから、そのくらいはしてあげないとと思ってね」
 
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チェリーツインは今回のイベントに参加している中で唯一のインディーズ・アーティストである。彼女らのプロジェクトの収益の半分が毎年福祉関係の支援活動をしている団体に寄付されている。また彼女たちこそ、売上を全て寄付する純粋チャリティーライブを年2回実施している。
 

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ちょうど10時になりイベントが始まる。ゴールデンシックスが登場して2万人の大観衆を前にカノンとリノンが煽るようなセリフを言っていきなり盛り上げる。そして『停まらないならもっと走れ』という曲から始める。ゴールデンシックスにはこの手の「煽る曲」が多い。ある意味ロックの魂だ。
 
「この曲、AYAが歌っている『停まらない!』を私が書いた時に同時に千里が書いた曲みたいなんだよね」
と言って冬子さんは苦笑している。
 
「それって何かあったんですか?」
と青葉が訊く。
 
「まあここだけの話、私と千里と川崎ゆりこが乗っている車がフェード現象で停まらなくなったんだよ」
「ひゃー」
 
「千里が走行中に自分が運転席に移動して、車の脇を擦って停めてくれた」
と冬子は説明する。
「走行中に運転を替わったんですか!?」
と青葉が驚いて言う。
 
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「凄いね。さすが国際ライセンス持ち」
と美空が言っている。
 
「でもAYAも別口でフェード現象やっちゃって、やはり車の脇を擦って停めようとして壁面に激突した」
 
「ああ」
 
「素人はそうなるかもね」
と小風。
 
「それよく無事でしたね」
と青葉。
「カイエンだからだと思う。やわな車だと大怪我してたろうね。これ内緒ね」
と冬子。
 
「今日は内緒の話をたくさん聞く」
 

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「内緒ついでに、今日の演奏曲目に入っている『夏祭りの夜に』と『ツンデレかぐや姫』って名義が逆ですよね?」
と青葉は言う。
 
「それよく分かるね」
と小風が感心する。
 
「まあ青葉は波動で分かったでしょ?」
と冬子が訊く。
 
「ええ。常識的に言うと『ツンデレかぐや姫』みたいな軽いノリの曲は葵照子・醍醐春海が得意とする所で、『夏祭りの夜に』みたいな深い曲ってこれまでも森之和泉・水沢歌月がよく書いてた感じの曲なんです。でも波動が違うんですよ」
 
「レコード会社から、和泉・歌月であまりふざけすぎないでくれと言われたんで名義を交換したんだよ。でも印税は本来の作者が取る約束」
 
「なんかそのあたりの名義貸しって複雑すぎますね」
「まあ誰とは言わないけど、この世界には名義を貸して収益をあげている作詞家・作曲家も多いから」
 
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「それってブランド商法だよね?」
「そうそう。ライセンス生産なんだよ」
 

「でも醍醐春海は今すごく充実してるよね」
と小風が言う。
 
「『鬼ヶ島伝説』も『夏祭りの夜に』も凄くいい曲だよ」
と小風。
 
「うん。私は個人的には正直な話、ラビット4の曲は脅威に思うほどよくできてると思うんだけど、円熟さでは醍醐春海が物凄くいい。ただ、あの子不安定だからね。いつ唐突に調子を落とすとも限らない。あの子が出てきた2007-2008年頃って物凄く良かったけど2009-2010頃は調子を落としていた。2011年後半から2012年前半も凄く良かったけど2012年後半から2013年前半は酷かった。そのあと少しずつ復活してきて、今またピークにさしかかっている感じかな」
 
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と冬子は言う。
 
それって要するに細川さんとの恋愛関係に連動してるんじゃないか?と青葉は想像した。
 
「芸術家って、わりとそういう波のある人、いるよね」
と小風。
「うん。まさに彼女はその波のあるタイプだと思う」
と冬子は言っていた。
 

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「でも蘭子も一時期調子落としてたけど、最近かなりよくなってきている」
と小風は言う。
 
すると冬子は自分のバッグから1枚の譜面を取り出した。
 
「これこないだからずっと推敲している」
と言ってかなりの修正加筆の跡がある譜面を見せてくれる。何色ものボールペンで修正が入っている。
 
「『雪原を行く』って、こないだのスノーモービルでの脱出の時の曲?」
「うん」
 
「あれ、でも公開しないんじゃ?」
と小風が訊く。
 
「公開しないならテレビ局に撮影させないよ」
と冬子。
 
「公開しちゃうんだ?」
「じゃ、もしかしてケイと蘭子は別人という話はもうおしまいですか?」
と青葉は尋ねた。
 
「まあ詳しくは13日のテレビを見てもらえば」
「へー!」
 
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青葉は修正の跡の物凄い譜面をどれが最終的な修正なのかを判読しながら読んでいく。
 
「これ凄くきれいな曲ですね。しかもシンプル」
 
「うん。音域は2オクターブに留めているから、ふつうに少し歌唱力のある人なら歌える。難しい音程進行も無い。先日の『振袖』や『門出』は超難曲だから」
 
「東堂千一夜さんの『トップランナー』だって凄くいい曲なのに、あの2つと並べるとかすんじゃったね」
などと美空は言う。
 
「『門出』は和泉も歌う自信無いと言ってた」
と小風。
 
「いや和泉の方が私より音域広いから歌えるはず」
と冬子は言ってから
「青葉にも歌えるけどね」
とこちらを見て言う。
 
「あの曲は音域だけの問題じゃないんです。音程取りが凄く難しいんですよ。本当に音感の良い人にしか歌えない。でも和泉さんにも歌えるはずですよ」
と青葉は言う。
 
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「実は鴨乃清見さんから大学進学なんかやめてこの歌で歌手デビューしない?とか言われたんです。でも私は歌手とかするガラじゃないし。それでケイさんを推薦したんです」
と青葉は更に説明した。
 
「おお、そういう経緯があってローズ+リリーに行った訳か」
 
 
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