広告:國崎出雲の事情 1 (少年サンデーコミックス)
[携帯Top] [文字サイズ]

■春順(13)

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 
前頁 次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

(C)Eriko Kawaguchi 2016-03-22
 
11時半頃、早めの昼食を取る。この様子をテレビ局が撮影している。千里はテーブルの端の方、カメラには映らない所に座ってお昼を食べた。
 
その後冬子はカメラに映っている所で防寒具を身につける。千里はカメラに映らない所で身につける。そして千里が先に1階に降りて行き、相沢さんからスノーモービルを受け取る。
 
エンジンを掛け待機している所に冬子がカメラと一緒に降りてきて、千里の後ろに座り、しっかりと抱きつく。冬子が見送りの和泉・小風・美空に手を振り、千里はスノーモービルを出発させた。
 

↓ ↑ Bottom Top

途中八川で旅館の非番の従業員さんと会い、除雪作業の状況などを聞いた上で大原まで走って相沢さんのお友達の所に寄り相沢さんからの手紙を渡してスノーモービルと防寒具等を預かってもらった。
 
それで少し前に大原に着いたばかりという矢鳴さんに連絡して迎えに来てもらう。それで矢鳴さんは五條市からここまで6時間ほど、ほぼ連続運転していたと聞き、千里は
 
「ここは取り敢えず冬が運転した方がいい」
と言った。
 
千里もここまでスノーモービルを運転してきている。それで冬子も確かにそれがいいと言ってプラドの運転席に座る。千里が助手席に座り、矢鳴さんには後部座席で毛布をかぶって仮眠してもらった。
 

↓ ↑ Bottom Top

千里と冬子に矢鳴さんの3人が乗った車が国道沿いの大原集落を出たのが13時半くらいであった。
 
千里は「何かあったら起こしてね」と後ろの子たちに言って、神経の95%くらいを眠らせた。
 
やがて《りくちゃん》が千里を起こす。
 
『唐本さんさっきから何度か瞬眠起こしてる。これ危険だから代わった方がいい。多分昨夜、心配で眠られなかったんじゃないの?』
 
車の時計を見ると14:24である。冬子は1時間ほど運転している。
 
それで千里は
 
「そろそろ代わろうか? 冬も疲れたでしょ。少し仮眠するといいよ」
と声を掛ける。
 
冬子もホッとした表情で
「うん。そうさせてもらおうかな」
と言って、車を脇に停め、運転席と助手席を交代した。
 
↓ ↑ Bottom Top


千里は運転席に就いて車を出発させると、すぐにまず《とうちゃん》に頼む。
 
『冬子と美里さんがしばらく起きないようにしといてくれる?』
『OKOK』
 
それから秋田に居る《きーちゃん》に声を掛ける。
 
『交代してくれる?ちょっと悪路での運転で悪いけど』
『雪道はたくさん運転してるから平気』
『じゃ荷物はそこに置いて、こちらに来てくれる?』
『おっけー』
 
それでいったん車を脇に停めた上で《きーちゃん》と入れ替わった。
 
千里がいるのは今日の試合会場である秋田県立体育館のそばである。荷物を持って駆け足ぎみに中に入っていくと、入口の所に旭川N高校の先輩でチームデスクの靖子さんがいる。
 
「遅くなりました!」
と声を掛ける。
 
↓ ↑ Bottom Top

「おお、何とか間に合ったね」
「すみませーん!」
 
レッドインパルスのロッカールームに行くと試合前のミーティングを始めようとしているところであった。
 
「残念だ。1000万円もらいそこねた」
と妙子キャプテンが言う。
 
「あれマジだったんですか?」
「マジマジ」
「怖いチームだ」
 
「他のメンバーも遅刻・欠席は罰金1000万円だからね」
 
「払えません!」
とみんな言っている。
 
「だけどサン、こういうのって本来試合に間に合えばいいというものではないよ」
とマミさんが厳しいことを言う。
 
「はい、大変申し訳ありませんでした」
と千里はペコリと頭を下げてチームのみんなに謝罪する。
 
「みんなも再度認識して欲しい」
とマミさん。
 
↓ ↑ Bottom Top

「私たちはプロスポーツ選手として、お客さんとの契約にもとづきこの場所に来ている。お客さんは自分たちの貴重な時間を使い、わざわざ交通費を掛けてこの会場まで来て入場料を払って試合を見てくれる。そこにお目当ての選手がいなかったらどうする?そして出場はしていたとしても緩慢なプレイをしていたらどう思う?これは試合に出る出ないとは関係無い。お客さんはその選手の姿を一目みたいから来ている。良いプレイを見たいから来ている。万一事前の予告無く欠席したり、酷いプレイを見せたら、そのお客さんひとりひとりに10万円くらいは補償しないと納得してくれないよ。お客さんが3000人いたら3億円だよ。1000万円の罰金なんて生やさしいくらいだ。そのあたりを甘く考えてもらっては困る」
 
↓ ↑ Bottom Top

とマミさんは全選手を前に語った。
 
千里は再度
「二度とこのようなことがないように肝に銘じます」
と答えた。
 
それは全選手を代弁する発言でもあった。みんな神妙にベテランのマミさんの話を聞いていた。
 
「じゃ、そのあたりのスケジュール管理はみんなちゃんとしてもらうことにして今日のミーティングを始めようか」
と小坂代表が言い、試合前のミーティングは始まった。
 
そのミーティングが終わった所で千里はユニフォームに着替える。
 
「なんか荷物が多いね」
「このあとちょっと妹と合流するものですから」
 
「あ、金萬3箱ある」
「空港の売店で買ったんです。1つここで開けちゃいます?」
「いいの?」
「どうぞー」
 
↓ ↑ Bottom Top

ということで千里は金萬の箱を1つ開けたが、ほとんど一瞬で無くなった。しかしマミさんが厳しいことを言った後で、まだ場の空気が硬かったのが、このお菓子配布で結構やわらいだ感もあった。マミさんも
 
「うん。これ美味しいね」
などと笑顔で言ってくれて、千里は心が融けるような思いだった。
 
マミさんは嫌われ役を敢えて買って出て引き締めを図ったのだろうが、言われた側としては、やはり自分が悪いと思っているだけに結構きつい。
 

↓ ↑ Bottom Top

この日千里は「あんた目当ての客もいるよきっと」と妙子キャプテンから言われて、試合開始前の練習に出た。千里が遠い所からどんどん正確にボールをゴールに放り込むと今日の相手チーム・ビューティーマジックのシューター萩尾月香が凄い視線でこちらを睨んでいたし、客席からも歓声があがっている雰囲気であった。
 
試合は15:00からである。これはWリーグ今期の準決勝3連戦の第1試合である。
 
ビューティーマジックはオールジャパンでは40 minutesと並んで3位であった。月香のほか、日吉紀美鹿・鈴木志麻子などがいる。
 
千里は試合は客席から見守ったが、コート上の月香や志麻子が時々チラッとこちらを見ていた。この日は僅差でビューティーマジックが勝ったが、千里は自分もコートに立ちたいという思いが募った。
 
↓ ↑ Bottom Top


試合終了後、ミーティングをしてから解散する。各自ホテルに帰るというところで千里は
 
「すみません。ちょっと頼まれたものがあるので、お先に失礼します。明日はちゃんと集合時間の30分前に来ます」
 
と声を掛けて会場から走り出し、取り敢えず公園内のトイレ裏手に行く。愛用の《スントの腕時計》で時刻を見ると17:30である。
 
荷物の中から金萬を1つ取り出した上で
 
『きーちゃん、ありがとう。交代しよう』
と声を掛けると
 
『千里、お疲れ。びっくりしないでね』
と《きーちゃん》は言う。
 
へ?
 
と思って交代してみると、千里は車の運転席におり、車はどこかに駐まっている。それはいいのだが、目の前に大きなホテルがある。
 
↓ ↑ Bottom Top

ここどこ?
 
と思って車のキーを回して電装品が使えるようにし、カーナビを見てみる。
 
福島市〜〜〜!?
 
なぜこんな所にいるんだ〜〜〜〜〜〜!????
 

↓ ↑ Bottom Top

《きーちゃん》に訊くと
『詳しく話せば長くなるけど、男の娘のおかげなんだよ。説明は明日でいい?』
などと言っている。
 
は?
 
『千里、2人を起こすからもう唐本さんは先に降ろした方がいい』
と《とうちゃん》が言うので、千里は自分の疑問は置いておいて、先に冬子を降ろすことにする。
 
車は福島市のRホテルのすぐ傍に駐まっているのだが、千里は車を少しだけ運転してホテルの玄関前につけた。
 
車が動いたことで冬子も矢鳴さんも起きたようである。
 
「着いたよ」
「え?もう五条?」
「福島だよ」
「福島って・・・大阪の?」
「まさか福島県福島市」
「なぜ、この時間で福島まで来ちゃう訳〜?」
 
千里は取り敢えず話をそらすことにする。
 
↓ ↑ Bottom Top

「歌手は歌が命だよ。最高の歌を歌うには最高の体調が必要。公演に間に合えばいいというものではないよ」
 
とさっき自分が餅原さんから言われたことを言う。
 
「冬はもう既に大物歌手だからさ、誰も冬には苦言は言わないだろうけど、本来直前に交通の不便な山奥の村まで行くようなスケジュールは入れてはいけなかったんだよ」
 
冬子は千里の言葉を聞いていて答えた。
 
「ありがとう。そういうきついことを言ってくれるのは千里だけだよ」
 
よし。取り敢えず誤魔化した!
 
「じゃ今夜はぐっすり休んで明日、いいステージをしてね」
と千里は笑顔で言う。
 
「うん。本当にありがとう。明日のステージ頑張るよ」
「じゃ青葉にもよろしく」
 
↓ ↑ Bottom Top

それで千里は冬子に大阪で矢鳴さんに買ってもらっていたタコ焼き4パックと《きーちゃん》に秋田で買ってもらっていた金萬の内の1箱を渡して車を降ろした。
 
その後、青葉に冬子を福島に送り届けたことを連絡し、少しメールのやりとりで会話した。町添さんには敢えて連絡しなかった。冬子が自分で適当な時間を見て連絡するはずである。
 
(金萬は4つ買って1つはきーちゃんが自分で取り−女の眷属で分け合って食べたようである−、1つはレッドインパルスの選手でシェアし、1つは冬子に渡して、1つ千里の手元に残っている)
 

↓ ↑ Bottom Top

4時間近く、ぐっすり睡眠を取っていた矢鳴さんの運転で千里は福島市から秋田市に移動し、22時頃に選手が泊まっているホテルに入る。車内で千里が同じホテルに部屋を1つ確保しておいたので、矢鳴さんにもそこに入って休んでもらった。
 
翌28日、千里は午前中の練習に参加し、13時からの準決勝第2試合を客席から応援した上で試合後のミーティングにも出る。次に行われるもうひとつの準決勝(サンドベージュ対エレクトロ・ウィッカ)もチームメイトと一緒に見てから彼女たちと一緒にホテルに戻った。夕食も一緒に取った。
 
その日千里は夕食後、彪志に電話を掛けた。
「どうもお世話になっております」
と彪志は緊張した感じで返事をする。
 
↓ ↑ Bottom Top

「彪志君、明日青葉と一緒にご実家に行くでしょ?」
「はい。ありがとうございます。チケット手配して頂いて」
「それでね。着ていく服なんだけど」
「はい?」
 

↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁目次

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 
春順(13)

広告:オンナノコになりたい!