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(C)Eriko Kawaguchi 2016-03-21
 
2月10日、K大学医学類・推薦入試の合格発表が行われたが、ヒロミは落ちていた。
 
「あまり質問されないなあと思ったんだよね」
と本人はさすがにガッカリした様子である。
 
「推薦入試って事実上、センター試験の成績の上位から定員まで取るだけだから。ボーダーラインの子は面接で上下することもあるけどね」
などと日香理が言う。
 
「まあ一般入試で再度頑張りなよ」
と青葉は言った。
 
「これって私の性別問題で落とされたんじゃないよね?」
と本人は不安そうである。
 
「ヒロミ、そんなことで不安がっていたら、この先まともに生きていけないよ。自分は女だということに確信を持とう。そして当たって砕けろだよ。とにかくも一般入試での個別学力検査頑張ろう。それでハイスコア出したら、少々お股の付近に問題があったとしても通してくれるよ」
と青葉は言った。
 
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「うん。そうだね。気を取り直して頑張る」
とヒロミも本当に気持ちを切り替えていたようであった。
 
「でもヒロミって既にお股の所には問題無くなっているよね?」
と空帆が言う。
 
「うーん。そこは若干微妙なんだけど」
「ああ、ヴァギナはまだ作ってなかったんだっけ?」
「それが何と説明したらいいやら」
と本人も困っていた。
 

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2月11日。K大学推薦入試の入学手続きの期間が始まったので、青葉は朝から銀行に行って入学金を指定口座に振り込むとともに、その振込票と大学の受験票、センター試験の受験票、それに学生証作成票を同封してK大学に郵送した。
 
学生証作成票を書いていたら、美由紀が覗き込んでいる。
 
「お、ちゃんと性別は女に丸付けてある」
「そりゃそうだよ」
 
「生年月日で平成と昭和しか選択肢が無いけど大正生まれの人はどうするんだろう?」
「大正生まれで大学入試に合格したら、それが凄いね!」
 
「美由紀はもうG大学の入学手続きした?」
「うーん。どうしようかと思って」
「してないの?いつまで?」
「一応19日までなんだけどね」
「それ、ちゃんとしておかないと、万一国立に落ちた時、入れないじゃん」
 
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「でも初期納入金が83万円もあるんだよ」
「あぁ・・・」
 
「国立に通った場合は、金沢美大で90万、T大芸術学部で55万払わないといけない」
 
「それいったん納入しても入学辞退したら戻ってこないの?」
と日香理が訊く。
 
「入学金の20万円以外は返してくれるみたい」
「だったら20万円で保険を掛けるようなものだよ。払うべきだと思う」
と日香理は言う。
 
「でもタイミング的に返金があるのは、国立の入学手続きをするのより後になると思うんだよね。結果的には戻って来るにしても、美大の場合で合計170万のお金を用意する必要がある」
と美由紀は難しい顔で言う。
 
「お金の順序って難しいよね」
と青葉も言う。青葉も今回は資金のタイミングで悩んだが千里姉のおかげで何とか乗り越えることができた。
 
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その時、傍で聞いていた明日香が言う。
 
「美由紀さあ、とりあえず美大の合格可能性は無いと考えた方がいい」
「ぶっ・・・・」
「そうしたら美大に90万円払うという事態は発生しない」
 
「ほほお」
と日香理が感心したように言う。
 
「そうなると可能性としてはT大に合格するケースとT大にも落ちるケース。T大に通ったら55万必要だけど、最初払うのは入学金の28万だけ。だからその場合はいったんG大に83万円払い、更にT大に入学金28万円を払っても、必要な資金は111万円で済む」
 
「なるほど」
と青葉も明日香の大胆な意見に感心している。
 
「前期授業料を払うのはたぶん5月だから、それまでにはG大からの返還金は入金しているよ。だからそれで前期授業料が払える」
と明日香。
 
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「明日香の意見が正しい気がする」
と日香理は言う。
 
「私もそう思う。その線でお父さんと話し合ってごらんよ」
と青葉も言った。
 
「最終的な負担はT大に合格した場合で、G大入学金20万とT大の初期納付金55万円の合計75万円、T大に落ちた場合はG大に納付する83万円で済む」
と日香理は明日香の意見に基づき電卓を叩いて言った。
 
「何かそれならお父ちゃんに頼める気がしてきた」
「うん、美由紀頑張れ」
 
「いやむしろ、美由紀のお父ちゃん頑張れだね」
 
「ああ、スネが痛いよね」
 
それで結局美由紀は2月19日ギリギリにG大の入学手続きをした。これで美由紀はとりあえず「大学」というものには行くことができることが確定した。
 
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2月12日(金)にはS大学の合格発表があり、須美や真梨奈は合格していた。彼女たちは金沢市内にアパートを借りると言っていた。
 
2月14日はバレンタインであるが、受験生にはバレンタインもホワイトデーも無い。青葉たちの教室でもさすがに今年はチョコ作りだの誰に渡すだのという話は・・・一部を除いて・・・出ていない。
 
「今年はトリュフ作ろうかなあ。ね、ね、彩矢はどんなの作るの?」
などと12日金曜日に美由紀が言っていると
 
「あんた、チョコ作る時間に勉強すべき」
と純美礼からまで言われている。
 
「純美礼はもう行き先決まってるから時間あるんじゃないの?」
 
純美礼は東京の□□大学に推薦で合格している。
 
「高校3年間の勉強をずっと復習してるよ。私、テニスの活動が評価されて合格したけど、勉強も頑張らないと付いていけないもん、あんなレベルの高い大学。だから、進研ゼミの1年の分からずっとやり直してる」
と純美礼は言う。
 
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「私も受験でとてもチョコなんて作る時間無い。私はイオンで売ってた1000円のチョコを渡しておいた」
 
と彩矢は言っている。彼女も前期が金沢のK大学、後期が富山のT大学を狙っている。万一落ちた時は私立の遅い募集の所を受けるけど、私立に通っても浪人するかもと言っている。
 
「あ、もう渡したんだ?」
「向こうも時間の余裕無いみたいだったけど、受験勉強の夜食に食べさせてもらうと言っていた」
 
「勉強って脳味噌にカロリー必要だもんね〜」
 
「青葉はチョコはどうしたの?」
「14日くらいに着くように送っておいた。私も今年はコンビニで売ってたチョコ。愛のメッセージ付き」
 
実はそのチョコに同封して2月29日のチケットも送ったのである。
 
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「あ、その愛のメッセージというのがいいな」
「テンガも1個同封しておいた」
「凄いもん同封するね!」
 

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2月13日(土)、H大学に合格した明日香・世梨奈、S大学に合格した須美・真梨奈が「下見をしたい」と言い、青葉に
 
「車買ったんだって?乗せてよ」
と言うので、朝から4人を乗せて金沢まで走ることにした。車を受け取った2月8日に母を乗せてイオンまで行ったのに続く2度目の走行である。
 
学校の校門前で待ち合わせたのだが、青葉がチェリーパールクリスタルシャインのアクアで乗り付けると先に来ていた明日香と須美が
「すげー色!」
と言い、通りがかった小谷先生が
「これ誰の車? え?川上君が買ったの? およそ川上君のイメージと遠い色だね」
などと感心(?)していた。
 
やがて真梨奈が来て
「これなら広い駐車場で自分の車を見失うことないね」
 
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などと言い、最後にやってきた世梨奈は
「この色で目が覚めて居眠り運転しなくて済むね」
などと言っていた。
 
5人で乗って出発する。世梨奈が助手席、後部座席に明日香・須美・真梨奈と並んだ。
 
「この車静か〜」
というのがみんなの感想である。
 
「ハイブリッド車ってほんとに静かだよね」
 

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8号線・津幡北バイパス・津幡バイパス・山環と通り、高岡から40分ほどで金沢市内に入る。最初にS大学に行く。
 
「ここ何度も校門の前を通ってるなあ」
と明日香が言う。
「私、そこのコンビニでおにぎり買ったことある」
と世梨奈。
 
「まあメインストリートだもんね」
 
中に入り学食で1時間ほどおしゃべりし、売店でおやつを買って出る。これで本当に下見になったのかは怪しい。
 
それから山環に戻って15分ほどでH大学のキャンパスまで行った。
 
「前回来た時はこの坂が辛そうな気がしたんだけど、今日の感じではそんなでもないかも知れん」
などと明日香は言っている。
 
「青葉、あの坂の入口の所で降ろしてもらえたら、あとは歩いて行けそうだよ」
 
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と世梨奈は言っているが、いつの間にここまで送るという話になっているんだ?と青葉は内心思う。まあいいけどね。その分早く出ればいいんだし。
 

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キャンパスの中を適当に歩き回り、本当に下見だったのか怪しい下見を経て、青葉は山環に戻り「三つ眼」の近未来的景観をした涌波トンネルを通って、大桑地区のショッピングモールに入った。
 
スポーツ用品店を覗き、電機屋さんを覗いてから、スーパーのフードコートでタコ焼きなどをゲットしておしゃべりとなる。たいがいおやつを食べてから
 
「お腹空いたね」
などと言って、ココスに入り、ドリンクバーにピザとかイカフライ・唐揚げなどを適当に注文。それで結局ここで2時間ほどおしゃべりする。
 
「そうだ。青葉、28日に福島のライブに出るんでしょ?」
「ローズ+リリーの方にね」
「アクアのチケットとか青葉、コネで何とかならないよね?」
「さすがに無理。あれはレコード会社や§§プロの社員でも入手できないみたいよ」
「ひゃー」
「今、最高にチケットが入手困難な歌手だよね」
 
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「会場の運営ボランティア募集するんでしょ? その枠には入れないよね?」
「ローズ+リリーの運営ボランティアはもう締め切った。翌週のボランティアはまだ若干枠があるみたい。但し過去に運営スタッフのバイトをした経験のある人に限るけどね。アクアの運営はイベンターさん推薦のごく信頼度の高い選抜チームと、警備会社のガードマンとでやる。一般のボランティアではとてもコントロールできない」
 
「なるほど」
 
「結局、あの子って男の娘なんだっけ?」
「まさか。可愛いから周囲が面白がって女装させているだけで本人はいたって普通の男の子だよ」
 
「でも去勢はしてるんでしょ?それか女性ホルモン?」
「してない、してない」
「でも中学2年生なのに声変わりしてないし」
「子供の頃大病した影響で性的な発達が遅れているだけだよ。たぶん高校卒業する頃には声変わりすると思う」
「そんな遅い子っているんだ?」
「昔の作曲家でハイドンとかも18歳くらいで声変わりしたらしいよ」
「へー」
 
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「あ、それで去勢してカストラートになったんだっけ?」
「なってない。カストラートになれと言われて父親が飛んできて連れて帰ったから、睾丸は無事」
「なんだ、つまらん」
 
「でもアクアって女役が凄く上手いよね」
「あれは演技力なんだと思う」
「だとしたら天才なんだな」
「うん。あの子は天才だよ」
 
ココスを「お腹空いたから出ようか」と言って出た後、青葉たちは今度は石川県庁近くの3フロアある大型書店に行く。ここで各自本を物色して、16時頃になってから
 
「そろそろ疲れたし帰ろうか」
と言い、8号線を通って帰還した。途中マクドナルドに寄ってハンバーガーを仕入れ車内で食べながらの帰還となった。帰りは明日香が助手席に乗ってくれた。そして最後に高校最寄りの駅の所で須美・真梨奈と別れる時は
 
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「お腹空いたね。帰って晩御飯食べなきゃ」
などと言いあっていた。
 
世梨奈と明日香は近所でもあるので各々の自宅まで送り届けてから、青葉は自分の家に帰還した。
 
この日は約120kmの走行であったが、アクアのガソリンメーターの針は満タンの所から全く動かなかった。
 

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