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■春順(2)
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青葉は年末年始もずっとひたすら勉強していた。桃香は・・・ひたすら寝ていた! たまに起きてくるとコタツでお酒やビール飲んでおせちを食べながらお正月のTVを見ている。年末は有馬記念外したとか言っていたし。31日の午後はパチンコに3時間ほど行っていたようだし。
桃姉、最近かなり「男性化」してないか? いやむしろ「おやじ化」か?
「桃姉って、あまり女の子っぽい趣味が無いよね?」
と青葉は訊いてみた。
「うん。私は料理も裁縫もダメだし、お菓子作りとかもしたことないし。編み物とかもしないし。会社の女子と全く話が合わん。むしろ男子社員とは結構頻繁に焼鳥屋とか行って飲んでるぞ」
「ああ。男子と話が合うかも」
「私は男子のオナニーの話も平気だし」
などと桃香が言うと朋子が顔をしかめている。
「私はそれ苦手〜」
と青葉は言う。
「千里も苦手っぽい」
「なるほどねー」
「お前、実はチンコ付いてるだろ?なんて男子の同僚から言われる」
「ああ」
「でもスカート穿いて出勤してるんでしょ?」
「そうそう。まるで女みたいで、どうも好かん」
「女みたいでって、桃姉、男の意識じゃないよね?」
「うーん。私はレスビアンであってオナベのつもりはないけど、まあ間違って性転換手術されちゃったら男としても生きていけると思う」
「そうかもね。でも性転換するつもりはないんだ?」
「無い。ちんちんはいつもくっついていたら面倒な気がする」
「うん。あれは邪魔だよね」
「その点は私も千里も青葉も意見が一致するな」
「うふふ」
朋子はどうも分からんという顔をしていた。
そういう年末年始を送る中、青葉は感じていた。朋子が自分にかなり気を遣ってくれていることを。
桃香と千里のセットで帰ってきている時は、自然に関わりが分散するし桃香は何だか隙あらば千里とHしようとしているのが目に見えているので、朋子も割と適当なのだが、桃香だけが帰ってきている状態というのは、いわば「三角関係」である。
朋子がもし実子である桃香にあまり関わりすぎると青葉はやはり嫉妬してしまうだろうと思うし、逆に里子である青葉にだけ関わっていると、青葉のほうが桃香に対して「心の負荷」を感じてしまう。朋子はそこのバランス感覚が絶妙で、桃香と青葉にできるだけ均等に関わるように気をつけている感じなのである。
2日は朋子はひとりで初売りに出かけたが、同じ種類のケーキを3つ買ってきて3人で1個ずつ食べた。また「これ安かったから」と言ってマフラーを4つ買ってきて、
「青葉は多分白、桃香は青が似合うよね。千里ちゃんは多分赤が似合うかな。桃香、これ千里ちゃんに持っていって」
と言って配った上で、残ったグレイのを自分で取った。
「何か今年の冬は凄く寒くなりそうだもんね」
「うん。きっと雪がたくさん降るよ」
「青葉、今年の初夢はどんなだった?」
と桃香が訊く。
「私は何だか大きなお寺のお堂でずっと座禅していて、お香の匂いがしていた。そのあと、山野をひたすら回峰して。それでふと気づくと周囲にいる人がみんな男性ばかりなんだよね。あれ〜?と思っているうちお見合いすると言われて、ビキニの女の人がたくさん並んでいる所に連れて行かれて、みんな相手を選んではデートするのに出て行く。そして私の番になって、私も巨乳のビキニの女の子と組み合わされてデートして来いと言われて、私、女の人と結婚したくないよぉと思った。そもそもおちんちん無いのにと」
と青葉は言う。
「うーん。それは青葉の心の中にあるレスビアン願望だな」
「え〜〜〜!?」
「レスビアン楽しいぞ?テク教えてやろうか?」
「いい!要らない!!」
「桃姉は?」
「私はどこかのボロ家で自分が産んだ子供をあやしていたんだよ。するとそこにどうも私の夫らしき人が戻ってきてさ。唐突に3〜4ヶ月くらいの元気そうで丸々太った男のあかちゃんを置くんだ。ダイちゃんって言ってたかな。誰?と訊いたら『俺の子供だ。サツキと一緒に可愛がってくれ』と言われたのよ。え〜?この子どういう経緯で出来たのよ?と思った。それでそのダイちゃん自体は可愛いんだけどさ。私、自分のサツキとダイちゃんを等しく可愛がってあげられる自信が無いよおと思った」
と桃香は言った。
その桃香の最後の「等しく可愛がってあげられる自信が無い」ということばに朋子がピクッとした気がした。たぶん桃香と青葉のことを考えたのかなと青葉は思う。しかし青葉は別のことも考えていた。そのダイちゃんって、実際にはちー姉が産んだ(?)京平君のことではなかろうかと。京平に関することはちー姉は一切桃香に明かさないつもりのようだし、青葉も気をつけて触れないようにしている。京平はいわば、ちー姉の隠し子のようなものだ。しかし青葉は更に別のことも考えた。
「桃姉の赤ちゃんって、サツキちゃんって言うんだ?」
「うん。その名前いいなと思った。だから私は最初の子供にはサツキという名前を付けようかと思う」
と桃香。
「あんた、それ女の子の名前?」
と朋子が訊く。
「サツキというのは男でも女でも行ける。江田五月は男だが隣のトトロの姉妹はサツキにメイだ」
「あの名前はひどいよね?」
「うん。5月に生まれたからといってサツキだけ、メイだけならいいけど、姉妹それというのは可哀想だ」
と言った上で桃香は
「あれがリアルの姉妹ではなく、どちらかが実はイマジナリー・フレンドならありえるけどな」
と付け加えた。
「でもサツキって名前なら5月生まれ?」
「うん、8月くらいに授精させれば5月くらいに生まれるかな。しかし知り合いに6月生まれのヤヨイという子と2月生まれのカンナという子がいるぞ」
「それもひどいなあ」
そんなことを言った青葉も桃香も数年後に自分たちが「8月生まれのカンナ」と関わることになるとは夢にも思っていなかった。
2日の日、千里たちのチームはWリーグのプロチームを倒して勝ち上がった。青葉は《おめでとう。プロに勝つなんて凄いね!》というメールを送った。桃香と千里はまた夕方少し電話で話していたが、例によってバスケの話題は出ていないようであった。
桃香の会社は1月4日(月)から始まるので、桃香は3日午後の新幹線で東京に戻った。その桃香が新幹線に乗っている最中に千里の試合が行われていた。この日も千里たちのチームはプロの中堅くらいのチームに勝った。この日は青葉は桃香がいないので直接千里に電話して「おめでとう」を言った。
「ありがとう。昨日の相手はプロと言っても大学生チームと大差無い所だったんだけど、今日のチームは充分強かったよ。でもうちのチームも強くなったね。戦っていてみんな凄いと思った。私は今日の試合で、私が4月から抜けてもちゃんとやっていけるなと確信した」
「明日その4月に移籍するチームだよね?」
「うん。勝てるとは思わないけど頑張る」
「でも、ちー姉、オールジャパンのこと桃姉に言ってないみたい」
「ごめーん。色々都合があって。それ桃香には内緒にしといて」
「まあいいけどね」
桃姉からもちー姉にこれは言わないでとか言われている件が色々あるからなあと青葉は思う。双方から「内緒にして」と言われていることが増大していくので青葉はそれをノートに書き出して整理している。
さて、桃香が新幹線に揺られて東京に戻り、東急に乗り換えて経堂のアパートに戻ると、千里が帰ってきていて夕飯の支度をしていた。
「帰省お疲れ様」
と言って桃香にキスする。そして一緒に晩御飯を食べながら、帰省中の話を聞いた。
もっとも千里本人はこの日祝勝会で江東区のお店で中華料理を満腹になるまで食べており、アパートで桃香と一緒に夕食を食べたのは、実際には桃香に言ったように「暮れも正月も無い」状態でJソフトでシステムの作り込みをしていた千里Bのほうである。
(千里Bは千里Aに「セックスまでは勘弁して」とは言っているものの桃香とキスくらいはする)
千里Bも『取り敢えずまともな御飯が食べられた』などと千里Aに言って桃香がお風呂に入っている間に会社に戻った。そのあと千里Aが祝勝会から戻ってきて、桃香と一緒に寝た。
Jソフトの方に年末年始詰めていた千里Bは実際ここの所、ホカ弁・コンビニ弁当やピザ・ラーメンの出前などで過ごしていた。
千里B(きーちゃん)がアパートに戻っている時間帯は、会社には千里C(せいちゃん)が例によって女装して出ていた。千里Cも最近はやっと女子トイレに慣れたようであるが、それでも「女子トイレのドアを開ける度に数秒躊躇する」し「女の子たちに混じって列に並ぶ時は凄く緊張してつい下を向いてしまう」と言っていた。それって小学3−4年頃の自分の姿かも知れないと千里Aは思っていた。
「でも女子トイレに入る度につい『おいた』してしまう」という話は千里Aは聞かなかったことにしたものの、《てんちゃん》から『蹴られて』しばらくうごめいていた。
『もう取っちゃったら?』
『いやだ、それだけは絶対嫌だ』
『でもあんたたち、取っちゃったらどうなる訳?』
『さあ・・・』
と言っていたら、ふだんはまじめなことしか言わない《くうちゃん》が発言した。
『数千年前のことだけど、争いであれがもげてしまったオスの龍の一物がそれ自体新しいオスの龍として生まれて、もげてしまってオスからメスになってしまった元の龍と交尾して、更に子供が生まれたのを見たことがある』
『それは凄い』
『まあ母体と結合したんだな』
どうも今のは《くうちゃん》のダジャレのようだなと千里は思った。
『もげた腕が新しい龍になるのは見たことあるけど』
『やはりアレって息子なのね』
と《こうちゃん》が言うと、《いんちゃん》が睨んでいるので、《こうちゃん》は慌てて自分のお股(龍のお股ってどこだ??)を押さえていた。
『もげてしまったあとで子供が産めるということは本来両性具有なの?』
と千里が訊くと《くうちゃん》は答えた。
『人間も本来そうなんだよ。男として生きている個体も実は女として生きる潜在的な能力を持っているし、女として生きている個体も実は男として生きることが可能なんだよ。表現形はあくまで表層的なものにすぎない』
4日の日は千里(千里A)は、仕事始めで振袖を着るという桃香に振袖を着せ、ミラでお茶の水の会社そばまで送り届けた後、自分はそのまま代々木に移動して準々決勝に出た。そして自分が4月から移籍するチームであるレッドインパルスに勝利する。
その日の夕方は、千里Aの方は祝勝会でしゃぶしゃぶを食べていたので、千里Bがまたまた千里Cを会社に残していったん経堂のアパートに帰宅し、桃香が放置している振袖をたたんでタンスに収納した上で、晩御飯を作って桃香と一緒に食べた。
その上でしゃぶしゃぶ屋さんでの祝勝会が終わった千里Aと交代して会社に戻る。千里Aはその後桃香と秘め事をして寝た。このあたりは昨日と同じパターンである。
5日(火)から8日(金)までは、千里Aが朝御飯を作って桃香を会社に送り出し、自分はその後、40 minutesの練習場に行き、時間帯ごとにかわるがわるやってくるメンバーたちの練習を見てあげる。実際には雪子・渚紗のように仕事を辞めてしまい1日中練習しているメンバーもおり、千里の指導も熱が入った。そして夕方には帰宅して晩御飯を作り、桃香と一緒に食べて寝た。
普段なら平日の午後はレッドインパルスの練習に出るのだが、千里は12月19日以降、オールジャパンが終わってシーズンが再開する1月23日の前日22日まではレッドインパルスの練習には出ないことにさせてもらっていた。
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