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■春順(6)

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1月25日(月)。この日から国立大学の一般入試・出願期間が始まる。各受験生は、センター試験の自己採点結果にもとづき、自分の志望校を決めて願書を出すことになる。
 
一応青葉たちの高岡T高校では、大手予備校のシステムを利用した各自の志望校の合格可能性ランキングを受験した全生徒に配り、また担任が各生徒と話し合って志望校を決定していった。
 
青葉は予定通り前期・K大学法学類、後期・T大学経営法学科で願書を出した。空帆も予定通り前期・東京工大、後期・千葉のC大学、美津穂は前期T大学で後期は受けず、代わりに私立で同じ富山市のI大学を受ける。
 
日香理はセンター試験の自己採点結果では第1志望の東京外大はB判定であった。個別試験の結果次第という感じで、更に必死に勉強すると言っていた。予定通り、前期は東京外大、後期は金沢のK大学で願書を出した。
 
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ヒロミも前期K大学、後期T大学で願書を出した。彼女は今度は最初からちゃんと『呉羽ヒロミ・女』と記載した願書を提出した。
 
さて問題が美由紀である。第1志望の金沢美大はC判定である。
 
「無理だよ、これ」
と親友の明日香からハッキリ言われている。
 
「でも実技の方が配点高いから、それで挽回できる可能性あるよ」
と本人。
「美大を受けるような子ってさ、たいてい専門の塾に行ったり、個別で画家に弟子入りしてかなり鍛えてるよ。美由紀は美術部で描いていただけでしょ?とてもかなわないよ」
 
「えーん」
「でもまあ美大は試験が中期だから、出すだけ出してみたら?」
と日香理などが言うので、結局、美由紀はT大学芸術文化部を前期(2.25-26), 金沢美大を中期(3.12-14)で受けることにして願書を提出した。
 
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その美由紀は国立の願書を出した翌日、1月26日には金沢の私立G大学の芸術学部に試験を受けに行ってきた。
 
試験科目は国語・英語・実技である。美由紀は国語はまあまあである。英語はあまり得意とは言えない。実は3つめの科目は実技ではなく、数学か地歴を選択しても良かったのだが「数学なんてわざわざ0点を取るためのもの」と言って、実技の選択となった。
 
指定時間内に与えられたモチーフのデッサンを描くという問題で、美由紀は「まあまあ出来たかな」と言っていた。
 

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1月29日の夕方、旅行代理店の人がやってきて、青葉に旅行クーポンを渡した。どうも千里は最初から高岡の旅行代理店の人に依頼してチケットを手配していたようである。
 
なるほど〜! チケットを「持たせる」ってそういう意味だったのかと青葉はやっと理解した。「持たせる」なんて言うから、ちー姉の眷属さんが持ってきてくれて「こんにちは」になるのかしらなんて考えたけど「持たせる」って普通は人が持ってくるんだよね? 私自身が霊的なものに考えが寄りすぎているのかなと青葉は思った。
 
「新幹線の座席指定券が今日発売だったので今日のお届けになったんですよ」
と旅行代理店の人は言っていた。
 
福島のライブは2月28日である。後泊して帰りの新幹線は2月29日になるので発売日が今日になったので、今日のお届けになったということのようであった。でも帰りはオープンの方が便利だったんだけどなと少し思った。まあ日程が変わる場合はみどりの窓口で変更すればいいか。
 
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それで旅行代理店の人が帰ってから封筒を開封した青葉は困惑する。
 
先日の電話で聞いていたのでは、新幹線での往復とホテルのクーポンを渡すということだった。
 
ところが中に入っていたのは、2/27の新高岡→福島の新幹線チケット、2/27-28の福島市内のビジネスホテルの宿泊クーポン(2泊)、そして2/29の福島→盛岡の新幹線チケットと、席が並びの東京→盛岡のチケット、そして座席指定のされていない、盛岡→新高岡および盛岡→東京の新幹線チケットである。乗車券は伏木←→盛岡と、千葉←→盛岡で発行されている。
 
しばらく考えていて千里の考えたことが分かった。
 
つまり福島まで来たあと、足を伸ばして彪志と一緒に盛岡の彪志の実家に行ってこいという意味だ。
 
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「ちー姉、親切すぎるよ〜」
と青葉は思わず独り言で言ってから顔をほころばせ、彪志に連絡するのにスマホを取った。
 

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翌日、1月30日(土)。青葉は早朝から母のヴィッツで送ってもらい、金沢のK大学キャンパスまで行った。
 
この日、推薦入試の面接があるのである。
 
降ろしてもらった大学の門の所から法学類のキャンパスまで歩いて行く。控室に入って、順番を待つ。朋子は終わるまで近くのショッピングモールで待機しておくと言っていた。
 
1時間近く待ってから受験番号を呼ばれるので部屋に入る。1人の面接時間はだいたい5分から10分くらいだなというのを感じていた。どうも短時間で終わった子は「合格可能性の高い子」と「可能性のほとんど無い子」だな、とこれまでの様子を見ていて思った。ボーダーラインの子は質疑応答の時間が長くなるようである。
 
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「失礼します」
と挨拶して中に入る。
 
面接官が5人並んでいる前に置かれた椅子の所まで行く。
 
「受験番号****. 高岡T高校から参りました川上青葉です。よろしくお願いします」
 
と言ったまま立っていると
 
「あ、座って」
と言われるので
「失礼します」
と言って座る。
 
面接官の中には先日事前面談をしてくれた田幡教授もいる。
 
「川上さん、合格したらこちらに入学しますか?」
と年配の教授が尋ねた。
 
「はい、縁があって合格させて頂きましたら、ぜひ通いたいと思っています」
 
「了解です。では今日はこれで結構ですから」
「え!?」
 
さすがに青葉も驚いた。
 
「いや、あなたのことは先日私がたくさんお話して、素晴らしい学生であることが分かっているから、事実上もう合格ということで」
と田幡教授が笑顔で言う。
 
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「ありがとうございます。頑張ります」
「一応合格発表は2月8日なので、それまでは合格したこと他には言わないように」
「はい、守秘義務は守ります」
 
「法律の専門家らしい言葉だね」
と中年の男性教授が言い、明るい雰囲気の中、青葉の面談は終わった。
 
「でもこれ面接とは関係無いし、セクハラになるの承知で言っちゃうけど、君、本当に普通の女性だね」
とひとりの教授が感想をもらした。
 
「アルゼンチンみたいに自分の性別は自分で申告できたらいいんですけどね」
と青葉は言うと、田幡教授が頷いていた。
 
「では失礼します」
と言って席を立ち、戸の所であらためて会釈してから退出した。
 
青葉がわずか1分ほどで出てきて表情も明るいので、近くにいた受験生が驚いている雰囲気だった。
 
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母に連絡して迎えに来てもらう。それで母にだけ
 
「事実上合格と言われちゃった」
 
と言うと、母も驚いていた。
 
「でも良かったね〜。合格おめでとう」
「ありがとう。でもこれ合格発表までは他人には言わないでって」
 
と言って青葉も微笑む。
 
「了解了解」
 
「それでさ、桃姉からこないだ言われたんだよ。車を買うのならできるだけ早く買わないと、納期が結構掛かるよって」
「うん。桃香そう言ってたね」
 
「だからお母ちゃん、車屋さんに寄って帰ろうよ」
「いいけど、どこのメーカーとか決めた?」
 
「うん。車種はこないだから少し検討していた。トヨタのアクアにしようと思う」
 
「へー!」
 
「実は5月頭に入るはずの印税、大半が歌手のアクアちゃんのCDに私が書いた分の印税なんだよ」
「ああ」
「アクアの印税で買うから、車もアクアだといいかなと思って」
 
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「それもいいかもね。でもアクアちゃんの印税っていくらくらいもらえるの?」
と朋子はちょうど赤信号で車が停まった時に尋ねた。
 
「さっきお母ちゃんを待っている最中にメールでもらった報告書では3256万円だって」
と青葉が言った。
 
「え〜〜〜〜!???」
 
と朋子は凄い声をあげた。あんまり驚いた拍子に車の操作をミスって赤信号中なのにブレーキから足が浮いてしまい、車が動き出しそうになったのを慌てて再度ブレーキを踏んで停めた。
 
青葉はこれ、まだ信号で停まっている所で良かったと思った。運転中ならマジで事故を起こしたのではなかろうか。
 
「3256円じゃなくて?」
 
信号が青になる。朋子は車を発進させたが、交差点を少しすぎた所で左脇に寄せて停車させハザードランプを焚いた。うん。停めるのが無難だよね。
 
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「間違いなく3256万円。念のため桁もよくよく数えたけど間違ってない。でも私もびっくりしたー。もしかしたら1000万円行くかなとは思ってたんだけど」
 
これまでの最大印税はKARION『黄金の琵琶』での400万円(800万円を空帆と半分こにした)である。但しそれは最近の霊関係のお仕事の赤字補填で消えてしまっている。
 
「恐ろしい金額だね」
「アクア、凄い人気だもんね。但し入金するのは5月2日になるのよね。その直前4月29日までに授業料は払わないといけないし、入学金は2月16日までに払わないといけない」
 
「じゃ、やはり取り敢えず車の代金と、入学金・授業料はこないだ桃香が用立ててくれたお金で払わないとね」
 
「うん。お金の順序とかタイミングって難しいよね」
 
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「しかしそんな大金、あんたどうすんの?」
「半分はお母ちゃんにあげるよ」
「それは要らない。ちゃんと貯金してなさい」
「そうだね。じゃ、とりあえず投信にでも放り込んじゃおうかな。お母ちゃん、証券会社の口座を開設してくれない?」
 
「分かった。それはやっとくって、どこに言って手続きすればいいんだっけ?」
「ネットで申し込めるよ。マーケットスピードが使いたいから楽天証券がいいな。未成年で申し込むためには、保護者であるお母ちゃんの口座も開設しないといけないんだけど」
 
「楽天証券ね。了解」
と言ってから朋子は唐突に言う。
 
「でも3000万円あったらアクアが15台買えるね」
「15台も買ったら駐車場代が大変だよ!」
と青葉は言った。
 
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トヨタの販売チャンネルには、トヨタ店・トヨペット店・カローラ店・ネッツ店の4種類があるが、アクア・プリウスといった人気ハイブリッドカーはどの系列でも扱っている。そこまでは青葉もあらかじめ調べておいた。
 
それで青葉たちは「どこでも売ってるなら、どこでもいいか」などと言っていたのだが、たまたま信号で引っかかった時に朋子が「あそこにもトヨタがあるね」と言ったので、そこのネッツ店に入ってみた。
 
ネッツ店というのはこの時点で青葉は把握していなかったが、実はコンパクトカーとミニバンを得意とするお店である。
 
お店に入っていき
「アクアが欲しいんですけど」
と笑顔で言う。
 
「はい、グレードとかはご検討なさっていますか?」
「Sで」
 
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アクアは基本的にL−S−Gの3グレードに別れるが、動力システムは同じ物が使用されていて、違いは内装や装備品だけである。Lは徹底的に低コスト化がなされていて、タイヤも一回り小さいサイズ、スペアタイア(オプション)は搭載せずにパンク修理キットでの対応、窓ガラスもSとGは高遮音性ガラスだがLにはこれが使用されていない。
 
SとGの違いはハンドルが本革かウレタンかや、シートがGの方がより高級感のあるものを使っているなどの違いで、機能的にはほとんど差が無い。それで、アクアはSが売れ筋なのである。
 

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こちらが車種を指定、更にグレードも即指定したことで、かなり検討した上で買いに来た客と判断したようである。
 
「取り敢えず試乗してみられませんか?」
というので、ヴィッツに乗せていた若葉マークを貼り付けた上で、助手席に母、後部座席にスタッフさんを乗せて、お店の近くを少し走り回る。
 
「運転が凄くお上手ですね。でも若葉マークなんですね。もう若葉卒業間近ですか?」
「あ、そんな感じです」
と取り敢えず答えておく。母がしかめ面をしている。
 
実際には青葉はアクアやプリウス、ホンダのインサイトなども運転したことがあるので、ハイブリッドカーの「癖」のようなものにも慣れている。実際の車を運転してみても、特に問題などは感じなかった。それで買うことを決めて事務所の中に入る。オプションなどを決めていくことにする。
 
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「色はどうなさいますか?」
と係の人は最初に言ってボディーカラーの見本を見せてくれる。
 
「実は4月からの通学に使いたいんで、できるだけ早く欲しいんです。納期ができるだけ短いのがいいんですが」
 
確認してもらうと色では、ライム、シルバー、ブルー、クールソーダ、など人気の色がやはりたくさん生産している分、納期は早いと言われる。
 
「うーん。赤系統がいいんだけどなあ。オレンジパールクリスタルシャインとかスーパーレッドは時間かかります?」
「はい。やや長めになるかと」
 
「じゃクールソーダにしようかなあ。それの場合でどのくらいですか?」
「そうですね。今やや混んでおりますので、だいたい2ヶ月くらいではないかと」
 
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すると3月末になる。何かでずれると入学式に間に合わないかも知れない。ほんとにちー姉に言われた通り、車の納期って時間が掛かるんだなと思う。
 
青葉がそれで少し悩んでいるとお店の人が言った。
 
「あ、もしキャンセル車でも良ければチェリーパールクリスタルシャインのキャンセル車があるのですが」
 
「それ納期は?」
「これでしたら1週間ほどでお届けできます。ただメーカーオプションなどは変更ができません」
「それどんな色ですか?」
 
係の人がモニターで見せてくれる。
 
「きゃー。ショッキングピンク!?」
と朋子が悲鳴に似た声をあげる。
 
「可愛いと思うけどなあ。でもこれなら1週間くらいで手に入るんですね?」
「はい。もし今日ご注文を頂けましたら、2月8日にお届けできると思います」
 
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合格発表の日じゃん!
 
「それ、オプションとかはどんなのが選択されていますか?」
 
「ブリリアントレッドS用ファブリック、T-Connectナビ、LEDヘッドランプ、スペアタイヤ、アルミホイール、SRSサイドエアバッグ、ヒーター付きドアミラーなどの寒冷地仕様、サイドバイザー、エアロパーツセット、IRカットフィルム、といった所ですね」
 
バックモニターやコーナーセンサーが選択されておらず、エアロパーツやアルミホイールが選択されているので、たぶん車好きの女の子が買おうとして途中でキャンセルしたのかなと青葉は思った。
 
「やはりこういう色を選んだのは若い女の子かなあ」
と青葉がつぶやくと、母が
「もし男の子だったら、それも凄いね」
と言って、ちょっと場がなごむ。
 
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「男の娘だったりして」
「意外に50歳くらいの男性会社役員さんだったりして」
 
お店の人が困ったように苦笑している。
 
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