広告:放浪息子(12)-ビームコミックス-志村貴子
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■春順(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-03-20
 
1月20日の深夜、アクアの女子制服姿の写真がネットに流出した。アクアは現在放送中の『ねらわれた学園』でも、昨年春から秋に掛けて放送された『ときめき病院物語』でも女子制服姿を披露しているが、どちらも番組の中の衣装である。ところがこの日流出したのは、それとは違うもので、職人さんたちの調査で、実際にアクアが通学している中学の制服であることが確認される。
 
「アクアちゃん、女子制服で通学するようになったの?」
などという声が出て、結局21日の夕方になってアクア本人が秋風コスモス社長と一緒に記者会見する騒ぎになる。
 
「えー、僕はふつうに男子制服で通学しています」
と困ったような顔のアクアは明言した。この記者会見にアクアは実際に学生服を着て出席している。
 
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「この写真は?」
 
「それ、背景から判断して、たぶん8月頃に僕が学校のセーラー服を着たまま放送局に入った時の写真だと思うんですよね。実はその日、友だちとふざけてて、罰ゲームで女子制服を着せられちゃって、それでお仕事の時間も迫ってたし、そのまま放送局に入ったんですよ。ですから普段から女子制服を着ている訳ではないですから」
 
「何の罰ゲームだったんですか?」
 
「男の子アイドルの顔写真だけ見て名前を言うというゲームで、僕は写真30枚の内27枚言い当てたんですけど、勝負した相手の女の子は全員言い当てたんで素直に負けを認めました」
 
記者会見場に笑い声が満ちた。
 
「アクアさんってお友だちは女の子が多いんですか?」
「あ、わりと女の子の方が多いですね」
「じゃこの着ておられる女子制服もお友だちのものですか?」
「ええ、そうです」
「お友だちの服がちゃんと入るんですね。アクアさんウェスト幾つでしたっけ?」
「55ですけど」
 
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細い〜!という声が思わず記者の間から漏れた。
 
「まあアクアの性別問題については、明日にも発表予定のアクアのライブでの衣装を見て頂ければ結構分かるのではないかと思います」
 
と笑顔でコスモス社長はコメントした。
 

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1月22日、震災復興支援ライブの詳細が発表されたが、その日の内に1月26-27日の福島市内のホテルはあっという間に予約がいっぱいになってしまったようである。ホテルによってはあまりの負荷に予約システムがトラブって定員を超える予約を受けつけてしまい、予約した客に平謝りして、少し遠くのホテルでもよければそこまでの交通費をホテル側が負担して代替確保するなどとして交渉していたらしい。
 
その1月22日、千里は前夜の夜行バスで大阪に入り早朝から貴司と会った。実はその日の午後から千里はまたレッドインパルスに合流、23-24日に佐賀市で行われる試合に「出席」するので、その移動途中(?)大阪に寄ったのである。
 
朝7時にいつものNホテルのレストランで出勤途中(?)の貴司と待ち合わせし、早い時間なのでモーニングを頼み、今日はワインをグラスで頼んで乾杯する。
 
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「これはおとそということで」
「じゃ明けましておめでとうだね」
と言ってグラスを合わせる。
 
この早朝、貴司の出勤前のデートというのもふたりは結構やっているのである。
 
「そうそう。これ車の代金を借りたお金。ありがとうね」
と言って貴司は千里に563万円を現金で渡した。
 
「確かに」
と言って千里は微笑んで受け取り、自分のバッグに入れる。
 
「数えなくていいの?」
「信じているから。利子はトイチで入っているだろうし」
「ごめーん。利子つけてない」
「じゃ足りない分は、後日、貴司の愛でもらおう」
「それはこちらも歓迎」
 

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「走らせてみた?」
「うん。パワーが凄いね。今日も時間があったら乗せてあげたかったけど」
「じゃ来月来た時にドライブデートしようよ」
「いいよ」
 
千里がオールジャパンの銅メダルを見せると「いいなあ。凄いなあ」と言ってメダルに触っていた。
 
この日ふたりは8時には別れ、地下鉄で貴司は心斎橋、千里は新大阪に移動する。千里は佐賀までの新幹線+かもめの切符を買った後、駅近くの銀行支店ATMで貴司から返してもらった583万円を自分の口座にいったん入金した。入金してみたら1万円多く584万円あったので、貴司数え間違ったなと思い、後で1万円返す旨、貴司にメールしておいた。
 
そして新幹線に乗ってから大学の初期納入金概算と車の購入代金の貸しとして282万円、桃香の名前で朋子の口座に振り込んだ。
 
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車の購入資金の貸しのことまでは聞いていなかった朋子は昼休みに振込に気づいて金額に驚愕し、桃香に電話した。桃香も聞いてなかったので慌てて千里に確認して、こういう説明をすることにした。
 
「青葉が車で通学すると言っていたけど、車って購入手続きしてから受け取るまでに結構時間が掛かるでしょ?だからお金貸してあげるから、合格したらすぐ買えと言ったんだよ。いや、私も千里も、夏のボーナスと冬のボーナスを使わずに貯めておいたから、取り敢えず一時的に資金があったんだ。5月以降こちらは各種の支払いに使わないといけないけど、青葉は5月頭に300万くらい印税が入ると言っていたから、それで200万円は返してもらえたらいい。82万円は大学の納入金分としてあげるから」
 
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朋子もそれで納得したようであるが、桃香は「そういうのちゃんと言っておいてくれ」と千里にあとで文句を言った。千里は実は単に言い忘れていただけである!千里は結構こういうのが抜けているのである。
 

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千里は新幹線と長崎本線の特急《かもめ》を乗り継いで12時すぎに佐賀に到着。市内の某体育館に集合時刻の13時前に辿り着いた。明日・明後日1月23-24日の佐賀市内の試合で、Wリーグのレギュラーシーズンが再開されるのである。
 
簡単なミーティングの後、午後いっぱい練習をする。1軍選手全員と、千里を含む数名の2軍選手・練習生10人ほどが一緒であるが、千里がレッドインパルスの練習に参加するのは約1ヶ月ぶりである。
 
「やはりサンは凄く強くなっている」
と今期限りで引退予定の(餅原)マミさんから言われた。
 
「いや、サンは社会人選手権から戻って来た11月以降凄く強くなったと思っていた。でも12月下旬に最後に見た時から倍くらい強くなっている」
と(広川)妙子キャプテンが言う。
 
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「これなら4月から即スターターだな」
と松山ヘッドコーチも言っている。
 
「むしろ明日の試合に出したいくらいだ」
と黒江アシスタントコーチ。
 
むろん千里は3月までは40 minutesの選手なので、それまではレッドインパルスの公式戦に出場することはできない。
 
「そうだ。私の4月からの背番号なんですけど、もし可能だったら今40 minutesで付けているのと同じ33番を使えませんか?」
と千里は言ってみた。
 
「あ、いいよ。今の所33を希望している新入団予定の子は居ないし」
とチーム代表の小坂さんが言う。
 
「33ってやはりパトリック・ユーイングですか?」
と高校時代以来の知り合いである札幌P高校出身の(渡辺)純子が訊く。彼女は2008-2010年の3年間旭川N高校の湧見絵津子と良きライバルとしてしのぎを削っていた(坊主頭仲間でもあった)。
 
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「あ、いや。私が平成3年3月3日生まれだからと、40 minutesでは勝手に33に決められてしまったんだよ。でもそれでオールジャパンで3位になれたから縁起がいいかなと思って」
 
「なるほど」
と小坂さんは言ったものの
 
「それだと来年もレッドインパルスは3位だったりして」
とマミさん。
 
「うむむ」
「いや、今年はうちはBEST8だったから3位の方がまだいい」
と(三輪)容子さんが言う。
 
「じゃ私が準々決勝まで出ますから、準決勝以上ではユズ(柚野美杉)を使ってもらえば」
と千里が言うと
 
「え〜?」
と美杉本人がびっくりしていた。
 

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練習のあとみんなで夕食を取ったが、一息ついたあたりで千里は広川キャプテンの部屋を訪問し、別件で相談があると言った。
 
「実は私が今在籍している40 minutes、以前在籍していて昨年春までは私がオーナーをしていた千葉ローキューツ、それから私の親友・佐藤玲央美がキャプテンをしている実業団のジョイフルゴールドが、今各々運営会社を設立してプロ化を進めている所なんですよ」
 
「ああ、そんなこと言っていたね」
 
「それで女子の球団って採算取るのが大変でしょう?」
「うん。うちだって、そんなに余裕がある訳じゃない。実際問題としてWリーグでも一応採算が取れているのはうちを含めて上位数チームだけだよ」
 
「それで、少しでも採算が取れるように、その3チームで春から秋に掛けてのオフシーズンに、定期的に有料の練習試合をしようかという話をしているんですよ。《関東クロスリーグ》とかもっともらしい名前付けて。時間帯は平日の夕方。これは通常の大会などにぶつからないようにするのと、実は会社勤めしているメンバーが結構いるので、彼女たちが出場できるようにするためでもあり、また夕方なら観客を期待できるからなんです。一応このあたりの話まで、バスケ協会の方には打診して内諾を得ています」
 
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「クラブチームと実業団が混ざった有料リーグ戦というのは面白いね」
 
「それで今3チームしかいないのですが、奇数ではやりにくいんで、偶数にしたいんですよ」
「ほほお」
「それでもし良かったらレッドインパルスさんに1口乗ってもらえないかと思って」
 
妙子は腕を組んで考えた。
 
「それってうちの知名度を利用しようというのではないよね?」
「多少はありますけど、レッドインパルスは2軍でもいいですよ」
 
「いや、ジョイフルゴールドとか40 minutesは、こちらもマジで1軍が相手しないとまともな試合にならない」
と妙子は言う。
 
「それ売上の分配方法は?」
「入場料に関してはホームチームの総取り、グッズ販売に関しては販売した各球団がそのまま取ります」
 
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「シンプルだね」
「比率按分とかしていたら面倒ですよ」
「確かに確かに」
 
「もし良かったら検討して頂けないかと思って。必要ならうちの社長やジョイフルゴールドの社長にも来させますから」
 
「うん。上に打診してみる。そちらの社長って誰だっけ?」
「以前レッドインパルスの顧問をして下さっていた立川智雄さんです」
「おお!」
「ちなみにジョイフルゴールドの社長は藍川真璃子さんです」
「すげー!」
 
「ローキューツの社長はまだ決まっていないんですよ。今会社設立に向けては作曲家の毛利五郎さんが動いておられるのですが」
「その名前は知らないや」
「たくさん仕事している割には名前の売れてない人ですね」
 
曲も売れてないけどね、とはさすがに言えない。
 
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「へー。でも私も相手がジョイフルゴールドや40 minutesなら大いに興味がある。だってサンドベージュとかビューティーマジックとかなら、気軽には練習試合できないじゃん。相手が実業団やクラブチームなら、そのあたりが安心できるし、ある程度手の内もさらけ出せる。これは特にまだ公式戦での出番が少ない若手の鍛錬にもいいよ」
 

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1月23日の試合の相手はエレクトロ・ウィッカだったが、花園亜津子はコート上から千里に結構挑発的な視線を送っていた。花園亜津子は先日おこなわれたオールスターでMVP,3P女王を取ったが千里が《おめでとう》とメールしたら《今年までは当然取るけど、来年のオールスターでちーに勝って3P女王取らないと価値は半分しか無い》などと返信してきていた。
 
24日の相手はサンドベージュであったが、この日は三木エレンがこちらに笑顔で手を振っていたので、千里は会釈を返しておいた。
 

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