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■春順(12)

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国道不通の連絡を受けて、千里は矢鳴さんに《取り敢えず五條市内のホテルで明日朝まで良く寝ておいてください。朝また指示します》と返事した。
 
その後、レッドインパルスの妙子主将にメールする。
《大変申し訳ありません。急用で入った奈良県の田舎町で道路が雪のため通行止めになって、今動けません。できるだけ早く脱出できるようにしますが、ひょっとしたら明日の試合に間に合わないかも知れません》
 
すると妙子からの返信。
《じゃ欠席したら罰金1日1000万円で》
 
きゃー。それ私の2年分の報酬じゃん!?万一2日とも出られなかったら、2000万円!??
 
千里は少し考えてから、東京のJソフトでお仕事をしている《きーちゃん》に呼びかけた。
 
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『明日はせいちゃんに会社には出てもらって、きーちゃんはレッドインパルスのユニフォームや下着とかの荷物ともうひとつルイヴィトンの大きい方のバッグを持って、朝から新幹線で秋田に向かってくれない?』
 
『ルイヴィトンの?へー。了解〜。ここのところかなりしんどかったから私もちょっと息抜きがしたいと思っていた』
 
『場合によっては代わりに練習に出て』
『それは無茶。私は朱雀じゃないし』
 
ん?
 
『すーちゃんってスポーツ得意だったっけ?』
と千里は訊く。
 
『あの子はバレーもバスケもしたことある。バスケでインカレに出たこともある』
と《きーちゃん》
 
『知らなかった!』
 
などと言っていたら
 
『こらー!それ今まで内緒にしてたのに!!』
という声が別の方角から聞こえてきた(現在《すーちゃん》は用賀のアパートで待機している)。
 
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へー!
 
『そうそう。きーちゃん、秋田に行ったら、お土産に金萬を買っといてよ』
『ああ、あれ私も食べたい。2個買っていい?』
『じゃ4箱』
『おっけー』
 
《きーちゃん》も千里のサブ財布を持っているのである。
 

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20時頃青葉が心配して電話して来た。この日の夕方、ちょうど取材に訪れていたテレビ局がKARIONの4人が宿に入っていった所と遭遇し、その映像が放送に流れたのだが、突然のことだったので、千里もチラっと映ってしまった。青葉はそれに気づいたようである。
 
「私がいるんだから心配しないで。ちゃんとケイは福島に行くから」
と千里は青葉に伝えた。
 
やはり自分は誰かに仕組まれてここに来ている、というのを千里はあらためて認識した。神様たちも暇持てあましてるからなあ。
 
冬子と話したが、冬子も町添さんに電話連絡し、今日はもう国道が通れないようだが、明日朝一番から移動することにするので間違いなく明日中には福島に行きますと言っていた。
 
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「冬、万一の時は私と一緒に雪原を歩いて踏破しようよ」
「千里と一緒なら、それ何とかなりそうな気がする」
と冬子も少し顔をほころばせて言った。
 

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27日朝、事態は悪化していた。
 
旅館は電気・電話が携帯も含めて通じない状態となり、情報が取れない中、孤立してしまっていた。幸いにも衛星通信設備を持ったテレビ局のクルーが番組撮影のため偶然来合わせていて、テレビ局から情報をもらって何とか外の様子が少しは分かっている。
 
国道は除雪作業を開始したようであるが、雪はかなり酷く降っている。《こうちゃん》が様子を見てきてくれたが、大原と八川の間の村道が雪だけでなく倒木などもあって、復旧に数日かかりそうだと彼は言った。
 
『ここと八川との間の道路は?』
『こちらは今日中に復旧すると思うぞ』
 
今日中ね〜。
 
取り敢えず千里は矢鳴さんにできるだけ近くまで来てもらおうと考え、メールの文章を入力した上で、《きーちゃん》に頼んで送信してもらった。千里のいる場所では携帯が通じないものの、千里の携帯と《きーちゃん》の携帯は佳穂さんお手製の「完全クローン携帯」なので、千里が入力した文章はそのまま《きーちゃん》の携帯にも反映されており、そこから送受信ができるのである。千里はこれのお陰で矢鳴さんとこまめにやりとりして外側の情報を得ることができていた。
 
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ただし桃香・青葉・貴司などが千里の携帯に掛けた時つながってしまうと話が面倒なので、30分に1度くらいメールチェックする他は《きーちゃん》側の携帯も電源を切っておいてもらった。
 
その《きーちゃん》にユニフォームを持って秋田に向かってもらっている。彼女と入れ替われば自分は秋田の試合に出席できる。しかし問題は冬子だと千里は思った。万が一にも明日のライブに間に合わないという事態になったら、まずい。と言って《きーちゃん》のワザを冬子に使う訳にはいかない。また《こうちゃん》の背中に乗って飛んで行くなんてのも、まずいだろう。昔アクアを《こうちゃん》の背中に乗せたのは小さい子供であったし、また翌日には死ぬ子だからといいだろうと思ったのもあった。
 
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やはりここは物理的に脱出する必要があるなと千里は考える。
 
『ねぇ、何か普通の脱出の手は無いかな?』
と《こうちゃん》に訊く。
 
『旅館の裏にスノーモービルが3台置いてあったよ』
 
スノーモービル!
 
それで千里は部屋に来ていたこの旅館の主人でもある相沢孝郎さんに訊いた。
 
「スノーモービルが使えませんか?確か女将さん自らスノーモービル走らせていると聞いた気がしたのですが」
 
「うん。実は俺もそれを考えた所」
と孝郎さん。
 
それで結局、お昼を食べた後、千里が2人乗りのスノーモービルを運転し、後ろの席に冬子を乗せて、大原集落まで行くことにした。
 

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今回KARIONの4人が奥八川温泉までやってきたのは、この旅館の主人をしていた相沢孝郎さんの弟さんが11月に亡くなり、当時はアルバム制作中で葬儀に出席できなかったことから、ちょうど百日祭が行われるのに合わせて訪問したものらしかった。
 
10時からその霊祭を執り行うが、千里は「あんた巫女やって」と神職さんから言われて、百日祭の巫女を務めることになった。
 
神葬祭は留萌のQ神社ではしたことが無かったが、旭川Q神社や千葉L神社では何度も経験しているので、だいたいの進行は分かる。そもそも細かい進行は神社ごとに違うので、千里は神職さんとの「呼吸」で進めていった。
 
最初に大幣を振って参列者のお清めをする。
 
神職が祭壇の前に進み「忍び手」(寸止めにして音を立てない拍手)を打ち神饌を捧げる。そして霊祭の祭詞を奏上する。千里は愛用の龍笛を持ってそれを吹き始めた。
 
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例によって龍が寄ってくるが、天候が荒れているせいだろうか。妙に元気な感じの龍が2体やってきた。物凄く神格が高いのを感じる。龍というよりは龍神様だ。どちらも若いが、親子だろうか??
 
その子供の龍はまだ2〜3歳という感じである。お母さん?龍が優しくガードしている雰囲気だが、その子供の龍が幼いのに凄まじいパワーを持っているのを千里は感じた。母龍の力を軽く凌駕している。
 
千里はその母子の龍がまるで自分と京平のような感じがして、葬祭であることを忘れて笛を吹いた。そのお母さん龍はなぜか深い悲しみを心に抱えているようである。それが貴司とのことで悩んでいる自分のような気がして、千里はその母龍の心と自分の心をシンクロさせるかのように奏でて行く。
 
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母龍の持つ悲しみと、自分の心の中に残っていて封印していた悲しみがひとつになって音が奏でられていく。それはとても物悲しい旋律となり、まさに葬祭にふさわしいような曲になった。
 
やがて神職さんの祭詞が終わりに近づくので千里の龍笛もまとめに入るが、この時千里はその母子の龍の名前が分かるような気がした。
 
『怨龍様、星龍様、もしよかったらこの天候少し良くして頂けないでしょうか?ここにいる女歌手は明日福島で震災復興ライブに出演しなければならないのに、この天候で旅館から出られずに困っているのです。彼女が福島に行けないと何万人もの人が悲しみますし、被災地に寄付する予定だった1億円の売上も寄付できなくなります』
 
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すると母龍が千里に語りかけた。
 
『そなたの龍笛が私の心を癒やしてくれた。願いは聞き届けてやろう』
『ありがとうございます!』
『しかしそなた、なぜ私の真の名を知っている。これを知る人はもうみんな死んでしまったはずなのに』
 
『なぜか心に浮かびました』
『面白い奴だ。羽黒山大神にもよろしくな』
『ありがとうございます、N大神様』
『うむ』
 

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千里が龍笛を口から離して上空を見上げると、子供の龍が物凄いパワーで雪を降らせている雲を動かし始めた。なんて力なんだと思いながら千里はそれを見ていた。
 
『君、男の娘だけど子供を産んだんだね?』
とその子供の龍が千里に語りかけてきた。
 
『はい、産みました』
『僕も男の子から産まれたんだよ』
『へー。やはり男でも子供が産めるんですね?』
『それ当然なんだけど、人間では知っている人少ないね』
 
そんな会話を交わしていたら母龍も言う。
『あ、ちなみに私も男の娘だけど子供産んだよ。この子じゃないけどね』
『え〜? 女の方にしか見えないのに』
『もう長いこと女体で生きて来たからね。私は男が嫌いだから女になったんだ』
 
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『まあ男より女の方がいいですよ』
『うん。私も割と女である状態を気に入っている』
『怨龍様が産んだお子様はどうしておられるんですか?』
『あの息子はまだ人間なんだよ。バスケット選手してるぞ』
 
『すごーい。私もバスケット選手なんです。女子バスケット選手ですが。息子さんは男子バスケット選手ですか?』
 
『うん。面白くない。女子バスケット選手になりたかったら女に変えてやろうか?女になったらお股にボールがぶつかっても悶絶したりしなくて済むぞ、と言ったけど、女にはなりたくないと言うんだよ。ちんちん無くしたくないと言うんだ。それでこの春に大学を卒業して男子のBリーグのチームに入ることになっている』
 
『女子選手になって女子のWJBLに入ればいいのに。男の方がいいなんて珍しいですね』
 
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『千里と言ったか?お前面白い奴だな』
『よく言われます』
 
『腹いせにその友だちの美少年をひとりうまく唆して女の子に改造しちゃったけどね』
『怨龍様、親切ですね』
『よく言われる』
 
しかし・・・・霊祭なのに、こんなふざけた会話してていいのか?と千里は若干反省(?)していた。
 

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そして百日祭が終わった時、雪はもうやんでいた。
 
千里は母子(?)の龍が去って行った方角に静かにお辞儀をした。
 
葬祭用の鼠色の巫女服を脱ぎ、ふつうの服に着替えて冬子たちの居る部屋に戻ると冬子が
 
「今の霊祭で吹いた曲は何て曲? 良かったら後でいいから譜面もらえない?」
と言う。
 
「今自然に心の中に浮かんで吹いた曲だよ」
と千里は言う。
 
「すごーい。とっても悲しくてきれいな曲だった。譜面に起こしていい?」
「うん。じゃ私も譜面書くから、あとで冬が書いてくれたのと照合して調整しようよ」
「OK」
 
この曲には『悲しきドラゴン』というタイトルを付け、半年後に山森水絵が歌うことになる。
 
 
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