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■春色(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-06-29
 
3月20日(金)。
 
北海道。
 
早朝留萌から札幌に向かうバスの中で、千里の両親は口論していた。
 
「あなた、玲羅も今日卒業式だけど、千里も25日卒業式なんですよ。あの子にせめてお祝いのハガキがなんかでも書いてあげません?」
「千里?それ誰さ?」
「あの子からはこんなハガキが来てたんですよ」
 
と言って、母は父に千里からのハガキを見せる。「お父さん、親不孝しててごめんね。卒業おめでとう」などと書いてある。父は不快そうな顔をして母からそのハガキを取り上げると、細かくちぎってゴミ袋の中に捨ててしまった。
 
「それちょっと酷いんじゃない?」
「二度と千里なんて名前を俺の前で言うな」
 
ふたりの口論が何分も続くので、たまりかねた前の席の人が
 
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「うるさい!静かにできないんだったら、お前らバスを降りろ」
と文句を言った。
 
それでふたりとも黙ったが、今度は全く口も聞かなかった!
 

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バスは少し遅れて9時頃札幌に到着する。タクシーで玲羅のアパートに行く。
 
「へー、可愛いね」
と母が言うと、玲羅も嬉しそうである。玲羅はこの日、青いフォーマルドレスを着ていた。胸にはバラのコサージュを付けている。
 
「なんか色あせた花だな」
と父は母との喧嘩の後遺症で少しぶすっとした顔で言う。
 
「これ高いんだよ。サントリーが開発したアプローズっていう青いバラを友だちでH大学の応用化学科にいる人が、そちらで開発中の特殊な保存液を使ってプリザーブトフラワーにしてコサージュに加工したのを借りてきたんだよ」
 
「へー、これ青いバラなのか」
と母が感心したように言う。
 
「青というよりは薄紫って感じだよね」
と玲羅。
 
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「なんか珍しいものなの?」
と父。
 
「本来、青いバラというもの自体が存在しないんだよ。バラの遺伝子の中に青い色を発現させるものは存在しない。でもそれを遺伝子加工技術を使って作り出したんだよ。だからこれ生花(なまばな)で確か1本1000円くらいするんだよね」
 
「高い!」
 
「それと普通はプリザーブトフラワーにする時は色が抜けてしまうんだけど、この保存液はほとんど色が変わらないんだ」
「へー」
 
「でもこの保存液でも青系統の色をプリザーブトフラワーにするのは凄く難しいらしい。赤系統の花なら簡単らしいんだけどね。それを色々実験しているらしくて。これは割とうまく行ったケース。もっとも保存できる期間はせいぜい3ヶ月くらいだろうという話」
 
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「ああ、やはり花って、はかないものなんだね」
「うん。そのはかない命を少しだけ長持ちさせるのがこの技術みたい」
 
「ふーん。でもそんな貴重なものなら、加工されてない生の花でも見てみたいな」
と父は言った。
 
「お父ちゃんの卒業祝いに手配しようか」
と玲羅。
 
「おお、それでは花束で欲しいな」
と父。
「あなた、高いわよ、それ」
と母。
「いいよ。5年半も頑張って卒業するんだもん。そのくらいお祝いにあげるよ」
 
と玲羅は言う。
 
お姉ちゃんから1万円もらってるし、そのくらい買えるんじゃないかな、と玲羅は思った。
 
すると、父は
「よし、楽しみにしておこう」
と機嫌を直して答えた。
 

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12時から学内のホールで卒業式が行われ、学生総代の人が代表で学長から卒業証書を受け取る。その後、各クラスごとに教室に入り、クラス担当教官からあらためてひとりずつ卒業証書をもらった。
 
そのあと今度は札幌市内のホテルに移動して、パーティーに移る。これに母が付き添ってくれた。母も濃紺のフォーマルドレスを着ている。母のコサージュは玲羅が作ろうと努力はしてみたものの、うまく作れず千里に連絡して千里が送って来てくれたリボンフラワーである。
 
なお、父はパチンコ!しながら待っているという話だった。
 
そしてそのパーティーが始まって間もなく
「卒業おめでとう!」
と言って、振袖姿の千里が姿を現した。長い髪は夜会巻きにしてピンクの石飾りが付いたカンザシで留めてある。
 
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「お姉ちゃん!」
「千里!」
 
「昨日の予定がずれ込んだから間に合わないかもと言ってたけど」
「うん。何とか間に合わせた。可愛い妹の卒業式だもん」
「ありがとう」
 
実は千里は19日の内に北海道に移動するつもりでいたのだが、遊佐さんの家に夜中すぎまで滞在することになったことから、それができなかった。それで結局今朝6時に家を出てから桃香の運転するミラで小松空港に向かい、朝8:20の新千歳行きに乗ったのである。そして11時半頃札幌に到着したあと、ブーケを調達してから卒業パーティの会場に入ったのである。
 
「でも寝不足で顔が酷い」
などと千里は言っているが
「私よりは美人だよ」
と母は言ってくれた。
 
千里は
「これお祝いね」
と言って、手にしていたバッグの中から胡蝶蘭のブーケを取り出して渡す。
 
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「わぁ、きれい!」
「卒業式っぽいね」
 
「何の花にしようかと悩んだんだけど、結局無難なところで」
「嬉しい!ありがとう」
「ご祝儀もあげておくね」
と言って千里は玲羅に祝儀袋を渡す。
「花よりこちらが嬉しい」
「あはは」
 
「でも玲羅そのドレス似合ってる。良かった」
「うん。思ったのよりシックで上品なんだよね。私の顔がこの服に追いつけるか心配したんだけど」
「玲羅、可愛いからこういうのが合うんだよ」
「ふふふ。今日は素直に褒められておこう」
 
と言ってから玲羅は
 
「でもお姉ちゃんの振袖もきれい」
と言う。
 
「蝶々とツツジ?」
と母が訊く。
 
「うん。オオムラサキ。日本の国蝶だよ」
「羽が紫色なのね」
「うん。でも実はオオムラサキの羽が紫色になるのはオスだけなんだよね」
「へー。これはオスの蝶か」
「それでオオムラサキをモチーフにした下妻市のキャラクター・シモンちゃんは一見女の子の萌えキャラに見えるけど、羽が紫だから実は男の娘ではなどとネットでは言われている」
「それ知らない。後でググってみよう」
 
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「でもこんな柄の振袖初めて見た」
と母が言う。
 
「インクジェットだからね。絵柄が自由だけど安っぽくなるのは宿命かな。卒業生より豪華なの着ちゃ悪いから安物の振袖を着てきた」
 
「髪留めもなんかきれいだね」
「重たい髪を支えきれないといけないから8本足のコーム」
「そのピンクの石は?」
「ローズクォーツだよ」
「へー」
 
「そうだ。このお母ちゃんが付けてるコサージュも、お姉ちゃんありがとう。お姉ちゃんって機械とかには弱いけど、こういう手芸とかは得意だよね」
と玲羅は言ったのだが
 
「ごめーん。実はそれは青葉のお友達が作ったもの」
と言う。
「へー!」
「凄くうまいよね。こないだもらってたんだけど、それがちょうどいいと思ったから、ストラップになっていたのをコサージュに私が改造してそちらに送った」
「なるほど〜」
 
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「あ、そうだ。お父ちゃんがさ、卒業祝いに青いバラの花束が欲しいなんて言ってたんだけど、東京で青いバラを買えるお店、分かるかな。当日買って会場に入ろうかと思って」
と玲羅が言う。
 
「青いバラってサントリーの?」
「そうそう」
「花束にするって言ったら高いよ」
「あれ1本1000円くらいだったよね?」
「1本3800円だったはず」
「うっそー!?」
「お店のリストはあとで確認してメールするよ。渋谷近辺がいいよね」
「うん」
「お金も追加で渡すよ」
「ごめーん」
 
玲羅も1本1000円くらいなら10本でも1万円かなと考えていたようであるが、1本3800円とあっては、予算オーバーだった。しかし結局千里がお金を出してくれるようなので、それで当日買うことにした。
 
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パーティーが終わった後、3人とも普通の服に着替えた後、千里は先に新千歳空港に移動し(実はターミナルビル内のリラックスルームで仮眠した)、玲羅と母がパチンコをしていた父と合流して札幌駅に行く。それで玲羅は父と母が北斗星に乗って東京に向けて旅立つのを見送った。父が途中で腹減ったと騒がないように、お弁当を4つ・おにぎり5個とお茶のペットボトルも5本渡しておいた。
 
お父ちゃん、御飯でないとダメだからなあ。パンとかポテチとかじゃ、食べた気がしないって言うんだもん。
 
そんなことを考えながら玲羅も快速エアポートに乗って新千歳空港に入った。千里と連絡を取って落ち合い、一緒に晩御飯を食べることにする。迷った末、結局旭川ラーメンの梅光軒に入った。
 
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「札幌のラーメンにも随分慣れたけど、なんか旭川ラーメン食べるとホッとするのよ」
などと玲羅は言っている。
 
「まあ私たち子供の頃から旭川にはよく出ていたからね」
「うん。札幌は遠い国だった」
 
「だけど今日の玲羅のドレス姿、ほんとにきれいだったよ」
「ありがとう。どこかに着ていくあてもないしレンタルでもいいかと思ったんだけどねー。軍資金出してくれた人があったから」
「ふふふ」
 
「でもお姉ちゃん、スタッフの人からチューリップもらいそうになってた」
「まあ浪人したりしてると私くらいの年齢の卒業生ってのもいるかも知れないからね」
「でも時々考えるけど、私、お姉ちゃんが男の服とか着ているの全然見たことない気がするよ」
「中学の時はガクラン着てたじゃん」
「そうだっけ?お姉ちゃん、中学の時はセーラー服着てなかった?」
「セーラー服は持ってたけど、学校には着てってないよ」
「あれ〜?そうだったっけ?」
 
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千里と玲羅は18:00のエアドゥ機で羽田に移動し、玲羅はその日は都内のホテルに泊まったが、千里は翌日から京都で全日本クラブバスケット選手権があるので、新幹線で京都に移動して、40minutesのチームメイトが宿泊しているホテルに入った。
 

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翌日、3月21日。
 
真白は少しボーっとしながら中学の玄関で、他の生徒たちがやってきた母親のドレスにコサージュを付けてあげているのを見ていた。今日は卒業式である。
 
「真白のお母さんかお父さん、来てくれそう?」
と美里が声を掛けてくれた。美里の母は先ほど来て、美里にコサージュをつけてもらい、保護者控室の方に行った。
 
「分からない。お母さんは仕事を休めないみたいだし、お父さんは今日締め切りのイラストがあるみたいだったし」
と真白は答える。
「たいへんね〜」
と美里は言ったが、
「あ、来てくれたじゃん!」
と声をあげる。
 
貞治は今回も中学の駐車場に駐めた車の中でかなり迷った末にこの服を選択。その上できっちり顔もメイクをしてから学校の玄関に入った。すると入口のところに立っていた担任が不快そうな顔をする。
 
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「遊佐さん、そういう格好で来られるのは困りますと言ったはずですが。ちゃんとズボン穿いてきてくださいよ」
 
それに対して貞治は答えた。
「女性のズボンは略式になりますから、こういうフォーマルな場所では失礼に当たります。私はきちんと第一礼装でフォーマルのスカートスーツを着て来ました」
 
「女性って、あなた男性でしょ?」
「私は女性です」
とハッキリと貞治は答える。
 
そこに真白が寄ってきた。
 
「お父さん、来てくれてありがとう。今日の服も綺麗だよ」
 
そう言って、真白は貞治の胸にコサージュを付けてあげた。
 
そしてちょうどそこに教頭先生が通りかかる。
「こんにちは、遊佐さん。今日はおめでとうございます」
「ありがとうございます」
「真白君の手作りコサージュが綺麗ですね」
「親より器用みたいで」
 
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「控室はそちらですから」
と教頭先生。
 
「ありがとうございます」
と貞治も答え、息子と一緒に保護者控室の方に向かった。近くに居た美里が笑顔でそれを見送っていた。
 

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