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■春色(11)

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青葉からもらった白い勾玉を居間の窓のそばに埋めた時、貞治は突然家の中が明るくなったような気がした。
 
「すごーい。あの子、まだ高校生ってのにかなりのパワー持ってるんだろうな。でもこれで私、まだあと2〜3年は生きられるかなあ」
 
そんなことを思いながら貞治は今日の晩御飯を作るために台所に行った。
 
実を言うと、真白が中学を卒業する姿は見られないと思っていた。それを見ることができそうなだけでも自分は幸せだと思う。さすがに真白が高校を卒業する姿は自分は見られないだろうけど・・・・ひょっとして見られたら嬉しいな。貞治はそんなことも考えていた。
 

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真白はまた夢を見ていた。夢を見ているということ自体を意識している。
 
またあのホールに居るようである。いけない。やはり早く神社にお祓いを受けに行って来ないと、と思った。
 
ホールでは、ジュースもお酒もお茶も無かったら水でもいいから誰か汲んできてくれなどと言われたので、真白は水を入れるタンクを持ってホールの外に出た。
 
このホールの夢を見るのはもう6回目くらいだ。真白は毎回何かを調達してこようと外に出るのだが、決してそれは見付からないのである。そして夢の最後ではなぜか自分が女の子になっているのだ。
 
私、実は女の子になりたい気持ちがあるのだろうか? そんなこと意識したことも無かったのだけど。確かに女ばかりの家族で自分だけ男だとけっこう肩身が狭い思いはしてるけどなあ。
 
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売店に水分のあるようなものが売ってないのは確認済みである。廊下を歩いているうちに、何だか足が動かない感じになってくる。よく見ると地面に雪が積もっていて、その雪に足を取られていたようだ。
 
今年の雪は深いからなあ。
 
そんなことを思いながら、地面をしっかり踏みしめながら坂を下っていく。両側に切り立つ崖があり、凄く狭い通路を真白は歩いて降りた。
 
開けた所に出るが幅8-9mくらいの道路である。道に雪が積もっていて車が通った跡は少しあるものの、交通量はあまり多くないようだ。
 
真白はその道を左側のほうに歩いて行った。
 
曲がり角で、道ばたで座り込んでいる和服の女の子が居た。
 
「君どうしたの?」
と声を掛ける。
 
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「男の子たちはみんな戦争に行って死んでしまった。残っているのは女だけ」
と彼女は言った。
 
その子は同級生の美里の顔をしていた。
 
「**君も**君も**君も、もう居ない」
と彼女は男子の同級生数人の名前を挙げる。
 
「真白も**君のこと好きだったんでしょ?」
と言われてドキッとする。
 
「でも美里、その振袖可愛いよ」
となぜか真白は言っていた。
 
「真白もその制服、可愛いよ」
と彼女は言った。真白は自分が着ている服を見た。
 
あれ〜? なんで私ってこんな服を着てる訳〜?
 
「真白はそれを着ていたから死なずに済んだんだね。私もだけどさ」
と美里は更に言った。
 
「もう戦いは終わらせない?」
と美里。
「私も終わらせたい」
と真白。
 
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「その真白の鈴、私にもらえる?」
 
真白は自分が腰のところに鈴を付けているのに気づいた。
 
「いいよ」
と言って真白は鈴を美里にあげた。
 
「じゃ、一緒にそのふたを開けちゃおうよ」
美里が言うので、真白は美里とふたりで一緒に水を入れるタンクのふたを開けた。そのタンクのふたは白くて、勾玉のような形をしていた。
 
その時、天に光が射して、周囲が明るくなっていくのを感じた。
 
そしてタンクには水が満ちていて持つ手が重たいと思った。
 
あちこちで歓喜の声が上がるのを聞いたような気がした。
 

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3月19日(木)朝。千里と桃香がミラを夜中交代で運転して高岡に来てくれたので、桃香にお留守番をお願いして、そのミラに千里と青葉の2人で乗って能越道を走り、遊佐さんの自宅まで行った。
 
「済みません。わざわざ来てくださいまして」
「いえ、土地絡みのものはどうしても現地まで来ないと分からないもので」
「ここは何か悪い場所なんですか?」
 
青葉は目をつぶってしばらくその周囲の空気を感じ取っていた。
 
「悪い場所ではないのですが、様々な結界が入り乱れているんですよ」
「結界ですか」
 
「能登は古くは日本海の交易で栄えた土地なので、多数の有力な神社があったと思うんですね。海の関連で宗像(むなかた)の神もあったし、ある経緯で菅原神社も分布しています。他の土地ではだいたい天満宮になっている神社ですね。またここは白山文化圏なので、菊理姫(くくりひめ)を祭る白山神社もたくさんあるし、この地には古い格式を持つ式内社もいくつもある。それらの結界が今でもちゃんと生きているんですよ」
 
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「神様同士の勢力争いですか?」
「こういうところでは下手に気の流れを触れないのですよね。出雲とか奈良とかもこれに近い感じです。あるものをただ受け入れるだけです」
 
「あるものを受け入れるか」
と言って遊佐さんは何か考えている。
 

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「勾玉はここに埋めたのですが」
と遊佐さんが案内した場所を見て青葉は当惑する。
 
「このバラは最初からあったものですか?」
 
居間の窓のそばの地面に1本のバラがあって、薄紅色の可愛い花を咲かせているのである。
 
「実は勾玉を埋めた後、はえてきて、今朝この花を咲かせたんですよ」
「ここは以前からバラが咲いたりしていたのでしょうか?」
 
「それなんですが、うちの息子がここのところずっと悪夢を見ていたらしくて占い師さんに相談したら、神社とかでお祓いを受けた方がいいと言われ、魔除けにといって植物の種をもらったらしいです。それを植えたらこのバラが生えて来たということのようです。慌てて支えになる棒を立てたということで」
 
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「それはいつですか?」
「種を植えたのは今月11日らしいです」
 
「バラってそんなに早く成長しましたっけ?」
と青葉がひとりごとのように言うと
 
「だいたい種から育てると開花まで半年かかるよ」
と千里が言う。
「だから、これは青葉が渡した勾玉の作用だろうね」
 
青葉はその周辺の気の流れ、結界の掛かり方を観察する。この家には元々弱い結界が作られていたようである。かなりの年代物だ。しかしその結界がこの窓の下付近でほころびが出来ていた。このバラはたった1輪ではあるのだが、そのほころびができていた所を美事に塞いでいるのである。
 
「ここにバラというのは凄く適切ですね」
と青葉は言った。
 
「じゃその占い師さんの判断が適切だったんですね!」
「あそこで新しくビルを建てておられますよね」
「ええ。元は古い3階建てのビルが建っていたのを老朽化しているということで崩して、新しく5階建てのを建築している最中なんですよ」
 
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「もしかして、息子さんが悪夢を見始めたのって、その古いビルを取り壊した頃ではありませんか?」
「お待ち下さい」
 
遊佐さんは2階の部屋に居る息子さんを呼んだ。降りてきた中学3年生という息子さんは、何だか凄い美少年である。ちょっと女装させたいくらいだなと、青葉は思った。
 
「ああ、確かにその頃からですよ。僕があの夢を見始めたのは。でもなんか先日、とうとう解決編を見たんです」
 
と言って、彼はいちばん最後に見た夢の内容を話してくれた。
 
「私の勾玉と、その占い師さんのバラの種との力で、解決してしまったようですね」
と青葉は言う。
 
「おそらく、このバラはあのビルが完成するまで咲き続けると思います。そしてあのビルが完成してしまうと、また気の流れは元に戻って、この家に悪影響を及ぼすことはなくなりますよ」
 
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「それは良かった。その占い師さんにもあらためて御礼がしたいね」
と遊佐さんは言う。
 
「名刺は頂いたんだよ。東京の占い師さんで、こちらまでたまたま出張してきていたらしい」
と言って、真白君が名刺を見せる。
 
千里も青葉も思わず相好を崩した。
 
その名刺には《占い師・中村晃湖》と書かれていた。
 
「凄い人に見てもらいましたね」
と青葉は言う。
 
「なんかお知り合いの方ですか?」
「まあ私もお姉ちゃんも知り合いだよね」
「うん。私もこの人と何度か一緒に食事したことある」
 
「この人はふつうは1件最低10万円取ります」
と青葉が言うと
「きゃー」
と遊佐さんが悲鳴をあげる。
 
「この人、あの時は1件3万円って言ってましたけど」
と真白が言うが
「あまり高い金額を言っても仕方ないと思ってそんなこと言ったんでしょうね」
と青葉は答えた。
 
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青葉は念のため家の中を点検させてくださいと言い、各部屋を見回った。
 
「奥さんはお買い物か何かですか?」
「いや、仕事です。看護婦をしてるんですが、交代制の勤務なんで昼も夜も無いし、休みとかも全然取られないんですよ」
「それは大変ですね」
 
「お母ちゃん、夜中に病院に出て行ったりよくしてるよね」
と真白。
 
「とても家事とかまでできないから、私が主婦してます」
と遊佐さん。
 
「まあお父ちゃんは主婦が似合ってるよ」
と真白。
 

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青葉は遊佐さん夫婦が寝ているという寝室で不思議な札を発見した。
 
「済みません。これどこの御札でしょう?」
「ああ、それはこの家に前に住んでいた人が貼っていたものなんですが、剥がせないんですよ」
 
青葉は思わず千里と顔を見合わせた。
 
「お姉ちゃん、これ何だと思う?」
「封印でしょ?」
「だよねー」
「青葉なら剥がせるだろうけど、これは剥がさない方がいいよ」
「剥がすととんでもないものが出てきそうだね」
 
「何か変なものが入っているんでしょうか?」
「この御札が利いている限りは、それはこの家に幸運をもたらすと思います」
と青葉は言う。
 
「じゃ絶対剥がしちゃいけないんですね!」
「たぶんこの家自体を崩さない限り、この封印はこのままでしょうね」
 
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千里はしばらくその封印の前に立って眺めていたが、やがて言った。
 
「この御札が向いている方角に、なんか神社があるよね?」
「ちょっと待って」
 
青葉も今千里が立っていた位置に立ってその方角に感覚を飛ばす。
 
「これはなんか凄い古い神社だ」
 
「ちょっと行ってみない?」
「うん」
 

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それで青葉・千里と遊佐さんが車に乗り、そちらに向かって行ってみる。車は10分ほど走った。
 
「このあたりだと思うけど・・・」
「あ、あったあった」
 
と言って3人は車を駐めて降りる。駐車場のようなものがないので、車をできるだけギリギリまで道の端に寄せて駐めた。
 
「こんなところに神社があったなんて知りませんでした」
と遊佐さんは言っている。
 
社務所などの類いは無いようであるが、石段にゴミなどが落ちてないのを見るとおそらく地元の人が定期的に掃除しているのだろう。
 
石段を登って拝殿まで行ってみる。石段は70段ほどもあった。拝殿は格子状の戸があるが鍵が掛かっている。青葉はその格子の中に五百円玉を1個落とし込みお賽銭として、2拝2拍1拝でお参りをした。千里・遊佐さんもお参りする。
 
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「これは格式の高い神社だ」
と千里が言う。
 
「物凄いパワーの神社だ」
と青葉は言う。
 
「あの御札はここの神社の力を借りているね」
「おそらく、この神社に関わった人が、あの封印をしたんだよ」
 
青葉と千里はその神社の境内で「使える」石を探した。
 
「これいいよね?」
「あ、うん。これもいいと思わない?」
 
全部で6個の石を拾う。
 

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