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■春色(3)

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「ふたりとも卒業は大丈夫なんだよね?」
と母が訊く。
 
「うん。金曜日に審査結果が出た。ふたりとも合格。卒業できる」
「卒業式はいつだったっけ?」
「3月25日。千葉文化会館」
「ああ。ホールを借りてやるんだ?」
「そこでセレモニーをした後で、キャンパスに戻って理学研究科の修了式をする」
「なるほどー」
 
「でも私は出席できない」
と千里が言う。
 
「うん。千里は日本代表の合宿中なんだよな」
と桃香。
「うん。U24ユニバーシアード代表候補の合宿。だから学位記は桃香に私の分も受け取ってもらうことにしてる。教官の承認済み」
と千里。
 
「大変だね」
と朋子。
「千里は忙しすぎる」
と桃香は言っている。
 
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「でもUなんたらというのが色々あるんだな?」
と桃香。
「うん。U16,U17,U18,U19,U20,U21,U24と乱立している感じ」
と千里。
「毎年何かあるんだ?」
と桃香。
 
「16歳から21歳まであったけど現在U20,U21は廃止されている。基本的には西暦偶数年に偶数年齢でアジアとかヨーロッパとか大陸単位の選手権をして、西暦奇数年に奇数年齢で世界選手権をするんだけどね」
 
「なるほどー」
「だからU16アジアを勝ち上がったメンバーが翌年U17として世界大会に行く。以下同様」
「それなら少し分かる」
「U24は特殊で、次世代のオリンピック代表を育てるためのチームなんだけど結果的にユニバーシアード代表と世代的にダブるんで、U24チームがふたつ同時に活動していることもある」
 
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「ほほお」
「ユニバーシアードに出られるのは大学または大学院を出て2年以内の24歳以下の人だから、高校出てすぐプロになった人や大学出て2年すぎた人は24歳以下でもユニバ代表にはなれないのよね。それでユニバ代表ではないU24の方に組み込まれる」
 
「そのあたりがややこしそうだ」
 
「ちー姉は結局どの代表になってるんだっけ?」
「インハイで活躍したのでU18に最初招集されて。そのあと逃げてたんだけど見付かって結局U21まで毎年やって。U20/U21は私たちが最後の年になったんだけどね。複数のチームに同時招集されて自分でも訳が分からなかった年もあった。U21の翌年もフル代表の候補になったけど結局は代表から漏れたんだよ」
と千里。
 
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「残念だったね」
と朋子。
「でも国外逃亡でもしなきゃ見付かるだろ」
と桃香。
 
「今回は2年半ぶりの招集になる。でも最後にA代表候補になった年の夏は代表候補20名で現地まで行って、そこで合宿やって、大会前日に代表12名が発表されたんだよね」
 
「直前まで状態を見てベストメンバーを選ぶ訳か」
 
「漏れた8人としてはせっかくトルコまで来てから試合には出られないというので、けっこう精神的には辛かったよ」
と千里。
 
「うーん。でもそれは戦略としては正しいと思うぞ」
と桃香。
「うん。理屈としてはみんな納得していた」
と千里も言う。
 
しかし青葉はU21の翌年って、それ何年のことなんだ?と暗算をしてみて、その計算結果に何か微妙な違和感を覚えていた。
 
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「ちー姉、お父さんも卒業なんでしょ?」
「うん。放送大学を3月で卒業する。去年の9月で卒業したかったみたいで、卒論もほとんど仕上げていたんだけど、単位が少し足りなかったんだよ。それを今期受け直して論文も少し修正して今期で卒業」
 
「そちらの卒業式はどこでやるの?」
「3月21日。東京のNHKホール」
「千里ちゃん行くの?」
「私は勘当されてるからね〜。まあ妹とお母ちゃんが付き添いで一緒に出てくるらしいから、妹に1万円ご祝儀渡しておいた。なんか記念品でも買ってあげてと言って」
 
「千里の妹さん自身も大学卒業だろ?」
「そうそう。そちらの卒業式は20日。お父ちゃんの卒業式の前日。そちらにはお母ちゃんが顔を出すと言ってた。お父ちゃんも一緒に留萌から出てくるんだけど、お父ちゃんは女だらけの卒業式パーティーとか出られるかと言って近くで待機しているらしい」
 
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「女子大だったっけ?」
「共学だけど女子の割合が高い。更にパーティー出席者は特に女子の割合が高いという話」
「なるほどー」
 
「じゃ、その卒業式の後、一家で東京に出てくるんだ?」
「うん。お父ちゃんとお母ちゃんは北斗星で出てくる。妹は飛行機」
 
「北斗星って、チケットがなかなか取れないんじゃないの?」
と朋子が言う。
「そうなんだけど、偶然にも取れたんだよ。しかも2人用個室が」
と千里。
「良かったね!」
 
「私が合宿中だったから知り合いの旅行代理店の人に頼んでおいたんだよね。朝10時には取れなかったんだけど、午後になってキャンセルが出たのをうまくドロップキャッチしてくれたんだ」
 
「それは凄い」
「あれ、物凄い人気だから手分けして複数で申し込むんだよ。それで結果的に複数取れちゃってキャンセルする人がよくあるんだよね。代理店の人はそれが分かってるんで、こまめにチェックしてくれたんだ」
「親切だね」
 
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「玲羅はホテルで寝たいと言って飛行機で移動する」
「まあ鉄道マニアでなければわざわざ高いお金払って揺れるベッドでは寝たくないかもね〜」
 
「お母ちゃんが飛行機は不安だとか言うから寝台列車が取れないかトライしてみた。まあ帰りは全員飛行機になるけどね。お父ちゃんは飛行機初体験になるからトラブらなければいいけど。まあ空港までは玲羅が付いていくと思うから乗り遅れは無いだろうし、手荷物預けたりとかも大丈夫とは思うけど」
 

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■Time Table
3月20日(金)
父母:留萌6:30(高速バス)8:49札幌
12:00-13:00 玲羅卒業式
父母:札幌16:12(北斗星)9:25上野
玲羅:札幌16:25→17:02新千歳18:00(ADO 032)19:35羽田(東京泊)
 
3月21日(土)
10:00-11:20 千里 全日本クラブ選手権1回戦(京都)
11:00-12:00 父・卒業式(原宿駅近くNHKホール)
13:30-15:30 父・卒業祝賀パーティ(赤坂ホテルニューオータニ)
13:00-15:30 冬子 KARION大阪ライブ
父母・玲羅 東京泊
 
3月22日(日)
父母・玲羅は東京ディズニーランド
10:00-11:20 千里 2回戦
13:10-14:30 千里 準々決勝
13:00-15:30 冬子 KARION東京ライブ
父母・玲羅 東京泊
 
3月23日(月)
9:30-10:50 千里 準決勝
13:10-14:30 千里 決勝
父母:羽田15:50(ADO 029)17:20新千歳1818→20:05深川20:12→21:09留萌
玲羅は25日に帰る。それまで東京滞在。
 
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3月23-28日(月〜土) U24(Univ)代表候補合宿(東京NTC)
 
3月24日(火) 青葉終業式
3月25日(水) 千里・桃香修了式 (10:15大学院修了式 1330理学研究科修了式)
 
3月30日(月) 千里・桃香の引越
 
3月31日(火) 千里L神社を退職。辛島夫妻が転出。
4月1日(水) 入社式 桃香:新宿文芸ホール 千里:世田谷区 玲羅:札幌市
 

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「しかし飛行機でトラブるって何にトラブるんだ?」
と桃香が訊く。
 
「うちのお母ちゃんは以前飛行機に乗せた時はいろいろ持ち物が金属探知機に引っかかって、最後はブラのワイヤーまで引っかかって何度もゲートを通るはめになってぼやいてた」
と千里。
 
「ちゃんと注意書きを見て出しておけばいいんだけどな」
と桃香。
 
「私たち4人でアメリカに行った時は、青葉も千里も性別で揉めたね」
と朋子が言う。
 
「うん。それでこないだの研修旅行の時は、事前に松井先生に性転換証明書を書いてもらったんだよ。おかげで今回は裸になったりせずに済んだ」
と青葉は言う。
 
「いや、実際青葉はもう女の身体になっているから裸になっても性別疑惑を深めるだけだろ?」
と桃香が言う。
 
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「そうそう。ちょうど一緒になったアメリカ人の性転換者さんはそういう証明書を持ってなかったから、成田で医師の診察を受けて確かに性転換しているという診断書を書いてもらって、やっと出国手続きができたんだよ」
「それは大変だ」
「時間に余裕を持ってきてないと、乗り損ねるよね」
 
「千里はもう女のパスポート取ってたんだっけ?」
と桃香が尋ねる。
 
「私のパスポートは最初から女だけど」
と千里。
「なんで?」
「さあ。以前友だちから突っ込まれたことあるけど、自分でも何故かはよく分からない」
 
「でもアメリカ行った時に揉めたよな?」
「ああ。そういえば揉めたよね。あれ何で揉めたんだっけ?」
「覚えてないの?」
「入出国で揉めたのって、あの時だけなんだよね〜。いつも普通に通っていたのに」
 
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と言い、千里は旅行用バッグの中からパスポートを取り出して見せてくれた。
 
「これ私のパスポートだけど、既に有効期限切れ」
 
青葉はその発行日付を見て、うっそ〜!?と思った。性別もちゃんと Sex:F と印刷されている。写真はとても若い千里だが髪が長くて高校の女子制服っぽい服を着ている。
 
「おお、千里が女子高生してる!」
と言って桃香は何だか喜んでいる!?
 
発行日が2008年5月2日なので、5年間有効で2013年5月に切れてしまっているが、そのあとは海外に出ていないということであろう。
 
VISA欄にはたくさんのスタンプがある。ページは1度増補されているようである。
 
「かなり入出国してるな」
「バスケの大会やら合宿やらであちこち行ったからね」
 
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スタンプを見ていると、最初は Aug 24, 2008 の日付でオーストラリアの入国である。
 
「これ出国は?」
「自動化ゲートを通っているからスタンプ省略」
「ほほぉ。この時性転換手術したんだっけ?」
「ううん。手術したのは2012年、タイだよ」
「千里、その話は矛盾しているのだが」
「だよね〜。そのあたりは自分でもよく分からないところで」
「うーん・・・」
 
「でも私どこ行ったんだっけ?あちこち行ってるからよく分からない」
 
などと言って本人もページをめくりながら眺めている。桃香が入出国のスタンプを数えてみると4年間に18回出国したようである。
 
「ほんとによく使ってるなあ」
と本人も言っている。
 
「最後が2012年7月のタイか」
と桃香は最後のスタンプを見て言う。
 
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「性転換手術を受けに行った時だよね」
「やはりその話は矛盾しているのだけど」
 
「でもユニバーシアードに行く可能性が出てきたから、また新しいパスポートを申請しないといけない」
などと千里は言っている。
 
「パスポート申請して代表から落ちたら、申請しただけ無駄だけどね」
「そういう申請費用って協会が出してくれるの?」
「まさか。自己負担だよ」
「じゃホントに落ちたら申請のし損だな」
「まあね。でも選ばれてパスポートが無かったら問題外」
「確かにそうだ」
 

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