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■春色(12)

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再び遊佐さんの家に戻り、他の部屋を見てまわっていたのだが、真白の部屋で青葉は悩んでしまう。
 
「このお部屋って最初から真白さんの部屋でしたか?」
「亡くなったこの子の大伯母、妻の伯母ですが、その人がここを真白の部屋にしなさいと言ったんです」
 
「これは、女の子用の部屋だよね?」
と青葉は千里に確認する。
「うん。ここは女の子を育てるのに良い部屋」
 
「ああ、じゃ、僕女の子になっちゃおうかなあ」
などと真白は言っている。
 
「えっと、女の子になりたいですか?」
「一応ノーマルなつもりではあるんですけどね〜。でも僕女の子の友だちの方が多いですよ」
と真白が言っていたら、妹の礼恩が出てきて
 
「お兄ちゃん、女の子になるなら、ちんちん私にちょうだい」
などと言っている。
 
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「あげない」
と真白。
「ケチ」
と礼恩。
 
「礼恩ちゃんは男の子になりたいの?」
「あ、男だったら良かったのになあと思うことはありますよ。立っておしっこしてみたいし」
「なるほどねー」
 
その礼恩の部屋を見てみる。
 
また青葉と千里は顔を見合わせた。
 
「この部屋は男の子を育てるのに良い部屋なのですが」
「ありゃ」
 
「ここも大伯母さんが設定なさったんですか」
「はい」
 
「たぶん、大伯母さんは、真白さんの部屋と礼恩さんの部屋をうっかり逆に伝えたんですよ」
と青葉は言った。
 
「あら〜〜〜!」
 
「お前たち部屋交換する?」
「うーん。別にいいや」
「私も今のままでいい」
 
「じゃ、そのままで」
 
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その日の夜0時。
 
青葉は遊佐家の居間で、その気配に意識を覚醒させた。
 
これは凄い。
 
昼と夜でこんなに違うものなのか。
 
例の建設中の家の影響で、日中は山の上から流れ混んでくる「気」の塊がダイレクトにこの家に当たっていて、中村さんが真白に渡したバラで補修された古い結界によってかなり緩和されたかに思えたのだが、夜中になってみると、山よりむしろ里の方から、得たいの知れない「邪気」が押し寄せてくるのである。
 
千里を見ると、千里もかなり緊張した顔をしている。
 
ちー姉、借りるね、と心の中で言うと千里も頷いている。それで青葉は千里の左手を右手で握り、★★院で瞬醒さんに用意してもらった御札を自分の利き手である左手で持った。
 
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真言を唱える。
 
御札の中から凄まじい量の「水のようなもの」が吹き出す。そしてこの家に押し寄せてくる邪気を全て押し返してしまった。それと同時にこの家の周囲に新たな結界ができあがる。
 
「凄い。これ」
と真白が言った。
 
「分かりました?」
「家の中が凄くきれいになったし周囲に壁ができましよね?」
「はい、山の上から来る物もあったけど、里からも来てたんですね。でもこの結界はさっき押し寄せてきたものを覚えました。また来ても追い返しますよ」
 
「今できた結界はどのくらい持つんですか?」
「それを今からずっと持つように補強します」
 
と青葉は言った。
 
青葉と千里と2人で、神社で拾ってきた石を家の周りの6箇所に埋めた。そして青葉が真言を唱えると、あきらかにその埋めた石が、例の封印の御札と連動する感覚があった。
 
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「これでこの家の守り神がこの結界を補強してくれるようになりました。これで恐らくは10年くらいはもつと思います」
「10年ですか」
 
「その頃にはたぶん真白さんも礼恩さんも都会に出ているんじゃないかな」
「ああ、そんな気がします」
 

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締め切りの迫った原稿を完成させるのに外に出ていた遊佐さんが0時半頃戻ってきて、結果を聞き、
 
「ほんとうにありがとうございました」
と言っていた。
 
遊佐家を出たのは夜中の1時である。
 
車は遊佐家を出る時は千里が運転してたものの、すぐに青葉に交代している。
 
実は★★院の御札を「超起動」するために千里のエネルギーを大量に使った。そこで帰りは夜中だしということで青葉がミラを運転することにしたのである。千里は後部座席で目をつぶって身体を休めている。
 
「青葉ほんとに運転がうまいね。今度MTの操作教えてあげようか?」
「いや、あまり調子に乗ってやってたら、おまわりさんに見付かりそうな気がする」
「あはは、そんなの見付かったら、青葉退学だろうね」
「でも、ちー姉がインプのシフトレバー操作してるの見てたら、何か面白そう」
 
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「うん、楽しいよ。青葉、車買う時はMT買ったら?」
「どうしよう。ハイブリッドにも心が動くんだけど」
「ハイブリッドはみんなCVTだもんね。でもどうせ青葉、目的は遠距離恋愛でしょ? 遠乗りするならハイブリッドよりMTの方が燃費はいいよ」
「そうかも!」
 

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「でもちー姉、ごめーん。15時までと言っていたのに」
「ううん。いいよ。青葉のお手伝いができたし」
「何か用事があったんでしょ?」
「うん。何とか辻褄を合わせる」
「ごめーん」
 
千里は最初寝ていたようであるが、車が氷見あたりまで来た頃目を覚ます。
 
「ありがとう。結構眠れた。運転代わろうか?」
と千里が言うが
「とりあえず高岡の近くまでは私が運転するよ。町中に入る前に代わって」
と青葉は答える。
 
「了解了解」
 
「でも、あの斜め上のビルをいったん崩したので、神様がお引っ越しをしたよね?」
 
「うん。たぶん、山の上から里宮に移動したかったのに、あのビルが邪魔で移動できなかったんだ。だからあのビルの改築自体も何かの仕組みの中の一部だと思う。ただ移動で変なものを起こしてしまって、夜な夜なあの家に里の方からおかしな邪気が押し寄せてくるようになった。私たちが神様に呼ばれてしまったのは、それであそこの家に迷惑を掛けたので、私たちを使って補償してくれたんじゃないかな」
と千里も言った。
 
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「恐らく、あの人たちの家系に関わりがある気がしたんだけど、私もさすがにそのあたりまで突っ込んで調査する気にはならない」
「うん。この案件はあまり深く関わらないほうがいい気がする。おかしなものまで呼び起こしたら、私や青葉もただでは済まないよ」
 
「山宮に戻る時はまたあのビルを崩さないといけないのかな」
「たぶん戻らないんじゃない? 里宮の方がきっと居心地がいいんだよ」
「かもねー」
 
「結局、私たちは神様たちの手駒なのかな」
「まあ便利に使われた感じ。中村さんもね」
 
「夢の中に出てきた真白君が鈴を渡したガールフレンドってさ・・・」
「あの家に封印されている式神だよね」
「だから中村さんは結局、真白君を通して、その式神にパワーを与えたんだ」
「凄く正しい処理方法だね」
 
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「真城君のセリフを素直にとれば、その式神は男の娘なのかも」
「だとすると、真白君が女の子用の部屋で暮らしているのは、実は理にかなっているのかもね」
 
「中村晃湖さんって、ちー姉の高校の先輩なんでしょ?」
「そそ。あの人は青葉のひいお祖母ちゃんの友だちのお孫さんって言ってたね?」
「うん。関係者なんだか無関係なのかよく分からない関係」
 
「あの人はうちの高校の女子バスケ部のスポンサーのひとり」
「へー」
「私の高校時代、あの人と、最近はあまり作品を出してないけど漫画家の村埜カーチャさんとかが活動資金を提供してくれていたんだよ」
 
「じゃ、ちー姉たちが活躍できたのも中村さんたちのおかげか」
「今は当時の1.5倍くらいの資金を使っている」
「やはり強豪校はそれなりに費用も掛かるよね」
「その半分を私が寄付してるんだけどね」
と千里はさらりと言う。
 
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「ちー姉、実は高額納税者だよね?」
「桃香には内緒でね」
 
やれやれ。
 
「でもちー姉、今日はどこ行くの?」
「内緒」
 
「ちー姉、それが多すぎるよ!!」
 
「でも今回は後で教えてあげるよ。桃香にもね」
「へー!」
 
高岡に戻ったのはもう夜中の2時半であったが、千里はやはり疲れていたようで、そのまま眠ってしまい、朝6時に桃香を起こして朝ご飯も食べずに一緒に千葉に戻ると言う。しかし千里の寝不足を桃香が心配して、自分が運転すると言った。それで桃香がミラを運転して帰って行った。朋子がおにぎりを作ってふたりに渡していた。
 

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3月20日(金)。
 
宮古島。
 
朝一番の連絡(羽田625-915那覇1000-1050宮古)で秋風コスモスとともに宮古島に到着した紅川は迎えに来てくれた娘の車の助手席で
 
「清子(ヒバリ)ちゃん、どんな感じ?」
と尋ねた。
 
今日のコスモスは実用的なネイビーのビジネススーツである(銀座山形屋のパターンオーダー。女性用ビジネススーツのイージーオーダーを扱う店は実はひじょうに少ない)。
 
「電話でも日々言っている通り、ほとんど普通の子という感じだよ。お薬は一応飲んでいるけど、もっと軽いものに変えてもいいんじゃないかという気がするよ。あれ清子ちゃんが持っていたシートを見て調べたけどかなり強い薬だよ」
と娘は言う。
 
「そのあたりは病院の先生に訊かないと、僕ら素人の判断ではいけないと思う」
「でも病院の先生って、病気を治すことにしか興味無いからさ。人間を治すことには無関心なんだよ」
「うーん。それはそうかも知れないけどね」
 
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実家に辿り着くとヒバリは大先輩の秋風コスモスが来てくれたことを物凄く喜んだ。
 
「わーい! コスモス先輩、ご心配掛けてすみません」
「なんだ、ヒバリちゃん元気じゃん」
と言って秋風コスモスはヒバリをしっかりハグした。
 
「あのね、あのね、聞いてもらえます?」
「うん」
「私、東京に居た時も、福岡の病院にいた時も、毎晩のように黒い兵隊に取り囲まれて攻撃されていたの。でも宮古に来てから、全然攻撃されなくなったの」
 
「へー。きっと悪い奴らもこんな遠くまでは攻めてこれなかったんだよ。ここに来て良かったんだよ」
 
「そうかも知れない。私、ずっとコスモス畑を見ていて、コスモス畑が枯れるまでここにいるつもりだったんだけど、それが枯れちゃったんですよね」
「うん」
「でも、もう少しここに居たいなあという気がして」
「じゃ、コスモス畑の代わりに秋風コスモスが君にここに居て良いという許可を与えるからもう少しここに居なさい」
「いいんですか?」
 
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「まだ公表してないけど、今度私が§§プロの社長になるんだよ」
「え?ほんとですか?」
「秋風コスモスの社長命令。取り敢えず本州でコスモスが咲く頃までは沖縄に居なさい」
「はい!」
 
とヒバリは嬉しそうに言った。
 
その日、紅川と秋風コスモスも一緒に付いて行き、ヒバリは母とともに宮古島の精神科を訪れた。彼女のこれまでの病歴を説明した上で、彼女が宮古島に来てからの3週間で急速に元気になってきていることも説明した。
 
「これが今、福岡県の**病院で頂いているお薬なのですが」
と言って母親が見せる。
 
医師は付き添いの3人をいったん室外に出してヒバリとふたりだけになっていろいろ本人と会話をした。15分ほどにも及ぶ診察を経て、母親だけを呼び入れる。
 
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「病状は明らかに快方に向かっています。お薬をもっと軽いものに変えて様子を見ましょう」
「はい!」
 
「それとお嬢さん、元々絵が好きらしいですね」
「ええ。この子、歌手になってしまったんですけど、いつも音楽の成績は1で。でも図工の成績はいつも5だったんですよ」
 
「何か画材を買って来て、たくさん絵を描かせるといいです。それがきっと治療の役に立ちます」
「やってみます!」
 
 
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