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■春色(8)

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夜9時頃、彪志の父のカムリにふたりで乗り込んで、雪の夜道を出発した。
 
「気をつけてね。急がなくていいから」
「うん。慎重に運転するよ」
「眠くなったら言って。運転代わるから」
「うん。でも青葉、夏休みになったら即運転免許取りなよ」
「そうしようと思う。学校が許可してくれるかどうかという問題はあるけど」
「進学校だもんな!」
 
「彪志、来年卒業したら何の仕事するの?」
「一応中学と高校の先生の免許は取得できる見込みだけど、実際にはコネも特別なアピールポイントも無ければ難しいと思ってる」
「かもねー」
「自分の性格を考えると大企業とか公務員向きじゃないし、コンピュータ関係をやるような精密思考って俺ダメなんだよな」
「ああ」
「自動車関係は親父がやめとけと言ってるし」
「なるほど」
「飲食店とかアパレルとかはとても3年もたないと思うし。今少し考えているのは、ひとつは塾の先生」
「へー」
「もしくはちょっと狙っているのは統計関係の仕事」
「それってどういう会社?」
「製薬会社とか、金融関係とか、大手の製造メーカー関係でもその手の仕事はあるんだよね」
 
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「ニッチだ」
「でも出来る人が少ないんだよ」
「統計とか分布とかいう話は難しいもん」
「幸いにもそういうの俺は強いから」
「もしかしたら行けるかもね〜」
 

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「彪志はさ」
「うん?」
「浮気したいとか思う?」
「なんで?青葉浮気したいの?」
「そんな難しいこと、私きっとできない。恋人が複数いたら誰と何を話したか誰とどこに行ったか分からなくなって、すぐにバレちゃうと思うよ」
 
「それ、浮気する人はさ」
「うん」
「両方の恋人と同じ所でデートするんだって」
「へー!」
 
「そしたら、こないだスペースマウンテン楽しかったね、と言っても安心」
「その手は考えつかなかった」
「それどころか、同じニックネームになる子としか浮気しないという人もいる」
「呼び間違いしても平気って訳か!」
 
「でも俺も浮気する気にはならないな。青葉以外の女の子とキスしたりセックスしたりって、そんなことしたらきっと自分の良心の呵責に耐えられないと思う」
 
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「あ!私もそういう感覚なのよ」
 
「浮気する人って、そのあたりどう心の中で整合性を取るんだろうね。俺には分からないよ」
 

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3月11日(水)。
 
地元の県立高校の入学試験を受けた真白は、数人の友人と一緒に近くのショッピングモールに寄った。都会ならいろいろ遊ぶ所もあるのかも知れないが、田舎ではゲーセンもカラオケも無いし、中高生が息抜きできる場所なんて、こういう所くらいのものである。
 
飲み物を買ってフードコートの椅子に座り、飲みながら友人たちと話していたら、その一角でふたりの女性が何やら話しているのに気づく。真白たちが注目したのは、そのひとり、40代くらいで髪の長い女性が細い竹の棒のようなものを多数手に持ち、しばしばジャラジャラやっていたからである。
 
「占い師さんだよね?」
「そうなの?」
「あれ筮竹(ぜいちく)だよ」
「あれで占いができるの?」
「易(えき)って言うんだよ」
 
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やがてその相談していた人が御礼を言って立ち上がった。その女性が去った後、美里がそのテーブルに近づいて行き声を掛けた。
 
「あのぉ、占いをなさってるんですか?」
「はい、そうですよ」
とその女性は笑顔で答える。
 
「私たちとかも占ってもらえます?」
「いいですけど、私、あまり安くないですよ」
「えっとお幾らですか?」
「基本的には1回3万円頂いています」
「きゃー」
 
「でも私、もう帰ろうかと思っていた所だし、あなたたち中学生かな。今日だけは15分1000円で見てもいいですよ」
「じゃ、それでここにいる4人お願いします」
「いいですよ」
と女性占い師は言ったが
 
「え?私も」
「僕も?」
と友人たちは声を挙げた。
 
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最初に美里が占ってもらっていたが、他の3人は離れた席で別途おしゃべりをして待っていた。
 
「なんか美里泣いてるよ」
「恋愛相談でもしてるのかなあ」
「美里の好きな人って誰?」
「さあ」
「少なくとも真白ではないよな」
「僕と美里はそういう関係じゃないよ」
「うん。それは美里も言ってるね」
「だいたい真白って、あまり男の子っぽさが無いよね。いい意味で」
「なんか気軽に声を掛けられるんだよなあ」
「真白、GIDとかじゃないんでしょ?」
「そのつもりは無いけどなあ」
「真白のお父さんは?」
「まあ見ての通りだよ。僕は物心ついた頃からああいうお父ちゃん見てるから別にそれが普通で気にしてないけどね」
「なるほどねー」
「だから僕って女家族の中の唯一の男なんだよ」
「ほほお」
「だから女の子に対して垣根が無いのかもね」
「ああ、それはありそう」
「真白のお父ちゃんって、おっぱい大きくしてるの?」
「知らない。絶対に裸を見せないんだよ」
「へー」
 
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優梨、佳恵が見てもらった後、最後に真白が見てもらった。
 
「あなたはご相談事は何でしょうか?」
 
真白は焦った。実は何を相談するか何も考えていなかったのである。
「えーっと」などと言って考えてみた時、先日から見ていた夢のことを相談してみようかと思った。
 
「あのお、夢判断とかできますか?」
「どういう夢を見たんですか?」
「実はこのところずっと同じ場所が夢の中に出てきて」
 
と言って真白はそのシリーズの中で最も印象が強く残っている、最初に見た夢の内容を話す。すると話を聞いている内に、次第に占い師さんの表情が険しくなっていくのを感じた。
 
占い師さんは黙って筮竹を手に取り、ふたつに分けた。
 
左手に残った本数を数えている。彼女はその動作を3回繰り返した。
 
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「天沢履の四爻変。風沢中孚に之(ゆ)く」
「どういうことでしょう?」
 
「何かの古い霊的な罠にハマってしまっています。そこから抜け出さないと、あなた下手すると命を落としますよ」
「えー!?」
「虎の尾というのが出てくるんだけど、これは何だろうなあ」
「虎の尾を踏むとかですか?」
 
「何か古い・・・戦国時代くらいの臭いを感じる。あなた悪いこと言わない。どこか信頼できる神社に行って、お祓いを受けたほうがいい。取り敢えず何か回避策が無いかな」
 
と言って、占い師さんは自分の荷物の中を探している。
 
「これ差し上げます」
と言って小さな鈴をくれた。紐が付いている。
 
「これ昨年私が熊野古道を歩いた時に熊避けに付けていた鈴です。あそこの神域に触れているから最低限の防御効果があると思う」
「ありがとうございます」
 
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「そうだ。これもあげます」
 
と言って真白が渡されたのは何かの種である。
 
「これをあなたの家の・・・・庭ある?」
「ちゃんとした庭は無いですけど、一戸建てなので、建物の周囲に地面はあります」
 
「だったらね・・・・」
 
占い師さんは目をつぶって考えている。
 
「家の南側の適当な場所に埋めて」
「南ですね。水とかは?」
「今夜多分雨が降るから、それで行ける」
「これは何の種ですか?」
「私も聞いてないのよ」
「へー」
「でもあなたの危機を救う植物が生えると思う。生えたら水くらいはあげておいて。枯れたら掘り起こして火を点けて燃やして欲しいの」
「分かりました!」
 
「くれぐれもしっかりお祓いしてもらって」
「分かりました。あのぉ」
「うん?」
「なんかたくさん見てもらって。見料はいくらお支払いすればいいでしょう?」
「千円で受けたから千円でいいよ」
「済みません!」
 
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3月11日の晩、青葉と彪志は22時半頃一関に到着したが、この夜の各々の動きは少々複雑である。
 
先に19時半頃に大船渡を出た千里が運転するエルグランドは、21時頃一関に到着している。一関には★★レコードの矢鳴さんと佐良さんが千里のインプレッサを運転して持って来てくれていた。
 
一行は彪志の実家で彪志の父を降ろした後、一関IC近くのファミレスに行って矢鳴さんたちと落ち合う。そしてエルグランドは佐良さんが運転し、桃香だけを乗せて東京方面に帰還。佐良さんは千葉市で桃香を降ろした後、冬子のマンションにエルグランドを返却した。
 
桃香は翌12日、車屋さんで修理の終わったミラを受け取り、それを運転して館山まで行き、伯父に保証人の署名捺印をしてもらってから、東京の就職先に誓約書を提出した。
 
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一方、千里と朋子は彪志の運転するカムリが待ち合わせポイントのファミレスに到着するのを待つ。22時半に青葉が到着したので、矢鳴さんがインプレッサを運転し、助手席に千里、後部座席に朋子と青葉が乗って、高岡に向けて出発した。カムリは彪志が運転して実家に戻り、彪志はそのまま数日実家に滞在した。
 
インプレッサは実際には矢鳴さんと千里が交代で運転して、12日の朝6時に高岡に到着する。そして青葉はそのまま学校に出て行ったが、朋子は疲れたのでこの日は休むと言って会社に連絡を入れ、1日寝ていた。
 
千里は更にそのまま矢鳴さんと交代でインプレッサを運転して、12日の昼頃大阪に入る。目的は貴司との浮気!である。が、千里はわざわざその目的を矢鳴さんには言わないし、矢鳴さんも尋ねたりはしない。
 
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千里が携帯で貴司と交わす会話を聞いたらふたりが浮気をしていることは当然分かるだろうが、矢鳴さんはそういうのは基本的に聞かなかったことにする。
 

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矢鳴さんは12日は大阪に泊まり、13日の朝、新幹線で東京に戻った。
 
一方千里は13日の夜にインプレッサを運転して大阪を発ち、14日再び富山県に入る。そして富山駅で冬子、富山空港で長野龍虎と支香を拾って、青葉の家まで行き、龍虎に青葉のセッションを受けさせた。
 
青葉は龍虎が「まだしばらく声変わりしたくない」と言っているのをサポートしてあげることにした。彼はスカートを穿いていた。女の子になりたいという訳ではないものの、そういう服を着ること自体は割と好きなようである。
 
その龍虎と支香はセッションを受けた後、高岡で1泊して翌15日のKARIONライブにゲスト出演した後、飛行機で東京に戻っていった。千里の方はインプレッサを高岡に置いたまま!開通したばかりの北陸新幹線で一足早く15日朝東京に戻った。インプは夕方矢鳴さんが新幹線で高岡に来て回収するという話であった。矢鳴さんも移動量が凄まじい。恐らく★★レコードのドライバーチームの中で最も激しい移動量である。
 
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(付き添い率では後藤先生担当の金子さんが最も高く、毎日朝10時頃から夜12時近くまで付き添っているらしいが移動は主として東京・千葉・埼玉・神奈川付近に限られるし一度の運転時間も30分以内が多いらしい。毎日美味しい御飯をおごってもらえて、太りそう!と本人は言っているとか)。
 
 
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