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■春色(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-06-27
 
青葉たちは七尾駅前のパトリアの6F駐車場に車を駐めると、4Fの会場に行ってみた。入口付近に七段飾りのひな人形がいくつか並んでいるので
 
「わあ、きれいだねぇ」
などと言いながら、メイン会場の中に入ったのだが。。。
 
圧巻であった。
 
長方形の部屋の短い方の辺側に24段の雛壇が作られ、そこに大量の雛人形が並んでいる。幅は10m, 高さは6-7mあるだろうか。青葉たちは声も出せずに見とれていた。
 
「ね、ね、あそこで記念写真撮ろう」
 
雛壇の前に、赤い毛氈で覆われた小さな壇があり、代わる代わる小さな女の子などがそこで記念写真を撮ってもらっている。
 
「よし4人そこで並んで」
と桃香が言う。
 
日香理・美由紀・青葉の順に並び、「早く早く」と言われて
「俺も〜?」
などと言いながら吉田君も一緒に並ぶ。
 
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「男が雛人形の前に立つのも」
「だったら女の子っぽい服を着る? 私の着替えを貸してもいいよ」
「やだ」
 
4人並んでいる所を桃香が持って来たカメラとスマホとで写真を撮った。
 
こういう時のお約束で、カメラを扱うのは必ず桃香でなければならない。千里がカメラを扱うと絶対に何も写ってないのである!
 
「千里君、これは一体何を撮ったのだね?」
「富士山を撮ったつもりだったのだけど」
「何かは私にも分からないが赤いものを近接撮影している」
 
などという会話がふたりの間にはよく交わされている。
 
その後、桃香と千里も並ばせて、吉田君が写真を撮ってあげた。
 

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パトリアに入っているお菓子屋さんで金沢の銘菓『中田屋のきんつば』を買った上で、七尾港の道の駅『能登食祭市場』に移動して、海鮮丼を食べた。その後、帰ることにする。
 
七尾市内は七尾ICの開通に伴い、道路工事の真っ最中で変則的な進行になっていたが「→能越自動車道」という案内を見ながら車を走らせていると変な所に来てしまう。
 
「これは絶対七尾ICじゃないよね?」
「ちょっとそこのセブンイレブンに駐めて考えてみる」
 
と千里も言って休憩する。
 
おやつを買ってから、お店の人に素直に聞いてみた。
 
「ええ、ここは七尾城山ICなんですよ。七尾ICはいったん町まで降りてから左手に進行してください」
 
と教えてもらった。
 
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七尾IC開通・北陸新幹線開通の特集をしている雑誌が何冊も出ていたので千里が1冊買って、実際にその地図の上でお店の人に場所を確認した。
 
「城山ってお城があるんですか?」
と美由紀が訊く。
 
「七尾城ってのがあったんですけど、古い山城なんですよ。ほんとに山の中ですよ」
「行ってみよう!」
 

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1576年9月、上杉謙信は1万の大軍を率いて能登に侵攻した。
 
大義名分は、畠山家の当主の相次ぐ死で国が乱れているので、かねてから畠山氏より上杉に人質として差し出されていた畠山義春(畠山義綱の弟)を新しい当主に据えて能登の治安を回復させるというものであった。
 
謙信は大軍で能登各地の支城を落とし本城の七尾城に迫って降伏勧告するものの長続連はこれを拒否する。籠城戦が続くが、1577年3月、北条氏政が北関東に進出してきたという報せを受け、謙信は本国安堵のためいったん帰国する。
 
この隙に長続連は上杉が残していった兵を各個撃破し、再び能登全体の支配を回復する。しかし上杉は1577年7月再度大軍を率いて能登に侵攻する。長は奪還していた各支城を放棄して全兵力を七尾城に集結させ、あわせて領民も多数城に籠もらせた。この時、七尾城に入った兵士・領民は1万五千人とも言われ、数だけでいえば、上杉軍を大きく上回った。
 
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あわせて長続連は織田信長に援軍を乞うべく、息子の長連龍を派遣する。信長は了承し、8月柴田勝家を総大将とする援軍が能登に向けて出発した。
 
しかしその間に七尾城では疫病が発生し、当主の畠山春王丸も感染して7月23日病死してしまう。結局、当主不在のまま長続連が「城代」として上杉に対抗することになった。
 
(春王丸には弟がいたとされるが、当主を継承したような記録は無い。また、畠山氏には松波城城主の畠山義親など成人の親族も居たものの、この時代は長続連が実質下克上したも同然であった。なお畠山氏は足利氏の系列で源氏だが、長氏は平家一門である)
 
しかし1万人以上の兵士・民衆が城に籠もっていると物資が不足する。特に山の上は水が乏しい。長は水は不足していないということを上杉側の偵察兵に見せるため、米を落として滝があるように見せかけた。ところが上杉側がよく見ると、その「滝」に小鳥が寄ってきてつついている。
 
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それを見た上杉側は、あれは水の滝ではなく、米か麦の類いを落として滝のように見せかけているのだということに気づいたのである。
 
結局上杉は内部に揺さぶりを掛ける。
 
家臣団の中にも、長続連をあまり快く思っていないもの、信長に反感を持つ者、上杉と親しい者たちがいる。彼らと密かに連絡を取り、反乱を唆したのである。彼らは実際籠城戦を続けても勝てる訳が無いと考えていた。
 
9月13日、城内の反抗勢力から近く内応を起こすという連絡が上杉に入る。謙信はその報せを聞いて勝利を確信し、このような七言絶句を詠んだ。
 
「九月十三夜陣中作」という題名で今に伝わるものである。
 
霜満軍営秋気清
数行過雁月三更
越山併得能州景
遮莫家郷憶遠征
 
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霜、軍営に満ちて秋気は清し。
数行の過ぎゆく雁、月は三更。
越山と併せ得る、能州の景。
遮莫(さもあらばあれ)、家郷は遠征を憶わん。
 
ここで「三更」とは夜を5つに分割した内の3番目のことで要するに真夜中である。大雑把に言えば初更が8時頃、二更が10時頃、三更が12時頃となる。
 
そして9月15日、親謙信派の遊佐続光が、家臣団内で本来は政敵であった温井景隆やその実弟の三宅長盛らと示し合わせて七尾城内で反乱を起こし、長続連やその一党を倒し、城を開放した。長一族で生き残ったのは、織田信長の元に援軍要請に行っていた長連龍の他は数名の幼児のみである。
 
一方の柴田勝家の援軍のほうは、陣中で勝家と羽柴秀吉が喧嘩して秀吉が勝手に帰ってしまうなど軍内の規律が乱れ、一向一揆勢力とも各地で衝突したりして、なかなか進軍することができずにいた。それでこの七尾城攻防戦に間に合わなかったばかりか、加賀の手取川の戦いで上杉勢に大敗して、ほうほうのていで逃げ帰るはめになる。
 
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織田勢の反撃は、謙信が亡くなった後まで待たねばならない。
 

青葉たちは、コンビニで買ったおやつを車の中で食べてから、七尾城に行く細い道を登っていった。城にはすぐ辿り着いた。
 
「確かにこれはただの山だ」
「天守閣とか無いんだっけ?」
「天守閣が作られるようになったのは戦国がほぼ終わってからだよ。あんな非実用的なものはこの時代には無いから」
「天守閣なんてただの権威の象徴だろうね」
 
青葉はその場所で緊張していた。見ると千里も緊張しているようだ。あまり長居しない方がいいようだ。美由紀は思っていたのと違う(姫路城や熊本城のようなものを想像していたようだ)のでがっかりするも、何か「戦利品」がないかあちこち見ている。写真も色々な場所で撮っているけど、変なものが写っていなければいいがと心配した。
 
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そんなことを考えていた時、突然青葉に「何か」が襲いかかってきた。驚いて手で払いのける。次の瞬間、その「もの」は消滅した。千里が
 
「こういう場所で油断しちゃダメだよ」
と言う。
 
どうもその「何か」は千里が「処分」してしまったようだ。青葉には検知できないのだが、おそらく千里の眷属がやったのではないかと想像した。
 
その時、トントンと青葉の腰を叩く者がいる。
 
「はい?」
と言って振り返ってから青葉は
 
しまったぁ!
 
と思った。隣で千里が渋い顔をしている。しかし青葉はその赤い小袖のような服を着たお下げ髪の「男の子」に尋ねた。
 
「どうかしたの?坊や」
「あれ?僕が男の子だって分かった?」
「分かるよ。君、元気そうだから、きっと長生きするよ」
「そう? よかった。うちの父上もその伯父上も、なんか二十歳くらいで死んじゃったから、僕もあまり長生きできないのかなあと思ってた。兄上もまだ小さいのに死んじゃったし」
 
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「君はきっと八十歳くらいまで生きると思うよ」
と千里が隣から言った。
 
「ほんと?そんなに長生きできたらいいなあ」
とその女装(?)の男の子は言うと
 
「お姉ちゃんたち、今、僕を襲ってきたもの倒してくれたね」
「うん。私たちもやられそうだったから倒しただけだよ」
「お姉ちゃんたち強いんだね。御礼にこれあげる」
 
と言って、男の子は青葉に透明な勾玉のようなものを手渡した。青葉は反射的に受け取ってしまってから、あれ〜?これもらって良かったのかなと思う。
 
しかし、次の瞬間、青葉は目の前に誰もいないことに気づいた。
 

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「誰だろう?」
と青葉は千里に尋ねた。
 
「さあ。でも悪いものではないと思ったよ」
と千里も言う。
 
「じゃ、いいか。これはもらっておいて」
と青葉。
 
「たぶんそれが必要になるから」
と千里。
 
「何が起きるの〜?」
と青葉。
 
「青葉は物事に首を突っ込みすぎるんだよね。その性格直さないと早死にするよ」
と千里は言っていた。
 

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山を下りる。言われた通り降りてから左折して走っていると、やがて突然快適なバイパスが出現した。市街地近郊によくこんな立派な道を通したものである。
 
そしてやがて「能越自動車道 10.七尾 高岡方面」と書かれた緑色の標識が見える。
 
「ここを左折すると七尾ICに行けるのかな」
と桃香が言う。
 
「たぶん」
と言って千里はそちらに車を向けた。
 
おそらくインターチェンジがあるのだろうと思い、控えめの速度で走っていたのだが・・・・
 
「ねぇ、もしかしてこれ既に本線なのでは?」
と運転している千里が言う。
 
「どうもそんな気がしてきた。じゃさっきの三叉路が実は七尾ICだったのか!」
「たぶんそうだよ」
「全然ICらしくなかった」
「あれ間違って進入する人もいそう」
「でも入ってしまった以上、山の向こうまで行かないと戻れない」
「うん。七尾城山ICはハーフICで、七尾ICから来た車は降りられないから」
 
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その七尾城山ICを通過する。青葉はさきほど出会った女装の男の子のことを思い出していた。七尾城攻防戦のことは日本史の時間に先生が余談として話してくれたので知っていたが、あまり細かい話は聞いていなかったので、あれがどういう人物に該当するのかは分からなかった。ただ、どうも七尾城に籠もっていた側の誰か。それもかなり重要な人物のようには思えた。
 
女装していたのはおそらく男なら皆殺しにされかねないのを避けるためだろう。あるいは開城で混乱している隙にあの格好で城から逃げ出したのかも知れない。
 

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