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■春逃(16)
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3月15日(火).
青葉に矢島さんから電話があり、試作品ができたので、試してみて欲しいということであった。そこで松梨詩恩に歌わせる曲の中から、まずは『イルカの恋』を新しいアレンジシステム“中島恭子”にアレンジさせてみた。
青葉は一泳ぎしてきてから、結果を見てみたが、結構雰囲気が良かった。手作業で少し直し、南田容子に試唱させてみる。その試唱を聞いて譜面を調整する。それを半日近く続けて、満足いく所まで到達した。それでシステムを調整してほしい点をまとめて矢島さんに送信した。
修正版は18日に完成した。青葉はこの修正版に再度『イルカの恋』を掛けてみた。
すると、15日に手作業で作ったアレンジより出来が良かった!
そこで15日に書いたものはボツにして、この新しいアレンジから調整を掛け、南田容子に試唱させて確認し、編曲完成第1号として花ちゃんに送った。
「15日のバージョンはボツなんですか?」
「うん。ごめんね。せっかく沢山歌ってもらったのに」
「でも惜しくないですか?万葉先生も随分ご苦労なさっていたのに」
「苦労したってダメなものはダメだよ」
「すっごーい」
と容子は何だか感動していたようであった。
「萩本欽一さんはさ」
「はい」
「1000万円掛けて作ったセットの出来が悪かったので作り直させたことがある」
「1000万も掛けたのに!?」
「いくらお金を掛けてもテレビに流すのにふさわしくないと思ったら作り直させる。やはりそれがプロ意識だよ」
「凄いですね!」
青葉は矢島さんに、なおも改良して欲しい点を伝えた。修正はその日の内に行われた。それでその後の編曲は1日1曲ペースで進んだ。
3.19『あなたは私に夢中』
3.20『ランデブー』
3.21『電車のあの人』
3.22『金と銀のロマンス』
3.23『眼鏡のあなた』
3.24『花言葉』
3.25『本日、恋はお休み』
3.26『振り向いた時』
3.27『私はあなたの子猫ちゃん』
3.28『南国からの手紙』
3.29『街の中のソリテア』
それで青葉の作業は3月30日までに完了し、この日青葉・容子・紀子の3人で打ち上げして、今回のプロジェクトを完了させたのである。
2022年3月16日(水).
医師国家試験の結果が発表され、青葉たちの元同級生・呉羽ヒロミは合格していた。これで彼女は医師の免許を取得し、4月からは出身大学の附属病院で研修医としてのスタートを切る。研修は5年間で、最初の2年間は様々な診療科を経験して医師としての総合力を高めることになる。
↓左側の期間は“最低期間”。この他に選択科目を経験する。
6ヶ月 内科
2ヶ月 救急
2ヶ月 外科
2ヶ月 小児科
2ヶ月 産婦人科
2ヶ月 精神科
2ヶ月 地域医療
なお、附属病院での研修は概して給料が安い!(概して地方都市の大病院は厚遇で研修医・医師を迎えてくれる)
近年研修医のあまりに過酷な労働環境が問題になり、研修医が“アルバイト”の名目で研修以外の医療を行うことが禁止されたことで、かなり改善された。
しかし結果的に、多くの病院で当直医が不足することになった。
そのため最近は人手確保のため、附属病院や直系の病院が、優秀な卒業生の囲い込みをしていると言われる。呉羽は先輩女子の氷室さんから「うちで研修しない?」と言われて何も考えずに「はい。お願いします」と言って、附属病院で研修医をすることになった(呉羽は優秀なので採用試験には満点合格した)。
「ところでさ、女性医師って結婚や出産のタイミングが難しいでしょ」
と氷室さんは言っていた。
「うちのクラスでは在学中に2人産んだ子がいました」
「そうそう。それやる子もいる。学部が終わって国家試験通ると、今度はみっちり5年間の研修で鍛えられて時間無いし、研修終わってどこかの病院に入ると、新人の内は、結婚・出産すると白い目で見られるし。それで40歳近くになってから、やっと子供産む人もいるのよ。在学中に生んじゃうのはひとつの手。休学が必要だけど」
「その子、2度とも休学しなかったんです。大学の休み期間中にぶつけて出産して」
「それはスーパーウーマンだ!」
と氷室さんは感心していた。
この世界では研修医時代に恋愛して結婚する人もあるが、研修が終わった後、別々の病院に飛ばされることもよくある。すると若い男性医師は女性看護師さんたちにもてるので、そこから離婚に至るケースも多い。
2年間の研修が終わると、自分の専門を決め、3年間“専攻医”として、更に実地の医療を学んでから、ようやく独り立ちすることになる。だから医師になるには6年間の医学部時代も含めて11年掛かることになる。浪人留年せずに行って29歳である。
(2018年3月以前は、現在の研修医を“前期研修医”、専攻医を“後期研修医”と呼んでいた)
呉羽は
「ぼく、結婚とかしてくれる人あるかなあ。結婚するなんて相手には元男の子だったこと言わないといけないし、その瞬間振られそうな気がする」
と悩んでいた。
3月19日(土)から4月24日(日)まで金沢市内のショッピングプラザ特別展示室で“ビスクドール展・フランス人形・ドイツ人形の魅力”が開催された。
S市の人形美術館から400体ほどの人形が出展されたが、アンティークドール(リプロダクションを含む)約20体を含む、特に貴重な人形約60体は、明恵・真珠・初海・および幸花の手で運んだ(その他の人形は、〒〒テレビが手配した業者さんが運んだ)
4人は、前日の18日(金)に、千里から借りたVolvo XC-40 (1968cc)、および幸花のMazda3に乗ってS市人形美術館に行き、該当の人形をクッション材でしっかりと梱包。発泡スチロールの箱に入れて、車に乗せた。そして運転交代しながら金沢市の会場まで慎重な運転で運んだ。
運搬作業完了後、イベント責任者(〒〒テレビの田代さん)とオーナーの孫・遙佳さんの指示で多数の人形が置かれていくのを見ながら、明恵と真珠が会話していた。
「でも千里さん、色んな車があるんですねー」
「ほんとに私も全部で何台あるのかよく分からない。うちの浦和の家の敷地によく放置されてるんだよ。千葉に車両の保管庫を持ってるから、だいたいそこに置いておく」
「保管庫があるんですか!」
「常総市なんだけどね。駐車場代がかかりすぎるから、そこに土地買って、保管庫作ったんだよ。今はカーエレベータ付き3階建てになっている」
「ひゃー」
(↑常総市は千葉県ではなく茨城県!最初千葉県九十九里町、次いで同県長柄町の土地を候補にして最終的に常総市になったので千里は常総市も千葉のような気がしている)
「今“女装しぃ”と聞こえた」
(北陸方言で“〜しぃ”は“〜しなさい”の意味)
「君たち女装とかしてみない?楽しいよ」
「でもあれ、癖になるらしいですよ」
「やみつきになると、性転換手術受けて本物の女になりたくなる人もあるらしいです」
「もしかしてそれちんちん切っちゃうの?」
「当然。女にちんちんは無いからね」
「恐いね〜。ちんちん切るなんて」
「むっちゃ痛そうだよね」
「立ち小便もできなくなるし」
「女の子っておしっこだけの時も便座に座ってするんでしょ?」
「だけど男の人にちんちん入れられるのって凄く気持ちいいんだって」
「へー。体験してみたいようなみたくないような」
などと明恵と真珠は言っていた。
千里はこのコンビ、大学卒業後も、何とか維持できるようにしたいなと思った。2人とも就活全然してないっぽいけど。真珠は邦生と結婚するから、明恵とも結婚させる訳にはいかないし。
さて、18日に明恵と真珠は、朝から各々のバイク(YZF-R25/GSX250F)で放送局まで行き、そこで千里のXC40でS市まで往復した。そして金沢に戻った後もビスクドール展のレイアウト作業を館長代理の遙佳と一緒に遅くまで見守った。
遅くなったし雨も降っていたので、2人は千里さんにXC40で送ってもらい“宿泊所”に戻った。
そして宿泊所で、今回の『北陸霊界探訪』の放送を見た。
19日はビスクドール展のオープンに立ち会うためALショッピングプラザに向かうが、自分たちのバイクを放送局に置いたままなので、Ninja1000を借りて2人で乗って会場に向かった。
その後、幸花が「6月放送分のネタについて話し合いたい」というので、そのまま放送局に移動した。
ところがこの日は夕方から雨だった。幸花が
「雨なのにバイクは大変でしょ」
と言って自分の Mazda3 で、2人を宿泊所まで送っていった。
つまり・・・・・
3月19日(土)夜=3月20日(日)の時点で、バイクは3台とも放送局に駐めたままになっていた。
3人は日曜日はどこにも出掛けず、宿泊所のリビングでおしゃべりしていた。
「セックスしたくなったらしてね〜。私は奥の部屋に引っ込んでるから」
などと明恵は言っていたが、真珠は
「昨夜したから大丈夫」
などと言っていた。
そして3月20日朝、邦生は出勤しようとして、1階まで降りてバイク駐輪場まで行ってからNinja1000が無いことに気付いた。それで真珠に電話した。
以下同文!!
(今度はレクサスで出勤してきた課長と遭遇した)
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