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■春逃(5)
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(C) Eriko Kawaguchi 2022-10-09
真珠と邦生が青葉を小松空港で降ろしたのが、14:10頃であった。渋滞とかに掛かるとまずいので、そのまま香林坊に戻った。これが15時頃である。ミスドをテイクアウトしてきて車内で食べる。そしてトイレに行っておくが、もちろんふたりとも女子トイレである!邦生の容貌でスカートまで穿いていると、さすがに男子トイレには入れない。
一緒にトイレの列に並んでいると、真珠が楽しそうだった。傍目(はため)には女子の友人同士にしか見えないだろう。
そしてメイクを少し修正した上で、16:58くらいに大和(だいわ)のティファニーに行った。
お店に入るとすぐ
「吉田様、お待ちしておりました。こちらへ」
と言って、商談ルームに通された。
名乗る前に名前を呼ばれ、通されるのはさすがだなと思った。どうかしたお店なら、名前を言ってから、予約簿を確認し、それから、どこか空いてたかな?などとなる所だ。そもそも予約してても1時間くらい待たされたりする!
最初に登録用紙を出され、御名前をお願いしますと言われたので、真珠が
(贈る人)吉田邦生 よしだ・くにお
(贈られる人)伊勢真珠 いせ・まこと
と書いた!邦生は「くにお」と書かれて「うっ」と思ったが、まあいいことにした。今日はスカート穿いてお化粧もしてるから男を主張できないし!
カタログの中から、真珠の好みのデザインを選ぶ。石はソリティアの6本爪型とし、脇石やメレは入れない。指輪の形もウェーブを掛けない基本のストレートにした。また、朝測定されていたサイズの仮リングを指に通してみて、そのサイズで問題無いことを確認する(夕方は指が膨らんでいる場合もあるが、それを考慮した上でサイズを選定してくれていたようだ)。
「指輪の材質は、プラチナになさいますか?18金になさいますか?あるいは別の素材になさいますか?」
と言って、スタッフさんは様々な材質の指輪を並べたものを見せ、各材質の特徴も説明してくれた。チタン、ジルコニウム、イリジウムの指輪もある。プラチナの間に金が挟まっているようなものもあるし、それがらせん状になったものまである(サイズ直しが絶対できない!)。
「普通にプラチナでいい気がします。私、金属アレルギーとかも無いし」
「かしこまりました」
石を選ぶ。
0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 のサイズの石を見せられた。
邦生は悩む!
たぶん0.8で160万円くらい、1.2だと300万円くらいかなという気がした。
邦生が悩んでいるようなので真珠は“上を切る”ことにした。
「あまり大きすぎても、私たちみたいな貧乏人には不釣り合いだから、0.8か0.9くらいのサイズでもいいよ」
などという。すると邦生は
「じゃ値段にもよるけど1カラットくらいで」
と言った。
「今ここにございます1カラットの石は VVS 3EX H&C Eカラーでございます」
と言われた。
邦生はさっぱり言葉が分からない!
真珠が「意味が分からなーい」と言うと、ひとつひとつ用語を丁寧に説明してくれた。
VVS:石の品質。上から FL/IF/VVS/VS/SI
3EX:石の加工が3つの観点で素晴らしい(excellent)こと
カラー:完全無色のDからかなり色が付いたMまである。
H&C:ハートマークと矢(キューピッドの矢)が見えること。実際ジェムスコープで見せてもらって「すごーい」と真珠が感動していた。
「VVSとIFとFLってどのくらい違うんですか?」
と真珠が訊く。
「今ここに並んでおります、1.1ctのものが IF (Internally Flawless), 1.2ctのものが FL (Flawless) でございます」
「違い分かる?」
と邦生。
「私には分からない」
と真珠。
(FL/IF/VVSの差は10倍に拡大して見て熟練の技術者が発見できるかどうか微妙という程度の不完全さなので、普通の人が肉眼で見たら、まず区別が付かない)
「ぼくも分からない。じゃVVSでいいかな。カラーは?」
「この1.0ctのがEカラー、1.1ct, 1.2ctのがDカラー、0.9ctのがFカラーでございます」
「どう思う?」
「0.9ctのより、1.0ctのがきれいだと思う。1.1ctのとは、ぼくの目では分からない」
「くーにん凄いね。私の目ではどれも区別付かないよ」
「じゃEカラーでいいかな」
「かしこまりました。ではサイズは0.9か1.0ct, VVS 3EX E-Color という線でよろしいでしょうか」
邦生は真珠の顔を見る。真珠が頷いている。
「ちなみに、さっき選んだデザインのプラチナリング、この石だとお値段はお幾らになります?」
「少々お待ちください」
スタッフさんはタブレットを見ている。
「1.0ctの場合、214万円+消費税で235万4千円、0.9ctは186万円+消費税で204万6千円になります。刻印入れ、指輪ケースはサービス致します」
0.9でも200万円を超えているので、真珠が心配そうである。真珠としては、200万円に少し届かない程度の価格帯を狙ったつもりだったのだが、何と言ってもティファニーである。真珠は0.8でもいいよと言おうと思った。
しかし邦生はポーカーフェイスで答えた。
「その値段なら1.0カラットで。今実物を見ている石が安心だし」
「かしこまりました」
「支払いはこのカードでいいですか?」
と言って、勤務しているH銀行のゴールドカードを出す。
「はい。その前に、この石をさっきの指輪に填めた状態をモニターで見て頂けますか?」
と言って、スタッフさんはタブレットを見せる。
「ああ、凄くいい感じです」
「手のお写真を撮らせて頂けましたら、指に填めた所もご覧になれます」
「じゃどうぞ」
と真珠が言うので、左手の写真を撮る。その写真に指輪を填めた状態がタブレットに表示された。
「すっごいゴージャス。こんないい指輪もらっていいの?」
「まあいいんじゃない?気に入った?」
「うん」
「ではこれで」
「かしこまりました。刻印の印字はどうなさいますか?」
「じゃ、LOVE MAKOTO とかどう?」
と言って真珠を見る。
「うん。嬉しい」
「ではこれで」
と言って、邦生はあらためて用紙に LOVE MAKOTO と書いた。
「ちなみにマリッジリングも一緒にお選びになりませんか」
「さすがに一度には払いきれないから、また年末頃来ますよ」
「承知致しました。では年末頃またお待ちしております」
あはは。これで夏・冬のボーナスの行き先も決まったなと思う。
なお、在庫している指輪、在庫している石なので、刻印を入れて明日には受け取れるということである。それで明日2月14日の夕方、受け取りにくることにする。
「ではこの指輪にこの刻印でよろしいですか」
「はいそれでお願いします」
「決済はこのカードでよろしいですか」
「ええ。それで」
「お支払い回数は?」
「1回で」
と邦生が言ったので、真珠は「へー」という感じで感心していた。
ここまで話が済んだのが17時半頃であった。係の人がカードを端末に入れ、暗証番号の入力を求められるので打ち込んだ。すぐ決済されて伝票が出る。
「凄いバレンタインプレゼントだね」
と真珠。
「チョコレートも歓迎」
と邦生が言うと
「忘れてた!」
と真珠は言っている。
「今から買いに行こうよ」
「じゃ適当な所に移動するか」
そこまで話が済んだ所で、ケーキとコーヒーが出て来た!
「すみません。コロナの折、食べながら話してはいけないことになっておりますので。ここでゆっくりお召しあがりください」
と言って、スタッフさんは下がった。
「このケーキ美味しい」
「コーヒーも美味しい。ブルマンだね」
「くーにん、ブラックなの?」
「だってこんな美味しいコーヒーにミルクや砂糖は入れたくない」
「ぼくはブラックとか無理〜」
と言って、真珠は砂糖もミルクもたっぷり入れて飲んでいた。
ゆっくりとケーキ・コーヒーを味わって17:45頃、お店を出る。チョコを買いに道路向かい側の東急スクエア(旧KOHRINBO 109)に移動する。
※筆者は109というのは金沢のお店と思い込んでいたので、渋谷で109を見た時「へー。東京にも109ってあるのか」と思いました!香林坊109ではたくさん可愛いお洋服を買いました。
「でも一括払いで大丈夫だった?」
と真珠は心配そうに訊く。
「俺、11月12月は、食事も全部提供してもらって、忙しいから使う所もなかったし、10月から12月までの給料とギャラがほぼ丸ごと残ってたんだよ。それにボーナスももらったし。更に銀行で定期作らされたのもあるから、それを解約すれば3月の決済日には充分払える」
他にローンとかを抱えていない強みである(バイクのローンはもう完済している)。むろん邦生はいくらまでなら払えるか、きちんと計算していた。
「だったら、もっと高いのねだれば良かったかなあ」
「あまり無茶させないでくれ」
「でも嬉しいー。いつ結婚式あげる?」
「それは、まこの就職の予定とも絡むと思う」
「ぼく就職どうしよう?」
「何社くらい会社訪問した?」
「まだ全然」
「早い人はもう内々定くらい取ってない?」
「取ってる人いる。もう少し焦ったほうがいいかな」
「うん。少し焦るべき。まこの就職の状況が見えてから結婚式の日程は詰めようか」
「でもさあ。女子が就職してすぐ結婚式あげたら、凄くいやがられそうな気がする」
「といって、3年も4年も待ちたくないよ」
「うーん・・・」
と真珠は少し悩んでから言った。
「いっそ今すぐ結婚する?」
「今すぐなの〜〜?」
「くーにんが性転換手術受ける前に結婚しちゃう」
「そんな手術受けないって」
Timeline
1/27 青葉戻る。〒〒テレビで編集会議
1/28 イオンとW神社に行く。
1/29-30 S市の人形美術館に行く
1/29 邦生プールに行く
1/31-2/03 人形の退避
2/01 青葉がH銀行に融資申し込み
2/02 機関車の改造・運行実験
2/03 石崎部長がS市まで行き、人形展の契約
2/04 火牛パークオーブン/人形美術館の工事
2/05-06 人形はS高校で暫定展示
2/05-06 W神社に社内鉄道設置
2/07-10 人形を美術館に戻す
2/07-09 邦生は高山市で研修
2/10 落合翠:能登→熊谷
2/10 青葉・千里・真珠が人形美術館に行く
2/11 人形美術館再開
2/11 糸川穂美:小松→熊谷
2/11 夕方、編集会議。その後、千里が邦生を除霊
2/12 瑞穂が邦生のマンションに来る
2/13 糸川穂美:熊谷→小松
2/13 青葉逃亡!
2/13 邦生がエンゲージリングを買う
2/14 玉梨乙子が融資申込みに来る/指輪受取り/青山の結婚式
2/15 マーチを高岡に回送
2/16 青葉への融資承認
2/24 玉梨への融資承認
2/25 落合翠:熊谷→能登
2/26 津幡組:能登→熊谷
3/04 邦生・世梨奈:金沢→仙台
3/04 明恵:金沢→東京
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