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■春逃(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2022-10-08
 
1月28日(金)10:55.
 
真珠は1時間目と2時間目の間の休み時間のはずである。
 
邦生は情けない声で真珠に電話した。
 
「朝はみんな居たから言えなかったけど、これどうなってんの?」
「タックしただけだよ。残念ながらちんちんは切ってないからごめんね」
 
そういえば、中学の修学旅行の時、青葉が、呉羽の(当時はまだ存在していた!)男性器を上手に接着剤を使って隠してしまったな、というのを思い出した。
 
あれか!
 
(タック作業をする前に真珠は(セックスで疲れて)眠っている邦生に「ちんちん取ってあげるね」と言っているが、これを邦生は夢うつつで聞いていた:その後、白いドレス同士で並んで記念写真を撮られる夢を見た)
 
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「これどうすれば外れるの?」
「瞬間接着剤でくっつけちゃったから、永久にそのままだよ」
「それは困る。これじゃトイレにも行けないじゃん」
 
まさかずっと我慢してるのか?
 
「トイレはそのままできるよ」
「ほんとに?」
「便座に座って普通にすれば普通にできるはず」
「だったら、まだ何とかなるかな」
「くーにんは、小便器とか使わないから問題無いよね」
「まあ確かに使わないことは使わないけど」
 
このあたりの実態は峰代たち女子行員がバラしているので、今更隠そうとしても仕方ない。
 
「ちょっと見には、ちんちん無くて割れ目ちゃんあるように見えるから、そのまま女湯にも入れるよ」
「おっぱいないから無理〜」
「豊胸手術する?」
「そんなのしたくない」
 
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「まあ女子水着を着てもお股に変な盛り上がりが無いから、女の子だと思ってもらえるよ」
「それまた変な誤解を招く〜」
 
「みんな理解してるから大丈夫だよ。くーにん、女の子になりたいんでしょ?心配しなくても性転換しても結婚してあげるから。今日は性転換の予行練習ね」
 
(こういうこと言ってあげれば邦生が喜ぶだろうと思って真珠はわざと言っている)
 
「じゃ今日1日何とか頑張るから、今夜戻って来たら外してくれる?」
「明日そのまま津幡のプールに行っといでよ。女子水着買って」
 
「・・・それもいいかな」
「頑張ってね〜。プール行って来たら外してあげるよ」
「頼むよ」
 
邦生はこの電話の後、トイレに飛び込んで便座に座った。それで恐る恐る出すとちゃんとすることが出来たのでホッとした。ただ、おしっこが物凄く後ろの方から出るので驚いたし、出た所を拭くのに普段からすると相当手を伸ばす感じだった。
 
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青葉と中学・高校で一緒だった山田星衣良は大学も青葉や邦生と同じK大法学部に入った。青葉がマスコミ指向、邦生が金融機関指向だったのに対して、星衣良は法律家を目指していた。3年生の時に、司法試験予備試験の短答式(5月)に合格したが、論文式(7月)で落とされた。もし3年生で予備試験に合格すると、4年で司法試験に合格し“大学中退”で司法修習生になり弁護士などになるという法曹人として最高の名誉を得られた可能性もあったのだが、それはかなわなかった。
 
(司法修習が12月から始まるので、大学在学中に司法試験に合格した人は大学を中退することになる。だから法曹界で最高の経歴は“東大法学部中退”である。卒業した人は1回以上浪人したことになる)
 
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星衣良は4年生の時に再挑戦して論文式(7月)を美事クリア。口述式(11月)にも合格して司法試験の受験資格を得る。そして大学卒業後は、法科大学院には進学せずに予備校(大学1年の時からずっとここでも学んでいる。法律家を目指す人は事実上ダブルスクールする必要がある)のみで勉強。2020年5月、司法試験を受け、9月に合格通知をもらう。それで2020年12月から司法修習生になった。
 
(司法試験を受けてから司法修習が始まるまでの半年間は合格することを前提に法律予備校で物凄く濃密な勉強をする。何の準備もなく司法修習に入ったら、どんな天才でも僅か1年の間に膨大な知識を獲得し習熟することは不可能である。そもそも司法修習生になって最初にやらされる課題は、最低数ヶ月の勉強をしてないと絶対にできないシロモノである)
 
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星衣良は2021年11月に約1年間の修習を終えて“2回試験”を受けた。そして12月に合格通知をもらい、美事、法曹資格を獲得した。24歳での取得は充分優秀である(青葉・邦生を含め、元同級生から大量のお祝いをもらった)。法科大学院経由だと、法曹資格を取れるのは最短でも26歳になる年である。
 
そして星衣良は2022年1月から、金沢市内のHS法律事務所に入った。ここで当面は“イソ弁”(*1)として、弁護士活動を始める。
 

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(*1)弁護士にも様々な活動の仕方がある。
 
イソ弁:法律事務所に雇われて活動する弁護士。イソは居候(いそうろう)。給料がもらえる。ボス弁から仕事を回してもらえるし、助手を務めたりもしながら、弁護士の仕事の実務や事務所経営について学ぶ。これを何年か務めたら独立して自分の事務所を持つのが理想(友人弁護士、あるいは司法書士などと2-3人でマンションなどを借りて事務所を作る人も非常に多い)。
 
ノキ弁:大きな法律事務所の軒先を借りて活動する弁護士。給料は無く家賃を払う。おこぼれの仕事にあずかれる。イソ弁からノキ弁を経て独立する人もあるが、最近はイソ弁の口(くち)が見付からず、やむを得ず法曹資格取得後最初からノキ弁をする人もある。
 
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タク弁:自宅を事務所として使う弁護士。自宅外に事務所を構えるには資金が足りない場合にこれをする人もあるが、事務所専用に、生活空間を経ずに入れる部屋を最低1部屋確保する必要があり、ある程度広い家が必要。最近では法曹資格取得後、イソ弁の口もノキ弁の口もすぐには得られず、一時的に?タク弁になってしまう人もある。
 
スマ弁:事務所が無く、スマホだけで営業する弁護士。ほぼ信用が無い。スマホ以前は“ケー弁”(携帯電話弁護士)と言われていた。クライアントの家・事務所を訪問したり、ファミレスなどで会って相談を受ける。最近は法曹資格取得後、イソ弁にもノキ弁にもなれず、タク弁をするには家が狭くて困難で、スマ弁になってしまう人もあるらしい。
 
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1月29日(土)
 
(この日真珠は青葉たちと一緒にS市に行っている。戻ってくるのは31日昼)
 
邦生はその日、まずは金沢市内のスポーツ用品店に行くと、FINA認定“されてない”女性用競泳水着を買った。サイズが不確かだったので、お店のお姉さんに測ってもらった(お姉さんは邦生の性別に何の疑問も持たなかった!たぶん微乳女と思われた)。
 
そしてNinja1000に乗って津幡タウンまで行き、VIP駐車場に駐める。守衛室でidカードをタッチしてゲートを通りエレベータでプライベートプールに降りた。
 
男子更衣室に入ろうとしたら、ちょうど女子更衣室から月見里(やまなし)公子・夢子の姉妹が出てくる。
「あ、お久〜」
「お久〜」
と挨拶を交わす。
 
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「しばらく遭遇しなかったね」
「1年ちょっとぶりくらいかなあ」
 
2020年秋に“巨大熊”を追いかけていた時期、練習中の青葉に緊急連絡が入った場合に、報せる役として、何度かここに来た。その時以来である。
 

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「そちらはどう?」
と邦生は訊いた。
 
「去年の国体では(姉妹)ふたりとも決勝には進出したんだけど、メダルには手が届かなかった」
と公子。
 
「頑張ってるじゃん。今年はメダル狙おう」
「うん。そのつもり」
「じゃまた」
と言って、邦生が男子更衣室に入ろうとしたら
 
「こら、何やってる?」
と言われて、公子に掴まる。(ついでにお股に触られた!)
 
「酔ってる?そちらは男子更衣室だよ」
「だから男子更衣室に入る」
 
「聞いてるよ。くにちゃん性転換手術受けたんでしょ?だったらちゃんと女子更衣室使わなきゃ」
「そんな手術受けてないけど」
 
(でもさっきお股を触られて、お股に突起物が存在しないことを確認された!)
 
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「性転換手術は大学生の頃に済ませてたんだっけ?とにかくくにちゃんはこっち。男子更衣室は筒石さんだけだよ」
 
と言われて、邦生は女子更衣室に押し込まれた。
 

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中には誰も居ない。
 
まいっか、と思って邦生はそこで女子水着に着替えることにする。そもそも男子更衣室が出来る以前は、全員女子更衣室で着替えていた。だからここは過去に何度も使っている。
 
その時、女子更衣室内にちゃんと自分の名前が印刷された札の入っているロッカーがあることに気付き、腕を組んで悩んだ。
 
このロッカーいつからここにあるんだ!?
 
ちなみに邦生が「津幡においでよ」と青葉から誘われたのはつい一昨日、1月27日の夜である。その後、空きロッカーに自分の名札を入れたのだろうか?それとも以前からあったのだろうか。なお一昨年の秋に来た時は男子更衣室を使用して着替えはカゴに入れている。
 
ここに男子更衣室がてきたのは2020年4月でクマ騒動は2020年秋である。
 
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ともかくも邦生は着替えを自分の名前があるロッカーに入れた。
 
(実は女子更衣室の邦生用ロッカーは、2020年4月に男女の更衣室が分離された時からある!だから巨大熊事件の時、邦生は本当は女子更衣室を使っても良かった。邦生なら女子たちは誰も文句言わない。奥村春貴や桜池裕夢のロッカーも当然女子更衣室である。男子更衣室は、事実上、筒石の隔離用である。なお、現在、着替え用のカゴは感染拡大防止のため撤去されているので、ロッカーの無い人がここで着替えることはできない)
 

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更衣室を出てシャワーを浴びた上で中に入ると、1人(フォームから見て多分竹下リル)泳いでいて、南野さんが休憩中のようである。
 
「お久〜」
「お久〜」
と邦生は南野さんと挨拶を交わす。
 
「くにちゃんは第1レーンを使ってね」
「ありがとう」
「一応代表候補選手以外は原則第1レーン、そこが塞がってたら第0レーンということで」
「了解、了解」
 
邦生は日本選手権の参加資格記録をクリアしてないので、代表候補ではない。
 

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それで準備体操をしていたら
「でも、くにちゃん、かなり女らしくなったね」
と南野さんに言われた。
 
「そうかな?」
「腰の線とかすごく色っぽい。押し倒したい気分になる」
 
この子レズか??
 
「おっぱいまだ小さいみたいだけど、きっとすぐ大きくなるよ」
「あはは、ありがとう」
 
やはり、俺は性転換して女になったと思われているようだ、と邦生は思った。なんで俺、こんなに女っぽくなってきたのだろう。
 
邦生はそもそも雰囲気が女性的だし、女子水着姿に、(真珠にタックされたため股間の膨らみが存在しないので、当然性転換済みと思われていることを邦生は意識していない!
 
(これは千里に除霊してもらう前。この日は1/29, 除霊は2/11)
 
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この日は2時間泳ぎ、1時間採暖室で休憩して、再度2時間泳いだが、久々で気持ち良く泳げた。そして、女子水着を着けていると、確かに水の抵抗が少なく、随分泳ぎやすいのを感じた。筒石さんは多分この“速度感覚”に慣れるため、女子水着で練習しているのだろう。筒石さんの実力で女子水着で泳いだら多分日本記録を軽く突破する。
 
邦生があがる時、3人がまだ練習していた。竹下、金堂、南野の3人のようだった。みんな頑張るなあと思った。
 

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津幡“火牛タウン”開発の経緯
 
2019.09.16 青葉が究極の自爆営業で津幡のスポーツセンター跡地を7億円で買っちゃう。
2019.09.30 売買契約
2019.10.09 地鎮祭
2019.10.16 起工式
2019.11.06 プライベートプール&VIP駐車場竣工
2019.12.13 追加土地取得
2019.12.23 体育館竣工・ムーラン開店
2020.04.17 アクアゾーン&火牛ホテル限定開業。
2020.07.06 辺来の里神社鎮座
2020.09.02 テニスコート竣工・開業
2021.02.13 グラウンドゴルフ場竣工・開業
(以上で第1期開発終了)
2021.03.30 第2期開発用土地購入
 
運営主体
プライベートプール:グリーンリーフ(〒〒スイミングクラブに管理委託)
火牛アリーナ:SP
アクアゾーン・火牛ホテル:ムーランリゾート
ムーラン移動レストラン:ムーランダイニング
テニスコート・グラウンドゴルフ場:GP(町との共同運用)
 
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グリーンリーフは青葉の個人資産管理会社である。作曲印税などはここに入金される。一部の資産は投資顧問会社が運用している。
 
SP(C) = Summergirl Phoenix corporation 冬子と千里の共同出資会社。アリーナをライブ会場として使うため冬子が絡んでいる。
GP(C) = Green Phoenix corrporation 青葉と千里の共同運営会社
GMP = Green Moulin Phoenix : 青葉・若葉・千里の共同出資会社
 
なお、仙台の開発では下記のような共同出資会社を作っている。
CMP (Clair Moulin Phoenix) 和実・若葉・千里。クレール青葉通り店の建物所有者
SMP (Summergirl Mouline Phoenix) 冬子・若葉・千里。若林植物公園の所有者
 
津幡町のこの場所は“火牛アリーナ”あるいは“火牛タウン”と呼ばれている(大手のネット地図にも“火牛アリーナ”と書かれている)が、正式名称はエグセルシス・デファイユ津幡である。しかし青葉以外に、この名前を使う人はひとりもおらず、既に忘れられている。
 
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