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■春逃(11)
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常滑真音のパフェーマンスが終わった所でお昼御飯の置き配があったので、それを食べた。
「さて、少し練習するか」
各部屋は防音構造だから、楽器を鳴らしていいと言っていたなと思うが、念のためカーテンも閉めた。
もらった譜面を見る。
「え〜〜〜!?」
と思わず邦生は声をあげた。
「千里さんの嘘つき!お正月には無かった曲目があるじゃん!」
お正月とだいたい似た曲目なのだが、お正月の時には無かった『金目鯛』と『Atoll-愛の調べ』が入っているのである。
まずはこの曲を練習しなくちゃ!
どちらも邦生の担当はトロンボーンである。まずは譜読みしてから、譜面に沿って吹いてみる。
あ、何とかなりそう。
でもこれほんと今日の内に譜面確認しておいて良かったと思う。どちらも30分くらいで吹けるようになった。
その上で、全曲目、通して練習してみた。お正月にも演奏した曲については、アレンジは変更されていないようである。ただ2ヶ月ほど経過して結構細かい所の記憶が曖昧になっている部分もあった。
楽器はホルン・トロンボーン・チューバと持ち替える。今回はトランペットが入っていない。せっかく持って来てはいるが、まあ小さな楽器だからいいかと思った(車に積んだのは真珠だし!)。
時刻は16時頃だが、少し仮眠することにした。ベッドに潜り込み、目を瞑ると疲れが溜まっているので、自然に眠りに落ちて行った。
目が覚めると、外はもうすっかり暗くなっていた。夕食が置き配されていたので(置き配されたものがあると、入口のランプが点いている)、それを取り込んで食べる。テレビを点けると顔がよく分からない女の子3人がなんだかトークしているが、つまらない(売れないシスターズである!)
消して寝ようかと思ったら、アクアが登場する。
おっと思い、起き上がって見る。
彼(彼女?)は可愛いドレスで登場していた。ほんっとに可愛い。その上、歌もうまい。お嫁さんにしたいタレント・ランキングで、2年連続(2020,2021)圧倒的トップというのがよく分かる。最近はかなり色気も出て来ている。2〜3年以内に「お嫁さんに行きます」と宣言してもおかしくない感じだ。
千里さんはこの子は150度、思春期前の少年くらいの性別軸だと言ってたことを思い出す。だけど既に完全に女性化してるよなあと思って眺めていた。やはりアロマターゼが過剰になり女性ホルモン優位になっているのだろう。去年出た鏡迷宮の写真集でも人魚姫のコスプレとか、豊かなバストが確認できたし。それに小さい頃の病気でペニスは取っちゃったらしいし、これだけ可愛かったらお嫁さんになってもいいんじゃないのかなあ。ヴァギナくらい作ればいいし?
それでも、本人の意識としては男の子なのだろうか。
性別なんて気持ちの問題だもんね〜。外見が男に見えるか女に見えるかとか、ペニスがあるかどうか、おっぱいがあるかどうかなんて関係無いことだし。
ひょっとしたらこの子、自分の状態に近いのかもと思うと親近感が湧いた。まあ自分はペニスは取ってないけど。
だけど俺、この子みたいにバスト膨らんできたりしないよね?
と少し不安になった。
でも千里さんはこれ以上女性化することはないと言っていたから大丈夫かな?完全な男にするというのは、何かうまく言いくるめられてしてもらえなかったけど、自分が適度に?女っぽいのは、真珠の好みのようでもあるし!
アクアは後半では王子様っぽい衣裳に着替えて歌った。やはり“女の子アクア”に絶大な人気があるから女の子衣裳も着けるものの、本人としては自分は男の子と思っているから、男の子衣裳も着けたいんだろうな、と思うとまたまた親近感が湧いた。
ちなみに邦生の銀行の制服は、女性仕様のものを着ていることに気付いた後、長谷さんに言ってみたものの「別にどっちでもいいじゃん」と言われて、結局、女性仕様のものをそのまま着ている。邦生も本人としてはわりとどっちでもいい。スカートはさすがに拒否したいけど。
(なぜ2ヶ月も左前の服を着ていることに気付かなかったのかは、筆者も不思議である)
アクアのステージの後はまたぐっすりと眠り、3月6日(日)の朝5時半頃に目が覚めた。まだ日は昇ってないようだが、もう外は明るくなっている。
スウェットはそのまま着ててもいい気がしたので、下着だけ交換する。着ていたミニスリップ、ショーツ、タイツを脱いで、新しいショーツを穿き、ミニスリップを着けて、タイツも履いた。脱いだ服は少量だけど洗濯しておこうかなと思い、洗濯機に入れようとして、ギョッとする。
しまったぁ!
昨日の朝洗濯したものをまだ取り出してなかった!
慌てて取り出して、室内物干しに干した。ズボンが夕方までに乾いてくれますように、と祈る。そして着替えた服を洗濯機に入れて回した。
「練習しなくちゃ!」
と思った。
再度1曲1曲、譜面を確認するかのように吹いていく。吹きにくいように感じた所は特に練習する。
途中で朝食が置き配されていったので、練習を一休みして食べる。洗濯機は終わっているので、今朝洗ったものも一緒に干した。
午前中いっぱい練習して少し休む。お昼を食べてから、ベッドに横になり、ローズ+リリーのCDを聴いてイメージトレーニングをした。
テレビは音を消して映像だけ眺めている。KARIONが出ている。
「この蘭子って、ケイさんだよね?」
と思った、
念のため自分のパソコンで、“蘭子 ケイ”とGoogle Chromeのアドレスバーに打ち込むと、検索候補として“同一人物”という検索候補が出てくるので、やはりそのようだ。
しかしローズ+リリーとKARIONを掛け持ちでやって、毎年100曲くらいの楽曲を書き、それで§§ミュージックの会長もしてるって、どんだけタフなんだ?と思った。自分なら、自分が4〜5人いないと、とてもやっていけないと思う。
(邦生は2月21日に放送された『作曲家アルバム・丸山アイ編』を見てない!)
CDを聴いている内に、いつの間にか眠ってしまっていた。
目を覚ましたら16時だった(ちょうどオリーブ・レモンが終わった所!つまり邦生は明恵が出演しているのを見なかった)。
シャワーを浴びて身体を起こす。
身体を拭いてから、新しいショーツとミニスリップを着る。この時、何となく気分で、ブラジャー着けてみようかなという気がしたので、装着した。(きっと丸2日女物の服を着て、スカートまで穿いていた影響)
肩紐は最大に伸ばさないと自分の身体には合わないことを知っているので伸ばす。その上で両腕に肩紐を通し、後ろ手でホックを留める。ブラジャーなんて着けたのは久しぶりだったけど、ちゃんとできた。
ジーンズのパンツはまだ完全には乾いていない。あと1時間くらいで乾いてくれることを祈るしかない。
それで着替えた服はもう洗濯して乾かすことができないからと思い、レジ袋に放り込んでスポーツバッグに入れる(レジ袋に入っているものは洗濯すべき服という区分け:普段の出張とかの時の自己ルール)。
ショーツやミニスリップはもう乾いているので、そのまま丸くロール状にたたんでバッグに入れる。女物の下着って、スペース取らないのがいいよなと思った。
早めの夕食が置き配されてくるので、それを食べてから、気になる所だけ再度練習した。
17時すぎに、ドアベルが鳴る。
「クレールのスタッフの森本和絵です。楽器の移動をお手伝いします」
と言われる。
「ありがとう」
スカートタイプのスウェットを着たままだが、いいことにしてマスクをしてからドアを開けた。クレールのメイドさんなんだろうけど、ほんっとに可愛い服を着てるなあと思った。
彼女にチューバ・ホルン・トランペットを渡した。ホルンとトランペットの楽器ケースの持ち手は、ベルトを通して一緒に持てるようにしている。
「トロンボーンはもう少し練習したいから、後で自分で持っていくよ」
「了解です。お疲れ様です」
と言って、彼女は3つの楽器を持って行ってくれた。
出る準備をする。
楽譜・財布・名刺入れ、手帳の類い、スマホはトートに入れる。ライダースーツやフリースジャケットはパソコンと一緒にリュックに入れる。余った着替えはスポーツバッグに入れる。ジーンズのパンツは結局まだ完全には乾いていない!もう仕方ないのでスカートのまま行くことにした。どうせ衣裳に着替えるから、それまでの間だし。それでパンツはスウェットスーツの入っていたビニール袋に入れてから、スポーツバッグの中に入れた。
新しい2曲のトロンボーン・パートを再度練習してから、トロンボーンも楽器ケースに入れる。洗濯機の中を確認し、ベッドの上を確認し、そのほか忘れ物が無いか確認する。
17:25.
リュックを背負い、スポーツバッグを肩に袈裟懸けし、トートバッグとトロンボーンの楽器ケースを持ち、マスクをして部屋を出た。
(なお講習会の資料は真珠に渡している:真珠は資料が重いので放送局に置去りにした!)
それで出ることにする。邦生はスウェットの上下を着ているが、この方が衣裳に着替える時も脱ぎやすくていいはずである。
エレベータで地下2階まで降りる。昨日の朝教えられた通り、QRコードをかざしてドアを開け、織姫・牽牛への連絡通路に入る。邦生が入ると通路の灯りが点く。動く歩道で進んでいくので楽である。
結局、17:32頃に織姫に到着。ローズ+リリーの楽屋に入った。
「吉田さん、おはようございます」
と笑顔で白石マネージャーが言った。1月に初めて会って、そのあと2ヶ月ぶりなのに、よく顔見ただけで名前が出てくるなあと感心した。
「おはようございます、白石さん」
と邦生も挨拶を返した。
「まだローズ+リリーは来てませんが、伴奏者の方はこれに着替えて頂けますか」
と言って衣裳を渡されるので、控室内の着替えブースに入った。
やっとこれでスカートから逃れられる・・・と思ったのだが、衣裳もスカートである!!
ブースを出て、白石さんに尋ねる。
「あのぉ、ズボンの衣裳とかは無いんでしょうか?」
「あら、吉田さん、パンツ派ですか?結構そういう人も多いんですけどね。震災イベントでは、春っぽくスカートにしようということで、スターキッズの男性演奏者以外は、全員スカートにしたんですよ」
つまりズボンの衣裳は存在しない!?
まいっか。
それで邦生は「分かりました」と言ってブースに戻り、衣裳に着替えた。
春っぽい桜色のジャージ生地の上下で、胸には TOHOKU 2022 というロゴが入っていた。
なお、邦生がスカートの衣裳でホルンやトロンボーンを演奏している様子は『北陸霊界探訪』でも30秒ほども流されることになる!
ちなみに、男性用衣裳はもちろんあるので、邦生が「私男なんですけど」とか言えば、ちゃんともらえたはずである。もっとも男性用のズボンが邦生に穿けるとは思えない!(やはり女子衣裳を着るしか無かったかも?)お正月の時は寒いこともあり、女子用のズボン衣裳も存在した。
なお、男子にスカートを穿かせるのが大好きな某は、ヴァイオリニストの生方芳雄が来たら、何とかうまく乗せるか欺してスカートの衣裳を着せようと思っていたのだが、今回は生方さんは不参加で、計画は空振りとなった。
(生方さんと伊藤ソナタさんを予定していたが、どちらも他の仕事が入り、キャンセルになった。それで“身内”の鈴木真知子・愛弥子の姉妹を呼んだ)
邦生に関してはその某も普通に女子だと思い込んでいた。白石マネージャーも邦生を見てふつうに女性と思ったので、スカートの衣裳を渡した。だいたいここにスカート穿いて入ってきたし!!胸も膨らんでるし!(Bカップのブラをすれば普通に胸があるように見える)
ケイは「あれ〜、吉田さんがスカートを穿いてる」と思ったものの、やはりこの子、女の子になりたいのかなあ、くらいに思った(そういう人が関係者に多すぎる)。
邦生より少し遅れて久美子と世梨奈も楽屋に入ってきて衣裳に着替えたが、彼女たちは邦生がスカートを穿いていることに何も言及しなかった(もしスカート衣裳を着てたらその件は言わないようにしようと示し合わせていた!)。
千里さんが熊の顔のかぶりものを持っているので
「またミーシャですか?」
と尋ねた。
お正月のイベントでは千里さんは顔を出さずに「熊のミーシャ」を名乗って熊のかぶり物をして演奏したのである。何でもどこかから逃げてきた?とかでここに居るのが分かるとやばいからということらしかった。今回もまたどこかから逃げて来たのだろうか。
しかし千里さんは
「今回はくまのプーさん」
と言った。
「ミーシャはロシア国籍だから今回、日本のビザが取れなくて入国できなかったんだよ」
「はあ」
「ミーシャと顔が同じという気がします」
と久美子がツッコんでいた。(お客さんからも同様のツッコミ多数)
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