広告:放浪息子(2)-BEAM-COMIX-志村貴子
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■春逃(15)

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3月13日(日).
 
朝、彪志から電話がある。
「忙しそうだね」
「ごめんねー。近くまで来ているのに会いに行けなくて」
「こちらから会いに行ったらダメ?」
「うーん」
と言って、悩んでいたら、南田容子がメモを書いて渡す。
 
《息抜きも兼ねて、今日1日くらいデートしてこられません?編曲作業は矢島さん待ちですし》
と書かれている。
 
それもいいかなと思ったので
「じゃ。半日くらいだけ」
と答える。
 
「うん」
と彪志は嬉しそうに返事した。
 

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彪志は実際には空振り覚悟で、もう郷愁村まで来ていた。
 
青葉はホテル富士のツインの部屋を“昨夜と今夜”の2日間予約し、そこで彪志と会った。まずは愛の確認をするが、青葉は練習疲れで眠っちゃった!
 
彪志は仕方ないので、自分も仮眠しながら青葉が目覚めるのを待つ。
 
結局14時頃青葉は目を覚まし
「ごめーん」
と謝った。
 
「ほんとに忙しいみたい」
「ごめんねー。4月に日本選手権があって、6月にはブダペストまで行ってくるけど、その後は9月のアジア大会まで少し時間が取れると思うんだけどね」
「同時に作曲もたくさんしてるし」
「そうなんだよ!」
 
「でもバレンタインはありがとう」
「あれも連絡できなくてごめんね。アマゾンからチョコだけ贈っておいたけど」
「美味しかったよ」
「よかった」
「大半は京平君と早月ちゃんに食べられたけど」
「あはは」
 
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現在、浦和の家には京平と早月だけが居る。緩菜と由美はまだ高岡である。京平は現在年長さんで4月から小学校に入るのを楽しみにしている。早月は4月から幼稚園に行くのを楽しみにしている。ちょうど京平と入れ替わりになるので、幼稚園カバンは京平が使っていたのを使うとか言っていた。
 

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「で、これホワイトデー」
と言って彪志はホワイトチョコの包みを渡す。
 
「ありがとう!」
 
「でもここに来る時、凄い数のトラックとすれ違ったけど、§§ミュージックのホワイトデーのプレゼントの処理のトラックだったみたい」
 
「ああ、大変だよね。舞音ちゃん宛てが凄いだろうから」
「どうも、アクア宛が圧倒的みたいだよ」
「へ?」
 
青葉は少し考えたものの
「まいっか」
と思った。
 
まあFちゃんは喜んでいるだろうな。
 

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「ところでブタペストって、ルーマニアかどこかだっけ?」
「ブダペストね。ハンガリーだよ」
 
「・・・・」
「どったの?」
「ブタベスト?」
「ブダペスト。スペル見た方がいいよ」
と言って、青葉は紙に Budapest と書いてみせた。
 
「ああ、アルファベットで見ると分かる」
「実際はブダペシュトの方が本当の発音に近い」
「へー」
 
「ちなみにルーマニアというかロムニーアの首都は昔はブカレストと書かれていたけど、最近では現地音に沿ってブクレシュチと書かれることが多い」
「それは聞いたことある。あ、ブルガリアの首都は何だっけ」
「ソフィア」
「あ、そうか!
 

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3月13日(日).
 
金沢市近郊の大型商業施設で、20代の女が窃盗容疑で県警に逮捕された。
 
女は施設の駐車場で、車から降りた所で偶然目が合った警備員を見て反射的に逃げようとした。そんなことしなければ警備員も見過ごしていた所だが、逃げたので、警備員も追いかけて、拘束した。
 
(熊と遭遇したら、背中を向けて逃げてはいけない法則)
 
それで女が告白したのが車の“勝手乗り”である。
 
つまり女は大きな駐車場で鍵が差さったままでロックもされてない車に気付くと、その車を勝手に乗り回して20-30分運転したら元に戻すという“遊び”?をしていたというのである。ただ、ほんとに大きな駐車場だと、車が元はどこに駐めてあったか分からなくなることもあったし、また戻ってきた時には元の場所が塞がっていた場合も、適当な場所に駐めていたという。
 
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小さなスーパーだと持ち主がすぐ戻って来る可能性があるが、大きな商業施設、またパチンコ屋さんなどの駐車場だと、長時間戻って来ないことが多いので、そういう所を狙っていたらしい。
 
また都会のドライバーはきちんと車をロックする人が多いが、田舎のドライバーは無防備な人が多いので“石川ナンバー”の車を狙っていたということだった。
 
(石川県では、金沢市とその近隣の内灘町・津幡町・かほく市のみが金沢ナンバーで、その他の地域が石川ナンバーである)。
 
車の持ち主としては「車が勝手に移動したような気がするけど、きっと気のせい」と思い、自分が犯罪に遭ったこと自体を認識しないことが多い。
 
余罪はかなり多数にのぼると見て、警察は追及中ということであった。
 
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報道部がこの件を取り上げているのに気付き、幸花はすぐその商業施設まで行ってみたものの、もう夕方なので、この日の撮影は断念した。
 
翌日月曜日(3/14)、真珠と明恵を呼び出して(学校はもう春休みに入っている)、一緒に、女が捕まった商業施設に行き、『霊界探訪』としての取材をした。白山市に住んでいて、石川ナンバーの車に乗っている放送局員に協力してもらい、彼の車を真珠が運転して、一緒にそこに行った。
 
「ここも“車が勝手に動いた”というのの取材で来ましたね」
「本当に動いていた可能性もあるね」
 
再現ドラマを撮影する。
 
明恵が覆面!をした上で犯人役を演じ、助手席で真珠が撮影する(真珠のほうがカメラワークが上手いので)。幸花は駐車場所で撮影した。
 
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覆面姿の明恵が鍵が差さったままの石川ナンバーの車(放送時にはナンバーにモザイクを掛ける)を見付けると、おもむろに手袋をして、ドアが開くかどうか確かめる。ドアが開くと勝手に乗り込み車を出す。そして、しばらくドライブしてから戻ってくるが、元の場所がふさがっていたので適当な場所に駐めるシーン。元の場所が分からなくなって適当な場所に駐めるシーンを撮影した。
 
「これ組み込んで再編集しよう」
 

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それて夕方、初海と邦生まで呼び出して、臨時編集会議をする。更に千里が「これ使える?」と言って、青葉の等身大フィギュア!を持ち込んできたので、そのフィギュアを椅子に座らせ、初海にセリフを読ませて追加撮影を行った。
 
「金沢ドイルさん、腹話術で話してますね。唇が動かない」
「ドイルさんは色々な術を使われるようです」
「ドイルさんの声が初海ちゃんに似てる気がするのですが」
「気のせいです」
 
これを組み込んでの編集は、明恵・真珠・邦生に託されたが、20時頃、明恵が眠そうにしていたので、「あんたはもう帰りなさい」と言い、千里が“宿泊所”まで送っていった。
 
明日早番の幸花も21時には離脱する。それで最後は真珠と邦生の2人で編集作業をすることになった。幸花は編集室の鍵を真珠に渡し
 
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「悪いけど、あとよろしく」
と言った。
 
「大丈夫です。きちんと、やっておきます」
「帰りは自分で運転せずにタクシー使いなさいね」
「はいそうします」
 
「ちなみに、あんたたち2人で遅くまで作業してても、局内セックスは禁止だからね」
 
「さすがにそこまではしません」
「どこまでならするの?」
「企業秘密です」
 

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実際には、仕事で疲れている邦生は少し休んでて、いつも元気いっぱいの真珠があらかたの作業をして、邦生にチェックしてもらう形にした。
 
「なんで俺がローズ+リリーのライブで演奏しているシーンまで入ってるの?」
「気にしない気にしない。可愛いスカート姿でホルン吹いてる所映しただけだよ」
「スカートの衣裳渡されて衣裳はこれだけだと言われたから」
 
男子にまでスカート穿かせるわけないから“女性用はこれだけ”という意味だろうなと真珠は思った。
 
「そういえば、くーにんって喉仏無いよね。手術して削ったんだっけ?」
「手術はしてない。なんかいつの間にか消えたんだよなー」
「へー、そういうこともあるもんなんだ」
 
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性別軸がずれて“少年化”したせいだろうなと邦生は思った。
 
「喉仏無くても男の声は出るんだね」
「声の出し方は習慣だからな」
「くーにん、男の声も女の声も自由自在だもんね」
「最近そういう人増えてるよね」
 
しかしそれでこの日の内に放送用ビデオの改訂版は完成したのである。3月18日の放送の4日前。直前まで変更があるのは、いつものことである。
 
真珠と邦生の作業は0時前に完了し、2人は言われた通り、タクシーでマンションに帰った。
 

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この日、邦生はタクシーで放送局に来ていたので、Ninja1000はマンションに置いたままだったが真珠のGSX250F, 明恵のYZF-R25は放送局に置き去りになった。
 
真珠は幸花に鍵を返すのに、翌朝(3/15 Tue)、Ninja1000で放送局に行った。正確には、出勤する邦生を銀行まで送ってから放送局に行った。幸花はビデオをチェックして
「ありがとう。これで放送しよう」
と言う。
 
そしてそのまま石崎部長も来て、ビスクドール展の打合せをした。展示会の責任者・田代サブディレクターも加えて、人形の輸送・保安体制などについて確認した。この話し合いが遅くなったので、この日の夜、
 
「あんた疲れてる時にバイクは危ない」
と言われて、幸花が自分のMazda3 でマンションまで送ってくれた。
 
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そういう訳で、3/15夜=3/16朝の時点で、邦生のNinja1000, 真珠のGSX250F, 明恵のYZF-R25が3台とも放送局に来ていた。
 
(本当は真珠のは兄のバイク、明恵のは青葉のバイクだが、どちらも借りっぱなし)
 

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そして・・・
 
3月16日(水).
 
朝、邦生は出勤しようとして、1階まで降りてバイク駐輪場まで行ってからNinja1000が無いことに気付いた。
 
真珠に電話する。
 
「ごめーん。放送局に置いたままだった。朝早い内に取ってこないといけなかったね」
「仕方ない。じゃ歩いて行くよ」
「ぼくがスペーシアで送ってってあげるよ」
「そう?」
 
それで真珠は地下駐車場まで降り、邦生もそちらに行って、ピンクのスペーシアに乗り、銀行まで行った。
 
金沢市街地はもちろん路上に車を停めることは許されないので、取り敢えず銀行の職員駐車場に入れる。
 
それで「行ってきます」と言って、邦生が真珠にキスして降りたら、そこにちょうど、自分のインサイトで出勤してきた、同じ投資課の花畑竹馬係長と遭遇する。
 
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「おはようございます」
「おはようございます」
と挨拶を交わす。
 
「それ君の車?やはり女の子は可愛い車に乗るね」
と彼は笑顔で言った。
 

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幸花は千里に訊いた。
 
「青葉ちゃん、次はいつこちらに戻って来るんですかね」
「4月28日から5月1日までの日本選手権までは向こうに居ると思う。続いて、6月18-25日のハンガリーでの世界水泳ですね。代表合宿とかもあるかも。その後は9月のアジア大会まで少し時間が取れる」
 
と千里は青葉のスケジュールについて答えた。
 
「世界水泳の終わるの待ってたら、6月の放送が出来ない」
「どっかで強引に連れてくる必要があるよね」
「じゃ、ここ1〜2週間くらいの内には、ネタをまとめなければ」
 
「現時点でネタの候補は?」
「いくつか候補があるものの、雲を掴むような話が多くて。ひとつ白いセダンという話はあるんですけど。それこそ、ただの気のせいでは?と思うような話で」
 
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と言って幸花は説明し始めた。
 

その日、邦生はFXを試してみていた。近年かなり人気のある取引だというのはここまでに理解していた、FXの魅力はレバレッジ(*7)で、例えばレバレッジを25倍にすると、投資額の25倍まで取引ができるということである。
 
凄いじゃん、小さな資金でもそんな大きな取引ができるなんてと思う。
 
それで取り敢えず10万円だけお試しで投資してみる。すると25を掛けて、250万円の取引ができることになる。なんか、すごーい!
 
そこで、250万円をドルに変えてみた。この時の相場は121.52円だったので、これが 20,572.745ドルになった。今どんどん円安になっているから、少し円が安くなった所で売れば結構な利益が出るのではと思った。
 
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ところがその後、株の取引などをしていて、3日ほど経った時にFXのことをお思い出す。そしてそちらを見ると、ポジションが無くなっている!?そして、証拠金も半減している!?
 
なんで?と思って見ていたら“ロスカット”というものに遭ったことが分かる。
 
その日の為替相場は120円くらいだったのだが、昨日一時的に119.02円まで円高になっていた。すると、その途中 119.08円の時、立てているポジション20,572.745ドルは円に換算すると、2,449,802.474円となり、当初の投資額2,500,000円より、50,197.526円少ない。この損失が証拠金10万円の50%をわずかながら超えてしまったので、その瞬間、“ロスカット”が実行され、ポジションは消滅。その時点での損失額が証拠金から引かれてしまうのである。
 
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(*7) leverageとは「てこ(梃子)」という意味。小さな力が“てこ”により大きな力に変換できるように、僅かな資金で、大きな投資ができる。現在日本ではFXのレバレッジは25倍までに制限されているが、投資家の間にはもっと制限を緩めて大きなレバレッジを掛けられるようにして欲しいという声が強い。むろん、あまりに高いレバレッジを掛けるのは、なかば博打(ばくち)に近くなる。
 

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「なんで〜!?だって、その後、120円まで戻したのに〜!??」
と邦生は思わず口に出して文句を言ったものの、ダメである。
 
一瞬でも潜在的な損失が証拠金×(1−ロスカット率)(*8) を上回るとロスカットは有無を言わさず実行される(*9)。それ以上損失を拡大せず、投資者を守るための仕組みであるが、変動の大きな相場では、ロスカットはどうしても発生しやすい。
 
ロスカットは当然レバレッジが大きいほど起きやすい。このケース、例えばレバレッジが25倍ではなく20倍だったら、119.02円まで行っても、損失は41,145.513円に留まり、ロスカットは起きなかった。
 

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「でもまだ10万で良かったぁ」
 
と邦生は思った。これが200万とか投資していた場合、一瞬の変動で半額の100万円が消えてしまう。FXって恐いなあというのを実感するとともに、ロスカットという仕組みを5万円の勉強代を払って身をもって学んだことになる。
 
まあゲームだけど。
 
本気で5万すったら真珠に叱られるなあ、などと思った。
 
(そもそもFXのポジションを3日も放置していたのが根本的に問題なのだが、邦生はまだそのあたりを理解していない。FXはずっと相場に貼り付いていられない勤め人さんには向かない)
 
「でも10万円も入れずに4万円くらいで練習しておけば良かった」
 
などとも思ったが、先のことが分からないのが相場というものである。
 
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でも邦生は再度FXに挑戦。今度は相場によく気をつけておき、10万円の利益を得て「やった」と思った。結果的に最初の損失を充分取り戻した。でもFXって片手間にはできないと思った。
 

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(*8) この証券会社のロスカット率初期設定は50%。邦生はこれが変更できることに気付いてないが、マネーゲームを体験(?)している邦生の場合は、変更する必要無いと思う。ロスカット率を100%にしておけば、少しでも損失が出るとすぐロスカットされて、とっても安全ではあるが、マネーゲームとしては面白みが無いし「すぐロスカットされてどんどん資産が目減りしていく」ということにもなりかねない。
 
(*9) ロスカットが無かったら“追証(おいしょう)”という投資家にとって時には自殺に追い込まれるほど恐ろしいものが待っている。FXはこの追証を(めったなことでは)払わなくて済む分、安全なのである。
 
但し、FXでも追証は希に発生することもあるので、それを払える分の資産を別途持っておくことは必須。「卵をひとつのカゴに盛るな」の原則もあるし、自分の資産を全額FXの証拠金として入金するなどというのは絶対にしてはいけない。
 
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