広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■春逃(9)

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(C) Eriko Kawaguchi 2022-10-14
 
千里さんが邦生を乗せて走らせる Mazda CX-5 は、金沢から東へ、8号線を津幡バイパス、津幡北バイパス、くりからバイパスと走って行っていた。
 
邦生は千里さんに訊いた。
 
「そういえば、私スコアとかもらってないんですが」
「ああ。曲目はお正月の時と一緒だから大丈夫だよ」
 
(↑“この千里”は10人くらい?居る千里の中でも特にアバウトな千里である)
 
「ああ、同じですか。じゃ何とかなるかな」
「次どこかに停まった時に譜面渡すね」
「よろしくお願いします」
 
などと言っていたら福岡IC前の信号で停まったので、千里さんは助手席に置いたバッグの中から、そちらを見もせずに、さっとファイルを取り出し、邦生に渡した。
 
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「ありがとうございます」
「車内で見ると酔うから、向こうに着いてから見ればいいよ」
「そうします」
 
しかし千里さん、見もせず探りもせずに取り出したな。渡そうと思ってすぐ取り出せるようにしていたのかな。
 

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この福岡IC前の交差点というのは、直進すると福岡ICに入り(能越自動車道に乗るハメになる)そのまま8号線を進むには左折しなければならないという、まるでトラップのような交差点なのだが、むろん千里さんは間違わずに左折して先へ行く。
 
そして六家交差点を右折し、7-8分でイオンモール高岡に到着する。この六家からイオンモールまでの道は混雑しやすく、どうかすると30分以上掛かるのだが、今日はさすが夜だけあり、スムースに辿り着けた。
 
ちなみに、イオン金沢(金沢市北東部:旧・金沢サティ)とイオンタウン金沢(金沢市北部:通称“示野”)も紛らわしいが、イオン高岡(高岡市北部の万葉線沿線:旧ジャスコ高岡店)とイオンモール高岡(高岡市南部の新高岡駅そば)も紛らわしい。タクシーで伝える時やカーナビにセットする時は注意が必要である。
 
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このイオンモールで、日高久美子と田中世梨奈が待っていた。この2人を拾う。久美子はアルトサックス、世梨奈はフルートを持っていた。結局、邦生の楽器4つが最も場所を取る。
 
「くにちゃん、またよろしく〜」
などと久美子は言っていた。
「あれ〜?バイクスーツなの?」
と世梨奈。
「今日はバイクで金沢から富山市まで往復したから」
「それでまた富山方面って大変だね」
「まあいいけどね」
 
千里に頼まれて、世梨奈が全員のお弁当とおやつを買ってくれていた。それで車内でそれを食べて一息つく。正直、邦生は今日は富山で丸一日セミナーで頭が消耗し、それから金沢の〒〒テレビで会議をして、かなり精神的に消耗している。お弁当はあっという間に食べた。おやつのケーキも美味しかった。疲れている時は甘い物が効く。
 
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久美子が
「そうだ、くにちゃん。忙しくて着替えが準備できなかったと千里さんから聞いたから、適当なの買っといたよ」
 
と言って、その着替えを入れたスポーツバッグごと邦生に渡した。
 
(邦生はそれを千里がいつ連絡したのか疑問に思うべき:でも疲れてて何も考えていない)
 
中を開けてみると、その中にまたレジ袋2つに入った着替えが入っているようだ。トートバッグまで折りたたんで入っている。結構な量である。
 
「ありがとう。いくらかかった?」
「えっとね。。。」
と言ってレシートを見ている。
 
「下着は念のため4セット、それにスウェットの上下を2セット、それに着替えを入れる用のスポーツバッグ、それに何か使うかもと思ってトートで合計17,490円」
「けっこう掛かったね。ありがとう」
 
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と言って、邦生は彼女に2万円渡した。
 
「お釣りは手数料ということで」
「さんきゅ、さんきゅ」
 

それで出発する。
 
ここで席だが、邦生が助手席に移動して、久美子と世梨奈が後部座席に乗っている。
 
「じゃこれから仙台まで6時間くらいのドライブだけど、女4人だから気楽にしててね」
などと千里は言っている。
 
あの〜。俺の立場は?
 
でも久美子など
「ですよねー。男の子が居ないから、本音でおやつ食べられるし、着替えもできるし」
などと言っている。
 
あはは、まあいっか。
 
ともかくもそれで出発した。
 

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イオンモールを出て、南側にある県道58号(片側二車線の快走路)を通り、小杉ICから北陸自動車道・新潟方面に乗る。0時過ぎに名立谷浜SAでトイレ休憩する。4人とも車を降りてトイレに向かう、
 
邦生が他の3人と別れて男子トイレに入ろうとしたら、世梨奈に捕まる。
 
「あんた。何寝ぼけてるのよ。そっちは男トイレだよ」
と言われて、女子トイレに連行される。
 
(邦生はそろそろ諦めるべき?)
 
ここでトイレを出た後、おやつと飲み物を買って車に戻った。
 
「千里さん、運転代わりましょうか?」
と邦生は言ったのだが
 
「ううん。私は体力あるから平気。みんな寝てて」
というので、お任せすることにした。
 
それで邦生も眠ってしまったのだが、この後、千里の車は、新潟中央JCTから磐越道に入り、2時頃、阿賀野川SAで休憩する。今回は邦生も素直に最初から女子トイレに入った。
 
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「千里さん、さすがに無茶ですよ。私はぐっすり寝ましたから代わりますよ」
と邦生が言うので、千里も
「そう?じゃお願い。交替は安達太良SAで」
「了解です」
 
それで千里には助手席で休んでもらい、車は邦生の運転で磐越道を走り、郡山JCTで東北道に入る。そして4時頃、安達太良SAで休憩した。トイレに行った後、飲み物などを買って車に戻るが、ここでそのまま全員1時間ほど仮眠することにした。そして5時過ぎに、あらためてSAの施設に入り、閑散とした食堂で朝食を取った。
 
「まあこのくらい粗(そ)であれば、感染の危険は無いね」
などと千里さんは言っていた。
 

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そしてこの後は、千里の運転で、仙台南ICから仙台南道路に入り、長町ICで降りて、会場の若林植物公園に入った。
 
「お疲れ様〜」
 
千里が何かスマホで操作していた。(千里を含めて)4人各々のスマホにメールが着信する。
 
「今送ったメールに記載されているURLを開いたら、部屋の鍵が表示されるから」
 
「QRコードの鍵ですか」
「日々進歩してるなあ」
「物理的な鍵の受け渡しが必要無いからね。郷愁村の“さくら”もこれだよ」
「すごーい」
 
若林公園の宿舎は若葉が建てたものなので、同じシステムが導入されている。
 

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「会場を案内したいから、お疲れの所悪いけど、各部屋に荷物置いたら、B2まで降りて」
 
「地下2階ですか?」
「そこに連絡通路があるんだよ」
「へー」
 
3人とも5階だったので、一緒に5階まで上がる。邦生は楽器が多いのでチューバとトロンボーンを千里さんが持ってくれた。スマホに表示されたQRコードで鍵を開け、中に入ると荷物を置く。スマホだけを持って外に出る。ここで久美子が
 
「あ、スマホ、部屋の中に入れたまま」
 
などと言っている。千里さんがマスターキーのQRコードで開けてくれた。
 
「ごめんなさい」
「いいけど、みんな気をつけてね」
「私、普通のビジネスホテルでもこれやっちゃったことある」
と世梨奈が言っていた。
 
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「私が掴まらなかったら、クレールのオーナーの月山和実さんに連絡したら何とかなるから。彼女もこの2日間はこちらに居るから」
「わかりました」
 

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それで結局4人でエレベータを地下2階まで降りる。「→織姫・牽牛」と書かれている通路入口をまたQRコードをかざして開ける。中は真っ暗だったが、入ると自動的に灯りが点いた。動く歩道になっていて、これは楽だなと思った。
 
通路の出口の所で再度QRコードをかざしてドアを開ける。結構セキュリティが厳しいようである。織姫・牽牛のエントランスはこの通路と同じ高さにあった。つまり地面より低い所にこの体育館は建っているようだ。
 
「今の時間帯は私のidでしか入れない」
と言って、千里さんはどうも別のQRコードを表示させて織姫の玄関を開けたようである。そして邦生たちを中に入れた。
 
「広ーい」
「消防署に届けている定員は15000人。実際には12000人程度で運用することにしているけど、コロナが終わらないと、実際の客は入れられない」
「今年中には終息しますかね」
「微妙だね。来年の震災イベントでは本当に客を入れられるかも知れないけど」
「そうなるといいですね」
 
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「たくさんスクリーンが並んでいる」
「スクリーンは1万台あって、抽選で選ばれた1万人の観客とつながっている」
「スピーカーも置いてありますね」
「スピーカーは2万台あって、2万人の観客とつながっている。だからここのステージで演奏すると、本当に観客の声援の中で演奏することになるんだよ。手を振ってる姿も見えるし、逆に下手な演奏したら、がっかりしたような顔を見ることにもなるし」
 
「厳しいですね」
「でもそれでこちらも真剣勝負になる」
「スタジオライブとかも客の反応が無いからやりにくいと言いますもんね」
「このあけぼのテレビ方式は、やり方は公開してるし、真似していいと言ってるけど、真似する所は出ない」
「初期投資が凄まじいから、なかなかできないと思いますよ」
「まあ、このシステムを、織姫、深川、火牛、小浜の4ヶ所に設置するのに100億掛けてるからね〜」
「やはり他の所は真似できませんよ」
 
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うーん・・・。やはり先日融資を申し込まれた80億って、千里さんにはハシタ金なのでは?と邦生は思った。きっと、自分の長期出張で銀行に便宜を図ってもらったお礼なのだろう。
 

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「でもステージが前後にあるんですね」
「うん。交互に使って、他方を使っている間に消毒」
「徹底しているなあ」
「スクリーンとスピーカーは回転椅子に載ってるから、ステージが反転すると椅子も反転する」
 
「すごーい。ハイテク〜」
と久美子は言ったが
 
「ローテクだよ。このくらい小学生の工作レベル」
 
と千里さんが言うのに邦生も頷いた。回路や動作部分だけなら自分でもできると思う。ただ、1万台全てをエラーなく回転させるのは結構大変だという気がした。すると千里さんは邦生の心を読んだかのように
 
「たまに回転しない奴がいるから、市中見廻り役同心がチョチョイとつついて回転させる」
と言った。
 
「ああ、1万個もあったら、サボる奴いますよね」
「そうそう」
 
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そうか、結局見回りが大事なのか。
 
「椅子はお洋服を着てるんですね」
「人間が実際に座っているような音響にするためだね」
「なるほどー」
 
これは小鳩ホールの音響の作り方と同じだなと邦生は思った。
 

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「出番は明日の夕方だから、それまで寝てていいよ。食事は朝昼晩置き配されるし、おやつや飲み物が欲しかったら、地下1階に自販機もあるし、クレールに電話したら、やはり置き配してくれるから。雑貨とかの欲しいのもクレールに言ってね。調達してきてくれるから」
 
「分かりました」
「あと、宿舎は禁煙だから。たばこを吸うとスプリンクラーが作動して水浸しになるから」
「東北で冬に水浴びはしたくないなあ」
 
(クレールのメイドでやらかした子がおり「次やったら掃除代取るからね」と、和実に叱られたらしい)
 
タバコを吸う習慣のある子は居ないようで、これは問題無いようだった。
 
それで全員宿舎に戻って休んだ。
 

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