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■春化(16)

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レムニスカートが何度も出て来た件に付いて、占い師さんは「この形?」と言って、タロットの「魔術師」のカードと「力」のカードを見せてくれた。両者のカードに描かれた人物がかぶっている帽子が∞の形をしている。
 
「基本的に吉夢ですね。今あなたは出発点に立っているんですよ」
と占い師さんは言った。
「この力のカードは一般に女性がライオンと遊んでいる絵が描かれている。東洋の言葉で言うと虎穴に入らずんば虎児を得ずですね。ちょっと大変だけど、頑張ればいいことがあるということ」
 
占い師さんは「えき」で出た「か」というものを見て言った。「火山旅」という「か」らしい。
 
「あなた、お遍路に行きなさいよ」
「お遍路って、四国かどこかでしたっけ?」
「そうそう。四国に88ヶ所の霊場が定められている。あなたの夢の中に、レムニスカート(∞)が何度も出て来ていますね。∞は横にすると8でしょ。88ヶ所を象徴していたんですよ。料金も88万円だったし」
「ありそう」
 
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関ジャニ∞は「かんじゃに・えいと」だしなと早百合は思う。
 
「それに最後にお米をもらいましたよね。米という字は分解すると八十八になる」
「本当に四国に行けということみたいですね」
 
「できたら歩いて一周するといいです」
「歩くんですか!?何キロあるんです?」
「300里(り)というから1200kmかな」
「何日くらいかかります?」
「1日20km歩いたとして60日だけど、あなた若いからきっと50日かからないと思う」
「1日20kmというのも、結構きつい気がします、普通の人には」
「でもあなた陸上やってたと言いましたよね?」
「はい。長距離と十種競技」
「長距離ランナーなら40日くらいで歩けるかもね。まあ最近は車で回る人が多いけど」
 
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「それは歩かなければならない気がします。“力”のカードがそれを示唆してますよね?」
「私もそう思ったので言ったんですよ。ただ、歩きお遍路ってお金がかかるのよ」
「お寺の入場料とか?」
「入場料取るお寺は無いよ。お寺に納めるお賽銭は各々のお寺で本堂と大師堂で100円ずつ入れたとして17600円かな」
「そのくらいはいい気がします」
「それよりたとえば50日かかったとすると、宿代が1泊8000円としても40万円、食事代が1日4000円としても20万円」
「かかりますね!」
 

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「一度に負担できないと思ったら、毎年4分の1ずつやって、4年で満願を狙う手もある」
「4年なら、総額88万円かかったとしても、1年22万円だから何とかなりますね」
 
早百合は夢の最後に出て来た88万円というのは、多分お遍路に掛かる費用なのだと思った。やはり歩けということなのだろう。
 
「四国は4つの県だから1年に1県ずつやっていって完了というのがすっきりするかも」
「その方式、いい気がします」
「それが満願したらね、あなたの望みは叶うような気がしますよ」
 
88ヶ所回ったら「あなたは88万8888人目の満願者です。お祝いに性転換手術をプレゼントします」なんて言われたりして?
 
でも早百合はやってみようと思った。
 
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なお、健康診断は実際に病院に行ったら、夢で見たのとほとんど同じ手順で、レントゲンや心電図の技師さんの顔まで夢と同じで驚いたものの、婦人科検診は無かったので(どうも30歳以上の女性だけのもよう)、無事女として受診した健康診断書をゲット!それを職場に提出した、早百合は7月以降、(試用ではない)正規のバイトとしてファミレスに勤めることになった。
 
早百合は「ちんちんなんて付いてても付いてなくても、どうでもいいもんなんだなあ」と思った。
 
ちなみに健康診断はそもそも保険の適用外なので、保険証も提示しなかった!早百合はこの病院の、女性として登録した診察券もゲットしたが、病気などでここにかかる場合は、保険証の提示を求められるだろう。
 
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それで大学1年のその年は、4つの県の内、讃岐路(香川県)に行ってくることにした。これは4つの県の各々の距離を計算してみると、阿波徳島 190km, 土佐高知 420km 伊予愛媛 370km 讃岐香川 160km という計算になったので、まずはいちばん距離の短い讃岐路をすれば「4分の1終わった!」と思えるからである。それで夏までに溜めたバイト代を使い、歩きやすいと思われる秋に行ってくることにした(本当は溜めたバイト代でまずは去勢手術を受けようと思っていた)。
 
そしてその歩行に耐える体力をつけるため、早百合は、受験のために練習を中止した昨年10月以来、9ヶ月ぶりに毎朝のジョギングを再開した。大濠公園5周(10km) を自分に課したが、大濠公園まで2kmあるので毎日14km走ることになる。
 
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早百合は20歳になった所(2018.2.27)で母の承認を取って戸籍を分籍した上で、法的な名前を早矢人から早百合に変更してしまった。永年使用を理由にしたが、中学高校時代に友人たちが“早百合”宛にくれていた年賀状や、“芳野早百合”と名前が印刷されている英語劇のパンフレットなどがとても役に立った。
 
早百合は2007年(2007.1.1-12.31)のバイト収入が130万円を超えてしまったので、父の健康保険の被扶養者から外れて、国民健康保険に入ることになったので、この保険の独立の手続きをした後で、氏名変更の手続きを行い、芳野早百合名義の健康保険証も手にした。また銀行の名義も変更した。その後で、バイト代も現金渡しから銀行振込に変更してもらった。
 
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成人式の招待状はこの改名に間に合わなかったので、芳野早矢人名義で来てしまったが、羽都代(はつよ)姉の振袖を借りて成人式の会場まで行ったら、ちゃんと女子用の記念品(花柄のボールペン)をもらうことができた。更に「その振袖、加賀友禅ですよね?」と言われて、市の広報誌用の記念写真撮影にも参加することになり、その記念品(クレールのボールペン)まで頂いた。
 
早百合は5人の姉の中では年齢が近いこともあり、羽都代ともっとも仲が良い。小さい頃から自分が穿けなくなったスカートとか自分では穿いてないパンティとかを早百合にくれていた。振袖について羽都代は快く貸してくれたが、あとでどうもかなり高額のものだったようだと気づいて冷や汗を掻いた。
 
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「振袖って若い内は結構着る機会があるから、あんたも作ればいいのに」
 
と言われた。しかし早百合はお遍路のためにできるだけ資金をキープしておきたかったのである。
 
お遍路は、2年目に伊予、3年目に土佐を回り、4年目の2019年はいよいよ最後の阿波路を9月14日(土)から23日(祝)くらいの予定で行ってくることにした。昨年・一昨年と300km以上歩いている早百合だが、今年は距離こそ短いものの、最大の難所と言われる“一に焼山・二にお鶴”の焼山寺と鶴林寺が含まれている。早百合は「焼山はビバークすることになるかも」と考え、簡易野宿装備も持って行くことにした。
 

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その日、ケイナとマリナは、ローズクォーツのマネージャー・甲斐窓香から連絡を受けた。
 
「ローズクォーツのツアーを10月にしますのでお願いします。日程はメールしますので」
「はい。分かりました。よろしくお願いします」
 
それで送ってもらった日程表はこのようになっていた。全国9ヶ所である。
 
10/06(日) 札幌
10/09(水) 金沢
10/12(土) 東京
10/13(日) 名古屋
10/14(祝) 大阪
10/16(水) 徳島
10/19(土) 広島
10/20(日) 福岡
10/22(祝) 那覇
 
「ところで宿泊ですが、ダブルルームが良いですか?」
と窓香は尋ねた。
 
「いえ。私たちは別に恋人とかではないので、ツインでお願いします」
「あら、そうでした?おふたりが結婚したという噂を聞いたもので」
「どこからそんな噂が出るんです。そもそも私たち2人とも男だし」
 
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「それがマリナさんが性転換手術を受けて戸籍も女性に直したので、婚姻届けを提出したと」
「性転換とかしてません」
とマリナは言いながら、やや後ろめたさを感じた。
 

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窓香との電話を終えてからツイッターを検索してみたら
“ローザ+リリン結婚”
“マリナちゃんが花嫁に”
“ウェディングドレス同士の結婚式”
“8月にマリナがバンコクで性転換手術を受けたらしい”
“棒那市の痴漢に襲われてマリナちゃんは男性器を喪失したから、いっそのこと女になることにしたらしい”
 
などといった書き込みが大量に見つかったのでマリナは苦笑した。
 
“マリナ妊娠。ローザ+リリン休業へ。代理ボーカルは鈴鹿美里が再登板”
 
なんてのもあるし、
 
“鈴鹿美里の美里は昨年20歳の誕生日に性転換手術を受けて女の子に生まれ変わっていたらしい”
 
なんてのまで見つかる。美里は天然女子なんだけど!?
 
“鈴鹿美里”は双子の女声デュオだが、いつも主導的で“ボク”なんて自称も使う美里を男の娘、おしとやかな鈴鹿を女の子と思い込んでいるファンはわりと居る。鈴鹿は思春期以降女性ホルモンで男性化を抑えていたが中学3年の12月に特例で去勢手術を受けた。その内性転換手術も受けたいと言っているが、マリナの知る限りではまだ性転換手術は受けていないはずである。
 
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青葉(主人公である)は奥村春貴がなかなかお父さんに性別変更を認めてもらえずにいるのを心配して、有磯海クリニックの増田先生(婦人科)にお願いして、高岡市内の奥村家を訪問した。増田先生と青葉に春貴本人の3人でである。
 
春貴のお父さんは、病院の先生の訪問に驚いたものの、話を聞いてくれた。
 
「じゃ、こいつには卵巣や子宮もあるんですか?」
と父は驚いて言った。
 
「これはMRIの写真です。本来は御本人以外には見せないのですが、御本人からもお父さんに見せてあげてと言われましたので」
と言って、春貴の身体を透写したものを見せる。青葉は後ろを向いて自分の目には入らないようにした。
 
「この左右にあるのがが卵巣で、この付近が卵管、これが子宮、これが膣ですね。男性ならたとえ性転換手術をしたとしても残存するはずの前立腺などは見当たりません。ですから、春貴さんは完全な女性なんですよ」
と増田先生は説明する。
 
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「卵巣や子宮があるということは、もしかして子供も産めたりします?」
と父は尋ねる。
 
「男の人とそれなりのことをすれば妊娠して、出産に至るでしょうね」
と先生。
 

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「最近の性転換手術って、卵巣とかまで作れるようになったんですか?」
 
春貴のそういう傾向を知ってから、父なりに性転換手術についても調べたようである。それで性転換手術では生殖器を除去してしまうので、子供は作れなくなるというのも知ったのだろう。
 
「卵巣を作る技術はまだ無いですね」
「だったら、卵巣の移植手術をしたとか?」
「そんなことする病院は無いと思いますよ。卵巣の移植は実際に実施する計画をしている医師が外国に存在しますが、拒絶反応などの問題もあるので、妊娠する時に一時的に移植して、出産が終わったらすぐ撤去する予定だそうです。それもレシピエントは天然の女性です。男として生まれた人に卵巣や子宮たけ移植しても、妊娠を維持するのは脳下垂体なので、そのシステムを持っていない男性に妊娠維持は不可能だと思いますよ」
 
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「だったら息子は・・・」
 
「考えられるのは、お嬢さんは、元々女性であったのが、何らかの原因で男性のような外見で生まれて来てしまった。それが何かのきっかけで本来の形である女性の姿に戻ったのだと思います」
 
「つまりこいつは元々女だったということですか?」
 
「医学的にはそれしか考えられません」
と増田先生は言った。
 

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本当のことを言うと、これは千里の眷属《こうちゃん》の悪戯である。彼は天月西湖(今井葉月)の去勢手術を邪魔された腹いせに誰か“犠牲者”を探していて、ちょうど春貴を見つけたのである。
 
《こうちゃん》が昨年10月に春貴に施した内容は、陰茎と睾丸の除去、“ストックしていた”卵巣・卵管・子宮・膣の移植、陰嚢の陰唇への改造である。小陰唇も陰茎海綿体を利用して作成した。実は前立腺を除去したかったので、尿道も丸ごとストックしていた女性のものと交換している。
 
なお、他人の卵巣が入っているのは妊娠した時にまずいだろうということで、昨年の手術の時についでに脊髄から細胞を採取してIPS細胞を作り、これから春貴本人の遺伝子を持つ卵巣その他の女性器セットを1年間かけて育て、9月にインカレが終わった直後、本人が寝ている内に再手術して、全交換している。従って、この後春貴が妊娠した場合、それはちゃんと春貴本人の子供になる。現在は大陰唇・小陰唇も人工的に形成したものではなく“天然もの”(正確には“養殖もの”)である。
 
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1年間春貴の身体にあった女性器は再度“ストック”に戻された。
 

増田先生は言う。
 
「ですから、ちゃんと戸籍も女性に訂正したほうがいいですよ。そういう診断書を書きますので、それを裁判所に提出して、訂正をしてください。これは性転換手術を受けて性別を変更する人とは違う扱いなんですよ」
 
「こいつが女だったなんて・・・・」
 
「私も何度もそう説明したんですけど、お父ちゃん話を聞いてくれなくて」
と春貴は言っている。
 

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「じゃ、春貴(はるたか)に孫ができる可能性もあるんですかね」
と父は再度念を押す。
 
「あんたが春貴(はるき)の性別訂正を認めてあげないと、この子、法的に男のまま、子供を産まなきゃいけなくなるね」
などと母が援護射撃してくれる。
 
(春貴の名前は元々は「はるたか」だったが、本人は勝手に「はるき」と読むことにして、役所にも読み方変更の届けを出している。母はその改名?を認めてくれたが、父はこの日まではまだ「はるたか」と呼んでいた)
 
「男が子供産んだら、えらいこっちゃ」
「世界中に報道されたりして」
「それはやめてくれー」
 
「だったらこの子が法的に女の子になることを認めてあげなよ」
「仕方ないな」
 
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それで春貴の父は春貴の性別訂正に同意してくれたので、春貴は診断書を添えて弁護士さんにお願いして家庭裁判所に性別変更の申し立てをおこなった。実際に裁判所に出廷しての面談(これにも増田先生は出てくれて裁判官に説明してくれた)なども経て、春貴は12月には性別が女性に訂正された。ただちに性別の変更届けを大学に提出し、春貴は女子としてK大学を卒業することになった。
 
(4月からは女子大学院生になる)
 
 
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春化(16)

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