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■春化(6)

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理都はまだ半分身体を起こしただけだったのだが、女の人が理都の手を取って「怪我してない?」と言いながら起こしてくれた。
 
凄くしっかりした手だ。スポーツ選手かな?という気がした。
 
「はい、大丈夫です」
と理都は答えた。
 
膝を軽くすりむいているが、大したことはない。
 
「あ、膝をすりむいているね。消毒してあげるね」
と女の人は言い、除菌ウェットティッシュで叩くようにして拭いてくれた。
 
「叩くんですね」
「横に拭いたらダメだよ。ばい菌を広げちゃうし、皮膚をめくってしまうから」
「へー。看護婦さんか何か?」
「看護の勉強はしたことないけど、私は女山伏だから、応急処置とかは習っている」
「山伏さん!?凄いですね」
 
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「でも私を襲ってきた奴、どうなったのかな?」
と理都が疑問を口に出すと、幼稚園生くらいの女の子が言った。
 
「あの程度の魔神はお母ちゃんの敵じゃないよ。一瞬で消滅したね」
 
「ああ。京平が倒してくれたのね。なんか変な奴だと思ったけど、一瞬で破砕されたね」
と女の人は言った。
 
京平は、もしかしておかあちゃん、自分が倒したという自覚無いの〜?と思ったが、《きーちゃんさん》が『1番さんは今世界最強の霊能者』と言っていた意味が分かった。1番お母ちゃんは、霊的能力が暴走している!! これこのまま放置していていいんだろうか?でもボクには停められないし、などと思う。
 
「きょうへいさんって言うの?男の子っぽい名前ね」
と理都は言った。
 
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「ボク男の子だよ」
と京平が答える。
 
「嘘?なんでスカート穿いてるの?」
 
「スカート好きだから穿いてるだけ」
「女の子になりたいとか?」
「女の子にはなりたくないな。ボク男の子だもん」
「でもスカート好きなんだ?」
「うん。別に構わないよとお母ちゃんもママも言うし」
 
“お母ちゃん”と“ママ”の違いがよく分からないけど、理都は『そうだよね。男の子がスカート穿きたいと思っても構わないよね』と思って、少し気持ちが楽になった。もっとも私の場合は女の子になりたいんだけど。
 

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「君、どこに住んでいるの?もう暗いし、家まで送っていくよ」
と女の人は言った。
 
「ありがとうございます。でも自転車で来てるし」
「自転車は車に積んでいけばいいよ。どこに置いているの?」
 
それで女の人は男の子に神社の中で待つように言って(社務所に知り合いがいるのかなと思った)、理都を車に乗せ、まずは自転車を駐めていたコンビニまで行く。女の人は「駐車場代かわりに」と言ってコンビニでアイスを買い、理都に渡してくれた。
 
「いただきます」
と言って食べる。その間に女の人は車の後部座席を倒して、そこに自転車を載せた。ひとりで軽々と自転車を持ち上げるので「すごーい」と思った。
 

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「お名前、教えていただいていいですか?あ、私は理都です。理科(りか)の理に、都(みやこ)」
「私は千里。百の十倍の千(せん)に、里見浩太朗の里ね。私はプロバスケット選手なんだよ」
 
「すごーい。それで?」
 

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それで女の人は理都を助手席に乗せ、自宅前まで送ってくれた。
 
「理都ちゃん、スポーツか何かしてるの?」
「あ、はい。サッカーを」
「それでか。わりと筋肉あるよね」
「そうでしょうか。サボってばかりだけど。千里さんはやはり凄い練習しているんでしょうね」
 
「私は中学生の頃は全然筋肉無かったんだよ」
「そうなんですか?」
「女みたいに筋肉の無い奴だと言われてたね」
 
「女みたいって・・・女じゃなかったんですか?」
「ああ。私は中学生までは男の子だったんだよ」
「そうなんですか!?」
「でも高校1年の時に女の子になっちゃった」
「性転換したんですか!?」
「それがさあ。君は本当に男なのか?って言われて、病院で検査受けてくれと言われたから検査受けたら、君は女だと言われて」
「半陰陽?」
「私もよく分からないなあ。ただ自分としてはずっと女のつもりだったから、細かいことは気にしないことにした」
 
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ジョークなのか本当のことなのか、理都には判断がつかなかった。でも女のつもりでいるならそれでいいと言うのには賛同した。
 
「それいいですね」
「それで私は、女の子になってから、男に負けないくらい強くなろうと思ってとっても頑張って身体を鍛えたんだよ」
「へー」
 
「だから、私、夫よりバスケ強いよ」
「それは凄いです」
 

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「理都ちゃんも、男の子に負けないくらい身体を鍛えるといいね」
「どうやって身体を鍛えたんですか?やはり毎日何時間もバスケしてました?」
「バスケはせいぜい1日に2時間くらいだよ。でもたくさん歩いたよ」
「歩くんですか?」
「歩いたり走ったりするのが一番身体を鍛えられる。これは多くの人が言ってる」
「走ろうかな」
「うん。特に中学生の内は、そういう基礎体力を鍛えるのがいい。バスケで40分間コートを走り回る体力は、ひたすら歩いたり走った人だけが得られる」
 
「サッカーもひたすら走るスポーツなんですよ」
「そうそう。バスケとサッカーは似ている所があるね。野球やゴルフは瞬発力が問われるけど、バスケやサッカーは持久力が問われるスポーツ」
 
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「私も朝のジョギング頑張ろうかな」
「いいんじゃない?」
「今は月に1−2回くらいしかしてないんです」
「理都ちゃんもサッカー強くなりたいなら、毎日1kmでもいいからジョギングするといいかもね。週に1回10km走るより毎日1km走る方が鍛えられる」
 
「それはそんな気がします」
 

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「あとたくさん休むことだね」
「休むんですか?」
「筋肉はね。寝ている間に育つの。だから8時間連続で練習するより、2時間練習して2時間休むのを2回繰り返した人の方が育つ。休んでいる間は半分は仮眠でもした方がいい」
 
「それもそんな気がしてきました」
「まあ、頑張るといいね。何か困ったことあったら、いつでも連絡して」
と言って、千里さんは運転しながらバッグの中から名刺を出して理都に渡してくれた。見ずによくちゃんと取り出せるなと感心した。
 
「なんかエンブレムが格好良い!」
「ああ。それはよく言われる」
 

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自転車では30分以上掛かったのだが、自動車だとほんの10分程度で家に到着した。
 
「ありがとうございました!」
「女の子の夜道の一人歩きは危ないよ。できるだけお友達と一緒に行動した方がいいよ」
 
「気をつけます」
 
理都はよくよく御礼を言って別れた。
 

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理都が家に入っていくと、姉の月紗(つかさ)が
「あんた、そんな格好で出かけたの?」
と言う。
「ちょっと寒かったかも」
「いくら夏でもね〜。それにそんな格好で歩いていたら、あんた可愛いから痴漢に遭うよ」
「私を家まで乗せてくれた女の人からも言われた」
「ああ、誰かに送ってもらったのね」
「うん。私が暗くなってきた道を歩いてたから心配して乗せてくれた」
 
「それ女の人だからいいけど、男の人に送ってあげると言われても乗ったらダメだよ」
「うん。私もそこまで無防備じゃないよ」
 
「ちょうどお風呂入れたんだよ。先に入っていいよ」
「ありがとう。じゃもらうね」
 

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それで理都は自分の部屋に行き、着替えのショーツとブラジャー、女の子シャツに部屋着の上下(カットソーとスカート)を持ち、お風呂に入った。
 
いつものようにスカートを脱ぎ、Tシャツを脱ぐ。ブラジャーを外し、それから胸に貼り付けておいた粘着性のシリコンパッドを外す・・・
 
つもりが剥がれない?
 
え?
 
そしてしばらく考えている内に今日は、シリコンパッドはつけて行かなかった!ことを理都は思い出した。
 
最初つけて出ようとしたのだが、“痴漢さん”からブラジャー寄こせと言われて渡した場合、ブラジャー無しでシリコンパッドをつけていると、粘着性とはいえ、接着剤みたいな強いくっつき方ではないので、自転車に乗っている振動でパッドが落下すると思った。それでつけていくのをやめたのである。
 
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だったら、ここにある、このおっぱいのようなものは何?
 

理都はたっぷり3分くらい考えてから、
 
これはおっぱいだ!
 
という結論に達した。
 
何で私におっぱいがあるの〜〜〜!?
 
そしてふと思った。
 
まさか・・・・
 
パンティを脱いでみる。
 
おちんちんが無い!
 
なんで無いの〜〜〜〜〜!??
 

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脱衣室のドアがトントンされた。
 
「理都、まだお風呂入ってないんだっけ?」
と姉の声である。いつまでもボイラーの音がしないので、変に思ったのかも?
 
「あ、入る、入る」
と言って、理都は浴室とのドアを開けてそちらに移動した。
 

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取り敢えず全身にシャワーを掛ける。顔を洗う。おっぱい!を洗う。
 
そしてあそこにシャワーを当てて洗うがドキドキする。こんなの初めての体験だ。これ多分開いて中を洗わないといけないよね?
 
それで左手の指2本で開き、そこにシャワーを当ててよく洗った。
 

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お尻や足の裏なども洗ってから、浴槽に入り、身体を温めた。
 
何でこんな女の子みたいな身体になっているんだろう・・・と理都は湯船の中で考えていたが、やがてある結論に達する。
 
私、もしかして女の子になっちゃったのでは?
 
「女の子みたいな身体になっている」と考えるより「女の子になっている」
と考えた方がスッキリする。多分そうなのだろう。
 
なぜ女の子になったのかはよく分からないけど、取り敢えずこれ合宿に行くのに凄く助かる、と思った。
 
突然女の子になったのなら、突然男の子に戻る可能性もある気がした。でもこれ神様か何かが助けてくれたのかも?きっとこのまま合宿の間は女の子のままなんじゃないかなあ。
 
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楽天的な理都はそう考えて、なぜ女の子になってしまったのかとかについては、深く考えないことにした!
 

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湯船に5分くらいつかってから、髪を洗い、コンディショナーをかけている間に石鹸を手に付けて、顔、耳の裏、首、胸!と洗う。
 
いいなぁ、これだけ胸があるのいいなあと思った。さっきシャワーを掛けた時は、戸惑っていたけど、今度は大きな胸をたっぷり堪能しながら石鹸で洗った。
 
でも・・・これ今持ってるブラジャーじゃ入らないよ!新しいブラジャー買うのにお金足りるかなあ。でも取り敢えず1枚は買わなくては。
 
その後、脇を洗い腕を洗う。お腹の付近を洗ってから、ちょっとドキドキしながら、お股を洗う。嬉しい!こんなのが私のものだなんて。でも女の子の構造がよく分からない!あとでゆっくり研究してみよっと。
 
足を洗い、膝の裏、指の間などもよく洗ってから髪のコンディショナーを流す。再度身体全体にシャワーを当てて流してから、また浴槽に浸かる。
 
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理都は女の子だったらしてみたかったことを色々考えて、どんどん楽しい気分になってきた。
 
うん。ずっとこのままで居られるのかどうかは分からないけど、やはり女の子って様々な可能性があって、いいと思うなあ、と希望が湧いてくるし、自分の人生が明るいものとなったような気がした。
 
10分くらい浸かってからあがった。
 

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お風呂からあがり、姉に声を掛けてからトイレに行ってみる。
 
ちょっとドキドキしながら便器に座る。理都は物心ついて以降、立っておしっこをしたことは無い。最初ちゃんとできるかなと不安があったけど、おしっこする要領自体は、お股に余計な物がついてた時と同じ感じでできた。でも・・・
 
凄い!
 
これが女の子のおしっこをする感覚か!と感動した。
 
おしっこが出て行く感じが全く違うのである。
 
アレがついてた時は「出て行く」感じだったけど、女の子って「落ちていく」感じ。体内の容器から直接落下していく感じである。凄くスムーズに出るから、気持ちいい。
 
考えてみると、随分余計な経路を通って排出してたんだよなあと思う。男の子って大変ネ!女の子のこの出方が自然なんだよ。
 
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これ本当に素晴らしい!
 
と感激して、理都はおしっこを終えた。おしっこの後で拭くのは、これまでもしていたが、拭く場所が違うので、またそれで感動してしまった。今までは拭く時に、アレが動くのでやりにくかったけど、これは動かないから楽だ。ただ、拭かないといけない面積は広いな、と思ったが、これは大きな問題では無い。
 

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理都は感動の中、トイレを終えると自分の部屋に戻り、日記を開いてひとこと書いた。
 
2019年8月7日(くもり)。
 
今日、私は女の子になった!!
 
それだけ書くと、取り敢えず夏休みの宿題の数学をやる。3ページくらい進んだところで母から「りっちゃん、ごはーん」という声が掛かるので「はーい」と答えて居間に出ていった。
 

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