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■春化(7)

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里出満利(さといで・みつとし)は、物心ついた頃から、自分は女の子だと思っていた。男の子のパンツを穿くのが嫌で、ちんちんを出す所がない後ろ側を前にして穿いたりしていたし、バスタオルを腰に巻いてスカート穿いている気分になったりしていた。ひとりで留守番をしている時は、こっそり母のスカートを穿いたりしていた。
 
女性的な傾向は周囲の友人たちにはすぐ分かるので満利(みつとし)の名前を「まり」と読んでもらい「マリちゃん」と呼ばれて、半分は女の子みたいな扱いをしてもらっていた。小学2年生頃までは女の子たちとばかり遊んでいた。
 
小学5年生頃から自分の身体がどんどん男性化していくのに絶望に似た思いを抱いた。睾丸があるからいけないんだということを知ったのでハンマーで叩き潰そうとしたこともあったが、簡単には潰れない。体内に押し込んでおくといいし温めておくのもいいと聞いたので、体内に押し込んで落ちてこないように、お小遣いを貯めて買ったガードルで押さえておいた。更にホッカイロを入れて温めておいた。おかげで、他の男の子よりは男性的発達は遅いかもという気がした。
 
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女子の友人が制服を貸してくれて校内で着替えて記念写真を撮ったりした。凄く嬉しかった。女子トイレを使っている所を見られてしまったこともあるが「マリちゃんならいいよ」と言ってもらえた。
 
高校を出たら大学に行くという名目で東京に出て来て、一人暮らしを始めるが、勇気を出して女の子の服を買ってきて、それを着て1日過ごすようになった。もちろん大学にもその格好で行ったが、
 
「最近そういう子多いもんね」
などといってクラスメイトたちは受け入れてくれた。女子の友人がお化粧の仕方を指導してくれた。
 

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そんな時、棒那市に“ちんちんを取っていく”痴漢が出ているという噂を聞く。
 
これだ!と思った。
 
満利は初めて男物の服を買ってきて着る。長い髪も服の中に隠す。夕方痴漢が出没するという噂のある場所に行ってみたら、女の子がひとり歩いている。あまり近づくと自分が痴漢と誤解されると思い、その子とは少し距離を空けて付いていく。
 
前方の街灯の下に夏なのにコートを着た男が出現する。見ていると、いきなりコートの前を開ける。下は裸である。女の子が悲鳴をあげて、こちらに逃げてきた。こちらも男にみえるので一瞬たじろぐが、裸コート男よりはマシだと思ったのだろう。こちらに走って来た。満利は女の子を自分の後ろにやってかばうような位置に立った。
 
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満利は彼女に「私に任せて。君は逃げて」と言った。女の子は頷いて逃げていった。コート男が満利のそばまで来る。
 
「どけ。俺はあの女の子からパンティを取りたい」
「やめなよ、そんなの。パンティが欲しかったらお店で買ったら?」
「新品のパンティには興味無い」
「困った人だね」
 
「どかぬのなら、お前のちんちんを取るぞ」
「なんでそうなるのさ?」
「俺は可愛い女の子からはパンティを奪うが、見苦しい男からはちんちんを奪う」
「取れるもんなら取ってみたら?」
 
「ほんとに取るぞ」
と言って男は満利を押し倒してズボンを引きちぎった。
 
更にパンツまで破り取る。
 
まあ、乱暴ネ!と思っていたら、そのあと、満利のちんちんをギュッと握ると、グイって引き抜いた。満利は何もなくなったお股を見て「やった!」と思った。
 
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男は
「お前、よく見たら顔は可愛いじゃないか。今度は可愛いパンティ穿いてスカート穿いて来たら、パンティを奪ってやる」
などと言い、引き上げていった。
 
しかし満利は思った。
 
ズボンもパンツも破られて、私、どうやって帰ったらいいのよ!?
 

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満利はそうやって、まんまと男を廃業することができたのだが、お股に何も無いという状態は結構困る。
 
どっちみちトイレなどは女子トイレしか使っていなかったし、便器に座ってしていたから大きな問題はないのだが、まずオナニーできない!これまで満利は自分の大きなあれをクリトリスに見立てて指で押さえて回転運動を掛けてオナニーしていた。ところがお股に何もないから、それさえもできない。
 
満利は性欲が解消できなくて悶々としていた。
 
睾丸が無くなっても性欲って残るんたなあ、と新しい発見をした思いだった。
 
そしてお風呂に行けない!
 
満利はお風呂の無い安アパートに住んでいるので、お風呂は銭湯に行く必要があった。満利の容姿で銭湯に行き、男湯に入ろうとすると
「あんた、そっちは男湯、女湯はこっち」
などと言われるのだが、できるだけ低い声で
「ぼく男です」
と言うと、
「あら、てっきり女の子かと思った。ごめんねー」
と言われながらも入れてくれた。脱衣場で他の客がギョッとした感じでこちらを見るものの、満利が服を脱いで、男性器を露出させると、ホッとしたような空気が流れていた。
 
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しかし!
 
満利は男性器が無くなってしまったので、もう男湯には入れない。
 
しかしバストが無いので、女湯にも入れない。
 
お風呂どうしよう?と真剣に満利は悩んだ。
 

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青葉(主人公である)は、8月2-4日に東京でワールドカップに出た後、〒〒テレビの神谷内さんから緊急事態が起きたと言われて呼ばれ、千里(千里1)・瞬法と一緒に4日の夜中にアテンザで走って石川県X町にかけつけた。
 
事件は“霊力暴走中”の千里のおかげで、あっけなく解決したが、8月6日までその後処理に追われた。7日には一度大学に顔を出してから8日には鹿児島に移動。全国公水泳(8.10-11)に出場した。12日に高岡に戻ってきたが、その後、13-15日には、千里2と一緒にバイクで裏磐梯から浄土平を走って来た。15日の午前中、郡山JCTで千里と別れ高岡に戻る。その後は9月頭のインカレに向けて大学にも顔を出して毎日大学のプールや自宅近くの高岡プールなどで泳いでいた。
 
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その日は、水泳部の友人・杏梨・夏鈴・春貴、吉田君と5人でイオンタウン金沢示野に来ていた。
 
「性別がよく分からない集団だ」
と吉田君は言った。
 
法的な性別でいうと、青葉・杏里・夏鈴の3人が女で、吉田君と春貴の2人は男だが、遺伝子的には杏里と夏鈴の2人がXXで、青葉・春貴・吉田君はXYである。しかし見た目では、女装している春貴は女に見え、丸刈りでショートパンツを穿いている夏鈴は充分男にみえるので、一見女が3人(青葉・杏里・春貴)で男が2人(夏鈴・吉田)にも見える。
 
(夏鈴が丸刈りにしているのは別に男になりたい訳ではなく、水泳のスピードアップと練習後に髪を洗うのが面倒なためである)
 
「法律上も外見上も女が3人と男が2人」
などと杏里は言っている。
 
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「吉田も女装すれば全員女でも通るかもね」
と青葉は言っておいた。
 
「変な道に誘い込まないでくれ」
と吉田君は言う。
 
「吉田が女として就職するという話はどうなった?」
「男として就職するよ。既にH銀行の内々定ももらっているし」
「H銀行の女子制服、可愛いのに」
 
吉田は翌年まさか自分か本当にH銀行の女子制服を着ることになるとは思いもよらない。
 
「春貴はさっさと法的な性別を変更すればいいのに」
「お父ちゃんの説得に時間が掛かっているんだよ。卒業までには裁判所に申請したいんだけど」
 
春貴は昨年10月に“朝起きたら女になっていた”。しかしそんな話を信じない父は春貴が親にも言わずに勝手に性転換手術を受けたと思い込み、態度を硬化させているらしい。むろん春貴は20歳をすぎているので性別変更に父の同意は必要無い。しかしちゃんと父が納得してから変更しなさいと母は言っている。なお、水連の登録は病院の診断書の提出(更に水連側が指定した医師による精密検査)により、既に女子に変更済みで、今年はずっと女子として大会に出場している。大学の学籍簿は戸籍上の性別が変更されるまでは変更できない。それで卒業前には変更しておきたいのである。
 
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「私は性転換したことないから分からないけど、春貴さん、女に変わってから水泳に色々変化がありました?」
と夏鈴が尋ねる。
 
「やはり筋力が落ちたよ。これは睾丸が無いから仕方無い」
「ああ。やはり睾丸で筋肉が変わるんだ?」
「睾丸というより男性ホルモンだよね。だからIOCが、性別判定の基準を、遺伝子ではなく性ホルモンに変更したのは正しいと思う」
 
「XXでも睾丸がある人って、稀にあるみたいだもんね」
「というか、それで随分揉めてきたよね」
「睾丸まで無くても、副腎の病気とかで男性ホルモンの多い女子は多い」
「それはもっと揉めている」
 
「あと、女の子の身体は凄く浮きやすい。脂肪が増えたからだと思う」
「うん。女の身体は浮きやすい」
と夏鈴も言っている。もっとも夏鈴は厳しく身体を鍛え上げているので、女性にしては、かなり脂肪が少ない。夏鈴の体格は千里姉に似ているよなと青葉は思っていた。
 
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「脂肪って、浮きみたいなもんなんだよね。特におっぱいなんて凄い浮き」
「ああ。私も、おっぱい邪魔だなと思う。さすがに切除するつもりまではないけど」
と夏鈴。
 
「そんなに浮くの?」
と吉田君が言うので
 
「吉田もちょっとおっぱい作ってみる?」
と言うと
「男湯に入る時に困るからいい」
と吉田君は言った。
 
(この5人の中で、おっぱいが無いのは吉田君だけで、男湯に入るのも彼だけ)
 

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5人はサイゼリヤで2時間ほどおしゃべりした後、ヴィレッジヴァンガードとGUを覗いてから、ダイソーで適当なものを物色し、それからマックスバリュで食料を買い込んだ。
 
それで駐車場に駐めている青葉のアクアまで行こうとしていたのだが、何だか悩んだ顔をしながら、ずっと車を色々眺めている感じの女性がいる。
 
最初青葉たちは、車上狙いか何かではないよね?と思った。
 
杏里(このメンツの中では外見も法律上も遺伝子上も女なのは彼女だけ)がその女性に声を掛けた。
 
「何かお探しですか?」
「あ、いえ。実は自分の車をどこに駐めたか分からなくなってしまって」
と女性は言った。
 
「ああ」
「ここ、駐車場が広いもんね」
 
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ここは1500台駐車が可能である。日中はその7-8割が埋まっているので、分からなくなると辛い。
 
「実は能登方面から昨夜走って来て、そのままここで車中泊したんですが、ぼーっとした状態で降りて買い物していたら、分からなくなっちゃって」
 
「ああ、寝起きの時は危ない」
「普段なら車を降りる時に、建物のどの付近の前かって見ておくんだけどね」
 

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「こういうの探すの、川上得意じゃない?」
と吉田君が言った。
 
「まあ探せると思うよ。車種は何ですか?」
と尋ねる。本当は車種までは知らなくても探せるが一応訊いておく。
 
「本当ですか?助かります。車種は白いプリウスです」
 
「ああ、石を投げれば当たるプリウスか」
などと杏里。
「特に白いプリウスは多そうだ」
と春貴。
 
青葉はその女性の“波動”を確認する。ここでこの女性が実は男だということに気づいたが、性別など些細なことなので気にしない。
 
それから(余計なインプットを除外するため)目を瞑り、自分の感覚を気球を膨らせませるかのようにどんどん広げていき、女性の波動が残存する車を探す。
 
「あった」
と青葉は言った。それで自分たちの荷物を青葉のアクアに載せてクーラーを掛けるために車を始動しアイドリングさせてから、青葉が感じ取った場所へみんなで歩いて行く。
 
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「ああ、それだ!」
と女性は嬉しそうに言った。
 

「よかったですね」
「助かりました」
と言って女性はリモコンで車をアンロックし、荷物を中に置いた。
 
青葉たちは女性が自分の鍵で車をアンロックしたことで、この車が確かに女性のものであることを確認できた。
 
「でも凄いですね。どうして分かるんですか?」
と女性は訊く。
 
「この子、金沢ドイルっていって霊能者なんですよ」
「わっ、金沢ドイルさんでしたか!」
 
石川県在住者の間では金沢ドイルは有名人だ。
 
「でもてっきりもっと年上の方かと思っていました」
「ああ、金沢ドイルって40代と思っている人は多い」
「でもまだ20代ですよね。27-28歳かな?お若い方だったんですね」
と女性が言ったのは、もう気にしない!ことにしたが、杏里や夏鈴は笑っていた。
 
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「でも金沢ドイルさんなら、ちょっとご相談できません?鑑定料は払いますので」
「えっと今とても多忙なこともあって、鑑定依頼とかは全部お断りしているのですが」
 
「多分30分で終わると思うので」
「だったら話だけでも聞きましょうか」
 
それで杏里たち4人はサーティーワンに行ってくることにし、青葉はその女性と2人で手近なカレー屋さんに入った。
 

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