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■春化(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-05-16
 
古庄夏樹(こしょうなつき)は1982年6月22日2:14に千葉県佐原市(現・香取市)に生まれた。この日は夏至であったことから、夏樹と名付けられる。実際には夏至は2:23なので、その直前の生まれであり(夏至から蟹座が始まるのだが)、彼はギリギリ双子座の生まれである。彼の出生チャートを見るとほとんどの惑星が地面より下にあり、内向的な性格であることが想像できる。アセンダントは美と芸術と愛の星・金星である。
 
美の星に愛されているせいか可愛い子供で、物心ついた頃からよく女の子と間違われていた。母親はけっこう悪ノリして、彼によくスカートを穿かせて連れ回していた。本人も幼稚園の頃まではごく普通にスカートを穿いていた。
 
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双子座らしい社交性で友だちは多かったが、友だちの大半が女の子だった。そもそも彼を女の子と思い込んでいる友人も結構いた。通っていたヤマハのピアノ教室でも、ほぼ女の子で通っていて、教室ではちゃっかり女子トイレを使用していた。
 
そういう子にありがちなことで、思春期を迎えると女子の友人たちが離れていく。結果的に彼は孤独な中高生時代を送ることになる。大学に進学するのに千葉市に出て来て、名前が曖昧なのをいいことに女子の振りをして大学には通った。男の子からデートを申し込まれて何度か応じたことはあるが、無論セックスは断っている。でもバージンを大事にしたいのだろうと思ってもらえた。
 
就職する時は随分悩んだのだが、就職するには健康診断書も提出しなければならないので、やむを得ず伸ばしていた長い髪も切って、男子として千葉市内の食品メーカーに就職した。この会社で彼の直属の上司となったのが、紫尾真栗(しお・まぐり)で、季里子の父である。
 
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ちなみに夏樹は就職前から配属予定の部署の責任者として紫尾真栗とメールでやりとりをしていたが、真栗を「まり」と誤読して、てっきり女性と思っていたので、入社当日本人を見てびっくりした!そして実は真栗の方も夏樹のことをてっきり女性と思っていたらしい。
 
「古庄君、何なら一緒に性転換する?」
「ああ性転換いいですね。一緒にプーケットまで行きましょう」
 
などという冗談(?)を交わしていた。
 
ちなみに真栗という名前は画家のルネ・マグリッドから取られたものである。彼は1960.11.21生で、マグリットと誕生日が同じなのである。それでデ・キリコと同じ誕生日(7.10)の娘に季里子という名前をつけた。
 

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この会社で夏樹はよく働き、真栗の信頼を得る。彼がなかなか結婚しないし恋人もいないようなので、真栗は心配して何度か縁談を持って来たことがあるものの、彼は見合いはするが毎回話を断っていた。それで夏樹はとうとう真栗に打ち明けた。
 
「申し訳ないです。ぼくは女性を愛せないのですよ」
「男の人が好きなの?」
「恋愛自体にあまり関心がないかも」
「そうか。御免ね。見合いとかさせちゃって」
 
夏樹が就職して4年後の2008年、真栗は仙台支店に転勤になった。夏樹は後任の課長とそりが合わなかった。そりが合わないというより、課長は彼に「男」を強制した。紫尾真栗は男女差別の無い人で、夏樹は仕事しやすかったのだが、後任の部長は、女には仕事をさせる価値が無いみたいな考えの人で、男の社員には、男であることを強制し、更には女を差別するように強要した。それで居心地が悪いので、夏樹は半年で退職することになる。その話を聞いて真栗はとても残念がっていた。
 
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夏樹は千葉市内の楽器販売店に転職した。ここは芸術家っぽい人が多く、性別についても緩い感じだった。そもそも仕事の上で男女の差が全く無い。役員や管理職の数も男女ほぼ同数だった。開発部門や教育部門(音楽教室を運営している)では、みんな自由な服装で勤務しているので、男性でも長髪だったり、真っ赤なシャツを着て勤務している人などもいた。もっとも夏樹が配属されたのは事務部門なので、ここは男性はみんな背広スーツを着て仕事をしていた。それで夏樹もスーツを着ていたが、ここならその内トランスしても許されるかも、という期待を抱いた。
 

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2012年になって、夏樹は真栗から連絡を受けた。
 
「千葉に戻ってこられたんですか!」
「今年の初めにこちらの販売部長になった」
「わあ、栄転おめでとうございます」
 
それで真栗から相談されたのが、彼の娘の季里子と結婚してくれないかという話だったのである。
 
「申し訳無いです。ぼくは以前にも言ったように女性は愛せないのです」
「そこを承知で、実は娘に精子を提供してもらえないかという相談なんだよ」
 
それで真栗は説明したが、内容に驚く。彼の長男は性転換して女になってしまった。次男は戸籍上女性である人と結婚したが、その人はFTMで事実上男だった。そして末娘の季里子は女性(桃香)と結婚していた。それを孫の顔を見たいと言って季里子をその女性と強引に別れさせたということを説明した。
 
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「お言葉ですが、親の都合で無理矢理、娘さんを恋人と別れさせるというのには賛同できません」
 
「うん。それは分かっているけど、どうしても私は孫の顔が見たかったんだよ。それで娘はレスビアンだから、男性と愛しあうことはできない。だからこそ、この役割には、女性を愛せない古庄君が最適任のような気がしたんだ」
 
と真栗は説明した。
 
「だから娘と寝てくれなくてもいい。人工授精でいいから、娘の子供の父親になってくれないだろうか?それで子供が生まれたら離婚していいし、養育費とかも要求しない。AID(Artificial Insemination by Donor ドナーの精子による人工受精)のようなものと思ってほしい。君の戸籍を汚すことになる代償として、5000万円用意した」
 
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夏樹は1分ほど考えた上で返事をした。
 
「紫尾さんのお気持ちは分かりました。お嬢さんと一度2人だけで会わせてください。それで彼女がぼくを気に入ってくれたら結婚してもいいです。でも5000万円は辞退します。それはお孫さんの養育費に当ててください」
 

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それで夏樹は見合いの場所として指定された場所に女装!で出かけていったのである。男なんかとは会わないと父親に反発して言っていた季里子も女装の夏樹には関心を持った。
 
夏樹は説明した。自分はお父さんの元部下で、お父さんに義理があること。自分は実はトランスジェンダーで将来女性になりたいと思っていて、恋愛対象も男性だから、自身が女性と結婚する意志はないこと。だから結婚したとしても、同衾は求めないし、したくもないこと。でも精子は提供できるので、季里子さんが自分を受け入れてくれるなら、あなたが産む子供の遺伝子上の父親になるのはやぶさかではないということ。
 
それで「絶対に一緒に寝ないし、男性器を絶対に自分には見せない」という条件で、季里子は夏樹と結婚したのである。結婚式はせずに、記念写真を撮って双方の両親・きょうだいとともに食事会をしただけである。夏樹の両親は女になるつもりかと思っていた息子が女性と結婚するというので驚いたものの歓迎してくれた。
 
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記念写真は夏樹がタキシードを着たものを食事会出席者全員に配ったが、実は夏樹も後でウェディングドレスに着替えて、ウェディングドレス同士で並んだ記念写真も撮って、夏樹と季里子だけがその写真データを保有している。
 
ふたりは結婚するとすぐに人工授精をした。それで 2013.06.03 に長女・来紗(らいさ)が産まれる。続いて2度目の人工授精をしたが、妊娠が安定した2013年12月、ふたりは円満離婚した。季里子は 2014.08.10 に次女・伊鈴(いすず)を産んだ。季里子は結局桃香とよりを戻して、桃香から再度結婚指輪を受けとったらしい。
 

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2019年8月、その伊鈴が5歳の誕生日を迎えたのを機会に、夏樹は自分のトランスを進めようと思った。夏樹は大学生時代に足や顔のむだ毛はレーザー脱毛してしまっている。就職してから最初のボーナスを使って去勢してしまっていた。実は去勢前に念のため精子の冷凍を作っていたのを病院に提供して季里子の人工授精はおこなわれている。このことは季里子も知らない。喉仏も去勢した翌年のボーナスで削ってしまった。また夏樹は去勢した後はずっと女性ホルモンを飲んでいた。それでおっぱいも膨らんでいるのだが、Aカップ程度しか無いので、結婚している最中、季里子は夏樹におっぱいがあることに気づかなかった。
 
それで夏樹はいよいよ性転換手術を受けることにして、バンコクの病院に手術の予約を入れた。手術は(2019年)12月にしてもらえることになった。夏樹としても40歳になる前に女になって人生の後半は女として送りたいという気持ちが強かった。
 
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母親にそのことを打ち明けたら、母は覚悟していたように言った。
 
「あんたはそうなっちゃう気がしたよ。私が唆した部分もあるけどね」
「おかあちゃんのせいじゃないよ。ぼく自身、そういう性格だったんだよ」
「・・・」
「どうしたの?」
「あんた、女の子になるのなら、“ぼく”じゃなくて“私”って言いなよ」
「努力する!」
 
母からはちゃんと父親にも言うように言われたので、夏樹は実家に行き、父親と話した。父親は残念そうだったが、孫も作ってくれたしと言って容認してくれた。
 

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「だったらお前、お遍路に行ってこい」
と父は言った。
 
「お遍路?」
 
「結局俺の息子の夏樹は死んで、代わりに娘の夏樹が生まれるようなものだろう?だったら息子の菩提を弔うのにお遍路してきてはどうかと思うんだよ」
 
「いいよ。やってこようかな」
 
夏樹は12月に手術を受ける時に有休を最大限使いたかったのであまり休みたくなかったのだが、後のことは後で考える(性格なので)ことにして、9月の連休(9.21-23)にぶつけて行って来ようと考えた。
 
計画では、9月20日(金)の晩、仕事が終わった後でバイク(Yamaha YZF-R3 320cc)で一晩かけて千葉から徳島まで(約700km 夏樹的所要時間=10時間)走り、バイクで徳島から順打ち(時計回り)で八十八箇所を21日(土)から29日(日)まで9日間かけて回る。そして日曜の晩にまた一晩かけて千葉まで走り、30日(月)は、ちゃんと会社に出社するというものである。すると23日(月)が秋分の日の祝日、更に実は9月27日が会社の創立記念日でお休みなので、有休は24(火)-26(木)の3日間だけ取ればよい。
 
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それで上司にお願いし許可をもらったので、その日程で行ってくることにした。
 

理都は(2019年)8月7日の夕方、「“痴漢”さん出ないかなあ」と思いながら、コンビニの所から歩き始め、神社の方にむかっていたのだが、やがて神社の入口まであと50mくらいの所で、向こうの方の街灯の下にコートを着て、サングラスに帽子までかぶった男が立っているのに気づいた。
 
あの人かな?と思ってワクワクする。私のちんちん取ってくれますように、と思いながら近づいて行くと、理都が男の4-5m前くらいまで来たとき、男は突然コートの前をはだけた。
 
裸である!
 
「キャー!」
と思わず理都は声をあげてしまった。
 
何でこの人、裸なの?などと思って頭の中が混乱する。女の子からはパンティを取るらしいとは聞いていたが、裸を見せるなんて話は聞いていなかった!
 
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男が近づいてくる。理都は急に恐くなって逃げ出してしまう。
 
「あぁん。私のちんちん取って欲しいのに。逃げたらダメじゃん>私」と思うものの、変なことされそうで恐くなったのである。
 
あまり距離が無かったのですぐ追いつかれると思ったのだが、そうでもない。この男、足が遅い?などとチラッと考えた(本当は理都が速すぎる)。
 
それでチラッと後ろを振り向くと突然男の背丈が3mくらいに伸びた。
 
嘘?何これ?
 
と思ったら男の足が速くなる。コンパスが長くなった分スピードアップしたのだろう。それで追いつかれそう!と思ってスピードアップしようとしてた時、ちょうど落ちていた空き缶に躓き、理都は転んでしまった。
 
空き缶の投げ捨て反対!
 
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と思った時、理都のそばに車が走ってきて停まる。中から24-25歳くらいの女の人が飛び出してくる。
 
理都は起き上がりながら、後ろを見た。
 
女の人が理都を守るように男に向かって立った次の瞬間。
 
痴漢の男がはじけるようにして消滅してしまった!
 
何?何?
 
女の人に続いて、幼稚園生くらいの女の子も車から飛び出してきた。そして
 
「お母ちゃん、凄い!」
と言った。
 

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春化(5)

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