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自分は死んだんだなと思った。
高速バスに乗っていた気がする。多分寝ていたのかも。凄い急ブレーキの音、そして物凄く大きな衝撃音があった後、浮遊するような感覚がしばらくあって、その後突然全てが一点に収束するような感覚があった。
私はなぜか真っ赤な花のたくさん咲いている野原にいた。誰かが歩いていかなければと言ったので立ち上がろうとしたが、身体の感覚がなかった。自分の身体をイメージしなさい、と誰かが言った。
イメージってどうやるんだろう。私は考えていたが、自分の心の中で
男性として生きてきた自分と、本当は女の子でありたかったという自分とが戦い、やがて女の子でありたかったという自分が勝った。
気が付くと私は20歳くらいの女子大生風の格好をしていた。ちょっと
胸元を見るとバストがけっこうある。周囲に人がいるみたいな気がしてあそこには手をやるのは気が咎めたが、足を少し動かした時の感じが
違うので、そこには何もないような気がする。
可愛いじゃないと誰かが言ったような気がした。でも実はスカートで歩く感覚が分からない。歩こうとしたらスカートの裾にぶつかって2〜3度転んでしまった。それにヒールが高くて足首がぐらつく。
靴はまっすぐ降ろす感覚で。それからもっと歩幅を小さくして、膝から下だけを動かすつもりで、と誰かが言ったのでそうしてみると、やっと歩けるようになった。
向こうだよ、という誰かの声に従って、私は歩き始めた。やがて川が
見えてきた。その川を前にして私は心の中がとてもきれいになって
いくのを感じた。
(2003.12.10)