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ドアを開けるとそこにはたくさんの衣装がかかっていた。
左側に男の衣装、右側に女の衣装があり、一応その間がカーテンで仕切ら れている。
私はふらふらと右側に行き、女の制服を手に取った。
数分後鏡に自分の姿を映してみる。大丈夫、今日は女顔だ。緑のブラウス に白いミニスカート。白い帽子をかぶるとウェイトレスさん一人できあが りである。
私は部屋を出て、仕事場の方に行こうとした。空の食器が乗ったワゴンが 廊下に置いてあったので、それを洗い場の方へ押していった。
向こうから知り合いがやってきた。ちょっと恥ずかしい。私はややうつむ いたまま「お疲れさま」と言ってすれ違った。
ぼーっとして歩いていたので、うっかり道に迷ってしまった。洗い場に行 きたかったのにホテルの玄関に出てしまった。
「ちょっと、この荷物運んで」
お客さんに声を掛けられた。中年の太った女性である。私は「はい」と返 事をして、ワゴンをちょっと端に寄せて荷物を持ちに行った。
「お部屋番号を拝見します」
キーを預かると1734。私は女性のボストンバッグを持ち、先導して、 エレベータに案内すると17階のボタンを押した。
「あなた、女の子なのにけっこう力持ちね。それ重いでしょう?」
私はカァっと赤くなった。
「学生時代、バスケットしてたもんですから」
私は小声で答えた。正直あまり声は出したくない。
「ああ、それで。あなた背も高いし。モデルさんとかもできるんじゃない?」
女性は私のことを疑ってはいないようである。
私はドキドキしながらエレベータの階数表示を見ていた。
(2000.5.5)