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■娘たちのフィータス(14)

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翌日、鈴木社長は朝1番にこのテレビ局を訪れ、制作部長と面談して、この件に付いて事務所に話をつけないままタレントに脅迫紛いのことをして直接徴用するというのは放送業界と芸能界の間の重大な信義違反であり、この問題についてきちんと謝罪すること、このようなことは今後絶対しないと誓うこと、そして関係者の処分と報告をしない限り、∞∞プロ系列の全てのプロダクションのタレントを同局から引き上げると言ったのである。
 
制作部長は震え上がった。そんなことされたら、全ての番組が崩壊する。実際その日の朝の生番組に∞∞プロ所属の芸人さんが2名出て行かず、プロデューサーが代わりにと思い、○○プロに声を掛けてみたもののそちらからも断られ(要するに∞∞プロ系列だけでなく業界全体に話が付いているもよう)、番組では緊急に若手のアナウンサーやADに代理させるなど対応に追われた。
 
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局内は凄い騒動になったようだが、結局、昼過ぎ、テレビ局の社長と制作部長が豪華な菓子折を持って、§§プロに謝罪に来た。担当プロデューサーの戒告、減俸6ヶ月、アクアに強引な撮影をしたディレクターの停職6ヶ月、撮影したカメラマンにも厳重注意をしたことを報告、制作部長も半年間自主的に給与の1割を返上することにしたと語った。
 
また来週の同番組に「不適切な撮影があったことを陳謝します」というテロップを入れたいと申し入れた。なお、ディレクターは申し訳無かったと言って、退職願いを提出したので認めたことも報告した(事実上の解雇)。
 
紅川はカメラマンについては上司に言われて撮影しただけだから処分は勘弁してやってと言った。それでカメラマンに対する処分は取り消されることになった。
 
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「ただ、紅川さん、アクアさんの性別は多くの視聴者が興味を持つことだと思うんですよ。今回はゲリラ的撮影で申し訳なかったですが、来年以降年に1度でいいので、事前に話し合いの上、ご了承頂けたら、アクアさんの性別確認の特集を作らせてもらえませんか?」
 
とテレビ局の社長は言った。
 
「どうかね?」
と紅川はコスモスに尋ねる。
 
「ちゃんと事前に話し合って、こちらの同意が得られた上でならいいですよ。アクアはふつうの男の子だから、性別確認したって何も実害はないですし」
とコスモスは平然として答えた。
 
「分かりました。来年以降はそれで企画書を提出しますので」
 
それで翌年以降、毎年1回、アクアの性別確認番組“アクア男の証明”が作られることになったが、まわし姿で相撲などというのはこの1回だけで、翌年以降は医師の診察の後、ふつうに服を着て、サッカーや野球など様々なスポーツをやることになった。しかしアクアは運動神経が結構良いので、かなり優秀な所を見せることになり、女性ファンを熱狂させた。
 
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テレビ局の人たちが帰ってから、紅川はコスモスに尋ねた。
 
「でも結局、アクアって本当に男の子だったの?」
 
コスモスは笑って答えた。
 
「心は男の子ですよ。でも身体は実際にはほとんど女の子ですよ。ちんちんが小さすぎて身体に埋もれていて、陰嚢も身体に張り付いているから、結果的にほぼ女の子のお股と同じです。実際にはそういう建前で小さいちんちんと言っているのは実はクリちゃんで、本物の女の子ではという疑惑もありますけどね。でも、そう簡単に女の子みたいな身体だという証拠は掴ませませんよ。あの子、誤魔化すのがうまいですから」
 
「ほほぉ」
 
紅川はどうやってコスモスがアクアの股間を確認したのか、疑問を感じたが、あまり深くは追及しないことにした。
 
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なお、若林は自分がついていながら、このような撮影を防げなかったと言って退職願いを出したものの、紅川もコスモスも
 
「あなたには責任は無い」
 
と言った。なによりアクア自身が
「若林さんのおかげで、撮影が過激になるのを防げたと思います。彼女の責任は問わないでください。ボクを守ってくれたんですから」
と言った。
 
それで慰留され、彼女は結局翌年2月までアクアの付き人を務めてくれた。(大学を卒業して福岡に“Jターン”就職するので辞職)
 
「でも私、アクアちゃんって女の子と思い込んでいたから、まわし姿になって胸が無いのでびっくりしました」
と若林は言った。
 
「ああ。私もアクアの担当になってから2ヶ月くらい男の子だなんて気付かなかったから」
と鱒渕が言う。
 
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「でもアクアちゃん、いつも女性用楽屋だし、結構女子トイレ使っているんですけど?」
「そのほうがトラブル少ないし。アクアは他の女性タレントから、女性用楽屋に連れこまれてしまうし、他の女性が女子トイレであの子を見掛けても、何も疑問を感じないし」
とコスモス。
 
「そうかも!あの子、男子トイレに入ったら追い出されますよ」
「でしょ?」
 
「相撲部屋の人は最後までアクアちゃんのこと、小学生の女の子でまだ思春期前で胸が無いのだろうと思っていた感じでした」
 
「実際、アクアは思春期前なんだけどね。小さい頃病気をしたせいで成長が遅れているんだよ」
「あれ?そうなんですか?だったらこれから胸が発達するのかな?」
「どうだろうね?ほんとに胸が発達したりして」
とコスモスは笑いながら言った。
 
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実際若林はその後、ずっとアクアに付き添っていて、やはりこの子、本当は女の子なのでは?あの時はうまく誤魔化したのでは?と感じていた。
 

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6月17日、越谷F神社で、和実と淳が結婚式をあげた。千里は巫女としてこの結婚式に出たのだが、ここに京平が遊びに来ていた。
 
「あんた、予定日まであと10日くらいだけど、面倒掛けずに出てきてよね」
「大丈夫大丈夫」
などと本人は言ってお友だちと走り回っていた。
 
この日、披露宴に臨月の小夜子も出席していたのだが、披露宴の最中に産気付き、千里・あきら・桃香の3人で病院に運んだ。この日はおめでた続きであった。この夜は更に冬子の姉・萌依も赤ちゃんを産んでいる。
 
千里は、もうすぐ産まれてくる予定の京平に思いを馳せていた。
 
京平は“泳次郎様”が東北方面に行く用事があったので、そのついでに連れてきてもらっていたらしい。深夜、小夜子が出産した病院に千里がいたら、その泳次郎様がやってくる。千里は挨拶に行き、先日の用賀のアパートの処理の件の御礼を言っておいた。
 
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「あれくらいは問題無い。世間様に迷惑を掛けている者があったら気軽に麿に連絡するがよい」
 
「それは助かります。実は似たような案件をうちの妹が頼まれまして、誰か処理できる人の心当たりがないだろうかと訊かれていたのですが」
「よい。では麿が行ってやろう」
 
それで翌日、問題の場所に行ってくださることになった。
 
泳次郎様は京平は6月26日にこちらの世界に送り出すとも言っていた。
 

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翌日、福井県の問題の場所に、千里・青葉、そしてこの件を持ち込んだ火喜多高胤と依頼主が集まる。青葉の召喚により泳次郎様が来訪。泳次郎様は怒りくるっていた神様たちをなだめると、伏見に帰ろうと言って、連れて帰った。
 
火喜多はあまりにも巨大な存在の来訪に呆然としていた。この手の体験はあまり無いのかも知れない。
 
ところで、この時、ふと見たら京平がいた。
 
「あんた何してるの?」
「暴れん坊を連れて行くから、僕は怪我したらいけないから、お母ちゃんに送ってもらえって」
 
千里は、これが多分京平が“生まれる前”の最後の千里との遭遇だから、2人だけにしてくれたのだろうと考え、京平を電車に乗せて伏見まで連れて行った。京平は特急列車などというものに乗るのは初めてなので、物凄くはしゃいでいた。
 
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伏見で、きつねうどんと稲荷寿司を一緒に食べて別れた。
 
京平が元気に伏見のお山の階段を登っていくのを千里は微笑んで見送った。
 

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6月19日(金). FIBAの執行委員会は、改革がやっと進み始めた日本バスケット協会に対する制裁の「部分解除」をすることを決定した。これで日本はユニバーシアードは出場することができることが決まった。ユニバーシアードは7月4日から13日まで韓国の光州(クァンジュ)で行われる。
 
女子ユニバーシアード代表は6月24日から7月1日までNTCで合宿をおこない、2日に韓国に渡り4日から大会に臨む。今回の制裁部分解除はまさにギリギリで実行された。
 
千里はグラナダの球団事務所に電話して、ユニバーシアードに出ることになったので、大会が終わるまで、練習を休ませて欲しいと連絡した。球団側は「出られるようになってよかったね!頑張ってね」と言ってくれた。
 
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千里は《すーちゃん》に頼んで、また“パスポートF”を持って、フランスから成田への飛行機に乗ってもらい《帰国》した。このパスポートで韓国に渡る。
 
千里たちの合宿日程と重なる形で、女子フル代表および、貴司たち日本男子フル代表もNTCで合宿をしていた。同時期に合宿していても、千里と貴司は廊下や食堂で遭遇したら挨拶する程度であり、お互いの部屋を訪問したりはしない。
 

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