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■娘たちのフィータス(13)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-08-19
 
2015年5月14日、千里はバスケット協会の強化部に呼ばれて出て行った。
 
ユニバ代表を辞退したことで何か言われるかな?と思っていたのだが、話は別のことだった。
 
「実はバスケット協会から毎月スペインのBBVAという銀行のChisato Murayama名義の口座、そしてその関連かと思われるLeoparda Granadaという所に毎月合計3000ユーロ(約39万円)ほど払われているようなんだけど、このChisato Murayamaというの、ひょっとしてあなた名義?」
 
千里はやっと、その話ができる状態になったかと思い説明した。
 
2013年春に強化部からスペインで修行してきてくれと言われて渡航したこと、最初の話では派遣は半年間ということだったのに、その後、強化部のスタッフが頻繁に入れ替わったせいか、何度か連絡したものの放置されたこと、送金される金額は時々唐突に変わり、一時期は1000ユーロを下回って少し困ったものの、数ヶ月経つと突然増額されたりしていたこと。経理部のほうにも話をしたが、経理部としては強化部の指示で払っているので、そちらと話してくれと言われたこと。
 
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「それは申し訳無かった!」
 
「協会からの育成費支払いもありますが、グラナダ球団から選手報酬の一部がそちらに“育成費の相殺”として支払われているはずですが」
 
「え?そうなの?」
 
「経理部に確認して下さい」
 
「でもそれなら派遣は半年で終了したんだっけ?」
 
「派遣自体は終了しましたけど、私はグラナダとの直接の選手契約に移行しました。ですから普段はずっとスペインに居ます。今年は先月リーグ戦が終わったので帰国して、この後は9月まで日本に居る予定です。10月からまたスペインに行きます」
 
「そうなっていたのか!でも村山さん、どこか国内のクラブチームに所属していなかったっけ?」
 
「日本バスケットボール協会の籍を維持する目的と、日本に居る間の練習相手確保で40 minutesというチームに所属していますよ」
 
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「なるほどー」
 
そういう訳で、バスケット協会からの“派遣費”振込はやっと停止することになった。強化部では悪いけど、2014年春以降の強化費は分割でもいいから返却してくれないかと言い、千里は「資金的な余裕はあるからいいですよ」と答えた。
 
後日きちんと計算して請求額を出すということだったのだが、実際には
 
「済まない!こちらがもらいすぎだった!」
という連絡があり、千里はバスケット協会から、400万円も返してもらった!
 

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2015年5月15日、千里と青葉は雨宮先生を通して、藤吉真澄(木ノ下大吉の弟でゴーストライター斡旋の元締め)からの依頼で沖縄に飛んだ。木ノ下先生が“おかしくなっちゃった”ので、診てくれないかということだったのである。
 
しかし青葉たちは木ノ下先生が結構“正気”であることを認識する。木ノ下先生は“自分はノロになった”と言ったが、自分は誰か本来のノロに引き継ぐための仲介だと思うと語った。
 
沖縄に行くなら、ついでで申し訳無いがという冬子からの依頼で、2人は宮古島に行き、明智ヒバリと会った。彼女は毎日コスモス畑を見て、絵を描いているということだったが、彼女の絵を見た2人は、ヒバリがかなり精神的に回復に向かっていると感じた。
 
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その宮古島に泊まった日、明智ヒバリは唐突に覚醒して「自分はノロである」と言った。その姿はものすごく神々しかった。
 

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ヒバリは自分は夜明までに沖縄本島に行かなければならないので移動手段を用意してほしいと言った。それで千里は予め“日程未定”で予約だけしていたヘリコプター会社に連絡し、宮古島まで迎えにきて欲しいと伝えた。向こうは朝ではダメですか?と言ったものの、『ノロさんが明け方までに沖縄まで行かなければならないと言っている』と千里が言うと『ノロさんが言うのなら対応しますよ』と言ってヘリを出してくれた。
 
最初から多分夜中にお願いすると言っていたのに!きっと予約を受けた人から他の人に伝達されていなかったのだろう。
 
何とかヘリで運んでもらい、那覇空港に降りたところで千里はヒバリの行き先の見当がついたので、借りていたレンタカーで一行を恩納村の木ノ下先生の自宅まで運んだ。すると先生がノロの衣装で出てきて、ノロの地位をヒバリに継承する儀式をおこなった。
 
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ヒバリは古いウタキを破壊して、リゾートを開発しようとしていた不動産会社の土地に入っていく。何か妖怪のようなものが現れて邪魔しようとしたが、千里が∽∽寺の導覚から託された独鈷杵をヒバリに渡すと、妖怪は倒された。
 
騒ぎを聞きつけて不動産会社の社長がやってくるが、ヒバリは
 
「ここは神が降りてくる場所である。この土地を自分に貸して欲しい」
と言った。
 
あまりに神々しいヒバリの雰囲気に呑まれて、社長はあっさり土地を貸すことを承諾した。それでそこにウタキが再建され、ヒバリはそのウタキを管理するノロになってしまったのである。
 

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沖縄から戻ってきた千里に、ユニバーシアードの篠原監督から緊急連絡が入った。ユニバ代表の伊香秋子が、怪我して出場できなくなったので、代わりに代表になってほしいというものだった。
 
仮病だろうとは思ったが、千里は秋子の思いを汲んで代表になることにする。今年は千里がユニバ代表になる資格を持つ最後の年なので、これは最初で最後のユニバーシアード代表ということになる。
 
もっとも、エントリー締め切りまでに日本の資格停止が解除されない限り、出場はできないのだが。
 
5月23-30日にはユニバ代表の合宿が行われたが、千里はグラナダの球団事務所にその旨を言って参加した。事務所の人は
「日本、制裁解除されたらいいね」
と言って送り出してくれた。
 
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6月中旬、アクア(龍虎)は、バラエティ番組の撮影に参加した後、
「ちょっと付き合って」
 
と言われて、局のディレクターに連れ出された。この時、マネージャーは(全体的に多忙で)たまたま誰もおらず、バイトの付き人兼運転手で、若林さんという21歳の女子大生だけが付いていた。この日は、アクアの(この当時の)メインマネージャーであった田所も、撮影が終わったら帰宅するだけだから、若林さんだけでも何とかなるだろうと思っていたのである。
 
ところが連れてこられた所は、病院である。
 
「アクア君、申し訳ないけど、今度番組で男子アイドルの健康診断というのをやるんだよ。それでここの病院で少し健康診断を受けてもらえないかなあ」
 
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アクアは
「そういう話は聞いていませんけど、事務所に話は通っているんですか?」
と尋ねた。
 
「ああ、それはFAXで送っていたはずだけど」
とディレクターは言うが、どうも適当っぽい。事後承諾にするつもりではと思った。
 
「私は事務所を通さずに仕事をすることを、契約書によって禁じられています。それを確認できないと、お仕事できません。若林さん、ちょっと事務所に電話を入れて確認してもらえませんか?」
 
「はい」
 
何かイレギュラーなことが起きているようだと感じたものの、どうすればいいのか悩んでいた若林はそれで事務所に電話しようとした。ところがディレクターは彼女の発信を停めてしまう。
 
「何をなさるんです?」
とアクアが抗議する。
 
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「健康診断くらい、いいじゃん。バラエティ番組ではよくある演出だよ。それとも、アクアちゃん実は女の子で、健康診断受けたら、それがバレちゃうから受けられないということないよね?」
とディレクターが言う。
 
アクアは、なるほど、目的はそれだったかと思い至ったものの、
 
「だったら撮影優先で健康診断受けますけど、もしちゃんと話が通っていなかったら、それ相当の処置をしますからね」
とアクアは堂々と言っている。
 
それがとても中学生タレントとは思えない貫禄なので、若林は「この子凄い」と思った。一方ディレクターは毅然とした態度のアクアに一瞬ビビったものの、§§プロなんて弱小事務所だし、文句言うならテレビにそちらの事務所のタレント誰も出さないぞと言えば黙るだろうと思った。それで強引にアクアに健康診断を受けさせたのである。
 
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『こうちゃんさん?』
とアクアは心の声で語りかける。
 
『OKOK任せろ』
と彼の声が返ってくるのでホッとする。
 
病院ではまず最初におしっこを取る。龍虎が(自粛して)男子トイレに入るとカメラマンたちも付いていこうとしたが、若林は入口に立ちふさがり
「排尿の様子を公共の電波に流すおつもりですか?」
と言う。
 
「確かにそれは流せんなあ」
と言って、カメラマンたちは中には入らなかった。
 
その後、採血をして、身長、体重(着衣のまま)、脈拍、血圧を測る。その後、内科医の診察を受けるが、アクアは診察室に入ったと思ったら、どこか知らない場所にいた。
 
《こうちゃん》がニヤニヤしている。
 
「ここどこ?」
「しっ。見てろよ」
 
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大きな水晶玉があり、そこに診察室の様子が映っている。自分そっくりの男の子が医師の前で上の服を脱いでくださいと言われ、上半身裸になる。診察室の中にはカメラマンもディレクターも入るのを病院側から拒否されたようだ。それで外で会話を録音しているようである。
 
「胸は普通の男の子の胸ですね」
「僕、男の子ですから」
と言っている声もアクアそっくりの声である。
 
「じゃ上半身はいいです。上の服を着てから、そこのベッドに横になって、お股を見せてもらえる?」
 
「まあいいですけど」
と言ってアクアはベッドに横になり、ズボンとパンツ(トランクス)を下げた。
 
「ちんちん、少し小さいとか他のお医者さんから言われたことない?」
と医師が言っている。
 
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「僕小さい頃に大病をして、かなり強い薬使っていたんです。その副作用で一時期、おちんちんが皮膚に埋もれて、無いように見えるくらいまで縮んでいたんですよ。でももう治療も終わって投薬も終了したので、少しずつ大きくなってきたんです。今だいたい小学3〜4年生くらいのおちんちんのサイズだと言われています」
 
「ああ、確かにそのくらいだね」
 
と言って、医師は少年のペニスの長さと外周を測り、それから睾丸のサイズも測ったようである。
 
「うん。確かにこれは小学3〜4年生くらいのサイズだよ。これから少しずつ大きくなっていくだろうね」
 
「はい、そう思っています」
 

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それで医師の診断は終わったようである。その少年が
「ありがとうございました」
と言って席を立ち、部屋を出る。
 
と同時にアクアは診察室の外に立っていた。
 
「これでいいですか?」
 
「済まなかった。もう1ヶ所付き合ってくれない?」
 
それでディレクターがアクアと付き人の若林を連れて行ったのは相撲部屋である。
 
「ここでちょっとまわしをつけて相撲を取ってみてくれない?」
「何の意味が?」
「いいじゃん、アクアちゃん男の子でしょ?男の子なら相撲くらい取るよね?」
「まあいいですけどね」
 
ボクの胸を撮影したいんだろうなと思った。アクアは真新しい白いまわしを渡されるが
 
「昔1度つけたことがあるので、1人でつけられると思います」
と言って、それを持って1人で更衣室に入る。カメラマンも更衣室に入ろうとしたが若林が
「出てくればまわし姿が見れるんだから、着換え中まで撮すことはないでしょ?」
 
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と言って停めた。カメラマンがディレクターを見ると「まあいっか」と言って着換え中の撮影はしなかった。
 
更衣室内でアクアは問い掛ける。
 
『こうちゃんさん?』
『取り敢えず服は全部脱げ』
『うん』
 
それでアクアが真っ裸になると《こうちゃんさん》が姿を表し、アクアにまわしをつけてくれた。
 
『こぼれるものが存在しないから着けやすい』
『ちんちん、いつ返してくれるのさ?こないだから無くて困っているんだけど』
『何も困ってないくせに。よしこれで出ていきな』
『バストは?』
『あ、しまった。もったいないけど、一時的に平(たいら)にしよう』
と言ってこうちゃんがアクアの胸に触ると、そこはまるで男の子の胸のようになった。
 
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『おっぱいが無いって寂しいね』
『だろう?だから完全な女の子に変えてやるというのに』
『嫌だって言ってるのに』
 

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それでアクアがまわし姿で出て行くと、若林は口に手を押さえて驚いているようである。
 
「おお、凜々しいね」
とディレクターは喜んでいるが、ちょっと残念そうだった。アクアには実はバストがあるのでは?と思っていたのだろう。
 
この相撲部屋の部屋頭で、小結の**峰が出てきた。
 
「じゃ1番取り組んでみよう」
とディレクターが言う。
 
アクアと**峰が土俵の中央で各々仕切り線に手をついて見合う。
 
タイミングは一発で合った。それで取り組む。アクアが全力で押すものの、**峰はびくともしない。やがて**峰が35kgのアクアの身体を釣り上げて、そっと土俵の外に置いた。
 
「吊り出し、**峰の勝ち」
と部屋の親方が言った。
 
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部屋の中でいちばん若い15歳の力士・**山(序二段)が出てくる。この力士とは一発ではタイミングが合わなかった。
 
「今のは**山が悪い。その女の子のタイミングが正しかった」
と親方が言っている。
 
どうも親方はアクアを女の子タレントと思っているようである。
 
それで仕切り直す。相手は緊張している。それを見てアクアは立ち会い変化した。すると**山は前のめりに倒れてしまった。
 
「つき手、タレントさんの勝ち」
と親方。
 
「おお、凄い。アクアちゃん、1勝1敗」
 
これでアクアは解放された。
 

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アクアは若林と一緒に撮影後すぐに事務所に行って、このことを報告した。話を聞いた紅川会長は激怒した。そして∞∞プロの鈴木社長に連絡を取った。
 
「分かった。2度とそういうふざけた真似はさせない」
と鈴木さんは言った。
 
しかしこのテレビ局はこの日の撮影内容をその日の夜の番組で放送してしまったのである。
 
放送は物凄い視聴率となり
 
「ああ、アクア様はやはり男の子だったのね」
「残念。絶対女の子だと思っていたのに」
という声があがると同時に
 
「アクア様が男の子だったら、私結婚したい」
「アクアが男でももう構わない。俺はアクアと結婚したい」
 
といった書き込みが多数あふれていた。
 
そしてテレビ局への抗議も凄まじかった。その日、テレビ局の電話は夜中まで全くつながらなくなり、業務に支障をきたす事態となった。
 
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