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■夏の日の想い出・第三章(5)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-05-06  
町添部長は経緯をこう説明した。
 
デモ版の録音をスポンサーに聞かせたら「4人のバランスが悪い」と言われたということだった。北陸のFM局を中心に流しているローズクォーツの番組でも一応4人で出演はしているものの、実際にはほとんど私とサトで話しているのだが、そのデモ版でもやはりそういう雰囲気になっていた。
 
そこでスポンサーは「タカやマキに話が振られた時にどうも話の流れが悪くなる」と指摘し、ふたりを外して私とサトだけのトークにしてくれないかと言ってきたらしい。これに対して町添さんは、4人はセットなので、その中の2人だけというのは困ると主張した。この部分でスポンサー側と町添さんとの間で、どうしても妥協点が見い出せず、結局ローズクォーツにこの番組をしてもらうという話はお流れになって、別の人に番組をやってもらおうかということになった。
 
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それで町添さんもこちらに申し訳無いがスポンサーの意向で今回は見送りということに、と連絡してきて、こちらも了承したのだが。。。。
 
代わりにやってもらうナビゲーターを、町添さんがもし私たちに断られた場合にと腹案で考えていた中堅のタレントさんに連絡してみたところ、選曲をしきれないのでそれを局側でピックアップして欲しいというのと週に4日もあるとなるとリサーチャー(ネタを提供してくれる人)を付けてくれないと厳しいと言われた。ところが低予算の番組なので、選曲までは局のディレクターにさせるにしても、構成作家などまで付ける余裕が無い。そこで、その人を使うのは諦めて、自分で選曲も話題探しもできそうな若い人がいないか、再度検討してみることになった。
 
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町添さんがスポンサーさんに「そちらで誰かいい人とか思いつきませんかね?」
と投げてみた。スポンサー(ファッションブランドの社長)さんは少し考えて
「名前を覚えてないのだが、今年と去年の春に、鍋島康平の追悼番組でしゃべっていた女子大生2人組が感じが良かったけど、あの子たち確保できない?」
と言ってくる。
 
「えっと・・・・そのひとりは先日お断りすることになったローズクォーツのケイちゃんなんですけどね」と町添さん。
 
「え?あ、そういえば雰囲気似てると思った」とスポンサーさん。
「もうひとりは彼女の相棒のマリちゃんで、ふたりはローズ+リリーというユニットを組んでるんです。ケイちゃんはローズクォーツとローズ+リリーを掛け持ちしてるんですよ」と町添さん。
 
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「おお。ではぜひその2人に」
とスポンサーさんが言うので、町添さんは「昨日の今日で言いにくいのだけど・・・」
と恐縮した様子で私たちの所に再度話を持ってきたのであった。
 
美智子は大笑いしていた。
 
「あ、ちなみに先方にケイちゃんが元男の子というのは一応説明している」
「はい、それは先に言っておいてもらった方が助かります」
「戸籍上も既に女の子になっていると言ったら、それなら全然問題ないですと言ってた」
「ありがとうございます」
 
結局、町添さんもそばで見ている中で、その場で先日のデモ版のシナリオを私と政子とで録り直した。町添さんがその録音をそのまま、スポンサーの所に持ち込んで聞かせると「雰囲気が良い!ぜひお願いします」ということになった。そこで、マキやサトたちには悪かったものの、この仕事はローズ+リリーで受けることになったのであった。
 
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基本的には2週間分(8日分:4時間)を月2回録り貯めすることになった。ただし最初は方向性を調整する必要があるのと、リスナーからのリクエストのストックが存在しないので最初の週の2回(1月4日・5日の水木)だけ生でやって、次回から2週間分ずつ録音することとなった。ギャラは構成コミで1回につき2万に抑える代わりに、毎回自分達の曲(ローズ+リリーやローズクォーツが歌っている曲、またはマリ&ケイで書いた曲)を2曲以内まで流して良いことになった。
 
鍋島先生の追悼番組は昨年は契約が中ぶらりんの状態だったので無償でやったのだが、今年も予算が無いので申し訳無い、などと言われて無償だったし、北陸の局でやってるローズクォーツの番組は1回5000円なので、それに比べたらギャラも大進歩という感じであった。
 
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さて、私たちは町添さんが事務所に来た11月30日からスイート・ヴァニラズとの「交換アルバム」の制作に入っていた。
 
その制作が、ちょうど半分くらいまで来た12月4日のお昼。私たちはレコーディングスタジオ近くの定食屋さんで食事休憩をしていたが、その時、以前からちょくちょくやっている民謡シリーズを一度まとめてアルバムにしましょうよという話が出た。
 
ところがそれを話している内に、ローズクォーツって、いろんなジャンルの音楽が出来るから、様々なジャンルの音楽を演奏した『Rose Quarts Plays ……』
といったものを幾つか出さない?などという話に発展してしまった。その場にいたローズクォーツの4人、美智子、政子の6人で、どんなものがあるかなとワイワイ話していたら、ちょうど近くでお昼を食べていた太田さんが寄ってきた。
 
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太田さんはローズクォーツやローズ+リリーの音源制作に何度か参加したことがあり、ローズクォーツの理解者のひとりなので、彼もあれこれと意見を出し、やがてこのようなラインナップが浮かび上がってきた。
 
Rose Quarts Plays Rock 
Rose Quarts Plays Jazz 
Rose Quarts Plays Minyo 
Rose Quarts Plays Classic 
Rose Quarts Plays Latin 
Rose Quarts Plays Pops 
Rose Quarts Plays Sakura 
Rose Quarts Plays Summer 
Rose Quarts Plays Autumn 
Rose Quarts Plays Anime Song 
Rose Quarts Plays Christmas 
Rose Quarts Plays Love Song 
 
「作っている内に差し替えは発生するかもね」
「そのあたりは成り行きで」
「これだけ作るには2年掛かるなあ」
「2ヶ月に1枚くらいのペースですよね」
「制作はここにいる6人で」とサト。
「うん。そうしよう」と美智子。
 
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「ちょっと待って。6人って、私も参加するの?」と政子。
「当然」
「ね、ひょっとして俺も頭数に入ってない?」と太田さん。
「当然」
 
そういうわけで、太田さんはこの後、ローズクォーツの『Rose Quarts Plays』
シリーズに毎回参加することが決まってしまった。そして1月にその第一段の『Rose Quarts Plays Rock』の音源制作をしていたら、そのまま続けてローズ+リリーの『Month before Rose+Lily』『Rose+Lily after 1 year』の録音にも参加することになり、更には2月のローズクォーツのツアーにも帯同することになってしまったのであった。
 
太田さんがなしくずし的にローズクォーツの準メンバーのような存在になっていったきっかけは「定食屋さんで遭遇」したことであった。
 
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「太田さんって呼ぶのも他人行儀だし、ニックネームとかある?」と美智子。
「じゃ、ヤスで」
「じゃ、ヤス、よろしく」と私。
「よろしく、ケイ」
 
という感じで、ヤスはその場にいた全員と握手を交わした。
 

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定食屋さんで、そんな話をした翌日、12月5日の夕方。突然町添さんから私の携帯に着信があった。
 
「おはようございます。ケイです」
「おはよう。今日はレコーディングはもう終わった?」
「はい。先程今日の作業は終えて解散したところです」
「うん。月曜だから多分早く終わったかなと思って電話した。今暇?」
「はい、時間があります」
 
実はその日私は正望の家に行くつもりだったのだが、部長から「暇か?」と訊かれたら、時間があると答えるしかない。
 
「今から、僕の家に来てくれない?」
「部長の御自宅にですか?」
「うん。誰にも言わないで。マリちゃんにも彼氏にもね」
「はい」
「それで、目立たないように変装して来て欲しい」
「変装ですか!?」
 
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私は正望に電話をして、申し訳無いけど急用が入ったので行けないと連絡し、それから都内に住む高校時代の同級生の佐野君に電話した。
 
「おお、唐本!愛してるよ〜」と佐野君。
「御無沙汰。ちょっとお願いがあるんだけど」と私は彼の《愛の告白》はスルーする。
「何だい?」
「今からちょっと佐野君の家に行っていい?」
「それは構わないけど」
 
実は部長の御自宅のある方面へ向かう途中に佐野君の住むアパートがあることで思いついたのである。佐野君は駅まで迎えに来てくれた。そして一緒にアパートに入ると私は突然
 
「ごめん。男物の服を貸して」と言った。
「は?」
「ちょっと仕事の都合で、変装して某所に行かないといけなくて」
「人気歌手は大変だね!」
 
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と言いつつ、佐野君は、背広上下を貸してくれたので、私は髪をまとめた上で帽子で隠し、アイブロウで眉を太く見せ、佐野君から借りた背広上下を身に付けた。ウェストは盛大に余るので、サスペンダーを借りて吊った。
 
「ありがとう!恩に着る」
 
私は背広姿で電車に乗り、部長の御自宅へ行った。しかし・・・・背広なんて着ることになるとは思わなかったな、と思った。でも歌手として売れていなかったら、自分も大学を出たあと、男として就職するのか女として就職するのかって悩んだのかも知れないという気もした。その場合、自分も背広とか着て就活などしたのだろうか・・・・ああ、それって目眩がする。やはり自分は男としては生きられなかったに違いない。
 
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部長の自宅に行き、名前を言って奥さんに案内され応接室に行くと、部長ともうひとりOL風の女性が居た。私は一瞬それが誰か認識できなかった。
 
「みっちゃん!?」
「あんた、冬?」
 
「ふたりとも、僕も一瞬誰か分からなかったね。変装は合格、合格」と部長。
 
「みっちゃんのOL姿って初めて見た」と私。
「冬の男装って、見たのは高2の時以来だわ」と美智子。
 

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奥さんがお茶を持ってきてくれた。部長は奥さんが下がると
 
「単刀直入に言う。今後はローズ+リリーの方をメインにやって欲しい」
といきなり切り出した。
 
私たちは部長から、これまでのローズ+リリーとローズクォーツの売上の数字が印刷された紙を見せられた。Excelからそのままプリントした感じだ。
 
2011.07.01 rqs『一歩一歩』 8万枚 
2011.07.08 R+L『after 2 years』 48万枚 
2011.07.15 rqs『夢見るクリスタル』 4万枚 
2011.07.22 rqs『夏の日の想い出』110万枚 
2011.10.26 R+L『after 3 years』50万枚 
2011.11.16 R+L『涙のピアス』80万枚 
2011.11.16 R+L『可愛くなろう』40万枚 
2011.12.07 rqs『起承転決』(事前リサーチによる予測枚数 12〜18万枚) 
 
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「ミリオン売れた次の作品なのでこちらも製造枚数の適正値を考えるのに、慎重に事前リサーチした。『起承転決』は予約枚数、事前の放送などに対する反応などから最大でも20万枚とみた」
「厳しいですね」
 
「ここでね。この数字を見る時に大事なのはね、『夏の日の想い出』でも同時A面の『キュピパラ・ペポリカ』でもマリちゃんがコーラスではなくケイちゃんと並立したボーカルとして歌っているということと、それまでローズ+リリーのシングルが2年半も出ていなかったということなんだよ」
 
部長はこの数字のほか、ローズ+リリーとローズクォーツの性別世代別購入数やスイート・ヴァニラズ、XANFUS、AYA、スリーピーマイスなどとのクロス分析などが印刷された紙を私たちに見せた後、部長はそれを即シュレッダーに掛けて「Your eyes only ね」と言った。
 
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「だから結局『夏の日の想い出』を買った層は、この曲を演奏した《マリちゃんの入ったローズクォーツ》というのを、ローズ+リリーの拡大ユニットのように感じていたんだな」と部長。
 
「確かにあの曲をライブで演奏する場合、マリのボーカル部分は音源で流していますし」と私。
 
「それから以前、ローズ+リリーのファン層は10代から20代の男女半々だったのだけど、今年の統計を見ると、10代から40代までの女性7割・男性3割になってる」
 
「でも、確かに路線の見直しが必要かもしれませんね。私もローズクォーツ主体でやって行って、ローズ+リリーは、私とマリの個人的な活動という感じにしていこうかなと思っていたのですが」
 
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