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■夏の日の想い出・止まれ進め(27)
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新之丞は「あなたが毎晩会っているのは幽霊」と言われて、「そんなばかな」と思ったものの、彼女が確かな人であることを確認するために、彼女の家を訪ねていってみることにしました。万寿寺まで行き、近くの人に二階堂という女性の家を尋ねますが、誰も知りません。疲れ果てて万寿寺の境内で少し休んでいますと、目の前を見覚えのある女童が通り掛かります。
「あ、君、君の御主人の家はどこ?」
と浅茅に声を掛けますが、彼女は新之丞に振り返ることもなく境内を歩いていきます。寺の浴室を過ぎた先に、一軒の霊屋(たまや)(*35)がありました。女童の姿はその付近で消えました。
「どこ行ったんだろう?」
と訝りながら霊屋を見ると、いつも女童が持っていた牡丹の灯籠がそこに掛けてあります。それで中を覗いてみると、墓の表(おもて)に「二階堂左衛門尉政宣が息女“弥子”吟松院冷月禅定尼」とあります。そばには伽碑子(おとぎぼうこ)(*36)があって手にしてみると後ろに“浅茅”と名前が書いてありました。
彼女が二階堂政宣の娘と名乗っていたこと。女童(めのわらわ)を「浅茅」と呼んでいたことが一致します。新之丞はショックを受けて座り込んでしまいました。
何とか立ち上がりますが、ふらふらと寺の外に出ました。その時、隣人が東寺に行きなさいと言っていたことを思い出します。それで、彼は東寺に行ってみました。
(*35) 魂屋(たまや)というのは、死者の霊を祭っている建物。挿絵を見ると幅1間(けん)か1間半、奥行き半間程度の小さな建物で、中に祭壇を組んでいるようにも見える。簡易なものには、お墓の上に屋根を組んだだけのものもあったという。霊屋(れいおく)とも。↓の挿絵では牡丹燈籠は見えるが、伽婢子は確認できない。
(*36) この本のタイトルにもなっている“伽婢子(おとぎぼうこ)”とは女の子の人形。弥子は多分生前、人形に“浅茅”という名前を付けて可愛がっていたのだろう。浅茅は人形なのでしゃべらない。しかし前述のように町田朱美は表情や仕草だけでこのお人形の役を熱演した。
撮影では、伽婢子は、麻布で人形の形を作り(衣裳係さんの力作!)、顔は絵の上手いスタッフが筆で描いたものを使用した。そして町田朱美が着た衣裳の共布で作った服を着せた。
髪は人工毛髪。中には藁を詰めている。
東寺に行った新之丞は、ひとりの行者(月城すずみ)(*37) さんに声を掛けます。すると行者は驚いたように訊きました。
「そなたどうしたのじゃ?まるで幽霊にでも会ったような顔をしている」
「実は・・・」
と言って、新之丞はこれまでのいきさつを語ります。
「なるほど。このままではあなたは10日もすれば衰弱して死んでしまう」
と言い、その場で護符を書いて渡しました。
「これを家の門に貼っておきなさい。そうしたら幽霊はあなたの所に来ることはできません」
「ありがとうございます」
新之丞はありがたく護符を頂いて帰り、門の所に貼っておきました。するとあの女性は来なくなりました(*38).
(*37) 『竹取物語』では“月城硯文”とクレジットしたが、本人の外見がどんどん女性的になってきて、男性的な芸名に似合わなくなってきたので、本人の希望に沿いこの作品からは“月城すずみ”とクレジットする。視聴者も多くは“女性行者”と取ったようである。ただし彼はこの作品では男声で演技している。女声も出るが女役の時に使います、と本人は言っていた。
彼は男子トイレを使おうとしたのだが・・・「男役してても女の子が男子トイレ使ったらダメ」と木崎望夢から追い出され(彼は男子トイレの個室を使う)、「すずちゃんはこちらでいいよ」と町田朱美に連行されて女子トイレを使っていた。
(*38) 御札が貼ってあるので女が中に入れず「ひどい。開けてよ」と訴えるのは、圓朝の演出(多分『吉備津の釜』からの引用)で、伽婢子版ではあっさり来なくなる。
それから50日ほどが経ちました(*39)。
結局その後、弥子は新之丞の元にやってくることはなく、 新之丞も随分生気を取り戻しました。それで彼は下男(魔暗胡瓜!)(*40) を連れて東寺にお礼参りに行きました。
その帰り、彼は下男と2人で少しお酒を飲みます。
映像は新之丞と下男が庶民的なお店でお酒を飲み簡単な料理を食べている所。店主(三藤幸雄)が徳利と杯を置くところ、大根を煮た料理を出すところ。店内には他に数人の客(テレビ局のスタッフ!)がいる。
お店を出たあと帰ろうとしたのですが、新之丞は弥子のことが急に恋しくなりました。それで彼は下男を連れて万寿寺のほうに向かいます。もう日も落ちて暮れかかった時分でした。
(*39) 新之丞が弥子に会ったのば7月15日で、それから20日ほど逢瀬を続け、それから50日経ったということは現在は7月15日の70日後で9月26日頃(*41). もう闇夜に近い。明け方逆三日月が昇る時期である。
(*40) 新之丞の下男というのは、ここまで全く出て来ていなかったのに、唐突に登場するのは不思議である。
魔暗胡瓜(まあきゅうり)は揚浜フラフラ軍団のお笑い芸人のひとり。裸の王様にも出ていた。ギャラ4万円!・撮影弁当付きで出たらしい。
“まあきゅうり”は彼が、居酒屋に連れて行くと安いキュウリの酢漬けばかり頼んでいたのと、彼のお父さんがフレディ・マーキュリーの熱心なファンだったことから。家にはクイーンやマーキュリーのレコードが大量にあったらしい。揚浜フラフラの命名。
(*41) 天文17年は7月は小の月(29日まで)、8月は大の月(30日まで)なので、7月15日の60日後は9月16日。更に10日足して9月26日になる。この年は閏月は無い。参考↓(“おこよみ焼き”のサイト)
1548年(天文17年)の暦
新之丞は万寿寺の中に入り、弥子の魂屋を訪れて夕闇の中、その前で合掌しました。すると唐突に弥子が姿を現しました。女童(めのわらわ)の浅茅も一緒です。
「弥子!会いたかった!」
と言って、新之丞は弥子の手を握ります。
(現代ドラマなら抱きしめるところ)
「新之丞様、恋しうございました。ずっと添い遂げようと約束をしたのに、東寺の坊主がよけいな御札を貼って、お陰であなたに会うことができませんでした。あなた様の心変わりを恨みました。でもこうして私に会いにきてくださったんですね。私はとても嬉しうございます。どうか私の家でゆっくりしていってください」
と言うと、弥子は新之丞を連れて魂屋の中に入っていきました。
下男には弥子たちが見えなかったものの、何かが起きたようだと思い、新之丞の家まで走って帰り、近所の人たちに助けを求めました。
それで近所の人たち(光帆・音羽ほか数名:放送局スタッフ!)が駆け付けます。
「墓を開けてみよう」
それで開けてみると、女の遺体と抱き合うようにして新之丞が亡くなっていました。2人とも幸せそうな死に顔でした。
(女の遺体は木田いなほの顔に似せて作った人形。骸骨でなく普通の遺体にしたのは子供たちが見ているドラマなのでショッキングな映像にしないため)
それで人々は万寿寺の住職(木崎望夢)に頼み、2人の葬儀をして、法華経を読ませたりしたそうです。
画面では僧衣の木崎望夢が下男や隣人たちから話を聞くところ、また魂屋の前で法華経を読んでいるところを映す。彼はこの撮影のために本職のお坊さんから読み方の指導を受けている。彼は元々般若心経は読めたので、結構しっかりした読経になっていた。実際に読んだのは観音経の部分である。(観音経は法華経の一部)ドラマでは1分ほどだけ流れたが、DVD版には付録として木崎君が観音経全部を読むところ(約40分:↓の丸本君も付き合わされた)が収録され、仏教関係者からの評価が高かった。
脇僧を務めたのは丸本秀行さんといって、最近○○プロ(岩本卓也の事務所)に入った18歳の俳優さんである。ちゃんと名前も出してもらった。でもこの撮影(映ったのは10秒くらい)のために彼は髪を刈られ頭を剃られた。ギャラは魔暗胡瓜より低い2万円しかもらえなかったのに!(事務所の社長からかつらを買ってもらった)なお住職役の木崎望夢は帽子(もうす)をかぶっているから頭が見えていない。
そしてそれからというもの、夜中にしばしば、牡丹燈籠を持つ女童を伴い、弥子と新之丞が楽しそうに歩いている姿が人々に目撃されたそうです。
映像は木田いなほ・岩本卓也の2人が仲よさそうに歩いているシーンを明るい画面で映しており、牡丹燈籠を持って付き添っている町田朱美が笑顔でそれに付いているのを映す。そしてラピスラズリが歌う『伽婢子(おとぎぼうこ)』の曲でエンドロールに移る。この曲自体、C-Majorでアップテンポのポップロック(朱美がメインボーカル)であり、明るい終わり方になっている。
視聴者からは「もしかしてこれハッピーエンドなの?」と戸惑うような反応があった。
9月4日(日・たつ).
§§ミュージックは「トラフィック・シグナル」という組織を設立した。取り敢えずベテランの原田友恵を責任者にし、7月に採用して信濃町ガールズ担当になったばかりの平田結花子をそこの専任にした。
最初は“信濃町フレンズ”という案もあったのだが、信濃町を冠する組織が多すぎるということで別の名前を考えた。
これは信濃町ガールズたちの兄弟姉妹、あるいはお友達で、基本的にはお芝居で男役をしてくれる人たちの組織である。加入条件は下記である。
・30歳以下の学生・自由業・自営業などで、時間の自由が利く人。
・§§ミュージックとB契約以上の契約をしている人の4等親以内の親族(つまり従兄弟まで)または直接の親友(友だちの友だちは不可)で、契約者本人が連帯責任を負ってくれる人。
・業務上の守秘義務を守ってくれる人。
・コロナに罹らないよう充分な注意をしてくれること。特に外食・外飲みをしない。家族以外との7人以上の会食をしない。公共交通機関をできるだけ使わない。人混みに行かない。人の多い室内ではマスクをし、うがい・手洗いの励行。毎日体温を測って報告。
・朗読のレッスンを受けてもらう。
・身長165cm程度以上で男役ができること。本人の性別は問わない。
・大型時代劇やアクア映画などの制作に参加してくれること。
これらのことを守ってくれる場合、毎月手当を1〜3万円支給する。また東京に出てくる際の交通手段は提供する(公共交通機関利用禁止)。
要は男役要員なのだが、特に水巻アバサのように、歌唱力もないしダンスも下手だけど、俳優としては使える人をキープしたいということなのである。
背景にはコロナに対する世間の警戒が緩みすぎて、エキストラに健康管理を期待できなくなり、結果的にエキストラが使用不能になったことがある。
2021年までは本人も怖いから、きちんと感染対策を守ってくれていたのだが、2022年になるとコロナ疲れとコロナ慣れで、ちゃんとやってくれない人たちが増えてきた。結果的に今年に入ってドラマや映画の撮影で多数の集団感染が発生している。コスモスと私はこういう世間の気の緩みに強い危機感を持っていた。
“トラフィック”というのは通常は東京外に住んでいて、大規模な制作の時だけ出て来て、参加してくれるからである。"Go Stop"という案もあったがstopというのは縁起がよくないとした。
取り敢えず下記のメンツがここに加入してくれた。
杜屋鈴世(水巻アバサ)水巻イビザの兄(今の所まだ姉ではない)
吉川空海(入瀬トラン)入瀬ホルンの兄
藤弥日古(広瀬のぞみ)広瀬みづほの姉(兄だったが姉になってしまったもよう)
馬渡杏里(古屋あんころ):古屋あらたの姉
松崎貴美(月城朝陽)月城たみよの兄
松崎元紀(月城すずみ)同上。姉になりつつあるかも。
松崎真和(月城としみ)月城たみよの姉(本人に訊いたら性別女で登録して下さいと言った)
松崎春世(月城流星)月城たみよの弟
『竹取物語』には出てなかったが加入してくれたのが吉川空海と松崎春世に馬渡杏里である。馬渡杏里は高校1年生の女子だが長身で
「男役?やりたいやりたい」
と言って参加してくれた。古屋あらたの家は女ばかりの5人姉妹である。その上に男の子がいたが、小さい内に亡くなったらしい。
入瀬ホルンの姉の入瀬コルネ(吉川日和)は現在“信濃町ガールズ地方生”(§§ミュージック音楽教室信特待生)の立場にある。彼女は男役はしないのでこのグループではない。
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