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■夏の日の想い出・止まれ進め(15)
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目次 8
時間索引 #
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「“お姉ちゃん”去勢したの?」
とスカートを穿いている!真和(まさかず/まな)が訊いた。
「まだしてない。手術代も無いし」
「あれ30万円くらいするみたいね。犬の去勢なら安いのに」
でもさすがに獣医さんに去勢を頼む訳にもいかない。
「ホルモンは?」
「まだ飲んでない」
実を言うと買ったけど怖くてまだ未開封である。
貴美(たかよし)兄は
「どうもうちの兄弟は女2人・男3人になってしまいそうだな」
などと言っていた。
もちろん典佳(のりか:月城たみよ)を男の子に分類している!
「まあ男5人の兄弟なら2人くらい女の子になってもいいよね」
などと真和(まな)は言っていた。
「お姉ちゃんもスカートに穿き換えたら?いつもスカート穿いてるんでしょ?」
「着替えちゃおうかな」
ということで、結局、元紀もスカートに着替えてしまった。
「でもまーちゃん、随分荷物多いね。まるで引越でもするみたい」
「のりの奴が何も持たずに東京に行って、荷物は後で送ってなんて言ってたんだよ」
「のりらしい」
「だから結局、ぼくが持って行くことになった。お母ちゃんと2人で荷造りしたけど大変だった」
「ああ」
「この荷物、のりの部屋に運び込むの手伝って」
「OKOK」
結局それで元紀も真和もスカートを穿いたまま、熊谷から東京五反野の女子寮に行き、3人で荷物を典佳の部屋に運び込んだ。この時、元紀と真和は"Guest"と書かれた入館証をもらったが、貴美兄は写真を撮られて、運転免許証で本人確認された上で名前・写真入りの特別入館許可証を発行してもらって首から下げていた。でも貴美兄がいちばん戦力になった。
3人は、女子寮近くのメゾン・ドゥラ・カデットに案内された。貴美には2階のシングルルームの鍵、元紀と真和には5階のツインルームの鍵が渡された。
「なぜこんなにフロアが離れたんだろう?」
と元紀は疑問を感じたが
「きっと低層階は男子で、高層階は女子」
と貴美が言うと
「なるほどー!」
と真和は納得していた。
翌日撮影現場に行く。元紀と真和は自粛してズボンを穿いていった。
3人を見て、向こうの人は一瞬悩んだようだが
「男役をしてもらっていいんですよね?」
と確認され
「お願いします」
と言って
3人とも男役になった。
長男の貴美(月城朝陽)は、体格がいいので、帝の手紙を富士山頂まで持っていく武人の役をもらった。セリフは少ししかないが、彼の体格が登山路のまだ開発されてない時代に山伏たちと一緒に富士山頂まで行く役というのに説得力があった。一緒に富士山頂まで行く役をしたのが、元野球選手の新田金鯱さん、プロレスラーのタイガー沢村さん、そして本物の山伏さん?2人の合計5人である。
撮影後、新田金鯱さんからは
「君体格いいね」
と声を掛けられた。
「僕、野球してるんです。もし良かったらサインいただけませんか」
と言ったら
「OKOK」
と言って、気軽に応じてくれた。(妹の典佳(月城たみよ)から色紙をもらった)
真和(月城利海)は、かぐや姫家の宅司(上級貴族の家司に相当する)の役をもらった。これはセリフは無いものの映る場面が結構あった。演技は無難にこなしていた。また彼は、男装で出演している信濃町ガールズの声の吹き替えを頼まれていた。
元紀(月城硯文)は地理博士の役をもらった。登場するのは1シーンだけで、セリフもひとつだけだが、この手の、普通の俳優さんに頼むには申し訳無い程度の端役をさせる男性が足りないのだということだった。なお出演の際は
「君そのままだと女の子にしか見えない」
と言われて、眉毛フォームで太い眉にした上で撮影された。でも髪の毛は自毛を美豆良に結ってもらった!
3人のうち元紀と真和は、着替える時、男子更衣室で着替えるのは恥ずかしいけど、まさか女子更衣室で着替えてと言われないよね?などと妄想したが、着替えは、感染防止のため全員個室着替え室を使うということだった。
多数の個室が並んでおり“消毒済み”という紙テープが貼られているのを、そのテープを破って中に入り、使用する。部屋の中にカードキー(紙製)があるのでそれでロックして外に出る。元の服に戻る時、また荷物を取りたい時などはそのキーで開けて中に入る。
使用を終える場合はカードキーの裏側を部屋の入口のキー置きの所におく。このカードキーの裏側に“使用終了”と書かれていて、それを見て消毒班が消毒し、新しいカードキーを中に置く。カードキーは再利用しない。長時間使用中になっている部屋は見回り班が中に入って確認することもある。
アクア、七浜宇菜。など大きな役の人だけが固定の控室を使用する。
お弁当もこの控室で食べる。多人数集まって飲食するのは禁止らしい。
感染対策に物凄くお金を掛けているのが分かった。
しかし自分たちのようなほとんどセリフも無いような端役をしてもらう男性をわざわざ飛行機を飛ばしてまで呼び寄せたのは10月に大型時代劇の制作をするので、それにも参加してほしいということで、そのテスト出演も兼ねていたようだ。
§§ミュージックの一般の男性社員とかもどんどん端役に使われているらしい。
貴美(月城朝陽)と真和(月城利海)は「ではまた10月に来ます」と言っていたが、元紀(月城硯文)は9月末まで夏休みなのでそれを言うと
「撮影スケジュールにもよるけど、もしかしたら9月末に君の分を撮影して、それから徳岡に送り届けることになるかも」
と言われた。
「藺牟田がいいです。そこに車を駐めたので」
「それ帰った時にはバッテリーあがってる」
「あぁ!」
「こちらに来て半月でしょ?もう既に上がってるかも」
8月14日頃、元紀たちと同様、信濃町ガールズの兄弟で撮影に参加している、広瀬のぞみ君(高3)に喉仏が無いことに気付いた。彼も“女装っ娘”っぽいので親近感を感じていたし、声を掛けてみた。
「喉仏が無いのは手術とかで削ったの?」
「あ、これアクアのマネージャーの山村さんにやってもらったんだよ、君たちもしてもらうといいよ」
などと言う。
「山村さんってどの人だっけ?」
「50歳くらいで、女の服を着ているMTFっぽい人」
「ああ、あの人か!」
それで山村マネージャーが手が空いてそうなタイミングを見て声を掛けてみた。
「ああ、お前たちも目立たないようにしてやろう」
などと言うので
「お願いします!」
と言って、元紀と真和は2人ともやってもらった。
喉に触っても出っ張りが無い。鏡に映しても喉仏が見えない。
これいーい!と嬉しくなった。
水巻アバサ君がこちらをじっと見ていたので
「アバサ君もしてもらうといいよ」
と声を掛け、彼もやってもらった。
「でもこれあまり人に言うなよ。あまりやってると社長に叱られるから」
「分かりました!黙ってます。ありがとうございました」
もちろん喉仏を消してもらったのは、元紀と真和だけで、貴美は何もしてない。彼は喉仏を無くしたいとは思わないだろう。
ドラマの制作が終わった所で、貴美兄は、鹿児島空港に送ってもらって帰った。
元紀と真和はその後も滞在するので男子寮に移ってと言われた。その時初めて信濃町ガールズに男子メンバーなるものが存在していることを知った。2人は兄弟用の部屋205号室に入った。広瀬のぞみ君も201に入った。
水巻アバサ君はこちらには移らずカデットに泊まったままだったので、彼は早めに引き上げるのかなと思ったのだが、結局彼も月末まで東京に居たようである。予定が変わったのかな?と思った。
男子寮に移って最初戸惑う。
だって館内を歩いているのが女の子ばかりである。
戸惑っているようなので、鈴原さくらちゃんが説明してくれた。
「ぼくたち男の娘だよ」
「うっそー!?さくらちゃんって女の子と思ってた」
でも彼女が男の娘と知ってますます彼女を好きになった!
さくらちゃん、セレンちゃん、クロムちゃんなどは女装のテクニックや性転換のこと、ホルモンのことなどをたくさん教えてくれた。それで元紀と真和はここに来てからすっかり完全女装生活になってしまった。広瀬のぞみちゃんはスカートを穿いて伴奏の仕事などに出掛けていたが、2人はそこまでの勇気はまだ無かった。でも下着女装してレディス(ただしパンツルック)でレッスンやお仕事に出掛けた。
(一般の人には女性にしか見えないと思う)
真和は歌が上手いので、音源制作にコーラスで参加していたようである。真和は元々アルト領域の声が出ていたが、元紀もボイトレを受けさせてもらい、一週間で女の子のような声が出るようになった。喉仏が無くて女の子の声なら、かなりパスすると思った。
元紀と真和が急速に女性化しているのを心配した、男子寮の女性看護師・海老原さんに言われて、元紀と真和、それに広瀬のぞみちゃんは精液の冷凍保存をすることになった。保管費用は事務所が出してくれるらしい。
しかし精液を採取するには数日間の禁欲が必要である。
これが物凄く苦しかった。その禁欲のためも含めて、セレンちゃんたちにタックを教えてもらった。こんな画期的な股間成形法があったのかと驚いた。まるでもう性転換手術しちゃったみたいと思う。
ただ夜中に突然衝動が起きて、それを抑えるのに苦労したりした。激しい音楽とかを聴いて気持ちをそらせた(←80年代男子アイドルみたい(*16))。
でも精神消耗して我慢しただけあって、3人ともちゃんと品質のいい精液が採れた。真和のは少し薄いけど許容範囲と言われていた。まあ薄いだろうなと思う。2度目の禁欲は1度目に比べるとそれほど辛くは無かった。
(*16) 80年代の男子アイドルは建前上自慰などはしないということになっていた(60年代女子アイドルはうんこしないなどというのよりはまだマシな伝説)。ある時、したくなったりすることないですか?と訊かれたアイドルが「そういう時は激しい音楽聴いてダンスして気を紛らわせます」と答えた。
月末、お昼頃、都城の広瀬のぞみちゃん、夕方、真和が各々飛行機で帰っていった。真和は8/31のアクアのライブにはキュロットを穿いてバックダンサーを務めた。まだスカートを穿いてカメラの前に出る勇気は無いようだ。
元紀はこのあと更に1ヶ月東京に滞在する。真和はドラマ制作後2週間弱の滞在だったので精液の保存も2回しかしなかったが、元紀はまだ1ヶ月滞在するのであと2回、精液の保存をすることにしている。それで9月中旬まで彼の禁欲も続くことになった。でも2週間、精液採取の時以外は射精してないと、しなくても大丈夫のような気がして、最初の頃よりは随分苦しみは減った。
タックしていて男性器に直接触れないというのが大きい。触れたら絶対我慢できない気がする。
8月31日の夜、今日からは1人かと思いながら夕食を取り、お風呂に入った後、コンメンタールを読んだりする(法学生はゲームで遊んだりする時間は無い)。24時になったので、そろそろ寝ようかと思った。クロミのパジャマに着替えてお布団に入る。それで目を瞑っていたら突然人の気配がしたので目を開ける。
「あれ?妹さん今日は居ないの?」
と10歳くらいの女の子が言った。
「君誰?どこから入ってきたの?」
「ぼくは男の娘の味方、魔女っ子千里ちゃんだよ」
「え、えーっと」
「妹さんと今日は睾丸を取ってあげる約束してたのに」
それで“妹”というのが典佳(月城たみよ)のことではなく、真和(月城利海)のことと理解する。睾丸を取る?ぼくが取ってもらいたい!
「マナは鹿児島に帰ったけど」
「え〜〜?鹿児島まで行くの大変だなあ。代わりにお兄さんの睾丸取ってあげようか」
ドキッ。でも・・・
「取ってほしいけど、精液の採取をして冷凍保存してもらうことにしているから、それが終わるまでは取れない」
「なるほどー。でもお兄さんの場合、睾丸取るのより骨格の修正が必要だなあ」
「骨格?」
「妹のマナちゃんの場合は、本人が言うのにはずっと睾丸を体内に入れたままにしてガードルで押さえておいて、ホッカイロとかも着けて高温にして睾丸が働かないようにしてたんだって。だから15歳にしては男性的な発達が遅くて、顔のむだ毛も薄かったし、声変わりもソフトにしか起きてなかった。骨格もまだ性別未分化という感じだった」
あぁ。
「でもお兄さんの場合は、体毛も濃くなって声変わりも明確にしてるし、骨格も男性的な骨格に変わりつつある」
実は真和の場合は
「男になるのを止めたかったら睾丸に仕事をさせるな」
と言って睾丸の機能が低下するやり方を自分が指導していた。でも自分の場合は“もう間に合わなかった”。
「実は肩の骨が発達してきているのが気になってた。撫で肩にしたい気分。でもあれ骨を削るのは大変みたいだし」
「ぼくがもっと女性的な骨格に変えてあげようか?腰の骨とかも妊娠が維持できるような形に」
「変えられるの!?」
妊娠は卵子が無いから無理だけど女性的な骨格になれるものならなりたい。
「いったん骨を融かして、型に流し込んで固めれば」
「ちょっと待って」
「というのは冗談で骨を少しずつ動かす。痛みは無いよ」
「ほんとに?」
「ここまで発達したのを女の子の骨格に変えるには、さすがのぼくでも半年くらいかかると思うけどね」
「半年かかってもいいから変えて欲しい」
「いいよ。じゃ変えてあげるから、ぼくの形代(かたしろ)に、こういうマークを自分のおへその下にマイネームか何かで描いてくれる?」
と言って、魔女っ子何とかちゃんは、道教の呪符か魔法円かという感じの図形を描いた紙を渡してくれた。
「こちらが上ね」
「うん」
「だから自分で描く場合、逆さにして描き移せばいい」
「そうする」
「そうだ。マナちゃんと連絡取れる?」
「取れる」
「だったら彼女にもこの形代(かたしろ)を送ってあげてよ。それをおへその下にマイネームか何かで描いてくれたら、睾丸を取りに行ってあげるから」
「・・・分かった」
もうあの子も高校生だし、去勢するかどうかの決断は自分で下せるだろうと思い、元紀は真和にこの呪符を送ってあげることにした。
「形代はコピー機でコピーしても無効だし電子メールで送っても無効だから。手で描き移してね」
「了解」
でも元紀はこの夜以降、男性的な衝動を感じることが無くなった。結果的に禁欲が全く辛くなくなった。骨格が変化し始めたのかどうかはよく分からなかったが、きっと身体の女性化が始まったせいかもと思った。
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