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■夏の日の想い出・止まれ進め(18)
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そういう話をしたのが7月下旬だった。薫は佐々木春夏に頼み、F中学の女子制服を作ってもらった。
9月1日(木).
7:30頃学校まで距離がある花園裕紀が女子制服で出掛けた後。
セレンとクロムが不本意ながら男子学生服を着て部屋から出て来て、フロントのところで篠田ユキとおしゃべりしていたら、そこにセーラー服を着た川泉パフェが降りて来る。
「おはようございます」
「おはよう。薫ちゃん、もしかしてセーラー服で登校するの?」
「はい、女子制服での通学の許可をもらいましたから」
「うっそー!?」
「性別誤魔化したんじゃ無いよね?」
「ちゃんと私戸籍上は男の子ですと申告したよ。でも前の学校ではセーラー服での通学を認められていたと言ったら、こちらでもそれでいいと言われた」
「すごーい!」
「トイレとか更衣室はとうなるの?」
「それは検討すると言ってた」
「でもさすがに女子制服着て男子トイレ使えとは言われないと思うよ」
「そういうことになるといいんですけどねー」
それで不本意ながら男子制服を着て出て来た鈴原さくらも含めて4人で一緒に7:40頃、登校した。(男の娘グループ)
彼女たちが中学生では最も早い時間帯の登校で、その後“男の子”の立山煌と三国舜が相次いで7:50頃、寮を出ていく(男の子はあまり群れない)。そして8:00近くになって、性別を誤魔化して女子制服で通っている早幡そらと七石プリムが相次いで「遅れた遅れた」と言って出かけて行く。
そのあと、学校まですぐの夢島きららが男子制服で出掛けて行った。
男子寮の朝の風景がまた今日から始まった。
男子寮の中高生
J高校(ルキア・モナの母校)夢島きらら♂
M高校(木下・篠原の母校)花園裕紀♀
F中学
3年:三陸セレン△・山鹿クロム△・早幡そら♀・三国舜♂・川泉パフェ△
2年:鈴原さくら△・立山煌♂
1年:七石プリム♀
この他男子寮の近くには女子高のS学園があり、今井葉月の母校である。
湯谷薫(川泉パフェ)は朝来たら職員室に来るように言われていたので行く。多分教科書が渡されるんじゃないかなと言って“同性”のさくらが付いていってあげた。
「おはようございます。転校生の湯谷です」
「ああ、湯谷さんこちらへ」
と言われて、教頭先生のデスクに行く。取り敢えずさくらは職員室の外で待機する。
「湯谷さん、あなたの扱いだけど、向こうの先生とも電話で話したけど、トイレは女子トイレを使っていいことになったから」
「ありがとうございます」
電話で向こうの先生と話すとか怖っ。でもぼく嘘はついてないもんねーと思う。女子トイレの使用は向こうの学校でも許されていた。女子制服での通学は黙認に近い状態だったが、薫が有利になるように答えてくれたっぽいなと思う。
「体育の時の着替えは、今性別の微妙な生徒のための特別更衣室が運用されているんですよ。そこを使ってもらえますか」
「分かりました。それでいいです」
と薫は笑顔で答える。多分そうなるだろうと思っていた。
「身体測定などは個別検査で」
「はい。それでいいです。ありがとうございます」
「これあなたの教科書ね。体操服は体育教官室で売ってるからそれを買ってくれる?」
「はい」
それで、さくらが職員室の中に入って行き、教科書を持つのを手伝ってあげた。教頭はそのさくらに声を掛けた。
「鈴木さんも同じ所に住んでるんだっけ?」
「同じマンションの隣の部屋なんです」
「ああ、それは心強いね。ところで鈴木さんも女子制服で通いたくない?」
「通いたいです!」
「申請書出したら検討するよ」
「どんな申請書出したらいいですか?」
「ちょっと待って」
と言って、教頭先生は生徒指導の先生と話していたようである。
それでその場で書式を作ってプリントしてくれた。
「これ書いて出してね」
「分かりました!明日にも出します」
それで取り敢えず教科書を2人で手分けして持ち、教室まで行った。
さくらはその日の放課後、SCCの車で狛江市の実家まで行くと“制服選択申請書”に、母に署名・捺印をもらい翌日提出した。
制服選択申請書 2年2組鈴木春南
私は(男子制服/○女子制服)で通いたいので申請します。
生徒氏名 鈴木春南
保護者氏名 鈴木竹善
母は父の名前を書いて印鑑を押した(ありがち)。ちなみにお父さんは“すずきたけよし”であるが、よく取引先の人とかから「さとうちくぜんさん」などと呼ばれて本人も慣れっこである。
(佐藤竹善さんも本名は“たけよし”。しばしば“ちくぜん”と誤読されるので開き直ってそれを芸名にした)
さくらはフライングで翌日朝9月2日から女子制服で登校し、この申請書を提出した。
「ああ、女子制服は持ってたのね」
「はい。放送局に出入りする時は制服でないといけないけど男子制服では女性用控室に入れないので着替えてます」
「なるほどね」
と教頭は言ってから確認した。
「念のため確認だけど女子制服通学ということになったら男子制服での通学は不可だけどいい?」
男になったり女になったり、ふらふらされるのが困るのである。
「はい。男子制服とか着たくないです」
「じゃこれ承認するね」
と言って教頭先生は校長先生の印鑑をもらってきてくれた。
それでめでたくさくらも湯谷薫と同様、女子制服通学となった。
「鈴木さん、生徒手帳の写真を撮り直すからこちらに来て」
と言って、カメラの得意な森坂先生が白背景の場所で写真を取ってくれた。
「来週には新しい生徒手帳渡せると思う」
「ありがとうございます!」
なお、湯谷薫の生徒手帳写真は昨日撮影されている。それも来週できてくるはずである。
女子制服で登校し始めたさくらに、セレン・クロムが
「いいなあ」
などと言っている。
「ユカリちゃんも恵夢ちゃんも申請してみたら?」
「ぼくたち男性機能まだ残ってるから難しいかも」
2人とも親からは中学卒業するまでは去勢はダメと言われている。
「取り敢えず先生に相談してみなよ」
「そうだね。一応相談してみようかなあ」
ところで松崎真和(まさかず/まな)は、妹の典佳(月城たみよ)から
「端役の男の子が足りない」
と言われ、兄2人とともに7月下旬東京に出て、ドラマの制作終了後の8月末まで東京に滞在。8月31日にアクアのライブ(越谷の小鳩ホール)のバックダンサーをキュロットのユニフォームで務めた後、熊谷から藺牟田飛行場に送ってもらった。
「もと兄ちゃんから車の鍵を預かったんだけど」
母が元紀のタントのドアを開けてエンジンの起動を試みたが掛からない。飛行場のスタッフに声を掛けたらエンジンの起動くらいはブースターケーブルつないでしてあげますよとは言われていたが、遅い時間だし、車の持ち帰りにはドライバーが2人必要なので土曜日に父と2人で来て回収しようということにした。
真和は元々女性指向があったが、東京にいる間は完全女装生活になっていた。それで帰りもスカートを穿いていた(実は行く時からスカートを穿いていた!)
スカート姿の真和を見て父は
「おお、可愛いな」
などと言う。高校の女子制服を典佳が作ってくれた話がこちらに伝わっていて
「女子制服あるなら着てみなさい」
と言われる。それで着てみると
「女子高生にしか見えない」
と言って父は喜んでいる。
「母さん、性別変更届けを書いてやりなさい」
などと父が言って、母は本当に書いて父が署名捺印した。
性別変更届 1年1組松崎真和
性別が変わりましたので届けます。
旧性別 男
新性別 女
旧姓名 松崎真和 まつざき・まさかず
新姓名 松崎真和 まつざき・まな
保護者名 松崎泰治
元々真和の名前はよく「まな」と誤読?されていた。本人もあちこちの登録を「まな」でしている。実は銀行口座なども「まつざき・まな」で登録されていたりする。友人からも「まなちゃん」と呼ばれていて、「まさかず」は単に住民票の上でそう登録されているだけである。
しかし真和は渡された性別変更届けを手に「これジョークなの?マジなの?分からないよう」と思った。
お風呂に入ってから自分の部屋に入り、疲れてるのでそのまま布団に入った。女の子らしい可愛いピンクの花模様のパジャマを着ている。それですぐに眠ってしまったが、夜中に目が覚めて唐突に
「今日からぼく女子制服で登校するの?それともあれただのジョーク?」
と思う。
真和は元紀兄(既にほぼ姉)にメールをした。
「性別変更届けって渡されて明日からは女子制服で登校しなさいとお父ちゃんに言われたんだけどどうしよう?」
たぶん返事は朝だろうと思ったのに即返信がある。
「直接電話で話さない?」
それで真和は布団の中に潜り込み、元紀姉に電話した。
「まずマナ自身としてはどうなの?女子制服で登校したいの?」
「それはしたい。でも許される訳が無い気がする。ぼく身体は完全な男の子だし」
「普通は性同一性障害の診断書とか取って提出しないと女子制服通学は認めてもらえないだろうな」
「ああ、やはりそういう手続きになるか」
「あるいは本当に性転換しちゃうかだな。現実に女の身体であれば学校は性別を女子に訂正してくれると思う」
「うーん・・・」
「ところでマナ、魔女っ子何とかちゃんって子と去勢の約束したんだっけ?」
「もしかしてお姉ちゃんのところに出て来た?」
「そちらまで行って去勢してあげると言ってたよ。形代となるマークを描き写したものをそちらに送るから9月2日か3日には着くと思う。もし去勢するつもりがあったらそれを自分の下腹部、おへその下にマイネームとかで描き写せって。そしたらお前の所に行けるらしい」
「あれ夢じゃ無かったのか・・・・」
「去勢してたら女子制服登校認められるかもしれないよ」
「うっ・・・」
「でも去勢するかどうかはよくよく考えたほうがいい。取っちゃったら後で後悔しても回復のしようがないから」
「うん」
「マナ、取り敢えず9月1日、2日は疲れてるとか言って学校休め」
「あ、その手があったか」
「それで女子制服登校するかどうかは月曜の朝までに考えればいい」
「そうする」
それで結局真和は姉の助言に従い、9月1日と2日は学校を休むことにしたのである。
元紀は、真和との電話を終えた後考えた。
こういう事態になったら、少しでも早くこの呪符を送ってあげなければ。電子メールで送っても無効というから、速達で送るか、あるいは宅急便のほうが速いか。
元紀はやはり速達で送ろうと考え、郵便局の夜間窓口に行って来ようと思った。寮の庭にはいつもSCCの車が駐まっている。それを使わせてもらおうと思って、昼間の服装(Tシャツと膝丈スカート)に着替えると、下に降りた。ちょうど自販機の所に来ていた七石プリムと遭遇する。
「お早うございます」
「お早うございます」
「元紀(もとき)さん、こんな夜中にお出かけですか」
「うん。真和の忘れ物を送ってあげようと思って。多分宅急便より郵便局の速達が速いよね?」
「急ぐんですか?」
「うん」
「だったら物凄く速く届ける方法があるんですが、その封筒私に預けてもらえません?」
「物凄く速く?」
「宛先はどこですか?」
「鹿児島県の薩摩川内(さつませんだい)市という所なんだけど」
プリムは一瞬後ろのほうに意識をやるような雰囲気を見せた、それで頷いている。
「午前中には届けると言ってます」
誰が“言ってる”んだあ!?と思ったが、信用していい気がしたので、元紀は速達で出すつもりだった封書を彼女に託した。
「午前中って9月2日午前中?」
「いえ。9月1日午前中ですよ」
どうやってそんなに速く持って行けるんだ!?
「料金は?」
「稲荷寿司が20個欲しいと言ってます」
「分かった。それひかりちゃんに渡せばいい?」
「はい。それで本人に渡します」
それで結局、元紀はそのままコンビニまで行って、お稲荷さんのパック、巻寿司とのセットを全部買ってきた。そして夜中に悪いとは思ったが、ひかりに電話を掛けて1階に呼び出して渡した。(元紀はひかりが住んでいる4階には入れない)
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