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■夏の日の想い出・止まれ進め(9)
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吉川日和(入瀬コルネ)は8月26日(金)の放課後、いつものようにフラミンゴで練習していたら、休憩時間の時、スマホにメールが着信していることに気付く。母からで
「土日のライブでお手伝いお願いしたいって音楽部長の川内峰さんから。学校に迎えをやるって」
ということである。
“川内峰”さんって、川内部長さんのことかな〜と思う。メールしてみると
「人手が足りなくて。月曜の朝までには帰すから伴奏をお願い」
ということである。
「伴奏とか言われてもぼく何も楽器できませんが」
と返信すると
「もしかしたらコーラスになるかも知れない。それと大型時代劇の衣裳合わせもしたいし」
ということだったので
「分かりました。では行きます。能登空港に行けばいいですか?」
とメールする。
「今どこに居る?」
「氷見南IC近くの火牛体育館氷見分館というところで通称はフラミンゴ・ピーコックというんですが。6月にできたばかりだから、まだGoogle Mapにも載ってないんですよ」
「多分分かると思う。そこに車で迎えに行かせる」
「分かりました」
それで日和は部長に言ってあがらせてもらう。控室でシャワーを浴びて下着を交換。ブラウスを着て制服のズボンを穿く(スカートを穿くのが恥ずかしいのでズボンを穿いている)。
やがて夏野明恵さんが来て、顧問の奥村先生に声を掛ける。奥村先生も顔見知りなので「よろしくお願いします」と言って、日和を引き渡した。日和の着替えとかの荷物は、五月ちゃんが「自宅に持ってってあげるよ」と言ったのでお願いした、
それで日和は、明恵が運転する放送局のヴェゼルに乗った。
「このまま東京まで走るんですか?」
「ううん。飛行機に乗る」
「じゃ能登空港か富山空港?」
「いや、氷見飛行場」
「へ?そんなのどこにあるんですか」
「9月2日に開港する」
「まだ開港してないじゃないですか」
「テスト飛行だよ」
「へー!」
それで車はフラミンゴを出てから10分ほどで飛行場に到着した。
「なんか工事してるなあと思ってたけど、こんな山の中にショッピングセンターとかでもないだろうし、工場かなと思ったら空港だったんですか」
「空港ではなくて飛行場ね」
「それどう違うんです?」
「大きくて公共性のあるのが空港。小さいのやプライベートなのが飛行場」
「へー」
飛行場には多数のヘリコプターやドローンが駐機している。しかし1機だけ中型の固定翼プロペラ機が駐まっていて、明恵と日和は飛行場スタッフにそこへ案内された。
「今日はホンダジェットじゃないんですね」
「うん。これはHAL Do228。この飛行場は地元との“口約束”で、緊急時以外はジェット機を離着陸させないことにしてるんだよ」
「ああ、騒音の問題ですか」
「主としてそれだね。一応滑走路はジェット機の離着陸に耐えられるように造られている」
「そうだ、明恵さん」
「うん」
「ぼく今生理中なんですけど、どこかでナプキン買えるところありますかね」
「今日泊まってもらう小鳩シティにはコンビニもあるからそこで買えばいいよ」
「よかった」
「でも着替えとかも必要だよね。向こうに連絡しとくよ」
「ありがとうございます」
「ちなみにナプキンのブランドは?」
「肌思いです」
「OKOK。でも取り敢えず別ブランドだけど2個プレゼント」
と言って、自分のを分けてくれた。
「ありがとうございます!」
それで待っている内に、やがて真珠さんと邦生さん、そして日和の知らない女性2人(田中世梨奈・日高久美子)も来て、この6人が乗ったところでDo228は氷見飛行場を離陸した。
日和はプロペラ機というのは初体験で、プロペラの音が物凄くうるさいなと思ったが、近くに飛行場があるのは便利だと思った。
飛行機の機内で28日に越谷の小鳩アリーナでおこなわれるネットフェスで、西宮ネオンさんと川内みねかさんの伴奏をお願いしたい、と久美子さんから説明がある。
「それだけのためにわざわざぼくたちが呼び出されたの?伴奏できる人なんて東京にもゴロゴロいるじゃん」
と邦生さんが言っている。
日和も同感だと思った。まあぼくの場合、衣裳合わせもあるらしいし。
邦生さんは楽器を4つ持っていた。チューバ・ホルン・トランペット・トロンボーンらしい。久美子さんはアルトサックス、世梨奈さんは小さなケースでフルートらしい。
でも邦生さんも自称が“ぼく”なんだな。真珠さんも“ぼく”だし。ぼく少女って結構居るのかなと少し2人に親近感を持った。
↑自分を少女に分類している。やはり生理が来て女としての自覚ができてきたのかな?
Do228は40分ほどの飛行で熊谷の郷愁飛行場に着陸した。プロペラ機だと2〜3時間かかるのだろうかと思っていたのに(そんなに掛かる訳が無い)意外に早く着いたので、これ楽でいじゃんと思った。
郷愁飛行場で郷愁ライナーに乗り換える。これは日和は初乗車になった。農大前という駅で降りる。そこに千里さんがいたので会釈した。でも千里さんの車(ロッキー)には明恵さんと真珠さんだけが乗り、日和たち4人はもう1台駐まっていたエスティマに乗る。SCCのドライバーさんが運転して1時間半ほどで、公園のような所に着いた。ここが越谷の小鳩シティということだった。
まずはここを案内してもらった。地上に小鳩ホール、地下に小鳩アリーナがある。小鳩ホールは映画『お気に召すまま』のラストシーン、カーテンコールの場面に使われたと説明された、
「普段はここの客席には1000体以上の人形がまるで観客みたいにして並んでいるんですが、今回はここから中継をするので人形たちは地下のアリーナの方に移動してもらって、代わりにモニターとスピーカーのセットを並べました」
と説明される。
モニターは2000個くらい(誰もきちんと数えていない!)、スピーカーは4000個くらいあるという。これが全部点いたら壮観だろうなと日和は思った。
それから長い階段を降りて小鳩アリーナに行く。エレベータを使わないのは密回避のためだという。楽器などを運搬する時はもちろんエレベータを使ってよい。邦生さんや久美子さんは楽器を1階のフロントに預けていた。
「大きーい」
「普段は、ここを本拠地とするバスケットチーム、チーム白鳩が使用しています。小鳩ホールから移動してもらった人形たちが2階席に座っています」
「あれ人形か」
「観客が居るのかと思った」
体育館には前後にステージが設営されている。これを交互に使用して、他方で演奏している間に他方は清掃・消毒するのだという。モニターは回転椅子に乗せられていて、ステージが切り替わると一斉に180度回転して演奏するステージを向くのだという。すごーい!
練習用のスタジオなども見学してから、1階に戻る。ここで宿泊所のルームキーが配られたが
「吉川日和(ひな)様、お荷物が届いております」
と言われる。
“ひな”というのもよくある読まれ方である。多分“ひより”の次に多い。他に“ひわ”とか“はるか”とか読まれることもある。前出のように兄は自分を“はるな”と呼ぶ。本人ももはやどうでもいいと思っている。
荷物を見ると見覚えのある旅行バッグである。どうも萌花が用意してくれたようである。ドラマの撮影の間は§§ミュージックの寮の萌花の部屋に泊まっていたが、その時の着替えは、「荷物にもなるしまた来るし」といって部屋に置いて来ていた。それを送ってきてくれたようだ。
日和はその荷物を受け取り邦生さんたちと一緒に宿舎の5階に行き、自分の部屋505に入った。荷物を開けてみると、ブラジャーが3枚、ショーツが6枚、ソックス3足、Tシャツ5枚、スカート3着である。他にスウェットの上下(シャツと膝丈スカート)がある。またナプキンの“肌思い”があるがこれは前回東京に来た時、生理が来るタイミングではなかったものの念のため寮でもらっておいたものである(女子寮では生理用品が無料支給される)。だから未開封である。しかし・・・
「ズボンは無いの〜〜!?」
と日和は思った。
(もちろん萌花は意図的にズボンを外してスカートだけ荷物に入れた)
でもナプキンが入っていたので「助かったぁ」と思った。
晩御飯がデリバーされてくるのでそれをいただく。21時に打合せをしますということだったので、日和はアラームを掛けて一眠りした。
打合せは117スタジオでおこなうということだった。日和は、結局制服のブラウスとズボンでスタジオに行った。音楽部長さんや萌花なども来ている。日和は手を振って、萌花の隣に座った。
「なんでズボン穿いてるの?スカート穿けばいいのに」
「スカートとか恥ずかしいよぉ」
日和が行ったのが20:50頃で21:02くらいに久美子さんが
「ごめんなさい。遅くなって」
と言って走り込んできた。
「これで全員揃ったかな」
と川内部長さんが言う。
「それでは“Luminaries”の第1回打合せを始めます」
と川内峰花部長は言った。
「27-28日、明日・明後日は三大ネットテレビ、アロロ、ジェッターTV、あけぼのテレビ共同主催の“ネットサマーフェスティバル2022”が開かれます。§§ミュージック関係では、27日明日に仙台で常滑舞音ちゃんとアクアのライブ、28日明後日にここ小鳩アリーナで、その2人以外の20アーティストのライブが行われます。その中で皆さんには、西宮ネオンちゃんと川内みねかの伴奏をお願いします。どちらも30分間の演奏です」
「つまりアーティストごとに伴奏者が交替するんですね」
と邦生さんが尋ねる。
「そうなんです。多数のアーティストが次々と登場するので、ずーっと同じ伴奏者では似た感じになりがちなので、雰囲気を変えたいんですよね」
「でもぼくたちは、ネオン君の曲にも、ルンバさんの曲にもあまり馴染みがないですし、演奏したこともないですよ」
ルンバさんって誰だろう?と日和は思っている。
「それは構いません。元々ネオン君は専任バンドとかもないし固定の楽曲提供者も定まっていないので、実は必ずしも音楽の方向性が明確じゃないんですよね」
「ああ。その点はリズムちゃんとか、舞音ちゃんみたいな明確な方向性が感じられない面ありますよね」
「そうなんですよね。リズムにしても舞音にしても早い時期に専任バンドができたから、バンドと一緒に音楽を作ってきたような面がありますね。2人とも大半の歌詞を自分で書いてるし」
と川内部長は言う。
「ルンバさんの場合は方向性があまりにも多数あるので把握出来ない」
「あの子は器用貧乏なんですよ」
「じゃあ、ぼくらの音楽をやりますよ」
「ええ、それでいいです」
「ところでパートは誰が何ですか。ぼくは取り敢えずトランペット、ホルン、チューバ、トロンボーン、と持って来ましたが」
「それをまず決めなければならないんですが、皆さん何が出来ます?」
というので、全員声域とできる楽器を書き出してもらった。
(下記で括弧付きは楽器は持ってきてないが演奏できるもの)
吉田邦生(Alt) Tp Tb Horn Tuba (Dr)
田中世梨奈(Sop) Fl (Pic)
日高久美子(Sop) ASax (TSax)
上野美津穂(Mez) Cla (Asax)
吉川日和(入瀬コルネ)(Sop) Vn Fl
吉川萌花(入瀬ホルン)(Sop) (Electone) Gt Vn Fl Horn
観音倭文(麻生ルミナ)(Alt) (Piano/Electone) Fl Cla
杉本ひかり(七石プリム)(Alt) (Electone) Vn Fl Cla ASax (TSax)
守口清美(夏江フローラ)(Sop) (Piano) (Vib/Mar) Fl Cla ASax (TSax)
日和は最初
「ぼく楽器はできません」
と申告したが、妹のホルンが
「お姉ちゃんは私よりヴァイオリンもフルートも上手いです」
と言い、勝手に楽器を書き足した!
「さすが信濃町ガールズはみんな能力が高い」
と邦生が言う。
「私たち来る必要無かったのでは?」
と世梨奈。
「私、カウンセリング室に帰ろうかな」
と美津穂。
「まあそう言わずに楽器を割り当てよう」
ち川内さんは言った。
「吉田さんドラムスが打てるんですね。ちょっと打ってみてもらえます?」
と言って譜面と、消毒済み書かれた袋に入ったスティックを渡される。それで邦生さんはドラムスセットに座り譜面を見ながら打つ。
格好いーい!
女性ドラマーって格好いいなと日和は思った。
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