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■夏の日の想い出・止まれ進め(20)
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ちょうど足の脱毛の跡も落ち着いて来た7月29日から8月6日に掛けて車持皇子(くらもちのみこ)の航海のエピソードを撮影する。これはたくさんセリフもあり、とても楽しい役だった。このエピソードの前半は男装、後半は女装で演じる、その途中、女人国で性転換してしまった時に着たのが東京に出て来た時にすぐ作った女子高生制服であった。なるほどー。ここで着るために制服を作ったのかと理解した。
一方で真理奈は信濃町ガールズに入ってなかったら自分が4月から着る予定だった制服を弥日古にあげた。これは弥日古が現在通学している高校の制服でもある。それを着たところを写真に撮って母に送ってあげたら、母も「可愛いね。9月からこの制服で通学するのね?」と言い、父は「お前、金玉取ってこのまま女になるか?」などと言っていた。
弥日古は本当に自分がこの制服で通学するシーンを想像(妄想)してドキドキしていた。
車持皇子の航海の撮影をしている最中。
女人国では皇子以外全員性転換してしまうのだが、弥日古が演じる船頭は航海のメンバーの中で最後に性転換する。それで「女子高生制服に着替えて下さい」と言われて船のセットから離脱し、セットの近くに用意されているドレッシングルームで着替えた。そして出ていこうとした時、山村マネージャーに声を掛けられた。
「お前、ちょっと喉貸せ」
「はい」
それで山村さんがしばらく喉に手を当てていた。
「これでいいぞ」
喉仏が無くなってる!
「喉仏必要なら後で元の状態に戻してやるけど」
「いえこのままでいいです」
「だったらそのままで」
「お前、女の子になりたいよな?」
「なりたいです!」
「撮影が終わった後、女になりたかったら俺に連絡しろ。女にしてやるから」
と言って名刺をもらった。
そうだよね。多分手術したら一週間くらい動けないだろうから、性転換するのは撮影が終わってからだよね、とこの時は思った。
でも山村さんって“俺女”なのね。どこか田舎の出身なのかな(←山村を女と思ってる)。
弥日古が急速に女性化しているっぽいのを心配した寮長(花咲ロンド)は弥日古に精液の冷凍保存を勧めた。ところが精液の保存をするためにはその前一週間程度の禁欲が必要である。これが全く自信が無かった。
そもそも撮影時以外はずっと女装していて、撮影所にも妹からもらった女子高生制服で出入りしているという状況は刺激が強すぎて、弥日古は日に2〜3回自慰をしていた。
悩んでいたら航海エピソードで競演している鈴原さくらちゃんが
「タックしておけば触れないからオナニー我慢できるよ」
と言った。
「タック?」
「あ、知らない?やってあげるよ」
それで彼女が弥日古の泊まっているマンションの部屋まで来てやってくれた。
「凄い!」
「知らなかったんだ?」
「これ画期的ですね!」
「何かもう性転換手術受ける必要が無いって感じだよね」
「ほんとですね!」
それで弥日古は8月中に4回、精液の採取をした。精子はとっても元気という話だった。ここしばらく毎日何度もオナニーしてたからかもと思った。しかしこの精液採取をしていたので、弥日古は8月中は性転換することができなかった。それに鈴原さくらちゃんが言ったように、タックしてたら性転換手術を受ける必要が無い気がしてきた。まあこの状態では男の人と結婚できないだけかな。
弥日古は女の子にはなりたいけど、恋愛対象はむしろ女の子なので、男の人とセックスすることにはあまり興味が無い。
撮影は若干の撮り直しもあったので、8月6日が過ぎたあとも、何度か千葉の撮影所に行った。それ以外にも弥日古は楽器が色々できるので、音源制作やテレビ番組などでのリアル伴奏も頼まれた。そういう時はスカートを穿いて出て行っていた。
真理奈はもう自分のことを“やーお姉ちゃん”あるいは単に“お姉ちゃん”と呼んでくれるようになった。
ドラマの制作が完全に終了した後は男子寮に移動したが、ここでセレン・クロムから幾つか注意された。
しばしば部屋のドアノブにビニール袋が掛けられているのは“怪人X”の仕業。お洋服やおやつなどはもらっていいが、機械類はとても危険なものが多いので捨てたほうがいい。“栄養剤”と書かれているのは女性ホルモンだから飲まないほうがいい
ドアノブのビニール袋は毎日掛けられていた。栄養剤と書かれているものは確実に飲んだ!そして3日目の夜、“おっぱい”が入っていた。
弥日古は「これすごーい」と思って、シャワーを浴びて身体をきれいにした上で胸に貼り付けた。鏡に映してみると豊かなおっぱいがあって、完全に女の子になっちゃった感じである。お股はタックしているから余分なものがぶらぶらすることもない。喉仏はすっきりしている。完璧な女体ヌードを記念撮影しようと思い、自分のスマホで撮影した。
(この写真が真理奈に見付かり、真理奈がこれを母に送ってしまい、両親は“とうとう性転換手術したのか”と思った)
精液の採取の4回目は
「少し活動性が悪いけど顕微鏡受精すれば大丈夫ですよ」
と言われた。
やはり女性ホルモン飲み始めたせいかなあと思った。
結局弥日古は山村さんに連絡してない。毎日お仕事があって、忙しくて性転換などしてられなかった!またロンドちゃんからも「本気で性転換手術受けるなら未成年でも手術してくれる病院紹介するけど」と言われたが、10月に来た時に考えますと言っておいた。
弥日古は8月30日の舞音ちゃんのライブ(越谷の小鳩ホール)でスカートの制服(正式にもらった)でバックダンサーを務めたあと、熊谷の郷愁飛行場から宮崎空港まて送ってもらった。
スカート穿いたまま帰宅したらお父ちゃんに叱られるかなと少し不安があったが父は叱ったりせず上機嫌で、高校の女子制服を着てみるよう言った。着てみせると両親も妹も「似合ってる」と喜んでくれた。
そして9月1日、学校に登校するのに制服を着ようとしたら、男子制服が見付からない。ワイシャツも見付からない。仕方ないので女子制服を着て「この制服で登校したら叱られるかなあ」などと妄想していたら母が来て「御飯食べなさい」と言われる。それで女子制服のまま食卓に出ていったが、父は別に怒ったりしない。
食事が終わってから、やはり男子制服を探して着替えようと思ったら
「何か忘れ物てもした?」
と聞かれる。
「いや男子制服に着替えなきゃと思って」
「男子制服とか捨てたけど」
「嘘!?」
「だってあんた女の子になったから今日からは女子制服で通学するんでしょ?」
母の話によると、弥日古の“ヌード写真”を見たので、学校にも性転換したので女子として通学させてほしいと申請し、認められたという。
なんでぼくが自分のスマホで撮っただけの写真がこちらにも来てるの〜〜!?
「だから安心して女子制服で登校しなさい」
と母は言って女の子らしい可愛いお弁当箱も渡された。
ぼく今日からは女子高生なの〜〜〜〜!??
それで男子制服ももう無いと言うし(妹の留依香はもちろん男子制服など着ないだろうし、そもそもサイズが合わないので男子制服は捨てたらしい)、仕方ないので、弥日古は不安感いっぱいのまま女子制服で学校に出て行った。定期券は母が買っておいてくれたが、券面に“性別:女”と印刷されている。
知ってる人に見られたら変に思われないかなあとバスの中では不安だったが、誰にも会わなかった(たぶん遭遇しても弥日古が気付いてない)。女の子らしい花柄内側のローファーを靴箱に入れる。
女子高生としての初登校!!である。
恐る恐る教室に行く。
「おはよう」
と声がかかるので
「おはよう」
と返す、自分の席に行くと、クラス委員女子の麻巳子ちゃんが寄ってきた。
「先生から聞いてるし、私と保健委員・体育委員・生活委員でも話し合ってるから心配しないでね。ヤコちゃんの扱いは完全に女子だから」
「ありがとう」
「あ、女の子らしい声が出るようになったんだ」
「うん。ボイトレに通ったら出るようになった」
「元々、ヤコちゃんの声は女の子っぽかったけどね」
「そうかな」
「きっと女性ホルモンのせいで女の子らしい声になってたんだよ」
「あっそうかもね」
なおこの学校は混合名簿なので、性別が変わっても出席番号は移動しない。
学期初めで全体朝礼があるので体育館に行く。
「ヤコちゃんはここに並んで」
と言われて、女子の列に並んで校長先生のお話を聞いた。
その後教室に戻り、担任の先生のお話があるが、結局、弥日古が“性転換して女子になった”ことは、朝礼でも何もふれない。どうもわざわざ取り立てて騒がないようにしようということで、クラスメイトには話が通っているようである。
やはりぼくもう完全に女子扱いなんだ。完全に不帰点を越えちゃったと思った。
休み時間トイレに行く時は、元々仲の良かった比奈美ちゃんが手を握ってくれて一緒に女子トイレに入った。
「ヤコちゃんって元々手を握った感触が女の子の感触だったもんね」
と言われる。
あれ〜〜?そうだっけ。
「やはりずっと女性ホルモン飲んでたんでしょ?」
「う、うん」
ここは話を合わせておいたほうがいい気がした。
昼休みにお弁当を食べるが
「可愛いお弁当箱だね」
とみんな言ってくれた。女子はみんな“シェリーメイ”と知っていたが男子は知らない子が多く
「なんかネズミのキャラクター?」
などと言われる。
「熊だよ!」
「熊だったのか。ごめんごめん」
ちなみに九州には熊かいない。(1957年に遺体が見付かったのが最後)
でも性別が変わっても人間関係は全く変わらないんだなと思った。いつも話してた比奈美ちゃんや一恵ちゃんとは普通に話す。一恵ちゃんには
「ヤコちゃん性別変わっても中身は全く変わらない」
と言われた。
「だって中の人は同じだから」
「中の人って背中にファスナーがあって、それで男子高校生から女子高校生に着替えたんだったりして」
「それで性別変えられるなら、私男の子になってみたい」
「ああ、一恵ちゃんは昔からよく男の子になりたいと言ってる」
ただ、自分が女子高生になったおかげで、夏休み前まではいつも1人でお弁当食べてたのが女子と一緒に食べるのに抵抗が無くなったかなという気がした。
弥日古は元々女子の友人が多く、男子の友人は少なかったが、数少ない男子友人の雅友君なども普通に話しかけて来て
「やはりヤっちゃんは性別が変わっても性格は変わってない」
などと言っていた。
お昼休みはお弁当を食べた後で職員室に行き、新しい生徒手帳用の写真を撮られた。
「新しい生徒手帳は来週には出来てくると思うから」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
そういう訳で、弥日古はその日、女子高生として無難に1日を送ってしまった。
性別が変わったと言っても特に何も変わらないんだなあ。女子トイレを使えるようになったくらい、などと思う。明日は時間割に体育あるけど、特に問題無いよね。ぼくテレビ局では女性用控室で他の女性たちと一緒に着替えてたし、などと思う。しかし、終わりの会で、弥日古は衝撃的な言葉を聞いた。
「明日の体育は水泳ですから、各自水着とバスタオル、着替えなどを用意してきてください」
と体育委員が言う。
水着か。スクール水着買って来なくちゃと思った。7月の水泳の授業は男子水着とか着たくないから全部見学しちゃったけど、これからは女子水着で出ればいいから、凄く気楽になるなと思う。ぼくのヌードは女の子にしか見えないから、更衣室も多分何とかなるだろう。
ここまでは良かった。
「春にコロナの影響で中止になり延期していた心電図検査と内科検診を、月曜日の午後に今月の身体測定と一緒に実施します」
と保健委員が言った。
心電図検査〜〜〜〜!?
内科検診〜〜〜!?
身体測定くらいなら、女の身体でないことを誤魔化しきれる自信あるけど、心電図検査でブレストフォームではきっと機械が反応しない。そしていくらなんでも内科検診だとお医者さんにはバレる!
(花園裕紀みたいにブレストフォームで内科検診・心電図検査を乗り切った人もいますけど?)
学校の帰り、しまむらに寄り、お店のお姉さんにサイズを測ってもらって女子用の競泳用水着を購入した。ここの高校ではワンピース水着で、華美でないものであればOKである。基本的に競泳用水着推奨なので、それにした。一恵ちゃんたちが「水着選ぶの手伝ってあげようか?」と言ったが遠慮した。
絶対恥ずかしい水着を選ばれるに決まっている!
他にビニールの水着入れ、着替え用バスタオル、ゴーグル、水泳帽なども買った。
そして自宅に戻りながら、弥日古は水泳の授業のことより、週明けの内科検診や心電図検査のことを考えていた。
絶対ヤバい気がする。
そして自宅に帰ってから少し考えていて、ある人物に電話した。
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