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■夏の日の想い出・止まれ進め(16)
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宮崎県都城(みやこのじょう)市の藤弥日古(ふじやひこ)は夏休みに入ってすぐに東京に出て来た。信濃町ガールズのメンバーの兄弟たちの中では最も早く出て来たので、結果的に大きな役をもらうことになった。“広瀬のぞみ”の芸名をもらい、妹の広瀬みづほ(藤真理奈)と一緒に、ドラマ『竹取物語』の制作に参加。船頭の役をしたが、セリフもたくさんあり、撮影は5日に及んだ。
ちなみに彼の名前は“やひ・こ”で女名前ではなく“や・ひこ”で男名前である。きょうだいは全員3文字名前である。苗字が“藤”と1文字だから名前は3文字がいいだろうというので3文字になっているが、名前の区切りを間違えられやすいという問題もある。
藤井寿海(いずみ 2002)→藤井・寿海(ふじい・ひさみ)
藤弥日古(やひこ 2004)→藤弥・日古(ふじみ・はるこ)
藤真理奈(まりな 2006)→藤真・理奈(ふじま・りな)
藤留依香(るいか 2008)→藤留・依香(ふじとめ・よりか)
ちなみに父は那水貴、母は元恵である、
藤那水貴(なみき 1972)→藤那・水貴(ふじな・みずき)
藤元恵(もとえ 1978)→藤元・恵(ふじもと・めぐみ)
全員女の子の名前に見えるのはきっと気のせい。
ドラマの制作が終わった後は、足立区の宿舎から世田谷区の男子寮に移動し、主として音源制作やテレビ番組などの伴奏に参加した。彼はサックス、オーボエ、クラリネット、トランペットが吹けるので、とても使い勝手があった。
こういう時彼は妹に乗せられて、女の子の衣裳で伴奏を務めた。
「あのサックス吹いてる女の子かっこえー」
「広瀬みづほちゃんのお姉さんらしいよ」
「へー。姉妹そろって美人だね」
「『竹取物語』では車持皇子の船頭の役してた」
「ああ。前半は男装してたけど、この子女の子だよね?と思って見てたら後半は普通に女の子の格好に戻ってたね」
彼は元々女顔であったが、東京に出て来てすぐに美容室で女の子らしい髪型にしてもらっているので、ますます女の子のように見える。
真理奈(みづほ)が信濃町ガールズ本部生になっていなかったら着るはずだった地元の高校(=弥日古が通学中の高校)の女子制服を兄に着せ、写真を母に送ってあげたら
「可愛いね!この制服で9月から登校するの?せっかく作った制服が無駄にならなくて良かった。性別変更届け出しとくね」
などと母は言い、父も
「なんでこいつこんなに女の制服が似合うんだ?このまま女になるか?」
と喜んで??いたようであった。
彼は東京にいる間に顔のむだ毛と足のむだ毛のレーザー脱毛をしちゃった。また声もボイトレを受けて女声が出せるようになった。彼はタックも覚えたし、男子寮の“ドアに掛けてあったビニール袋”に入っていたブレストフォームも胸に貼り付けてみた。それで完璧に女の子のヌード写真にしか見えない写真を密かに自分のスマホで撮影し、それを見て、うっとりしていた。
「ぼくほんとに性転換手術受けちゃおうかなあ」
などと思ったりする。
女の子ライフを1ヶ月以上続けて来て、もう9月から男の子に戻るのが嫌だと思うようになってきた。副社長から「性転換手術受けさせてあげようか」と言われた時、断らなければ良かったなどとも思った。
(むろん、ゆりこはジョークで言っている)
彼(既に彼女かも)は妹の広瀬みづほや春野わかななどと一緒に“まろみJunior”として、8月22日のルビー&パールのライブで幕間のパフォーマンスその他を務め、27日のネットフェス・常滑舞音のステージでは幕間に登場した薬王みなみの伴奏をした。そして28日のネットフェスでは、ロマン&ポルカの伴奏をした。
彼女は8月30日の常滑舞音のネットライブにもバックダンサーとして参加した。この時も、スカートのユニフォームを着た。のぞみは信濃町ガールズのユニフォームは正式に練習用と本番用を2セットずつもらった。もちろんもらったのはスカートタイプのみである!
しかし夏休みは終わってしまう。
彼女は溜息を付いて男子寮を退去する。
31日のお昼過ぎ、SCCの車で送ってもらい熊谷の郷愁飛行場に行く。そして Honda-Jet
goldで宮崎空港まで運んでもらった。
ドラマ『竹取物語』で着た女子高校制服っぽい服、そして妹からもらった現在通学中の高校の女子制服を持ち、そのほか40日間ほど東京に滞在している間に大量に増えた女物の服や下着(これだけで旅行鞄2つある)を持ち帰る。帰路で着たのは、水色のTシャツと膝丈の黄色いスカートである。もう男の服は着たくない気分だった。
なお藺牟田飛行場に送ってもらった月城利海と別行動になったのは、利海が31日のアクアのネットライブ(13:00-15:00) に出演するのでそれが終わるのを待っていると、その日の内に宮崎空港と藺牟田飛行場の両方に行くのが困難になるためである。特に発着の多い宮崎空港は着陸時刻を厳守しなければならない。
宮崎空港には、母が車で迎えに来てくれていた。到着ゲートを出てきた弥日古を見て「あら可愛い」と笑顔で言う。スカートとか穿いてたらお父ちゃんが怒るからズボン穿きなさいとか言われるかと思ったが何も言われないので、いいのかなあと思う。
帰りの車の中では東京での生活やお仕事の話、また妹の様子などもたくさん話した。
「音楽部長さん(花ちゃん)が多久市の出身だし、他に鹿屋市とか福岡とか津屋崎とか有田とか、九州出身者も多いんだよね。普通の事務所のタレントさんって東京近辺出身の人多いみたいだけど、信濃町ガールズは毎年全国オーディションやるだけあって全国に出身地が広がってる。高崎ひろかちゃんは帯広だし、夕波もえこちゃんは与那国だし」
「北から南までいるんだね!」
「逆に全国から選抜するからレベル高いんだと思うよ」
「なるほどー」
自宅に帰っても、父は弥日古がスカート姿なのには何も触れない。少しお酒が入っているようで上機嫌で妹の様子なども聞きたがった。服装に付いては女子制服を着てみるようリクエストされたので着てみたが
「普通に女子高生にしか見えん」
と言って感心していた。
更に父と並んだ記念写真、母・妹(留依香)と並んだ記念写真まで撮って、それを真理奈(広瀬みづほ)に送ってやっていたようであった。
「あんた女の子の声が出るようになったんでしょ。聞かせてよ」
「え、そんな恥ずかしい」
「おお、可愛い声だ!」
と両親は喜んでいる。妹も
「ああ、これなら元男の子だとはバレないね」
などと言った。
“元男の子”ってまるでぼくもう女の子になっちゃったみたいと思う。
弥日古もその日はさすがに疲れているのでお風呂に入って(実際にはシャワーのみ)、タックのメンテをした後、20時半で寝た。
翌日、朝6時で目覚める。トイレに行く。もちろん座ってするし、おしっこはとても後ろの方から出る。
この出方いいなあ。もし性転換手術受けたら、これがもっとストレートに出る感じになるのだと聞いた。ぼく20歳になる前に性転換手術しちゃうかも、などと思った。女性ホルモンも飲んだ方がいいのかなあ。飲み始めたらもう後戻りできないから少しでも迷いがある内は絶対飲んではいけないって、ゆかりちゃん(セレン)が言ってたけど。
もう女の子になりたい気持ちは動かない気がした。
おしっこの出た所を拭き、パンティとパジャマのズボンを上げて部屋に戻る。パジャマを脱ぎ、寝る間は外していたブラジャーを着ける。それで鏡に映してみると女の子みたいな下着姿が鏡の中にはある。
バストはBカップくらいのサイズだし、お股はスッキリしたラインだし、喉仏も無い。足にはむだ毛はなく美しい脚線美がある。
この下着のまま学校に行っちゃだめかなあ、などと思う。そうだ。黒いアンダーシャツ着てれば分からないんじゃないかなあと思い、それを着てからワイシャツを着ようとして・・・
戸惑う。
ワイシャツが無い。
なんで?
何も着ない訳にはいかないから、取り敢えず東京に居る間に買ったブラウスを着てみる。これで学校行っちゃダメかなあ、などと考えてドキドキする。(既にワイシャツを探す気は無くなってる)
「上半身にブラウスを着る場合はボトムはスカートにして下さい」
と生活委員から言われたりして、などと妄想する。
それで制服のスカートを穿いてみる。鏡に映す。
ドキドキ。
ついでに胸元にリボンも結んでみた。
鏡の中には可愛い女子高生の姿がある。この格好で出掛けても道行く人は変に思わないような気がする。この格好で学校に登校したらさすがに叱られるよね?
「女子制服で登校するなら女子制服を着る権利があるか検査します」
とか言われて
「お股に変な物が付いていますね。これが付いてたら女子制服を着ることは認められませんから没収します」
とか言われて取られちゃったりして。それで
「お股に余分なものが無くなったので、あなたは今日からは女子制服で登校して下さい」
と言われちゃったりして、などと妄想する。
かなりドキドキしている。
いきなりドアが開く。
「きゃっ」
「あ、着替えてた?ごめんごめん。でも早く御飯食べなきゃ」
「あ、うん」
それで結局、弥日古はブラウスにスカートのままキッチンに行って朝食を食べた。留依香は弥日古の格好を見て、
「ほんとにこれなら性別を疑われることもないよ。自信持っていいと思うよ」
と言った。留依香は朝練があるからと言って先に出掛けた。
父も弥日古を見て
「娘が増えたのはいいことだ」
などと言っている。父は弥日古が朝御飯を食べている内に
「じゃ行くな」
と言って出勤して行った。
弥日古も朝食を食べ終わる。「おごちそうさま」。自分の分の茶碗、父と妹の分の茶碗をシンクに入れる。それで部屋に戻ろうとしたら
「何か忘れ物?」
と母から訊かれる。
「いや着替えようと思って」
「だってもう制服着てるじゃん」
「いや女子制服で登校するわけにも行かないし男子制服に着替えるよ」
「男子制服とか捨てたけど」
「嘘!?」
「だってあんた女の子になったから今日からは女子制服で通学するんでしょ?」
「え〜〜!?そんなの叱られるよぉ」
「心配しなくてもちゃんと性別変更届け出しといたから。それで今日登校してきたら、女子制服を着た写真を撮影して、それで性別を訂正した生徒手帳を発行するって先生言ってたよ」
“提出済み”の性別変更届けを見せてもらう。
性別変更届 3年2組藤弥日古
性別が変わりましたので届けます。
旧性別 男
新性別 女
旧姓名 藤弥日古 ふじやひこ
新姓名 藤弥日古 ふじやひこ
保護者名 藤加寿栄
嘘〜〜!?性別変更届けって冗談じゃなかったの??
「ふりがなは変わらないけど、今までは“や・ひこ”で男名前だったのが、これからは“やひ・こ”で女名前と説明しておいた」
などと母は言っている。
まさかぼく今日からは女子高生なの〜〜!??
「だって、あんた性転換して女の子になったんでしょ?あんたのヌード写真見たよ。お父ちゃんびっくりしてたけど、女になってしまったのなら仕方ない。これからは娘と思うことにするって言ってたよ(理解がありすぎる)。学校の先生にもあの写真を見せて『性転換したのなら女子として扱うことにします』と言ってもらったし」
ヌード写真を見た?それを学校の先生にも見せた!??なんでぼくが自分のスマホで撮っただけの写真がこちらにも来てるの〜?
(↑もちろん犯人は真理奈(広瀬みづほ)。スマホはきちんとロックしよう。でも真理奈も、両親がここまで“理解”してくれたのは計算外)
「だから安心して女子制服で登校しなさい」
と母は言った。
「これお弁当ね。留依香がこれ選んでくれたんだよ」
と言って、シェリーメイの絵が入ったピンクの可愛いお弁当箱を渡される。箸箱・お弁当箱入れも同じシェリーメイである。
ぼくもしかして“Point of no return”を越えちゃった?
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