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■夏の日の想い出・ボクたち女の子(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-09-20
 
アクアが(Mの)不本意にも、白雪姫を演じることになったのは、こういう経緯であった。
 
アクアは大和映像さんの企画で4月に『ロミオとジュリエット』をロミオとジュリエットの1人2役で撮った。映画は5月頭に撮了し、だいたい5月中に編集も完了した。公開は日欧米豪の(ほぼ)同時公開で7〜8月の予定になっており(日本では7月15日に公開された)、ドイツ語・英語・フランス語・スペイン語の吹き替え版を、ドイツのモンド・ブルーメ社が中心になって、各国の協力映画会社に依頼し制作した。(公開後にイタリア語・ポルトガル語・ロシア語版も制作された)
 
公開前の映像を見たモンド・ブルーメ社の社長(多数の名画を過去に撮っている名監督のアウグスト・ジールマン)が言った。
 
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「このジュリエット演じてる女優さん、ものすごくいいね」
「いいでしょ?」
とアクアで『気球に乗って5日間』を撮った、クラウス・ユンケル監督が言う。
 
「このロミオ演じてるのは、ジュリエット役の女優さんの双子の弟か何か?顔立ちがよく似てる」
 
「本人ですよ。一人二役なんです。吹き替え版ではハンナヴァルト兄妹に声を当てさせますけどね」
 
「嘘だろ?こんなにきれいに男女演じ分けられるなんて?」
「だから凄いんですよ、この子」
「この子・・・自然の性は女の子だよね?」
 
「それがよく分からないんです。女役の時は完璧に女だし、男役の時は完璧に男だし。本人は自分は男だと言っているけど、怪しいです。日本ではこの子は本当は女の子ではと思ってる人が多いみたいですよ」
 
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「いや。間違いなく女だと思うなあ」
「ね」
 
「FTMなのでは?」
「ひょっとするとそうかも知れません。でも多分身体は女のままの方がいいんですよ」
「ああ、FTMにはわりとそういう人いる」
 

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結局、ジールマン社長はこの映画を全部見てしまったのだが、言った。
 
「この子で次の映画撮ろうよ」
「ハイジとかモモでも撮りますか?」
とユンケル監督は尋ねる。
 
「Schneewittchen(シュネーヴィトヘン:白雪姫)がいい」
 
「いいかも知れません。自分は男だと主張するだけあって、この子、剣を扱う様とかもちゃんと形になってるんですよ」
「なってたね!」
 
と社長も言う。ロミオがティバルトと闘う所、パリスと闘う所は、アクア本人が吹き替え無しで演じている(ティバルト:松田理史は七浜宇菜の吹き替え!!)。
 
「でもこの子、自分は男だと主張してるから、基本的に女役だけでは仕事を受けないんですよ。男役との二役なら受けます」
 
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「だったら、王子か狩人か小人とセットにすればいい」
「狩人がいいかも知れないですね。王子は最後にちょっと出てくるだけだし」
「まあ出番増えす手はあるけどね」
「ディズニー1937年版みたいに元々白雪姫に恋してたという設定ならですね」
「それそれ」
 

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「まあそういう訳で、ドイツから、若手俳優のロビン・フライフォーゲル君がアウグスト・ジールマン社長と一緒に来日した」
と大曽根部長は、コスモスの所に来て、申し訳無さそうに言った。
 
「来日したって、もう日本に居るんですか!?」
とコスモスも驚いて言う。
 
「現在2週間の隔離中。一応フライフォーゲルもジールマン社長もバイオエヌテックのコロナ・ワクチンを既に2回接種している。ドイツから日本へは、チャーターしたサイテーション・ジェット(*1)に乗って飛んできて、現在は成田近くでうちが借りたホテルで隔離中」
 
「そのフライフォーゲル君が白雪姫を演じるんでしょうか?」
とコスモスは訊いたが
「ナイン(ノー)」
と大曽根さんのお答え。
 
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「アクアは女役は受けませんよ」
とコスモスははっきり言う。
 
「だから女役と男役の2役で頼みたい」
 
コスモスは渋い顔をする。ロミオとジュリエットだって、和泉からかなり文句言われたのに。
 

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「アクアに何をして欲しいと?狩人と王子の二役ですか?」
「狩人と白雪姫、王子と白雪姫、そのどちらかをして欲しい」
 
やはりそう来たか。
 
「ギャラは2人分で1000万ユーロ出そうという話になっている」
「1000万ユーロって、13億円ですか?」
 
さすがにコスモスも仰天した。『ロミオとジュリエット』のギャラは(2人分で)1.4億円である。その10倍だ。
 
「だいたいそのくらいの相場になると思う」
 
「アクア君が王子ならフライフォーゲルが狩人、アクア君が狩人ならフライフォーゲルが王子。彼にもどちらかをして欲しいと言っている」
 
「台本は?」
「現在概略の筋だけ2本作ってる。コスモスちゃんドイツ語は大丈夫だよね」
「まあ英語ほどうまくは話せませんけど」
「アクアを王子にする台本、アクアを狩人にする台本、2冊とも渡すから、できたら3〜4日のうちにどちらか決めて欲しい。それで詳細な台本を作らせる」
 
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「彼らの隔離が終了するまでに?」
「できたらそうしたい」
 
「フライフォーゲルさんというのは、どういう方なんですか?」
「これが彼の写真」
と言って見せてくれる。結構な美男子である。女装させてもいいくらい!
 
「映画はあまり経験無いんだけど、昨年向こうでテレビドラマの準主役をして、その演技がかなり注目された。僕も彼の出演シーンのビデオを見せてもらったけど、充分演技力はあるよ」
 
大曽根さんが「演技力がある」と言うのであれば確かなのだろう。一応コスモスは彼の登場シーンが入っているDVDのコピーを1枚もらった。
 

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それでコスモスはその晩、DVDも見た上で、2本の台本(になる前の原案)を読んだ。実は千里(*2)に自宅に来てもらい、コスモスが片方を読んでいる間に、もう1冊を千里に読んでもらった。コスモスがうまく読み取れない所は、ドイツ語に堪能な千里に教えてもらっている。
 
それで結局夜中すぎまでかかって2人で読んでみた、その結果。
 
「千里ちゃん、どちらがいいと思う?」
「狩人に1票」
「やはりそちらだよね〜。狩人は充分目立つけど、王子は目立たない」
「うん。付け足しみたいな役柄の男役だと、アクアは拒否すると思う」
「あの子もなかなか強情だから。もう“アクアは女”というのでいいと思うのに」
 
(アクアが『ピーターパン』のウェンディ役を引き受けたのは先週である)
 
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「あはは。それにフライフォーゲル君は優男(やさおとこ)で、狩人には似合わない」
「アクアはどちらでも演技できるだろうね」
「そう思う」
 
(*2)千里は公式にはオリンピックに向けて合宿につぐ合宿をしていることになっているが、実際には合宿に参加しているのは3番である。ふだんフランスに住んでいて、フランス語・ドイツ語・スペイン語に堪能な2番は時間が取れたので2番に来てもらっている。
 

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それでコスモスは7月12日(月)、成人式向けの振袖のCM撮影で福井から戻ったばかりのアクアを朝から代々木のマンションに訪ねたのである。
 
多忙なコスモスがわざわざアクアのマンションを訪問するというのは異例である。通常は用事があれば呼びつける。
 
アクアはコスモスを笑顔で招き入れながら、相当面倒な案件だなと思った。
 
昨夜から泊まっていた彩佳がまるで秘書のようにコスモスにコーヒーを出す。
 
「このコーヒー美味しいね」
「千里さんからいただきました」
「あの子は仕事の半分は輸入商になってる」
 

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「それでさ」
とコスモス。
 
「はい」
とアクア。
 
「悪いんだけどさ」
とコスモスは本当に申し訳無さそうに言った。
 
「何でしょう?」
とアクアは答えながら、どんな案件だと思う。
 
「ギャラが13億円という話でさ」
「13億!?」
 
彩佳が仰天している。何か想像のつかない金額である。宝くじの1等っていくらだっけ?などと考える(年末ジャンボは1等前後賞の合計で10億円)。
 
「本来はアクアの取り分は4割の5億になるけど、今回は事務所と山分けにしようよ。だからアクアは6.5億で」
 
「一体何の役です。そんなとんでもないギャラを出すって」
 
「白雪姫やって」
「え〜〜〜〜!?」
 
とアクアは声をあげたが、彩佳は吹き出した。そしてアクアに“代わって”答えた。
 
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「いいじゃん、いいじゃん。やるよね?こないだマリさんからも白雪姫をしない?と言われてたし。ついでにアクア、女の子になっちゃったこと、もう公表したら?」
 
(マリがわざわざアクアに電話して来て「白雪姫しようよ」と言ったのも、つい先週)
 
アクアは和泉さんが怒るぞ、と思いながら腕を組んで彩佳を見た。
 
(アクアMが男の身体に戻ったのは6/17でこの時点(7/12)ではちゃんと男の身体の状態になっている:バストも無い。但し睾丸は声変わり防止のため取り外し中)
 
なお、コスモスが八王子ではなく代々木に来たのは、アクアMの同意を取る必要があったからである。アクアFは喜んで引き受けるだろう。
 

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そういうわけで、ロビン・フライフォーゲル、ジールマン社長、および同行者たちの隔離が終了した7月23日(金)から『白雪物語』 (The story of Snow White, Die Geschichte von Schneewittchen) の制作が始まってしまったのである。
 
制作陣は、それまでの間に、台本を完成させ、出演者を手配し、制作の準備を進めた。実務的な作業を任せられた、あけぼのテレビ専務の坂口(兼・大和映像の映像課長。時間がないので大きな権限を持つ人が動く必要があった)はこの2週間まともに睡眠を取る時間も無い状態で必死に動き回って、クランクインに何とか辿り着かせた。
 
出演者およびスタッフは熊谷の郷愁村に集められた。ホテルの新館“赤城”(後述)に泊まってもらう(ごく一部の俳優さんはコテージ“桜”)。
 
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監督は結局、ドイツ側からも信頼の高い河村貞治監督が就任することになった。アクアとの相性もよい。河村は夏休み中に『いちご日記』という別の映画を撮る予定だったのだが、そちらは撮影が9月に延期された!制作体制としては、モンドブルーメ、大和映像、あけぼのテレビそして中映の4者が出資した制作委員会が運用する。
 

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主な配役はこのようになった。
 
白雪姫・白雪姫の実母:アクア
狩人レオン:アクア(二役)
レオンの妹マルガレータ:七浜宇菜
アクアのボディダブル:今井葉月
レオポルト王子:ロビン・フライフォーゲル
ルードヴィッヒ王子(レオポルトの兄):ステファン・フランケ
国王:村里泰蔵→水川耕祐(後述)
王妃グネリア:雨梨美貴子
鏡(声)今井葉月
大臣バウアー:大林亮平
白雪の侍女マリア:坂出モナ
フランク軍曹:松田理史
グスタフ少尉:岩本卓也
鉱山技師:広原大司(日郎)、元原ユミ(月子)、大山弘之(火吉)、斎藤恵梨香(水恵)、弘田ルキア(木蔵)、斎藤良実(金也)、花園裕紀(土雄)
黒魔女カンドラ:滝野英造
軍医ルター:ユリアン・ウェステマン
 
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語り手:中村昭恵
 

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