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■夏の日の想い出・ボクたち女の子(10)
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目次 8
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宴会では席に座っている人の多くが女性で、男性の多くは雑用をしているようだ。座っている男性はみんな黄色や(ピーターももらったのと同じ)緑のヘアバンドで、どうも特別なステータスのようだ。
その件でウェンディがタイガー・リリーに尋ねると
「うちは女系(matrilineal)の部族だからね」
と言って笑っていた。
「世の中には父系部族(patrilineal tribe)と母系部族(matrilineal tribe)がいる。母系部族では女が絶対的に権力を持っている。だから、うちのお父ちゃんより、一段高い席に座って居るお母ちゃんの方が偉い」
「女が強いっていいなあ」
タイガー・リリーの母(沢田峰子:特別出演)は一段高い所に座って、凜とした姿勢でみんなを見ている。彼女は食事も口にせず何かの飲み物を時々口にしている程度である。
彼女の傍には、紫色のヘアバンドをした人(槙原歌音)が控えている。タイガー・リリーに聞いて、リトル・ホーンという人と知るが、ウェンディはその人の性別がよく分からなかった。男と思えば男にも見えるし、女と思えば女にも見える(*7). タイガーリリーはその人を he でも she でも参照せず "That's Little Horn"と答えた。
その人はどうも聖職者か何かのようだとウェンディは思った。その人のことはあまり訊いてはいけないような気がしてウェンディは何も訊かなかった。
(*7)インディアンの一部の部族には two-spirit と呼ばれる聖職者がいる。彼(女)らは男でありかつ女である。
「うちは平和的に男の子を口説いて夫にするけど、中には男狩りをして男を連れてきて結婚する部族もいるよ」
とタイガーリリーが言う。
「過激〜」
「ところであんたピーターと寝たの?」
「寝る・・・って!?」
単に睡眠を取るという意味では無さそうと思ってウェンディは尋ねた。
「じゃ、ピーターとキスした?」
「キ、キス!?」
ウェンディーが狼狽しているので
「ふーん。まだか。だったら私があの子もらってもいい?」
などと言う。
「それはピーター本人の気持ち次第だと思うけど」
とウェンディ(アクア)はハッキリ言う。
「ふふふ。そうかもね」
とタイガー・リリー(恋珠ルビー)は楽しそうに言った。
「でも仲良くしようよ」
「うん。仲良くしよう」
と言って、ふたりは握手した。
どうもピーターに助けてもらったタイガーリリーはピーターに憧れているようでこの日もかなり“誘って”いたが、こういうことに慣れていないピーターは彼女に冷たい態度を取る。
一方ウェンディも彼らの村を離れてからやや遠回しにピーターへの好意を表明するのだが(タイガーリリーがかなり口説いていたので対抗意識が出てきた)、ピーターは全く分かってくれない。彼は恋愛というものを理解していない感じであり、彼にとってウェンディがネバーランドに居るのも、ロストボーイたちの“お母さん代わり”という意識である。つまりピーターは father とか mother はかろうじて理解しても、love, lover というものを理解できない。
(これはピーターがアセクシュアルとかではなく、単に幼いからである!)
それでウェンディは、何日か考えている内に、私はおうちに帰ると言い出す。このままだと自分の気持ちをコントロールできなくなる気がしたのである。
するとジョンとマイケルも急にお母さんが恋しくなり、帰ると言う。ロストボーイたちは、最初はウェンディが帰るというのに抵抗し、ウェンディを縛り上げようなどと言ったものの、リーダーのトゥートルズ(倉岡典彦)がウェンディの気持ちを理解してくれて、それで他の子たちも納得してくれた(いつものんびりしているトゥートルズの見せ場!)。
そして彼らは結局自分たちもウェンディと一緒に現実世界に戻ることにする。ウェンディは彼らに
「きっとうちのお父さんとお母さんは、君たちのお父さん・お母さんにもなってくれるよ」
と言った。
ウェンディはピーターにも一緒に来ないか(遠回しの愛の表現)と言ったが、自分はネバーランドに残ると言った。
結局ピーター以外のみんながネバーランドを出ることになる。それで出発しようとしていた時、海賊が現れ、地下の家から出て来た子供たちを全員捕まえてしまう。
(海賊は“ネバーランドから出る”=“子供を卒業しておとなになる”のを邪魔しようとする存在というオリジナルの路線に沿っている)
子供たちを捕まえた海賊たちは彼らを海賊船に連れて行く。ひとり残ったフックは地下の家への入口を見つけ、中に入った。ピーター(七浜宇菜)がひとりで寝ていたので、いい機会だと思い、フック(アクア)はサーベルを抜いて刺し殺そうとする。
ところが間一髪、間にティンカーベル(坂田由里)が割って入り、フックの剣はティンカーベルに刺さってしまった。
ピーターが飛び起きる。
「ティンク!」
と悲痛な声を出すが、フックを見てピーターも剣を抜き、闘おうとする。
しかしそこに、ピカニニ族の声が聞こえてきた。タイガーリリーの指令で、ピーターの家は不用心だから、警護してあげてと言われて数人のピカニニ族がやってきたのである。多勢に無勢を悟ったフックは、ピカニニ族が到着する前にと逃げ出した。
ピーターがティンカーベルを介抱するが彼女は瀕死である(この瀕死の演技が真に迫っていたと、坂田は評価された)。ティンクの光(CGで書き加えた)がどんどん弱くなっていく。
「ティンクしっかりしろ」
「私ダメかも。ウェンディは帰っちゃうし、私も死んだら、タイガーリリーとラブラブになってもいいよ」
「ラブラブって何だっけ?」
とピーターは本当に分からない感じ。
「それより、君を助ける方法はないだろうか?」
「みんなが妖精の存在を信じてくれるなら・・・」
そこでピーター(七浜宇菜)はティンク(坂田由里)を抱いたまま、カメラに向かって語りかけた。
「皆さん、お願いです。妖精の存在を信じてくださる方は、テレビのリモコンでdボタンを押して投票画面を出してから、青いボタンを押してください。青いボタンへの投票が一定数を超えたら、きっとティンカーベルは助かります」
「これ万が一押してくれる人がいなかったらどうするんですか?」
と宇菜は鳥山プロデューサーに訊いた。
「それは舞台でピーターパンやってる時に、妖精を信じる人は拍手をと言って誰も拍手しなかったらどうするか?という問題ともつながるね」
とアクアは言う。
「舞台の場合は必ずさくらを入れてると思うよ。誰かが拍手しだしたら、ノリの悪い人でも拍手する」
と岩本卓也。
「まあテレビの場合は最悪誤魔化す」
「今のは聞かなかったことにしよう」
と宇菜もアクアも言った。
視聴者からの投票で青ボタンへの投票が一定数を超えたら、ティンカーベルの光が少しずつ強まっていく。そしてティンクは復活する。
「ティンク、良かったぁ」
とピーター(七浜宇菜)はティンカーベル(坂田由里)を抱きしめた。抱きしめられたティンクは嬉しそうな顔をするが、その表情の意味をピーターパンは理解できない。
「そうだ。ピーター。子供たちが海賊に捕まっちゃったのよ」
とティンカーベルは子供たちの危機をピーターパンに告げた。
「え〜!?」
それで助けに行こうということになり、ピーターはティンクと一緒に外に出る。そこにピカニニ族たちが居るので事情を話すと、今日の警備役のリーダーであったリーン・ウルフ(鈴本信彦)が「自分たちも手伝う」と言う。それでひとりを伝令に走らせ、リーン・ウルフ以下3人がピーターに同行して、海賊船に向かうことになる。
海賊船ではフックが船上でチェンバロを弾いていた。曲はショパンの『幻想即興曲』(Fantaisie-Impromptu C# minor Op.66)である。スターキー(大林亮平)がヴァイオリン、スミー(岩本卓也)がチェロでそれに合わせた。
どんな曲だっけ?と思う方は↓の0:35くらいからが幻想即興曲である。
https://youtu.be/mlJ3oiWSQss
この撮影ではアクアがマジでチェンバロを弾いている。大林亮平と岩本卓也もマジでヴァイオリンとチェロを演奏している。岩本君がチェロを弾ける理由は多分後日説明する。
この演奏もかなり評価された。アクアが使用したのは『白雪姫』でも使った、サマーガールズ出版所有フランドル様式の2段鍵盤チェンバロである。『白雪姫』の撮影の後、楽器輸送専門業者の手で熊谷市の郷愁村から川崎の撮影所まで運んで来た上で、チェンバロ専門の調律師さんにより平均律に調律してもらった。
実は『白雪姫』ではミーントーン調律で使用した(白雪姫の時代には平均律はまだ無い)。アクアはミーントーンは気持ち悪いと言った。音感が良すぎると、こういう微妙な所を感じ取るのだろう(日本音階はスッキリしてむしろ気持ち良いらしい)。
ピタゴラス音階→ド:ソ=2:3など音の周波数が整数比率になるように調律したもの。日本音階もこれ。五度の音が完璧に共鳴する。但し1.5を冪乗していっても2の冪乗にはならないので、どこかに歪み(狼の5度)が生じる。
ミーントーン(中全音律)→ピタゴラス音階の各音のピッチを敢えてずらし、三度が響き合うように変更したもの。和声が発達してきた時期に考案された。
平均律→ピタゴラス音階の歪みを全ての半音に分散させたもの。移調に強いのが特徴。但しどの音の組合せも完全には響き合わない。様々な方法があるが1900年前後に数学的に完全に平均的に分散して半音=2の12乗根(1.05946)にする方法が考案され一般化した。従ってバッハ時代の平均律(恐らくキルンベルガー法)と現代の平均律は別物である。
純正律→ピタゴラス音階とミーントーンの“いい所取り”をして、“主な”音間では三度も五度も響くようにしたもの。半音の大きさがバラバラ(1.0416 1.0666 1.0800と3種類の半音がある)になるので、チェンバロのような楽器では何とかなるが、歌唱やヴァイオリンなどでは演奏不能。実際に使われたことは無いものと思われる。
KARIONの音は純正律と私は言っていたが、KARIONは本当はピタゴラス音律を使用しており、純正律ではないと、最近になってゴールデンシックスのマリアから指摘された。
「ピタゴラス音律や中全音律のことを誤って純正律と言う人、わりと音楽の専門家にも多いんですけどね」
とマリアは言っていた。
それで私はKARIONの専用楽器を測定器で測ってみたら確かにピタゴラス音階だった!和泉に言ったら「そうだよ。KARIONはピタゴラス音律。純正律で歌える訳が無いじゃん。今更何を言ってるの?」と言われた!
「ただ、メロディーの3度下を歌う小風は、私が歌うメロディーに響き合う音で歌うからミーントーン的な音が部分的に混じることになるけどね」
で・でも和泉、以前は「KARIONは純正律」って言ってなかった!?
なお、アクアの演奏は室内に作った音楽室で行なっている。周囲に海賊船の一部に見えるようなセットを造り込んでいる。さすがにこの貴重な楽器を万が一にも雨にさらすわけにはいかない。
演奏が終わったフックが子供たちに向き合って言う。
(ここからはガレオン船の上での撮影。映っているチェンバロは道具係さんが、外見だけ真似て作ったハリボテ!)
船のマストにはウェンディが縛り付けられている所が映る。ここでカメラは“都合により”ウェンディとフックの顔を“同時には”撮さない。
「さて、これから君たちの楽しいショータイムだ」
とフックは縛られている子供たちに言った、
部下の海賊たちが、右舷(海側)の船縁に飛び込み台のような長い板を置いて固定する。
「君たちにはこの板を端まで歩いてもらおうということなのだよ」
「端まで行ったら?」
「楽しい海水浴だね。ワニたちと遊ぶといいね」
ここでフックは海賊になりたい者がいたら、2人だけこの船のクルーに加え、板は歩かなくてよいと言う。しかし全員拒否するので、(ウェンディ以外)の全員がこの板を歩くことになる。
それでフックが
「最初に歩きたいのは誰かな?」
と言った時
「チックタック、チックタック」
という音が聞こえてくる。
フックが青くなって反対側の左舷(岸側)の船縁まで逃げてしまう!そしてブルブルと震えて「俺をかくまってくれ」と部下たちに言うので、部下たちも呆れてフックの周囲に集まる。
このフック(アクア)の情けない感じの演技がまた美事であった。
さて、このチックタックという音を立てているのは実はクロコダイルではなく、その音を声帯模写しているピーターパン(七浜宇菜)だった!
彼はボートを船の右舷につけると、鈎の付いたロープを投げて船縁にひっかけ、そのロープを伝って上に登ってきた。その登る間中、ずっとチックタックと言い続けていたのである(実際には録音したものを流している)。リーンウルフたちも続けて登って行く。
このロープを投げてひっかけ、舷を登って行く所は七浜宇菜が自身で演じている。今回のドラマは普通なら吹き替え役が必要な所を本人が演じるというのが多くて、ある批評家さんは“プロ集団で作られたドラマ”と高い評価を出した。
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