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■夏の日の想い出・ボクたち女の子(19)

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「私たちは全員、中学生の頃に声変わりによって、それまでの女の子の声にも聞こえる声を失い、男の子の声になってしまったんですけど、1年ほど前からボイストレーニングに通って、全員女の子の声を取り戻しました。ですから、私と淳子がアルト、大菜がメゾソプラノで、央花がソプラノになります」
 
と言って、4人はその場で彼ら(彼女ら?)のヒット曲『橋を架けよう』を女声四重唱で歌ってみせた。
 
本当に女性4人で歌っているように聞こえるので、記者からもネットの閲覧者からも拍手が起きる。
 
みんなここまでは笑いながら見ていた。
 
「一応経緯を説明します」
と若春(若南?)が言う。
 
「私たち4人はデビューしてから4年間は性別を変更しないという契約をしていました。その期限が昨年6月に切れたので、私たちは各々自分の本来の性別に戻ることにしました。私たちは昨年7月に全員睾丸の除去手術を受け、女性ホルモンの摂取を始めました。それで現在、私たちは4人ともBカップからCカップ程度のバストがあります。それと同時にボイトレに励み、私たちは全員女声を取り戻しました」
 
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記者席がざわめく。みんなひょっとしてジョークではなかったとか?と考え直し始めたのである。ネットで見ている人たちも多くは混乱している。
 
「そして今年7月。5日に私、6日に淳子、7日に大菜、8日に央花が性別再設定手術を受けて、全員女性になることができました。すぐに性別取り扱いの変更と改名を家庭裁判所に申請し、9月上旬に全員認可されました。それで私たちは全員、法的にも女性になることができました」
と若南(元若春)は説明する。
 
記者が遠慮がちに質問する。
 
「もしかして本当に性転換なさったんですか?」
「はい、最初にそう言ったはずですが」
 
ネットで見ていたファンたちから多数の悲鳴があがる。ショックで混乱している様子の子もある。
 
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「これが証拠です」
と言って、全員パスポートを取り出して見せた。
 
パスポート番号や本籍地などはマスキングされているが、全員 名前が女性名になっているし、SEX:F と記載されているのが分かる。発行日は全員10月5日である。4人同時に新しいパスポートの発行を申請したのだろう。
 

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記者たちがたくさん質問するが4人はそれに丁寧に答えていった。質疑応答は2時間以上に及んだが、ネットを通した視聴者はどんどん増えて行った。
 
この件は全員が性転換したということが判明した時点で速報がネットに流れ、その後情報を追加して続報も流れた。
 
若南はファンクラブについても触れて
「ファンの皆様には唐突な私たちの性別変更は、申し訳無く思っています。ファンクラブを解約したい方は、私たちのホームページに掲載しております登録解除フォームをダウンロードして、記入の上送っていただきましたら、今年度の会費を全額Amazonの商品券で返金させていただきます」
と述べた。
 
淳子は言った。
「私たちは4人とも物心ついて以来、自分は女の子だと思っていました。それなのに男の子のアイドルとして、活動していたのは、皆さんを欺しているみたいで、凄く心苦しかったです。もうこれ以上欺し続けてはいけないと思い、法的な性別もちゃんと女性になったこの機会に、私たちの本当の性別についても、発表させていただきました」
 
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彼女は更に言う。
「性別の移行はもっと簡単にできたらいいと思うんですよね。理想をいえば、小学4年生くらいで、本人に男になりたいか女になりたいか、希望をきいて女の子になりたい男の子には、女性ホルモンを投与して男性化するのを止めておいて、中学高校は女子制服で通学する。そして高校3年生くらいになってから、再度意志を確認して、それで本人がやはり女の子になりたいということなら、高校3年の夏休みに性転換手術を受けさせて、立派な女性として社会に出て行く。男の子になりたい女の子も同様ね」
 
「かなり過激な意見ですが、当事者の人としては、そのくらいしたい気持ちかも知れないですね」
と理解を示してくれた記者もあった。
 
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「自分は女の子だと思っているのに声変わりして、身体中に毛が生えてきてからだがごつくなっていくのは辛いです。逆の場合でも自分は男の子だと思っているのに、生理が来て胸が膨らんでいくのは死にたいくらい辛いそうです。だから、私たちみたいな人には自殺者が物凄く多いんですよ」
 
「確かに辛いでしょうね」
とこれは女性の記者さんが同情的なことを言ってくれた。
 

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「7月から9月に掛けてテレビとかイベントへの出演もなく、アルバム制作中ということでしたが、本当は性転換手術を受けて、療養なさっていたんですね」
 
「はい、療養していましたが、療養しながら楽曲を作って各自自分の体調と相談しながら練習してました。そして9月に入ってから、録音しました。それで『Woman』というタイトルのアルバムを来月発売します。もうWADOは見捨てたという方も多いかも知れませんが、少しでも関心がある方は、良かったら買ってください」
 
「8月の下旬に『ヘンゼルとグレーテル』のドラマ撮影をしましたが、あの時期は全員、手術跡もだいぶ痛みが取れてきていたので、頑張って演技しました」
 
「あのドラマでは、淳紀君と央我君の女装が可愛いと話題になりましたけど、本当は淳紀君と央我君が女装していたのではなくて、若南さんと大菜さんが男装しておられたんですね」
 
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「実はそうなんです。久しぶりに男装したら、すごく変な気分でした」
と大菜(元大児)が笑って言っていた。
 
「あのドラマでは若南さんと大菜さんは男装・男声、淳子さんと央花さんが女装女声でしたが、あの声はボイスチェンジャーとかで作ったのではなく、ご本人の声だったんですね」
 
「はいそうです。私たちは一応男の子のような声も出せますけど、基本的には今後は使用しません」
と淳子が答えた。
 

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WADOの“みんなで性転換しちゃった”は翌日のスポーツ紙のトップを飾る。週刊誌も軒並み取り上げたし、テレビのワイドショーでも一週間くらいこの話題で持ちきりだった。
 
そして土曜日発売の『ぼくたち女の子』は土日で70万枚を売り、10/18の統計では、13日に発売されて日曜日までに66万枚売っていた舞音の『人魚のスカート』を抜いてウィークリー・ランキングで1位になったのであった。
 
もっとも翌週10/25の数値では累計売上が、舞音が90万枚、WADOが85万枚と逆転していた。ウィークリー1位を奪われたことから、舞音の一部の熱狂的なファンがもう1枚買ったりして、ランキングを押し上げたようである。
 
そして舞音のCDは11/01の統計で120万枚に到達して7枚目のミリオンとなったが、WADOのCDは最終的にミリオンには到達しなかった。もっとも彼女たちの過去最大のヒット曲『橋を架けよう』の35万枚を大きく上回り、彼女たち最大のヒット曲となったのである。
 
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ちなみにWADOの4人が性別を移行していく過程を撮影し、最後は性転換手術を受ける直前、受けて意識回復したところに(同じ事務所の先輩女性タレントさんが)インタビューしたりしたビデオが存在することも、若南は明らかにした。
 
それを発売するかどうかは未定だと彼女は述べたのだが、ぜひ発売して欲しいという声が強く、12月になってDVDで発売され、物凄いセールスとなった。
 
なおWADOのファンクラブ(公称会員数12万人)で、解約を申し出た人は1000人程度に留まった。但し翌年は更新しなかった人が多く、更新した人は3万人しかいなかった。但し新規加入した人が5万人もあり、会員数は8万人となって、WADOは女性ポップスグループとして活動を続けていくことができた。
 
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新規加入した5万人は恐らく女装者やMTFさんたちではないかと想像された。
 

ところでWADOの衝撃的な記者会見の直後から、WADOのメンバーがCMに出演している提供元に大量の電話やメールが掛けられたり送られたりした。
 
「まさかWADOをおろしませんよね?」
「お願いです。WADOのCMをやめないで」
 
各社は実はどう対応するか、各社社内でかなり激論したようである。
 
ところがその日の夕方。ノノパパイヤの上原椰椰社長が自らビデオメッセージを主な動画サイトに投稿してこのように述べた。
 
「WADOの“みんなで女の子になっちゃった”って凄いねー。私もびっくりしたけど、みんな可愛いから女の子になっちゃうのも、いいんじゃない?そうそう。女の子になったのなら、ノノパパイヤのレディスの服を買ってね」
 
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CMの取り扱いについては何も述べていないが、それ以降流れる舞音主演の“人魚のスカート”のCF内で央花(元・央我)の出演部分はカットされておらず、そのまま流れていた。
 
つまりノノパパイヤとしては、彼女の性転換は特に問題にしないということのようだとして、WADOのファンたちの間では安堵が広がる。
 
更にその日の夜遅く、ΛΛテレビは翌日10/17に予定しているWADO主演『ヘンゼルとグレーテル』の再放送は予定通り放送するし、他の作品同様、DVD/Blurayも発売予定であることをホームページに記載した。
 
そしてノノパパイヤやΛΛテレビの対応を見て、結局WADOのメンバーが出演しているCMを放映中止する企業は出なかった。
 
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「性別変更は美容整形などと似たようなもので個人の自由。不祥事ではない」
とあるメーカーの部長さんが記者の質問に答えて言っていた。
 
WADOのメンバーはCMが中止になり損害賠償を求められた場合の対応もある程度考えていたらしい。事務所の社長にお金を借りて損害賠償を支払い、著作権などを事務所に買い取ってもらった上で、残金は10年くらい掛けて返済していく計画だったらしいが、杞憂で済んだ。
 
それどろか、彼女たちが、男装男声で出演していたS社のビールのCMではメンバー4人が女装・女声で出演する新たなバージョンが制作され、10月下旬から流れるようになった。これにはWADOのファンたちからは絶賛の声があがりこのビールの売上が急上昇する展開となった。
 
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さて、WADOの全員性転換の話題が落ち着き始めると
「アクアも自分の性別について正直に語るべきだよな」
という意見が多数出てくる。
 
「きっとアクアが女の子になりましたと言って記念CDを発売したら400万枚売れるよ」
などという声もあった。
 
この件で放送局から出て来た所をキャッチしてインタビューした記者に対してアクアは
 
「ボクは男の子ですよー」
と答え
 
「嘘つけ!」
と多くの人から言われたのであった!!
 
まだ世間の人々は、今年アクアが紅白の紅組から出ることを知らない。
 

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さて、10月には常滑舞音が10/13に『人魚のスカート』を発売したのだが、10/6,20には水森ビーナと恋珠ルビーがドラマ『青い鳥』の関連曲を発売している。
 
10/6 水森ビーナ『青い空・青い海・青い鳥』(ending)
10/20 恋珠ルビー『幸せとは自分が頑張ったこと』(主題歌)
 
ビーナはデイリーとウィークリーの1位を取ることができたが、ルビーはデイリーこそ1位だったものの、WADO騒動の余波でウィークリーでは3位に沈んだ(1位舞音、2位WADO、3位ルビー、4位トラインバブル)。
 
トラインバブルは10/20は有力歌手はルビーだけだから、1位か2位だろうと思ってこの日に発売したのに、デイリー2位・ウィークリー4位であった。ルビーもトラインバブルもちょっと気の毒ではある。
 
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