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■夏の日の想い出・やまと(17)
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(C)Eriko Kawaguchi 2017-03-03
ところで私がオーナーをしているローキューツであるが、9月の全日本クラブ選抜では3位になり、1位の40 minutes 2位のミヤコ鳥ともども全日本社会人選手権に進出した。そして11月5-6日の同大会では1回戦には勝ったものの、準決勝で40 minutesと激突。残念ながら敗れてオールジャパン出場権は獲得できなかった。
もうひとつのオールジャパン出場へのルートである、総合選手権であるが、10月1-2日の千葉県総合で、強豪の千女会を1点差で破って優勝。11月26-27日の関東総合選手権に進出した。ここで優勝すればオールジャパンに出場できるが、この大会にはやはりクラブ選手権ルートではオールジャパンに行けなかった江戸娘(オーナーは上島先生)も出場する。
アクア主演の『時のどこかで』は10月17日の放送で、本能寺を脱出した信長のその後が語られたが、信長が「伊賀越えに失敗」して命を落とした徳川家康に成り代わり天下を取る、という展開に「そんな無茶な!?」という声がネットではあがっていた。もっとも今年はNHKの大河ドラマで家康が危険な伊賀越えでびびりまくる様子が描かれていただけに「確かにあんな凄い山を越えようとしたら、足を滑らせて死ぬこともあるかも」という意見も出ていた。
その後「時のどこかで」は歴史ドラマの様相を帯びてくる。
17日の放送のラストでアクアは次は藤原泰衡の兵に囲まれた衣川館の源義経の所にタイムスリップした。そして10月24,31日の放送で義経は北海道に旅立って行き、やがてチンギスハン(ジンギスカン)になる未来が示唆される。11月7,14日にはフランスに飛んでジャンヌ・ダルクを解放した(ジャンヌ・ダルクは亡くなったとされる年の5年後に馬上試合に出たという伝説がある)、21,28日にはアラモ砦に行って、脱出を勧めるも拒否され、彼らに食料と弾薬を供給して支援した。
ドラマの出演者だが、ジャンヌ・ダルク編ではちゃんとフランス人やイギリス人の役者さんを使い、アラモ砦編でもちゃんとアメリカ人やスペイン人・メキシコ人の役者さんを使っていて
「何かこのドラマ、予算が凄くない?」
という声も出ていた。
実はアクア主演ということで夕方5時代とは思えぬ視聴率があるので、予算が潤沢に使えるのである。有名予備校の先生が「このドラマは歴史の勉強に役に立つ」と発言したことも、視聴率を押し上げたようである。
ちなみにアクアはフランス編ではフランス語、アラモ砦編では英語を話していたが(字幕スーパー・副音声で日本語吹き替え付き)、英語はまだいいとして、フランス語については
「すみません。台詞の分だけ丸暗記しました」
と言っていたものの、その割には発音がきれいだったというので、評価が高かったようである。
2016年11月13日(日)大安。
福岡在住の従姉・純奈が結婚式を挙げた。
私の母方のいとこは私と姉も含めて15人いる。その中で友見がひとり早く1994年に結婚した(その娘が三千花=槇原愛、小都花=篠崎マイ、七美花=後の2代目若山鶴乃、の3姉妹である)。
少し時間が空いて2000年から2009年までが結婚ラッシュであった。
2000.恵麻 2001.聖見 2002.俊郎 2004.美耶 2006.鹿鳴 2008.晃太 2009.千鳥 と、この時期は毎年のように誰かが結婚している。
それから少し空いて2012年に歌衣とうちの姉の萌依が結婚、翌2013年に佳楽が結婚して、既婚者が11人となり、未婚なのは清香伯母の所の薙彦、里美伯母の所の純奈・明奈姉妹、そして私の4人となった。
正直この状態で残り4人の内の1人が結婚するというのは、他の3人にとってはけっこうなプレッシャーを感じるのである!
結婚式は福岡市近郊の福津市という所で行われるので、私は当日朝1番の飛行機(6:20-08:25)で博多に移動した。政子のお守り役は今日は仁恵にお願いしている。
この日私と一緒に博多に移動したのは、私と両親、姉の萌依と夫の小山内和義さん、そして2人の間の長女・梨乃香(1歳5月)の6人である。梨乃香は機内で、ぐずったりするとやばいなあとは思っていたのだが、たくさんおもちゃや絵本におやつを準備していたこともあり、何とかご機嫌良く1時間半の飛行機の旅を楽しんでくれた。
空港で予め予約していたレンタカー(プリウスα)を借り出して、和義さんの運転で結婚式が行われる宮地嶽(みやじだけ)神社に向かった。10時前に到着するが、式は11時からなので、急いで着換える。今日は私は東京友禅の振袖、母は黒留袖、姉は赤い色留袖であるが、2人とも自分で着きれないので、姉のは私が、母のは風帆伯母が着付けしてあげた。
10:50。巫女さんに案内されて、式場に入る。入口の所に「布施家・琴岡家・婚礼儀会場」と書かれている。中に入ると赤いビロードの床に赤い壁、全てが真っ赤な世界で、独特の空間にはまり込んでしまったかのようだ。
『わっ、これ曲書きた〜い』
と思ったら、
「よかったら」
と言って五線譜を差し出す人がいる。
へ?
と思ったものの、女子大生っぽいその彼女はニコッと笑うと、自分の席に戻っていった。私は誰だろう?と思いはしたものの、とにかく頂いた五線紙にわき上がってくるメロディーを書き綴った。
やがて祭主、そして2人の巫女に先導されて新郎新婦が入ってくる。私は五線紙をバッグの中にしまった。
婚礼の儀が始まる。
この全てが真っ赤な世界が、非日常の世界に参列者を置いた。祭主の祝詞が厳かに鳴り響き、巫女さんの舞と笛が美しい。三三九度では元々お酒に強い純奈は平気っぽいのに、新郎の方は最後の方でふらふらになっていて、ああこの人、普段はあまり飲まないのかな、とほのぼのとした気分になった。
ホテルの付属式場などと違って神社の式場は広いこともあり、双方40人くらいずつ出席している。親族固めの杯など、巫女さんが配るのにけっこう時間が掛かった。
新郎新婦の誓いの言葉、そして祭主の祝いの言葉で婚礼の儀式は終了する。
祭主と新郎新婦が退場した後、みんなホッとした雰囲気になり、ゆるゆると退場する。
場所を移して広い和室で、新郎新婦の写真、双方のご両親と入った写真、そして親族一同が一緒に並んだ写真を撮影した。
披露宴の行われる中華料理店・八仙閣へ移動するのに、女性用控室でバスを待っていた時、私は意外な顔を見る。
「千里? もしかして布施さんの親戚?」
千里は色留袖を着ていた。未婚なんだから振袖でもいいだろうが、私たちの年齢になると振袖を着るのをためらう人も多い。
「冬が琴岡さんの親戚とは知らなかった」
と千里は言ってから、あれ?という表情をする。
「花嫁、どこかで見たことある気がした。2年くらい前に博多で音源制作した時に一緒したっけ?」
「ああ。そういえば、その時、千里も一緒だったね」
「たしか今日の花嫁を私がもらってくれない?とか言われた」
「言ってた。言ってた」
「ちゃんと男の人にもらってもらって良かったね」
「確かに」
「でも結果的には親戚になっちゃったのかな」
「そうだね。千里と親戚になるのも悪くない」
と言って私たちは握手した。
「でもそっちはどういうつながり?」
と千里が訊くので
「私と花嫁は従姉妹なんだよ。母同士が姉妹」
と私は答える。
「なるほどー」
「そちらは?」
「花婿と貴司が従兄弟なんだよ。花婿のお母さんと貴司のお父さんが実の姉弟。戸籍上は腹違いの姉弟ということになっているけど、本当は実の姉弟」
と千里は少し複雑な説明をした。
しかし私はそれ以上に不可解な気分になった。
「千里、もしかして貴司さんの親戚の結婚式に出席してるの〜?」
と私は千里のそばに寄って小さな声で言った。
「だって私、貴司の妻だし」
「えっと・・・・」
千里が左手薬指を見せる。そこには金色の結婚指輪が輝いている。
これは・・・・桃香とお揃いの結婚指輪ではない。あれは確かプラチナだったはず、と私は以前ふたりがお揃いのリングをつけていた時のことを思い起こしていた。しかも・・・千里と桃香は「右手薬指」にそのプラチナの結婚指輪をつけるのである。
私は場所が場所だから、あまり騒ぎになるようなことも言えないと思い、何から訊いたらいいのかと思っていたら1歳半くらいの男の子が走って寄ってくる。
「おかあさーん、しっこした」
「はいはい。わざわざ大きな声で言わなくてもいいよ」
と千里は笑顔で言って、その小さな子を脇に座らせる。
「もらさずにできたよ」
「よしよし。おむつ卒業できる日も近いね」
「その子は?」
「京平だよ。この子が生まれる時はお世話になったね。京平、お前が生まれる時に、このお姉さんに助けてもらったんだよ」
と千里がその子に言うと
「おねえさん、ありがとう」
と京平は言った。
「ううん。いいんだよ」
と私は笑顔で言いながらも、内心戸惑いを隠せなかった。
「ごぶさたしてます。冬子さん」
と言って寄ってきたのは、ひとりは京平が生まれた時に、色々サポートしてくれた、貴司さんの妹の理歌さんである。
「どもども」
と言って一緒に来たのは、結婚式場で私に五線紙を渡してくれた人物である。
「こちら、貴司の妹の理歌ちゃんと美姫ちゃんね」
「どうも。さっきはありがとうございました」
と言ってから私は千里に訊く。
「もしかして私に五線紙を渡してくれたのは千里?」
「うん。私が直接渡したら、冬がパニックになるかもと思って美姫ちゃんに頼んだ」
「ああ」
と言いながらも、私は訳が分からない状態にある。
「まあ冬が今いちばん疑問に思っていることに答えるとさ」
「うん?」
「実は昨日の朝、私は大分県の中津市で試合があるんで、新幹線で移動していたんだよ。そしたら大阪で貴司と京平が乗ってきてさ」
「へー」
「『あかあさんだ!』と京平が言うから、キャプテンの許可もらって、小倉まで一緒にいたんだよ」
「ああ・・・」
「それで試合終わってから、こちらに来た。だから私は実は京平のお世話係。今日もあと少ししたら大分市に移動する」
「そういうことだったのか」
「阿部子さんは身体が弱いから、こういう長距離の旅行ができないしね」
「あの人、新幹線で福岡まで来るだけでもダメなの?」
「買物に出ただけでも途中で気分が悪くなってしまったりする人だから」
「うーん・・・・」
「でも私たちも好都合でした。私たちや母とかも、貴司兄のお嫁さんは千里さんだと思っていますから」
と理歌が言う。
「千里集合写真に写った?」
「写ったよ」
「それ阿部子さんが見たら何か思わない?」
「それは貴司が見せる訳無いから平気」
「うーん・・・・」
「でも細川さん、確か礼文島の人だと思ってたけど、九州にも親戚が居たんだね」
と私は千里たちに訊く。
「新郎の両親は札幌に住んでいるんだよ」
「あ、そうなんだ?」
「新郎は第一子で東京の会社に就職したら、転勤で小倉に飛ばされた」
「ああ・・・」
「第二子の弟さんは大阪の会社に就職したらソウルに飛ばされた」
「うむむ」
「今日はKTXとビートルを乗り継いで博多まで来た」
「大変だね」
「そして第三子の妹さんは札幌市在住の彼氏と結婚したら、彼氏がカリフォルニア州のサンノゼ(San Jose)に飛ばされた」
「わぁ・・・・」
「今回は太平洋横断の飛行機使ってやってきた。子供2人はアメリカで生まれたから、日本とアメリカの二重国籍になってる。22歳までに本人が自分で国籍を選択すればいいらしい。今回は日本のパスポート使って来日したんだけどね」
「色々大変そうだ」
「サラリーマンは転勤が大変だよね」
と理歌が言っている。
「そういう訳で札幌の両親の手許には誰も残っていないという」
「まあ、そういうこともあるかもね〜」
「現在、新郎は小倉で仕事してて、新婦が博多在住だから、中間の福津市で結婚式を挙げることにしたんだよ」
「そういう訳だったのか」
色々話していて12時半をすぎた時、千里が留袖を脱ぎ始める。
「披露宴は洋装で出席?」
「いや。私は試合があるから、そろそろ行く。京平、また夕方会いに来るから、お昼は理歌お姉さんや美姫お姉さんの言うこと聞いて良い子してろよ」
「うん。おかあさん、いってらっしゃい」
そうか。千里は「貴司の妻」としてここに来ていたから、既婚者ということで留袖だったのかと私は今になって思い至った。
千里が色留袖を脱ぐと下にはバスケットウェアを着ていた。
「そういう構造だったのか」
と美姫が驚いている。
「うん。襦袢代わりにユニフォーム着てた」
「その格好で大分まで行くの?」
「平気だよ」
「試合は何時から?」
「2時からだけど」
「間に合うの〜!?」
今は既に12時半近くである。ここから大分市までどう考えても2時間以上掛かるはずだ。
「大丈夫、大丈夫。じゃね」
と言って、千里は京平にキスしてからバスケットウェアのまま部屋を出た。私は千里に「食事の間、私が京平君見てようか?」と言おうと思い、千里を追って部屋の襖を開けた。左右の廊下を見渡しても、千里の姿は無かった。
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夏の日の想い出・やまと(17)