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■夏の日の想い出・やまと(11)

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私は東城先生が書いた『赤い玉・白い玉』の譜面を木ノ下先生にお見せした。
 
「懐かしい!確かに東城の字だ」
と言って、木ノ下先生は感動しておられるようだった。
 
「しかし幻想的な詩だ」
と木ノ下先生。
「不思議な情景ですよね」
 
赤い玉と白い玉が各々振動している内にぶつかって砕け散り、赤い粉と白い粉になってしまう。ところが赤い粉と白い粉はリズミカルに振動する内にやがて再び集積して、元の赤い玉と白い玉に戻る。
 
「あいつ、クスリをやっているということは?」
「それは無いと思いますが。そんなものが入手できる環境とは思えませんし」
 
「あいつ、まだあの小屋に住んでいるの?」
「自給自足、悠々自適の生活だそうですよ」
「嘘だ。息も絶え絶え、気息奄々の生活だと思う」
 
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「まあ色々大変そうではありました。でも釣りはだいぶ上手くなられたようですよ」
「釣りしないと蛋白質が摂れんからな。熊とかはすさがに捕まえられんだろうし。しかし俺もあいつも世捨て人だなあ」
 
「木ノ下先生もまた曲を書かれませんか?」
 
しばらく木ノ下先生は考えておられた。そして部屋の奥にある琉球王朝っぽい文机(古いウタキにあったものがバラバラになっていたのを修復した物らしい)から1枚の紙を取り出して、私たちに見せてくださった。
 
「実は去年、ヒバリちゃんがノロとして覚醒した時に、これを書いた」
と先生はおっしゃる。
 
これは凄い曲だと私は思った。横から見ている千里も大きく頷いている。
 
「この曲を東城先生にお見せしてもいいですか?」
「あんた、俺とあいつを競わせようとしてる」
「おふたりとも、まだまだ行けますよ」
 
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木ノ下先生はまた考えておられたが唐突に言う。
 
「鴨野君、君の龍笛を聴かせてよ」
 
「いいですよ」
と言って千里は龍笛で美しい曲を吹いた。
 
この曲は・・・・『悲しきドラゴン』だ!山森水絵のデビューアルバムに収録した曲だが、元々はトラベリングベルズの元リーダー相沢孝郎さんの弟さんの百日祭に千里が即興で吹いた曲である。
 
先生は涙を流しておられた。木ノ下家の離れで文書の整理をしていたらしいヒバリもこの音を聴いてこちらに出てきて、じっと千里の演奏を見ていた。
 
演奏が終わると先生は言った。
「やはり音楽っていいね」
 
「ええ。音楽はすばらしいです」
と私は言う。
 
ヒバリも頷いている。
 
「じゃ、その曲はさ、ローズ+リリーで歌って、その音源を東城に聴かせてやってよ」
 
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「分かりました。それではこの曲、頂きます」
 
それで私たちは木ノ下先生から頂いた『青い炎』という力強いパワーがみなぎる曲を今回のアルバムに入れることにした。
 
そういう訳で今回のアルバムには現役から遠ざかって久しかった東城先生・木ノ下先生というおふたりの大作曲家の作品を収録することになった。
 

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この曲の制作にもヒバリと木ノ下先生に参加してもらった。結局沖縄では『その角を曲がればニルヤカナヤ』『青い炎』の2曲の音源制作をおこなうことになる。
 
今回の制作に参加したのは、ヒバリと木ノ下先生(ピアノ)のほかは、Gt.近藤 B.鷹野 Dr.酒向 Marimba 月丘 KB 詩津紅 Sax.七星 Vn.鈴木真知子 Fl.風花 明笛/龍笛 千里 というメンツであった(スターキッズや真知子ちゃんたち、録音担当の有咲は、東京から直接沖縄に入っている)。
 
『ニルヤカナヤ』は沖縄っぽくするのに、ヒバリの突吟と三線(さんしん)、千里の明笛(みんてき:沖縄ではファンソウと呼ばれる)を入れてもらっているが、『青い炎』では千里は龍笛を吹き、ヒバリは木ノ下先生と連弾のピアノで参加している。
 
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今回千里が使用した明笛(みんてき/ファンソウ)は、私が2007年に唐津で地元の祭り囃子の人にもらった唐津版ではなく、ヒバリが今回の制作のために調達してくれた小浜島(こはまじま)産の沖縄版である。《はいむるぶし》で有名な小浜島は真竹の名産地で、良い笛が作れるのである。この沖縄版の明笛は唐津版のものとは同じ明笛でも少し構造が異なっている。
 

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9月中旬には先行してPVの素材だけ撮影しておいた『祇園祭の夜』の音源制作を行った。例によって私の親戚を動員して和楽器の音をたくさん入れている。
 
続けて『日御碕の夕日』を制作したが、この曲はアコスティック楽器のみで制作した。AcGt.近藤 Vn.鷹野 Va.香月 Vc.宮本 Cb.酒向 Pf.月丘 Fl.七星 というスターキッズ&フレンズのアコスティック・バージョンで演奏する。この曲は最初『龍宮の日暮れ』というタイトルだったのを『日御碕の夕日』に改題していたのだが、政子の提案で結局『暮れゆく龍宮』と改題することにした。PVは撮影班に実際に日御碕に行ってもらって、日御碕神社の境内で撮影させてもらった。
 
このビデオに出演してもらったのは、ムーンサークルのセレナとリリスで、ふたりには童話の絵本に出てくる乙姫様のような衣装を着けてもらい、境内で扇を持って舞ってもらった。この舞は実際に現地のお祭りで舞うものを教えてもらい使わせてもらったのだが、ふたりが飲み込みが早いので、指導してくれた地元の女子高生たちが感心していたらしい。
 
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そして9月下旬には、三度北海道に行き『赤い玉・白い玉』の音源制作とPV作成をすることにした。
 
私はこの制作に、千里・青葉の姉妹、七美花・ゆまを連れて行くことにした。そして現地で旭川から天津子にも来てもらった。天津子は当然織羽を伴ってやってきて、織羽としずかは姉妹の交款をしていた。
 
「今日は地球最後の日になるかも知れん」
と網走のスタジオで録音を担当する有咲は言った。
 
「念のためこのスタジオは丸ごと借り切って、他の人に影響が出ないようにしている」
と私。
「本当は20km以内立ち入り禁止にしたい気分だ」
とゆま。
 
私は東城先生の書いた前衛的な曲を「ねじ伏せて」普通の鑑賞が可能な曲にするためには、こういう難解な曲をしっかり吹きこなせる技術力の高い人たちに演奏してもらう必要があると考えて、このメンツに集まってもらったのである。
 
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楽器の担当はこうなった。
 
Gt.秋月義高(紅ゆたか) B.大宅夏音(紅さやか) Dr.桃川春美
Pf.古城美野里 Vn.鈴木真知子 Fl.秋乃風花
笙.今田七美花(若山鶴海) 龍笛.村山千里・川上青葉・海藤天津子
AltoSax.近藤七星 SopSax.鮎川ゆま
Vo.ケイ・マリ
Cho.桜木八雲(少女Y)・桜川陽子(少女X)
応援! 気良星子・気良虹子
鑑賞! 真枝しずか・真枝織羽
 
いきなりモニター用のスピーカーが2個壊れる。
 
想定内なので即交換する。
 
練習している間にProtoolsのDSPチップが数個飛ぶが、有咲は平然と交換する。サポートを兼ねて立ち会ってくれているスタジオの技術者さんが目を丸くしている。
 
「持ち込みの機材で録音作業させてくれとおっしゃった意味が分かりました!」
などと言っている。
 
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「DSPチップとかメモリーチップとかって結構相性がありますからね〜」
 
秋月さんや大宅さんのギター・ベースの弦が切れるし、真知子ちゃんのヴァイオリンの弦も切れる。
 
更にスタジオの防音ガラスまで割れるが、予め「ガラス代金と別に拘束時間分の報酬を払うから、ガラス屋さんを待機させておいて欲しい」と言っておいたので、短時間でガラスを交換して作業を継続できた。
 
店長さんが「何事?」と言って来たが、同席していた技術者さんが 
「店長、この音は少々物が壊れても聴く価値のある音です」
と言うので、しばらく同席していたが
「これ、みんなに聴かせていいですか?」
と私たちに訊いてきた。
 
「どうぞ。でもスマホとかで録音しようとしたら確実にスマホが壊れますよ」
「それは大丈夫です」
「できたらスマホ自体、電源落としておいたほうがいいです」
「そうします!」
 
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それで結局その日出勤してきていた技術者さん全員で聴いていたが 
「凄い演奏だ」
とみんな言っていた。
 

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「なんか凄い体験をしている気がする」
と秋月さんも言っていた。
「僕たちここに居ていいの?という気になる」
と大宅さんなどは言うが
 
「こういう曲は自分は一流だと自負しているようなこだわりのある演奏者には無理なんですよ。どんな要求にでも対応できる柔軟な演奏者でないと、こういう斬新な曲はちゃんと演奏できないと思うんですよね」
 
と七星さんが言うと納得して演奏していたが収録が終わった後で
 
「要するに僕たちは二流なのかな?」
などと言って悩んでいた。
 
「透明な女優と呼ばれる人たちいますけど、今回のような曲にはまさに透明な演奏者が必要だったんですよ。何の役をしてもその役者本人にしかならないタイプの役者は困る。その役柄に応じて自分を変えていける人が欲しかったんですよね。チェリーツインの演奏って、そういう自由さがあるでしょ?」
 
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と私が言うと、
「そういえばそうかな?」
などと言い合っていた。
 

この日の夕方、春美の夫、真枝亜記宏が稚内から出てきていたが、亜記宏は春美、青葉、千里、天津子と5人でチェリーツイン専用宿舎の一室に籠もって、かなり長い話をしていた。
 
その間、しずかと織羽は政子とおしゃべりしていたが、“男の娘”ネタで盛り上がっていたので、教育に良くないなあと思って聞いていた。
 
5人が宿舎から本棟に戻って来た時、青葉も千里も天津子も物凄く厳しい顔をしていた。春美も亜記宏もかなり泣いた跡があった。
 
そして春美は言った。
 
「ケイさん、明日『赤い玉・白い玉』の収録をやり直しましょう」
「え〜〜〜!?」
 

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春美は確定させていたスコアに手を入れたい所があると言った。このスコアは東城先生が書いた譜面をいったん春美がチェリーツインの編成に合わせて編曲したものに、私が管楽器部分を追加してまとめあげたものである。
 
春美が説明した改変方針には、賛否の意見が分かれた。
 
「これは演奏が難しすぎる。MIDIで打ち込むのなら分かるけど、生演奏でこんなことができるか?」
と大宅。
「こういう進行にすると、聴く側としても難解になりませんかね?」
と陽子。
 
「いや、私はこの曲を編曲する時に優しくしすぎたと反省した。せっかく東城先生が意欲的な作品を書いたのに、私の解釈では平凡すぎるんだよ」
と春美。
 
ふだんは制作にあまり口を出さない氷川さんも議論に入って、私たち(主として紅姉妹・チェリー姉妹・桃川・七星・私・風花・氷川)は激論した。
 
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「結論が出ない。これはもうケイちゃんが決めるしかない」
と最後に氷川さんが言った。
 
「じゃ桃川さんの言う方針で」
と私は言った。
 
「よし。じゃ頑張るか」
と大宅。
「スコアは手分けして調整しよう」
と風花。
「それ私たちがやります」
と陽子が八雲とお互い頷きながら言う。
 
「私もスコア調整に参加するから、ケイちゃんや七星さんは寝ていた方がいい」
 
と氷川さん。氷川さんはCubaseをかなりいじれる。そこらのセミプロよりはかなり詳しい。
 
「じゃ、スコアの変更は桜姉妹たちに任せて、俺たちは3〜4時間練習するか」
と秋月は言った。
 
「ギターとベースの追加演奏者を呼び出します」
と私は言った。
 
「楽器は私が手配します」
と氷川さんも言った。
 
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このスコアではギターもベースも1人で演奏するのは、ほぼ不可能なのである。それで2人で分担して演奏するのだが、同じ楽器、同じ弦・ピックを使わなければ音がそろわない。
 
私が緊急に呼び出したのは、むろん近藤さんと鷹野さんである。ふたりは朝一番の飛行機(羽田710-850女満別)で飛んできてくれた。スコアは昨夜の内に手書きの暫定版をFAXしておいたのだが
 
「なんつー鬼畜なスコアだよ」
と2人は言っていた。
 
「これ音源収録の時はまだいいけど、ライブの時はどうすんのさ?」
と鷹野さんが言う。
 
「今回のアルバムでは、それほぼ考えていませんね」
と私。
 
「ライブの時は私が悩むことになりそうだ」
と風花。
 
そういう訳で、翌日網走のスタジオ(予備にこの日まで押さえていた)には、昨日より3人多い状態(亜記宏も応援に加わる)で演奏と収録が行われ、再度スピーカーやチップの故障、ガラスの破損などが相次いだのであった。この日はこのスタジオに在籍している技術者さんがほぼ全員出てきて一緒に聴いていた。
 
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しずか・織羽はなかなか会えない父親と久しぶりにゆっくり1日過ごすことができて、かなり充実していたようであった。その亜記宏自身、胸のつかえが取れたような、晴れ晴れとした顔をしていた。
 

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■夏の日の想い出・やまと(11)

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