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■夏の日の想い出・やまと(10)
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さて、最初に予定していた10曲(2曲は『神秘の里』『二見浦の夜明け』と入れ替え)に加えて、千里・ゆまから2曲もらい、あと2曲上島先生と青葉からももらう予定だったのだが、上記の事情から青葉には代わりに鈴鹿美里と槇原愛の曲を書いてもらうことにしたので、代わりに1曲必要になった。私は『トンネルを抜けたら』を復活する線、あるいは別の曲を入れる線を検討していたのだが、そんな中、上島先生から連絡がある。
「ごめん。今とてもローズ+リリーに渡して恥ずかしくないレベルの曲が書けない」ということであった。先生のオーバーワークは分かっているので、これは諦めるしか無い。
そういう訳でこの段階で12曲になってしまったので、いっそ12曲でリリースすることも検討し始めた。
ところが、ここで思いがけない人たちから楽曲を頂くことになった。
私たちは7月22-24日に苗場ロックフェスティバルに参加したのだが、この時宿舎にしたホテルで、食事の時、偶然リダンダンシー・リダンジョッシーのメンバーと一緒になった。
「どうもごぶさたしてます」
と向こうのメンバーが挨拶する。
「ステージ見たよ〜。相変わらず気持ちいいパフォーマンスするね」
と私は言う。
「ありがとうございます」
「でもデビューからもう2年も経ってしまったのが信じられない感じです」
とサブリーダーの詩葉ちゃんが言う。
「なんかあっという間だったね〜」
と三郎も言っている。
「来年春で正隆君たちは大学は卒業でしょ?そのあとどうするの?」
「もうバンド専任ですね」
「卒業できなかったとしても退学して専任です」
「卒論は書いてる?」
「何とか頑張ってますが、それより単位落とさないかヒヤヒヤしてます」
「わあ、頑張ってね〜」
そんな話をしていた時、バンドの全ての曲を書いている鹿島信子が何か思いついたように言った。
「ローズ+リリーさん、もしよかったら、私の書いた曲とか歌ってもらえませんよね?」
「何かいい曲あるの?」
「ツインボーカルが絡む曲を書いたんですけどね。うちでまともに歌える女子メンバーがいないんですよね〜」
「うん。うちの女子メンバーはnobu以外全員歌が下手」
「だから管楽器吹いてる」
などと小枝と花純が言っている。
「実はこの曲、2年半前に、おふたりと一緒に出雲に行った時、美保関で書いた曲がベースなんですよ。その時は単純な曲で、このままでは使えないなあと思っていたのですが、昨年偶然牡鹿半島に行った時に、すごくきれいな朝日を見て、その時に、唐突にあの時書いた曲を改造する意欲が湧いて、それで書き上げたんですが、女声のツインボーカルが欲しくて」
「まあ正隆が性転換して女声を身につけるといいという説もあった」
などと三郎が言っている。
「性転換するのは構わないが、性転換するのと女声が出るようになるのとは別だから」
と正隆が言うので
「性転換してもいいの!?」
と突っ込まれている。
「信子の女装は可愛くなること俺初期の頃から知ってたけど、正隆の女装はあまり一般的な鑑賞には耐えんから」
などと清史。
「じゃ、東京に戻った後でいいから、そのスコア見せてくれない?」
「はい、お持ちします」
それでリダンダンシー・リダンジョッシーの信子からもらったのが
『Twin Islands』という曲である。
この曲は美保関から見える2つの島“地の御前”と“沖の御前”をイメージしたものだが、その日の日出前に東の空に輝いていた、水星と火星もイメージしたものだと信子は東京に戻ってから訪ねて来た、私のマンションで説明した。
「水星は地平線の近くに、火星は結構上空にあって、それが岸のすぐそばに見える地の御前、遠くの沖に見える沖の御前と、シンクロしている感じがして、詩を書いていたんですよ。でも当時はあまりいいメロディーが浮かばなくて。実際には牡鹿半島で、鮎川港の目前にある網地島と、フェリーに乗ってから見えてくる金華山を見た時に思いついたんですよね」
「うん。違う所で、こないだの曲の続きだ!と思うもの見つけることはよくあるんだよ」
と私は言った。
それで結局信子やリダンリダンのリーダー中村さんなどとの話し合いで、結局この曲はリダンダンシー・リダンジョッシーの伴奏で私とマリが歌うことになった。この曲では自分たちのバンドではボーカル&ベース担当の信子も、歌わずにベース演奏のみで参加する。
この曲の制作が8月上旬に行われた。
「だけど結局、信子ちゃんの性別問題って、ファンの間でも何にも話題とかにのぼらなかったね」
と収録が終わった後、私のマンションに全員を呼んでの打ち上げで政子が言った。
「デビューする時はけっこう不安だったんですけどね〜。その問題に関してはネットとかでもほとんど書き込みが無かったですね。結構拍子抜けしました」
と本人。
「こちらで公開した情報は、半陰陽であったこと。デビュー前に精密検査を受けたら女だという判定になったから、性別の訂正を裁判所に申請して認められたということ、手術とかはしていないこと」
「中高生時代の学生服写真も流出したけど、半陰陽なら仕方ないという空気になった気がする」
「生理があって、お医者さんは妊娠可能だと言っているというのも公表しているから、それでほぼ女と思ってもらえたんだと思う」
「チンコを目撃しているのは俺たちだけだし」
「でも信子ちゃん、修学旅行とかはどうしたんだっけ?」
「小学校の時は直前に風邪引いて参加できなかったんですよ」
「ほほお」
「中学の時は個室にお風呂が付いていたからそこで入っているんで、誰も私の裸を見てないんですよね」
「なるほど」
「高校は受験校で修学旅行はありませんでした」
「なんかうまく出来てるね」
「でも個室の風呂があっても中学生なら他の奴の入浴中とか襲撃しない?」
などと三郎が訊くが
「他の子はやられてたけど、私はやられなかったよ」
と信子は答える。
「それはやはり襲撃してみて、ちんちん付いてなかったらやばいと思われたんじゃないかね」
「あははは」
「ヴィジュアル的なものも大きいと思う。信子は女にしか見えないから」
と清史が言う。
「ファンレターは大半が男性からだから、ふつうに女だと思われているんだと思うよ」
とマネージャーの内海さん。
「性別問題で悩むより楽曲を発表してみればいい。音でファンは判断する、と醍醐春海先生が言ってくださったそうですが、まさにそうなったのではないかという気がします」
とリーダーの正隆は言う。
「まあ五十嵐浩晃が20歳近くになるまで、法的には女性だったなんてのも話題に上ることはほとんど無かったし」
などと演奏には参加しないもののアドバイザーとして立ち会ってくれたスターキッズの近藤さんが言っている。
「あれは単純ミスだからね」
と七星さん、
「信子の性別もきっと単純ミス」
とリダンリダンの詩葉。
「時々自分でも本当に2年前まで私は男だったんだっけ?と思うんですよね〜」
と信子が言うと。
「信子の中学高校時代の同級生とかも、信子が実は女の身体なのに男を装っていた、みたいに思い込んでいる人が多いみたいだよ」
と花純は言っていた。
このリダンリダンとの制作をする前、苗場ロックフェスティバルが終わった直後、私たちは『やまとなでしこ恋する乙女』と『行き交う船たち』のPVを撮影するために北海道に飛んだのだが、この時、チェリーツインの桃川さんに、20年来隠遁生活を送っておられた東城一星先生を紹介された。
東城先生は師匠にあたる東堂千一夜先生からの草書体で書かれた手紙を私が「解読」してあげたことに感動し、私たちが歌えるような曲を書いてみたいとおっしゃったので「ぜひ書いてください」と言っておいた。
PVを7月下旬に撮影した『行き交う船たち』(『東へ西へ』と改題)の実際の音源制作は、リダンリダンとの『Twin Islands』の制作の後、8月中旬に、スターキッズ&フレンズ+αの伴奏で制作した。
+αというのは、実は小風と美空およびトラベリングベルズのメンバーである(αがかなり多人数)。
この曲はPVが演歌っぽくなったのに悪のりして、近藤さんとTravelling Bellsの海香さんにアコスティックギターのツインギターを弾いてもらい、鷹野さんと私でヴァイオリンを入れて、昭和歌謡っぽいサウンドにしている。また、汽笛や鳥の鳴き声をシンセサイザに仕込み、小風と美空に「好きなタイミングで鳴らして」と言って、入れてもらった。
私がローズ+リリーの制作に集中し、和泉はあちこち旅行して詩作を続けているので(一部メロディーまで書いている)、小風と美空の2人はほぼ放置されているし、トラベリングベルズもあまり仕事が無い状態にある(お給料はちゃんと払っている)。
「母ちゃんがKARIONって解散したんだっけ?と訊いてきた」
などと小風が言っていた。
そういう訳でここまでで出来たのが
『だるまさんのように』5月
『やまとなでしこ恋する乙女』(醍醐)Golden Six6月上旬
『かぐや姫と手鞠』(鮎川)Red Blossom 6月下旬
『神秘の里』6月下旬〜7月中旬
『Twin islands』(鹿島)Redundancy-Redunjoccy 8月上旬
『東へ西へ』8月中旬
という6曲である。
この時点でまだ手を付けてないのが『秘密のかまくら』『二見浦の夜明け』 『祇園祭の夜』『日御碕の夕日』『同行三人』『コスモスの園』『その角を曲がればニルヤカナヤ』の7曲と、もし東城先生から良いのがいただけたらその曲、いただけなかった場合、このアルバムに入れるには品質不足と思われた場合は『さくら協奏曲』を入れる予定であった。(その場合、東城先生の曲はシングルに入れる)
8月下旬。唐突にスイートヴァニラズのEliseが連絡してきて
「ローズ+リリーに似合いそうな曲ができたから、歌ってくれ」
と言ってきた。
スイートヴァニラズは予定外だったのだが、彼女たちの曲は元々ローズ+リリーやKARIONと親和性のあるものが多いので、頂くことにした。これも伴奏はスイートヴァニラズ自身にお願いすることにした。
「これ印税でもらえる?」
「印税方式でも演奏料方式でもいいですよ」
「印税の方がたくさんもらえそうだから、それで」
「了解です」
これが『巫女巫女ファイト』という軽快で楽しい曲であった。
「これPVはケイとマリに巫女の衣装着せて踊らせるに限る」
などとEliseが言っているので、まさにそういうPVを作ることになった。撮影は千里が副巫女長をしている越谷市のF神社が協力してくれて、拝殿前の広場で撮影させてもらった。
Eliseは演奏を収録するスタジオに瑞季ちゃん(2歳半)を連れてきていたが、彼女らが演奏している最中は、七星さんや風花が、そのお世話をしていた。
この曲が入ったことで、どれかを外すことになるのだが、私は考えた末、『同行三人』を外すことにした。
9月上旬、北海道で桃川さんの結婚式に出た私は、東城先生と再会したが、先生は『赤い玉・白い玉』という意欲的で前衛的とも思える曲を私に渡した。ひじょうに面白い曲だったので、制作中のアルバム『やまと』に入れさせて欲しいと先生に言い、承諾を得る。
制作に関しては、桃川さんとの話し合いの結果、チェリーツインの伴奏で収録することにし、その収録作業は9月下旬にまたあらためて私たちが北海道に行って行なうことにした。
桃川さんの結婚式に出た後、私たちはそのまま沖縄まで飛行機を乗り継いで移動した。この時、千里を「北海道まで来たついでに」と半ば強引に連行した。そしてこの地で『その角を曲がればニルヤカナヤ』という曲のPV撮影と音源制作を行った。
これは昨年6月に沖縄に行った時に書いた曲であり、この時に関わりあいになった、明智ヒバリ、および木ノ下大吉先生に演奏に参加してもらった。またヒバリは自身が管理しているウタキでの撮影も許可してくれた。
ヒバリちゃんには、サビの部分で、私たちの歌に重ねて沖縄歌謡に独特の突吟(ちちじん)の入ったサブメロディーを歌ってもらった。またこの曲のイントロとエンディングのピアノを木ノ下先生に弾いてもらった。
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