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■夏の日の想い出・やまと(16)

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「アクアのアルバムの話とかはあるの?」
と私はコスモスに訊いた。
 
「レコード会社は出したいみたいだけど、アクアのスケジュールがきつすぎて当面無理だと思う」
とコスモスは言う。
 
「テレビによく出てるもんね〜」
 
「ドラマの撮影は中高生の俳優さんが多いから隔週くらいの土曜日・朝から晩まで掛けて2回分ずつ取る。FM局のTimes of JKの特別コーナーTimes of JCの収録は隔週日曜日に2時間、スタジオμ、ヤングポップス、サウンド・フェリアには事実上月1回は出ている。新曲が出るとしばらくは毎週ベストソングに出る。クイズ番組とかバラエティ番組にも月2回くらい呼ばれている。そのほか、歌とダンスのレッスンを受けさせているし、本人が感覚を忘れないようにしたいと言うのでピアノとヴァイオリンのレッスンは続けさせている。もちろんシングルの制作があるし、今アクアは10社のCMに出ていて、その撮影が定期的に入ってくる」
 
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「アクアって毎週どこかの音楽番組に出ている感じだよ。そうかFM局もあったね」
 
「メインのファン層にはFMがいちばんアピールするんだよ。受験生とかラジオ聴きながら勉強してるもん」
 
「でもさ、そもそもTimes of JKって女子高生アイドルのための番組だよね」
「うん」
「中学生だからTimes of JCってのは分かるけど、なぜ女子中生アイドルの為の枠でアクアがレギュラーになってる?」
 
「うーん・・・。それは本人も含めて誰も気にしてないから問題無いかと」
「あぁ」
 
現在このTimes of JCのコーナーのレギュラーは、アクアの他、山里エルカ(FireFly20)、名室栗美(Cats Five)、田阪弥生(金平糖クラブ)、宮村尚子(ファレノプシス)となっていて他の4人はいづれも集団アイドル・グループアイドルのメンバーであり、ソロのタレントはアクアのみである。
 
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「上島先生との約束でアクアの稼働は土日以外では週2回までということにしてるんだよ。特に夏に映画の撮影スケジュールが鬼畜になってステージで倒れたでしょ。あれで上島先生が、約束はきちんと守って欲しいと会長に再度申し入れてきたんだよね」
 
「あの件では紅川さんとコスモスちゃんもテレビ局に抗議してたね」
「だってあんな使われ方をしたら2〜3年で壊れちゃうもん」
とコスモス。
「うん。ああいう豊かな才能を持っている子は大事に育てて行かなくちゃ」
と私も言う。
 
「そういう訳で、今の状況ではこれにアルバム作成のスケジュールを入れるのは無理だから当面制作も困難」
 
「だよね〜」
 
アクアの次のシングルは年明けくらいにリリースする方向で、11月中に曲は渡せばよいことになった。
 
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2016年11月9日、ローズ+リリーの24枚目のシングル『来訪』がリリースされた。ローズ+リリーの“シングル”は5曲入りにすることが多いのだが、今回は都合により4曲でのリリースとなった。
 
価格もここしばらく5曲入り1600円(DVD付2500円)だったのを4曲入りということで1250円(DVD付2000円)にしている。
 
タイトルは『その角を曲がればニルヤカナヤ/来訪』で両A面。それに『雪虫』と『だるま恋愛かもしか恋愛』(結局元の題名に戻した)の2曲を加え、各々のカラオケ版も添付する(つまり8トラック構成)。
 
発売することを公表してテレビやFMに広告を流し始めたのが10月25日だったので、初動を心配していたのだが、事前に流していた曲の中で『雪虫』が好評だったようで、ネットでは「凄くいい曲だ」「なぜか涙が出てくる」といった感想が多数書き込まれていた。
 
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当日は例によって★★レコードで記者会見を開いたが、最初に年末年始のローズ+リリーのツアー日程が発表された。
 
12月7日(水)の『やまと』発売に合わせてその週末の12月10日(土)から始まる日程である。
 
12月10日(土)東京深川アリーナ 9,000
12月11日(日)横浜エリーナ 12,000
12月17日(土)広島レッドアリーナ 8,400
12月18日(日)神戸ポートランドホール 6,000
12月23日(祝)愛知スポーツセンター 8,000
12月24日(土)大阪ユーホール 10,000
12月25日(日)福岡マリンアリーナ 11,000
12月28日(水)沖縄なんくるエリア 10,000
12月31日(土)カウントダウンライブ 30,000
1月3日(火)札幌スポーツパーク 10,000
1月7日(土)宮城ハイパーアリーナ 7,000
1月8日(日)金沢スポーツセンター 5,000
1月9日(祝)大宮アリーナ 20,000
 
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ちなみに、これは例によってアクアの年末年始ツアーと日程をずらしている。アクアは12月24日博多ドーム、25日京阪ドーム、27日愛知ドーム、29日埼玉ドーム、1月2日札幌ドーム 4-5日関東ドーム、という7連続ドーム公演をおこなうことになっている。
 
ツアーに関する簡単な質疑応答を受けた上で、いつものように、その場でPVの映像だけ流しながら、スターキッズの生演奏に合わせて私とマリが4曲をいづれもショートバージョンで生歌唱した。
 

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記者からは最初『その角を曲がればニルヤカナヤ』についての質問が出て、クレジットしている明智ヒバリと木ノ下大吉先生の担当箇所を尋ねられるのでヒバリはサビの突吟(ちちじん)を歌っていること、木ノ下先生はイントロとエンディングのピアノを弾いて頂いたことを説明する。
 
「木ノ下先生は、以前ローズ+リリーのライブにも出演なさいましたね?」
「はい。坂井真紅ちゃんが私たちのライブにゲスト出演してくれた時に、その伴奏をしていただいたんです。坂井真紅ちゃんは木ノ下先生の曲でデビューしたというご縁がありましたので」
 
「木ノ下先生は作曲活動はもうなさらないのでしょうか?」
「実は12月7日発売予定のアルバム『やまと』の中に木ノ下先生が最近お書きになった曲を収録しています」
「おぉ!」
 
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「では木ノ下先生は作曲家として復帰なさるのでしょうか?」
「まだそこまではご無理な様子でした。今はリハビリ中ということのようです」
「では意欲はあるんですね?」
「意欲はかなり高まっていると思います」
と私は答えた。
 

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記者の質問は後半『雪虫』に関するものが多くなった。雪虫というものを知らない記者さんもいたようだったので、北国では初雪が降る少し前にこの虫が飛ぶのだということを説明すると「へー!」といった顔をしている記者さんがかなり居た。
 
「これはFM放送などで事前に流れていたものを聴いたリスナーさんたちの間でもかなり言われていたのですが、この曲は物凄く悲しいですよね」
 
「私もマリも特に悲しみは意識していなかったのですが、確かにそう取られる方が多いようです」
 
「歌詞をそのまま読んでも悲しい話は無いし、曲自体もそんなに暗いメロディーとは思えないのですが、なぜこんなに悲しいのでしょう」
 
「雪虫は本格的な冬の到来を告げる虫なので、これからの季節を思うとわびしい気持ちになるのかも知れませんね」
と私は答える。
 
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「ホタルなんかは人の死んだ魂がホタルに変わったのだ、みたいな伝説がありますが、雪虫についてはどうでしょうね」
という質問が出る。
 
これは氷川さんが知っていた。
「新潟の方に、可哀相な母娘がいて、母が亡くなり、娘も亡くなった後、見たこともない虫が出現したというので、この虫はきっとあの娘の魂が虫になったのでは、と言われ雪虫と名付けられたという伝説があります(*1)」
 
「ああ、やはりあるんですね」
 
(*1)中魚沼郡津南町の伝説(樋口祐太「越後地方の雪の伝承に関する環境知覚研究」)
 

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「でも慰霊祭の時に書いたから、その悲しみが入ったのかもね」
とマリが発言する。
 
「どなたの慰霊祭だったんですか?」
「友人のご両親が亡くなったのの慰霊だったんですよ」
「ああ、法事だったんですか?」
「はい。何回忌だったかは、ちょっと忘れましたが」
と私は言った。
 
明確な年数を言ってしまうと、それが高岡さんたちのことだと気付く記者も出るかも知れない。アクアの身分については20歳をすぎるまで明かさないように周囲の者も気をつけている。幸いにもこの時はこれ以上その問題に突っ込んでくる記者さんは居なかった。
 

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「しゃんしゃん、しゃんしゃん、と刻まれている鈴の音も物悲しい雰囲気ですね」
 
「はい。それはKARIONの美空ちゃんが入れてくれました」
「みそらさんですか!こかぜさんも何かなさいました?」
「小風ちゃんは所々に入っているキハーダを打ってくれました」
「キハ?」
 
記者さんたちの中に何人か頷いている人があるので、その人たちは知っているようだが、知らない人も多いようだったので氷川さんが社内の楽器を在庫している部門に電話して、持って来てもらうことにした。
 
「いづみちゃんは何かなさいました?」
「彼女は今全国を旅して回って、次期アルバム用の詩を書いているそうです」
 
実は既に3曲、曲も書いちゃった!と聞いているが、KARIONの楽曲は和泉が書いたとしても、森之和泉作詞・水沢歌月作曲とクレジットすることにしている。これは私が詩まで書いた場合もそうである。
 
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「らんこちゃんは何かなさいました?」
「彼女は今中東付近に行って色々着想を練っているらしいですよ」
「中東ですか!?」
「9月頃でしたか、テヘランから小風・美空宛てに絵はがきが届いていたそうです」
「へー」
と記者は受け応えたものの笑っている。多くの他の記者も笑っている。
 
ちなみにその葉書というのは、千里の彼氏が9月にテヘランに国際大会で行った折に、天野蘭子名義のはがきを投函しておいてもらったものである。
 
そのあたりで★★レコードの人がキハーダを持って来たので、それを政子が鳴らしてみると、記者さんたちに大いにうけていた。
 

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このCDは結局初日に80万枚売れ、デイリーランキングの1位を取った。
 
前回と前々回のローズ+リリーのシングルは初日にミリオン越えしていたのだが、それに比べると少ない。しかしこの曲はその後伸び続けウィークリーランキングでは120万枚に到達した。ローズ+リリーのシングルはこれで11連続ミリオンである。
 
2013.01 RL12『夜間飛行』110万
2013.03 RL13『言葉は要らない』110万
2013.04 RL14『100%ピュアガール』120万
2013.08 RL15『花の女王』130万
2014.04 RL18『幻の少女』110万
2014.07 RL19『Heart_of_Orpheus』140万
2015.03 RL20『不等辺三角関係』130万
2015.07 RL21『コーンフレークの花』180万
2015.12 RL22『振袖』190万
2016.04 RL23『ちゃんぽん』150万
2016.11 RL24『ニルヤカナヤ』120万(暫定)
 
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(RL16は『雪の恋人たち』(2009), RL17は『夏の日の想い出』(2011)に後から番号を付けたもの)
 
このシングルはその後アルバム『やまと』との相乗効果で春までに170万枚に到達して、歴代3位(売上非公開の『神様お願い』を除く)のセールスとなった。
 
 
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夏の日の想い出・やまと(16)

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