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■夏の日の想い出・やまと(14)
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そういう訳でここまで出来たのがこれらの曲である。
『だるまさんのように』5月
『やまとなでしこ恋する乙女』(醍醐)Golden Six6月上旬
『かぐや姫と手鞠』(鮎川)Red Blossom 6月下旬
『神秘の里』6月下旬〜7月中旬
『Twin islands』(鹿島)Redundancy-Redunjoccy 8月上旬
『東へ西へ』8月中旬
『巫女巫女ファイト』(SV)Sweet Vanillas 8月下旬
『その角を曲がればニルヤカナヤ』9月上旬
『青い炎』(木ノ下)9月上旬
『祇園祭の夜』9月中旬
『暮れゆく龍宮』9月中旬
『赤い玉・白い玉』(東城)Cherry-Twin 9月下旬
『寒椿』(鴨乃)10月初旬
『コスモスの園』10月中旬
まだ手を付けてないのが『秘密のかまくら』『二見浦の夜明け』の2曲で、私は何とか『やまと』の制作も峠を越したなと思った。
「じゃ帰り道、二見浦に寄ってPVの撮影をしましょう」
と私は福岡での最終日の夜、市内の“海幸”で夕食を取りながら政子やスターキッズの面々と話していた。
すると酒向さんが変な顔をして私に訊いた。
「ケイ、このアルバムって何曲入り?」
「14曲ですけど」
「既に14曲作っているけど」
と酒向さん。
「え〜〜〜〜!?」
慌てて、これまで作った曲の数を数えてみると、確かに14曲ある。
「うっそー!?私どこで数え間違ったんだろ?」
「私、ケイがどこで数え間違ったか知ってるけど、面白いから言わないでおいた」
と政子が言う。
「16曲入りの2枚組アルバムにするのかと思っていた」
と七星さん。
「16曲制作して、最終的に2曲落とすつもりなのかと」
と氷川さん。
「全然気付かなかった!」
と風花。
「じゃ、もうこれで仕上がりにする?」
と近藤さんが訊く。
私は少し考えたものの言った。
「『二見浦の夜明け』はどうしても欲しいです。そこまで制作しましょう。『秘密のかまくら』は外してもいいです」
「だったらね、ケイちゃん。福岡にも二見浦があること知ってる?」
と氷川さんが言う。
「あ、そういえばありました!」
「明日の午前中にあそこの写真を撮って、それから伊勢に向かいましょう」
「そうですね。そうしましょうか」
それで翌10月20日は私・政子・七星・氷川・風花、および★★レコードの佐久間さんと福岡支店の有川さんの7人で福岡の糸島半島にある“二見ヶ浦”を訪れた。他のメンバーは朝から伊勢に向かって移動している。
「ここは夕日の名所なんですよね」
と有川さんは説明する。
伊勢の“二見浦”は左側の岩が大きく右側の岩は小さいが、福岡の“二見ヶ浦”は左右が似たようなサイズ(左側がやや小さい)である。
「でもここも美しいです」
「ここは来るのが大変だった」
「伊勢の二見浦ほど有名ではないですし、アクセスする道路もカーブやアップダウンが多くて大変だから、来る人が少ないんですよ」
取り敢えず昼間の光の中で、私たちは衣装を着けて夫婦岩の前でポーズを取ったり歩いたり、また歌ったりして、そこを撮影してもらった。
夕日の撮影を有川さんにお願いして、私たちは今宿駅まで送ってもらい、それで地下鉄で博多駅まで出て、地下街の“名代ラーメン亭”で博多ラーメンを食べてから新幹線で伊勢に向かった。
伊勢に到着したのは19時すぎである。
私は政子たちと一緒に二見浦に向かう。
「まさか二見浦で徹夜するの?」
と政子が訊く。
「まさか」
「じゃどうして今から?」
「夫婦岩からの月出を見るんだよ」
「わっ」
「夫婦岩から太陽が昇るのは夏至の時期」
「7月に来た時、だいたい夫婦岩付近から太陽が昇ったね」
「うん。あれは物凄くうまいタイミングで巡り会った。ところがこれから2月くらいまでの間は、満月に近い月が夫婦岩の付近から昇るんだよ」
「おぉ」
「満月というのはつまり太陽の反対側にあるから、そういうことになるんだけどね」
と言って私が絵を描いて説明すると
「なるほど、そういう仕組みが!」
と言って感動していた。
「冬、今夜の月出は何時?」
と風花が訊く。
「今夜の月出は20:55」
「少し待ってれば出てくるね!」
二見浦の日出なら、毎日見に来る人がいるのだが、月が(満月付近限定で)この時期に夫婦岩の所から昇ることを知っている人は少ないのか、その日、二見興玉神社に来ているのは私たち以外では2組4人だけであった。
その内の1組、女子大生くらいの感じの2人が私たちに気付いて、サインを求められたので彼女たちが持っていたスケッチブックに書いてあげた。
「私、実は年明けにタイに渡って性転換手術受けるんですよ」
「わあ、それはおめでとう。手術大変だろうけど頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
彼女と握手したがふつうに女の子の手だと思った。同じく握手した政子もあとで同じ事を言っていた。
「たぶんかなり早い時期から女性ホルモン飲んでたんだろうね」
「そんな気がする。全然男っぽさが無かったもん」
「一緒にいたお友達も男の娘かなあ」
「え?ふつうの女の子と思ったけど」
「訊いてみる?」
「やめときなよー」
神社にお参りして、例によって蛙さんたちと戯れてから、その時刻を待つ。
やがて月の先端が海の向こうに見えてくると
「来た」
という声が挙げる。
その月はみるみるうちに姿を現していく。
「わぁ・・・・」
と政子が声をあげた。
私たちはその幻想的ともいえる月の出現をじっと見ていた。
「きれいだった」
「日出も美しいけど、月出はまた別の趣きがあるね」
「うん。素敵」
私たちはその後、通りがかりの和食の店で夕食を取ってからホテルに戻った。
翌21日朝は5:31の夜明け、6:03の日出を見るので、政子を4時半に起こした。ところが政子は起きると言った。
「冬、昨夜の月出に感動したから、これ書いた。『二見浦の夜明け』は やめてこれを制作しよう」
「え〜〜!?」
見ると『夜ノ始まり』と書かれている。
「この歌詞の『私はこれから生まれ変わる』って、もしかして」
「うん。女の子に生まれ変わるあの子のことだよ」
「なるほどね〜。でも今から入れ替えというのは・・・」
「朝になって始まるのはお仕事だよ。それより夜になって始まる愛が大事」
「うーん・・・・」
そこで私はこの日の朝日は見ない!ことにし、政子は風花に託して二見浦に連れて行ってもらい、その間に私は政子が書いた詩に曲を付けた。政子もあの月出に感動したようだが、私も結構感動してその余韻が残っていたので、そのイメージを捉えながら書いたら、とても魅力的な旋律の曲が出来た。
みんなが戻って来たところで朝御飯になるが、私は政子の詩に今付けたばかりの曲を彼らに見せる。
「うーん・・・・」
と考え込む人が多数ある。
1分ほどの沈黙の後、氷川さんが言った。
「私は『二見浦の夜明け』より、この曲の方が出来が良いと思う」
すると七星さんが言った。
「この2曲の択一で考えなくてもいいと思う。既に作った14曲がある。それに『二見浦の夜明け』『夜ノ始まり』の2曲を入れた16曲の中から2曲外して、次のシングルにでも回せばいいと思う」
「そう考えるから『だるまさんのように』は外していいと思う」
と鷹野さんが言う。
これは同意する人が多い。最初に作った曲だが、その後に作った曲のレベルが高くなりすぎた感がある。
ここで近藤さんが発言する。
「俺一昨日から考えていたんだけど」
「はい」
「他の作曲家さんから頂いた作品が今回はあまりにも凄すぎる」
「それは感じていました」
と私も言う。
「鴨乃さんの『寒椿』は山森水絵にあげてもいい曲。これをシングルカットすればそれだけでミリオン行きそうな曲。木ノ下先生も東城先生も長年現役から離れていたとは思えない曲。リダンリダンの信子ちゃんも若さに任せた軽快な曲を書いているし、Eliseは楽しい曲を書いている。ゆまちゃんもすごくきれいな曲を書いてきた」
と言って近藤さんは言葉をいったん切る。
「これに対抗できそうな曲が『神秘の里』と『暮れゆく龍宮』くらい。明らかにケイの曲が見劣りしている」
私は厳しい顔でその言葉を受け止めた。
「『夜ノ始まり』はたぶんここまでの曲の中でいちばん良い曲だと思う。だからこれは制作しよう。『二見浦の夜明け』もかなり良い曲だけど『二見浦』という固有名詞は要らない気がしていた」
「そういえば5月頃の段階では地名が入っていた曲が多かったのに、今は祇園祭とニルヤカナヤくらいですね」
と風花が言う。
「単に『夜明け』にしますか?」
「『あけぼの』がいいと思う」
と近藤さんは言った。
「ああ、そちらが格好良い」
「じゃ2曲とも活かしますか」
「だったら、あと1つどれを外しますか?」
「ケイがいちばん分かっているはず」
と近藤さん。
「分かりました。『その角を曲がればニルヤカナヤ』を外します」
と私が言うと、驚きの声が上がる。
しかし近藤さんも七星さんも氷川さんも頷いている。
「それもいい曲なんだけど、他の曲のレベルが高すぎるんだ」
と近藤さんは言う。
「『その角を曲がればニルヤカナヤ』、『だるまさんのように』にあと2曲『来訪』と『雪虫』を加えてシングルとして先に発売する、というのでどうです?」
すると氷川さんは少し考えてから言った。
「その音源、月曜日の朝までに作れる?11月9日発売にしたい」
「そういう話は俺たちはわりと、何とかするな」
と近藤さんは言った。
そこで私たちはいったん東京に戻り、その日の午後から『来訪』と『雪虫』の音源制作に取りかかった。
『雪虫』は2014年11月に長野県某PAで高岡さんと夕香さんの慰霊をした時、龍虎(アクア)が宙を飛んでいる虫を見つけ、支香さんが「それは雪虫」と教えてあげた、その状況を見て書いた曲である。
この曲は以前のシングルに収録するつもりで制作だけした音源が存在したので、それを再生してみたのだが、私も七星さんも
「録り直そう」
と言い、それで21日の夕方から夜に掛けてとりあえず楽器演奏部分を録り直した。それをしてもらっている間に私は風花とふたりで『来訪』のスコアの調整を行った。
そして22日の午前中に、私とマリが『雪虫』の歌唱部分を入れている間に、七星さんたちには『来訪』の演奏部分の練習をしてもらった。今回の作業では実はスタジオを2つ使って2曲を並行作業で制作した。録音も『雪虫』は有咲の同僚の彩智さんという19歳の技術者さん(実はまだ学生さんである)にしてもらった。
(麻布先生はご自身ではあまり録音作業はしない。若い耳でなければ捉えきれない周波数の音があることを、先生は認識しておられる)
『来訪』は2013年の秋に、出雲の神迎祭を見た時に書いた『神は来ませり』という曲を宗教色の薄いタイトルに改題したものである。
スターキッズのアコスティック・バージョンを基本に演奏するが、神を案内する神職さんの「おーーーーーー」という声を模して、ホルンの音を鳴らす。このホルンについては、中学時代の市民オーケストラの友人でもある、線香花火(e&a)の野乃干鶴子に打診してみたら「いいよ」ということですぐに来て演奏に参加してもらった。
「春のツアーではバラライカ弾いてくれたね」
と近藤さん。
「この子は器用な演奏者なんですよ」
と私。
「千鶴子(ちづこ)ちゃん、確か以前、ローズ+リリーの制作にも参加してもらったよね?」
と風花が言う。
「はい。2年くらい前かな」
と干鶴子は答える。
「『雪月花』の中の『可愛いあなた』でもホルン吹いてもらった」
と私は言う。
「ホルンだったっけ?何かやったのだけは覚えていたんだけど」
と本人は言っている。
「干鶴子(えつこ)はとにかく器用でグロッケンシュピールとかピアノとかヴァイオリンとかトランペットとかも演奏できる。近藤さんも言ったように『雪を割る鈴』のバラライカも弾いてもらったし」
「あれ、今、冬『えつこ』と言った?」
「千鶴子(ちづこ)と誤読されることが多いけど、先頭の字が千(せん)ではなくて干(ほす)という字なんだよね」
「え〜〜!?」
「それで『えつこ』と読めるの?」
「干(ほす)という字に『え』という読み方は無いんだよ。うちのお父ちゃんが勘違いしたんだと思う」
「いや、その話も前回した気がする」
と七星さん。
「あれ〜〜!?ごめん。私忘れてる」
と風花は言っていた。
この曲で、多数の神々が押し寄せてくる様は、多数のヴァイオリンで表現することにした。このため、アスカに
「ヴァイオリン奏者さんを10人くらい頼めない?ギャラははずむから」
と言ったら、1日で10人そろえてくれた!
この人たちに少しずつタイミングをずらして音を出してもらい、マントバーニーオーケストラの《カスケーディング・ストリングス》に近いことをした。これで実際重厚なサウンドになった。
彼らには23日の午後3時間ほどの予定で入ってもらったのだが、アスカが推薦しただけあって、実力者揃いである。こちらが渡した譜面を「へー!」とか言いながらもきちんと演奏してくれたので予定時間内に充分満足できる音を録ることができた。
音源制作は無事23日の夜までに終わり、そのあと有咲と麻布先生が徹夜でマスタリングをしてくれて、24日朝いちばんにマスターデータを工場に納入することができた。私たちが音源自体を作っている最中に、氷川さんと風花の指示で、琴絵・仁恵・小春の3人が封入するパンフレットのデータを作る作業をしてくれて、これも何とか24日朝に間に合わせることができた。
「ケイちゃん、サマーガールズ出版には、この手の非楽曲系の作業をするスタッフが必要だ」
と七星さんは言い、私もそれを検討することにした。
また音源が出来た後1日掛かりでPVの編集を私と氷川さん・風花の3人で手分けして行い、1日遅れでDVDのマスターも納入してプレスに入ってもらった。
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