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■続・サクラな日々(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-09-24
 
大学2年生の私は、学資稼ぎに出会い系サイトのサクラをしていたのだが、男性会員さんがどうしても会いたいと言ってきた時に、たまたま対応できる女性スタッフがいなかったことから、女装して相手の女の子の振りをして会ってきたのを機会に、女装の味を覚えてしまい、結局24時間女装しているようになって、学校にもバイト先にもその格好で行くようになってしまった。
 
学校で同じクラスの女子、莉子(りこ)・涼世(すずよ)・妃冴(ひさえ)とは凄く仲良くなっていつも一緒にお昼を食べていたし、映画に行ったり、ファミレスに行って勉強会をしたりもしていた。またバイト先の先輩レモン(清花:さやか)には可愛がってもらい、よく一緒に夕食を取ったり、また相談事に乗ってもらったりもしていた。
 
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そんな中、男の子時代からの友人・進平とちょっとしたきっかけで恋愛感情が芽生え、私達は恋人として付き合うようになる。一時、進平は私の他に普通の女の子の恋人も作っていたが、私にバレるとそちらとは別れてくれて、その事がきっかけで、私と彼の仲は更に深いものへと進展したし、私は自分が女の子であること、そして彼の恋人であることに自信を持つようになった。
 
進平は高校時代からの友人達と4人でよく深夜のドライブをしていて、各々の恋人を助手席に乗せていた。その相手である花梨(かりん)・麻耶(まや)・美沙(みさ)とも私は仲良くなった。彼女たちとは何度も温泉に一緒に入った。
 
私の女装生活は上京してきた母にバレてしまったが、母は私の生き方を理解してくれて、成人式にもまた来てくれた。そして振袖を着た私を可愛いと言ってくれたし『娘の成人式で振袖姿を見るなんて不可能な夢と思ってたから嬉しい』
とまで言ってくれた。
 
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成人式の翌週、私はまた振袖の着付けをしてもらい、写真館で成人式の記念写真を撮った。成人式が終わってからの方が写真館も空いているということもあったのだが、成人式の日に進平に(彼が同じ日に別の会場で成人式だったため)振袖姿を見せることができなかったので、それを見せたいというのも大きな理由だった。
 
彼は写真館にも付き合ってくれて、私の撮影を見ていた。写真屋さんが
「何でしたら、お持ちのカメラで彼と並んでいるところも撮りましょうか?」
などと気を利かせて言ってくれたので、好意に甘えて撮ってもらった。進平も、最初から自分たちのデジカメで並んだ所をどこかで撮るつもりで今日はスーツを着てきていた。
 
ファミレスに移動してお昼を食べる。今日は自前でエプロンを持参してきていたので、食事も安心である。とはいっても、汁などが垂れる可能性のある品は全部進平に押しつけた。
 
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「じゃ、代わりにこれ食べる?あーん」
などといって進平が唐揚げを食べやすいサイズに切って、フォークで刺してこちらに手を伸ばしてきた。私が口を開けると、彼は唐揚げを私の口に入れた。
「美味しい、ありがと」
「なんかこういうの楽しいよね」「うん」
 
「ハルちゃんとはなんか付き合い出した頃から、こんなことしてるけどさ、実は俺、他の子とこういうことしたことない」
「朱実ちゃんともしなかったの?」
「あの子とは何だか政治の話ばかりしてた」
「わー、そういう系統の子か」
「おかげで学生運動のセクトの名前には詳しくなったけど。夕子とは、なんかピカソがどうのとか、歌舞伎がどうのとかばかり話してた。ゲルニカのことだけで6時間しゃべり続けられた時は参ったと思ったね。横浜にハルちゃんが来た時も実は2時間くらい棟方志功論を拝聴していた」
「。。。。ねー、進ちゃん、ひょっとして女の子の選び方が変?」
「あはは、そうかもな。ハルちゃんもちょっと変な子だし」
「うふふ」
 
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「でもハルちゃんはちょっと他の女の子と違った子だけど、俺は好きだよ」
「ありがと」
「それで思ってたんだけどさ」
「うん」
「前、ハルちゃんが言ってたことで訂正して欲しいことがある」
「何だろ?」
 
「例の横浜までハルちゃんが来た日、ハルちゃん、東名を走りながら言ってたろ?自分に飽きたから別れてと言ったら別れてあげるとか、自分が子供を産めないから別れてと俺が言ったら別れてあげるとか」
「うん・・・・」
「それを訂正して欲しい。そんなんで簡単に別れてくれるような愛では困る」
「進ちゃん・・・・」
「俺、真剣にハルちゃんのこと好きだから、ハルちゃんも真剣に俺を愛して欲しい」
 
「ありがとう。そのことば、私、取り消す。実はさ、あの後自分ではあんな事言ったけど、ほんとに別れてと言われて、私素直に身を引けるかなと考えてたら、やっぱり無理だと思った」
 
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「うん」
「私も進ちゃんのこと、真剣に好き。もう結婚しちゃいたいくらい」
「俺、ハルちゃんと結婚したいと思ってるよ」
 
私は無言で笑顔のまま頷くと、さっき写真屋さんで自分のデジカメで撮ってもらった画像をモニタに呼び出した。
「この写真、まるで結婚写真みたい」
「実は俺もあの時思った。振袖とスーツだもんな」
「うふふ」
 
「ね、指輪買ってあげようか?」
「えー!?」
「本式のエンゲージリング買ってあげるほどはまだお金無いから、ファッションリングでも良ければ。誕生石はエメラルドだったっけ?」
「うん」
「じゃ、ちょっとこの後、宝石屋さんに行こうよ」
「ほんとに〜?」
 
そうして私達はファミレスを出た後、振袖とスーツ姿のまま、銀座の宝石店に行った。お店の人からいきなり○十万とかの指輪を勧められたりするが、そんな予算ありません、と言って、進平は3万9千円のエメラルドのリングを選んだ。一応エメラルドカットでリングはホワイトゴールドである。彼が私の左手薬指にそれをはめてくれた。
 
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お店の人が「エンゲージリングですか?おめでとうございます」と言ったが、進平は「いえいえ。エンゲージリングはまたあらためて、お金を貯めてからダイヤのプラチナリングを買いに来ますよ」と言った。でも宝石屋さんは私達が振袖とスーツで並び、私がその左手薬指の指輪を見せているところの写真を撮ってくれた。
 
私達はその日の午後はホテルに行き、たくさん愛し合った。
 
「振袖って可愛いけど、脱がせちゃうと着せられないのが難点だな」
「脱がせるの楽しそうだったね」
「和服の下着ってまた構造が違うから少し楽しかった」
「進ちゃん、着付け覚える?」
「無理〜。俺、着物と浴衣の区別も付かないから」
「私もこの振袖買いに行く直前まで、そうだった。これが振袖かなって思って訪問着見てたんだから」
 
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その日は夕食を一緒に取ってから別れる予定だったのだが、椎名君から進平に電話が入った。椎名君がなんと10万円の宝くじを当てたということで、通行料を全員分おごるから、夜のアクアラインを走ろうということだった。
 
いったん進平の家まで電車で一緒に戻り、愛車のRX-8を出して集合場所へ行く。椎名君が1万円札を全員に配る。
「おい、これは多すぎないか?」
「アクアラインを渡った後、館山道、東関東道をまわって東京に戻り、最後にレインボーブリッジを渡る」
「なるほど。走り甲斐があるね」
「海ほたるUターンじゃ詰まらないだろ?」
「じゃ、海ほたると、幕張あたりで休憩するパターンかな」
「うん、そんなところだろうな」
 
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川崎側からずっとトンネルを走る。海の中を通っている感覚は無い。これはふつうのトンネルみたいな感じだ。私達は今日最初の先導役を務める高梁君のGT-Rの後、全員法定速度で左車線を走っていく。どんどん右車線から後続車が私達を抜いていくが気にしない。やがて、その長いトンネルを抜け、海ほたるで休憩する。
 
食堂で軽い食事を取ったが、車から降りて建物の方に行く段階で早速花梨たちから左手薬指のリングを指摘された。
 
「ただのファッションリングだからね」と私。
「でも左手薬指だよ」と麻耶。
「エンゲージは俺が金貯めてから」と進平が補足する。
「へー。でもおふたりさん、かなり仲が進展してるみたいね」と花梨は楽しそうだ。
 
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「どっちみち、結婚できるのは大学卒業して就職してからだろうからなあ」
「私もそれまでには戸籍の性別を変更し終えてるつもり」
「え?そうなの?」と進平も驚いた様子で訊く。
 
「おお、とうとう性転換を決意したか」と花梨。
「うん。性転換する!手始めに私、もう女性ホルモン飲んじゃう!」
と私は高々と手を挙げて宣言した。
「よしよし、行け行け」と花梨。
進平はどう反応していいか分からないような表情をしていたが、やがて私の手を握った。
「何?キスして欲しいの?」と言って、私はみんなの前で進平にキスをする。
 
「あ、えっと。お熱い人たちもいるし、幕張では2時間くらい休憩しようか?」
と椎名君。「お熱い人たちは降りずに車の中で休んでいればいいから」
「じゃ、幕張では出発するまで声掛けないからねぇ」と花梨。
「うん、ありがと」と私は笑顔で答えた。
 
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海ほたるでの休憩を終えてから、私達は今度は深谷君のインプレッサが先導役となってアクアブリッジを渡り、木更津側へ向かった。物凄く美しい。真っ暗な空間に道路の明かりがずっと続いている。
 
「きれい・・・・」
「景色が見られないのは残念だけど、これはまた別の美しさがあるよな」
「うん。凄くきれい。感動」
私は助手席から身を乗り出して進平の頬にキスをした。
 
この日を境に、私と進平はいわゆる「週末同棲」状態に移行した。金曜日の夜私のバイト先の近くまで進平が車で迎えにきてくれて、短いドライブを楽しんでから私の自宅に戻るか、あるいは椎名君たちと落ち合って少し遠出をしてから土曜の朝に私の自宅に戻る。それから月曜の朝まで、ほぼ一緒に過ごすのである。
 
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土曜と日曜の夕方にも私はバイトに行くので、それは彼が送り迎えをしてくれた。私がバイトに行っている間は、彼は買物などをしておいてくれたり、ゲームで遊んでいたり、あるいは勉強しているようであった。日曜日はしばしば電車で町に出て、古本屋さん巡りをしたり、スタバなどで過ごしたり、時には彼がカー用品やパソコン用品を買うのに付き合ったりもした。
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