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■続・サクラな日々(10)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-09-26
 
ゴールデンウィーク突入直前の4月27日金曜日、普段大阪に住んでいる風史兄が窓歌さんを連れて東京にやってきた。ゴールデンウィーク前半に窓歌さんの実家がある水戸に行くということで、その途中こちらに寄ったということだった。
 
その日は私も進平も午後の授業がなかったので、私達と一緒に少し遅めのお昼を食べようということになり、私が予約を入れて、都内の割烹料理店に行った。ここはバイト先の店長・茂木さんのコネで比較的融通が利くお店であった。
 
「あれ?この店、昔1度バイト先の店長に連れてこられたことがある」と進平。「そのコネで個室を押さえたの」と私。
「高くないのか?こういう場所で?」と風史兄。
「コネ割引で」と私は笑う。
 
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最初に私は窓歌さんの指に光るエンゲージリングに目を留めた。
「わあ、素敵な指輪ですね」
「ありがとう。実は昨日もらったばかり」
「今月の給料がまるごと飛んだけどね」
「わあ、大丈夫?」
「まあ、飢え死にすることはあるまい」
「とりあえず、ここのお勘定は今日の所は私が全部持つからね。そのうち何かで返してもらえばいいから」
「ふだんなら、いや割り勘でというところだが、今日は甘えとこう」
 
「今日は風兄(かざにい)はJRだよね?」「うん」
「進ちゃんは今日はもう運転しないよね?」「うん」
「じゃ、アルコール行けるね」
ということで、私は生ビールを頼んでみんなで乾杯した。
 
「でも窓歌さん、水戸なら去年は震災の被害が凄かったんじゃないですか?」
「うん。もうおうちは無茶苦茶だった。家自体は何とか持ちこたえたんだけど家財道具とかほとんど全部買い直し。瓦直すのだけでもかなりお金掛かった」
「わあ、ほんとに大変でしたね」
「でもかなり落ち着いてきたよ」
「よかったですね」
 
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「進平さんのご実家もここ数年、あのあたり地震続きで大変だったのでは?」
「本棚が倒れて壊れたりとかはしましたけど、そう大きな被害はなかったです。古い家だから柱とかも太いし、地震にも強いんでしょう」
「昭和30年代・40年代頃に建てた家がいちばん怖いよね」
 
話はやがて双方の「進行状況」に及ぶ。
 
「じゃ、そちらは2月に挙式なんだ」
「まだ確定じゃないけど、その方向で調整中。お前らはいつ頃なの?」
「最初、卒業してからと言ってたんだけどね・・・・今90%同棲状態なのよ。進ちゃんちの家電には全然電話が通じない状態で、向こうのお母さんから、あんたたちもうずっと一緒に暮らしてるなら早く入籍しなさい、なんて言われた」
「ま、いいんじゃないの?学生結婚も」
「ひょっとしたら私達も来年の1月か2月くらいに籍だけ入れちゃうかも」
 
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「ということは、その前に手術しちゃうということか」
「そう。手術を終えてないと性別変更できないからね」
「進平君の前でこういうこと訊くのも何だけど、進平君のために手術するんじゃないよな?」
「違うよ。私は自分がやはり女の子だと思うようになったから、自分の本来の性別に自分の身体を合わせたいだけ。結果的に進ちゃんと法的に結婚できるようになるのは、その結果のご褒美かな、と思ってる」
「うん、それならいい」と風史兄。
 
「俺も晴音さんには、手術しないことにした場合は籍入れずに事実婚にしてもいいから、自分がありたいままの自分でいてくれと言ってます。でも、晴音さんはもう手術することを決断したので、俺はそれを応援してます」と進平。
「いい彼氏持ったな、ハル」
「ありがとう」
 
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「そういえばこないだふと思ったんですが、天尚さん、風史さん、晴音って、全部同じパターンの読み方してるんですね。2文字目の最初の音を飛ばしてる」
 
「そうそう。『あまなお』じゃなくて『あまお』、『かざふみ』じゃなくて『かざみ』、『はるおと』じゃなくて『はると』。親父が当時姓名判断に凝ってたみたいで、なんか特殊な付け方をしたんだよ」
 
「でもお父さんが信奉していた姓名判断の流派がコロコロ変わってるのよね」
「そうなんだよ。はっきり言って無茶苦茶で迷惑」
 
「私の名前は最初『晴れる人』で『はると』と付けるつもりが、画数が悪いといって『晴れる音』に変えたらしいの」
「へー。しかし『晴れる人』で「はると」だったら、女の子の名前と誤解されることもなく、違う人生歩んでいたかもな」
 
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「うん。それは思う。でも最近の理論で確認してみると『吉岡晴人』だと28画で凶数。『吉岡晴音』なら35画で吉数になる。だから『晴れる人』の名前だと私、もっと悪い人生歩んでいたかも」
「女の子として生きようとすると、性別曖昧な名前の方が便利で、はっきり男と分かる名前は不利だからな」
 
「そうそう。それも考えちゃった。性別曖昧な名前だから私は楽に生きてこれたんじゃないかって。だけどさ、28画が凶だというのなら『吉岡風史』も28画なんだよね」
 
「ああ。だから俺は姓名判断の占いサイトとかで鑑定すると最悪の運勢みたいなこと、いつも書かれているよ」
「人格はいいけどね。総格では天兄の画数も26画で微妙だよね」
「うん。だけど俺よりはマシ。人格は向こうが悪いけど」
「そもそもふたりとも地格が最悪だよね」
「まあ、要するに俺達の名前付けた頃は親父は画数は見てなかったんだな」
 
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「私の画数にしても総格は確かに35でいいけど、人格が20で最悪なんだよね」
「たぶん親父は姓名判断の本を中途半端に読んで命名してたんだよ」
「でも私、寺元晴音になると31画で凄くいい画数になっちゃう。人格も16で吉だし」
「ということは、お前の場合は元々の名前は屈折した人生になりやすいが、寺元君と結婚することで運気が開けていくというパターンか」
 
「私もカザンと結婚すると運気良くなると言ってたね?」と窓歌さん。
「うん。マーちゃんも人格が20。ハルと同じで大凶なんだけど、俺と結婚すると人格が19に変わって、20よりは随分マシになる」
 
「でも姓名判断なんて当たるの?」
「当たってたら俺は最悪の人生歩んでるはずなんだが、一応有名大学出て一部上場の企業に勤めて3年目で主任の肩書きもらって、こんな可愛い嫁さんももらって、というのは、かなり良い人生歩いている気がするぞ」
「影響は受けるんだろうけど、名前以前のその人が持っている運気のほうが強いんじゃないかな。たぶん風兄は占星術とか四柱推命とかで出てくるような基礎運が物凄く強いんだよ」
「ああ、そうかも知れんな」
 
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ゴールデンウィークは出会い系サイトの稼ぎ時でもあるので、私は前半たくさんバイトをした(デートもたくさんした)、連休後半に進平と一緒に、進平の実家へ行く予定にしていた。
 
29日も既に3件のデートをこなしていたが4件目の発生で、私はまた付き添い役の男性スタッフと一緒に待ち合わせ場所に向かった。
 
向こうは深緑のスーツに白い帽子をかぶっているといったなと思い、辺りを見回す。あの人かな?こちらの目印のヴィトンのセカンドバッグを確認した上で声を掛ける。「すみません、エーテルXBさんですか?」その人物はこちらを振り返り「あ、マンゴー21ちゃんかな?」と言ったがそのまま絶句した。私もその人の顔を見て絶句する。
 
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「教授・・・・!?」
「吉岡さん・・・!?」
 
「えっと・・・・38歳の独身商社マン??」
「えっと・・・・27歳の人妻??」」
私達はお互いの顔を呆れるように見ていたが、やがて教授が大笑いし始めた。私も釣られて笑う。
 
携帯に着信。付き添い役の人からのメールだ。「トラブル?」
「知人だった。でも何とかなる」と返信。
 
「とりあえずどこかお店に入りましょう」
「そうだね」
と言って、私達は近くの喫茶店に入った。少し奥の方の席に着く。付き添い役の人は少し手前側の席に座った。
 
「でも教授、38歳というのは無理がありますよ」
「君も27歳には見えないよ。せいぜい24-25かなという感じだ。だいたい君は年齢より若く見えるから高校生でも通るんじゃない?」
「高校生は出会い系に登録できません」
「あ、そっか」
 
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「でも教授が出会い系に登録してるとは思いませんでした。奥さんにいいんですか?」
「君こそ、彼氏がいるんじゃなかった?あ、そうか。君はサクラか」
「まあ、そうですね。うちはホンモノの女性会員は1%もいませんよ。そういう会員さんはガード硬いから、デートできたら宝くじに当たるくらいの確率ですね」
 
マニュアル上も、デートで会いに行った相手が偶然知り合いであった場合は、こちらがサクラであることをバラすように求めている。その方が余計なトラブルを避けやすいのである。
 
「参ったね。ま、僕もサクラかもな、くらいの気はしつつも、あわよくば若い人妻とひととき楽しい会話を交わせたら、なんて思ってノコノコ出て来たんだけどね」
「まあ、うちはいかがわしいサービスとかはしませんから。こちらも30分間、夫が出張中の人妻になりきっておしゃべりするつもりでやってきたのですが」
「ちなみに、サクラさんはいくらもらえるの? こちらはこのデートするのにゴールデンウィーク特別料金3万円払っている訳だけど」
「企業秘密なので言えません」
「ははは」
 
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「でもこのサイトはある意味で良心的だよ。月に幾らまでなら使っていいかというのを最初に登録させるからね。それも最大5万円にしかできない」
「のめり込みすぎたお客様はこちらも対処がたいへんになるので歯止めを掛けているんです。それから返信が速すぎるお客様には、こちらからのお返事をわざとゆっくり出すように指導されています。お客様に楽しんでもらうのが基本なので、これで破産されたり離婚されたりしては困りますから」
 
「うん、なるほど。ほんとに良心的だね」
「ありがとうございます」
 
「いや正直ね、僕も今年58だからね。若い学生さんたちと話をしたりするのになかなか話題に付いていけないと思うことが多くてさ、それで若い人たちとの会話のウォーミングアップに、ここに登録してたんだ。ポイント制だから多分サクラが多いとこだと思ったんで、それなら家庭争議引き起こすようなことにもなるまいと思ってね」
「なるほどですね。だいたいこちらのスタッフは20代の人がほとんどですからそういう意味では正解な利用法かもです」
 
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私達の会話は、この出会い系を使っていて起きた様々な面白いこととか、こういう話題があった、などという話から、いつの間にか私達の専門分野の話にまで至る。あの方程式で第4項をこれと入れ替えると、こういう式になり、この式が意味するところは、などと科学的な理論から更に逸脱して少し哲学的な話にまで到達していた。○○のゲノム配列は・・・なんて話もしたし、原子力発電所の安全対策を話したりしたかと思えば、連続体仮説がどうのとか、不確定性原理がどうの、なんて話もしているので、これは聞いている付き添い役の人も戸惑っているだろうな、などと思う。
 
「でも君、就職とかについてはどうするつもり?女の子として仕事先探すの?」
「男の子として探すのは不可能ですから」
「だよね。だけど女子としてでもかなり大変だろう?」
「ええ、覚悟してます。そもそも理系女子の就職先自体が厳しいですけど、それに性別が変わってますから」
 
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「教員免許は取るつもり?」
「出身校の先生にこないだ電話して、今の自分の現状を説明した上で、まだ来年の話だけど、教育実習とか可能だろうかと打診してみたのですが、性別が変わってるのは別に学校としては気にしないと言われました。実は今の1年生にもGIDの子がいるらしくて。ちなみに先生からは『君の性別が変わったって、あの頃女の子だったのに男の子に目覚めちゃったの?それとも男の子の格好するのはもうやめてちゃんと女の子になったの?』なんて訊かれましたけど」
「うん。君の場合は、まさに本来の性別に戻ったということかもね」
「でも教員免許は取れても採用試験は厳しいかなという気もしています」
 
「かも知れないね。去年も理学研究科トップで修士課程を卒業した子が教員採用試験に落ちて、結局は日立の研究所に入った。コネ採用がひどすぎるよ。教員が難しいとなると他は、やはりソフトハウスとかかな」
「小さい所だと性別気にせず取ってくれる所がひょっとしたらあるかも知れないですね」
「うんうん。一応うちは国立だし水準的にも一流大学に分類されるているからね。ネームバリューは利く。なかなか見つからないような場合は言ってよ。OBとかに声を掛けてみるから」
「ありがとうございます」
 
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いつの間にか約束の30分が過ぎ、もう45分くらい話している。
「あ、時間超過していたね、すまんすまん」
「教授、サクラであることがバレた場合、返金できるのですが、どうしましょう?」
「返金求めたら、君も報酬もらえないだろ?」
「それはいいですよ。ハプニングだもん」
 
「返金は求めないよ。僕は充分楽しんだから満足だよ」
「ありがとうございます」
「ヒッグス粒子の件、今度大学でももう少し話そう」
「ええ。先生のお考え、もう少しお聞きしたいです」
 

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