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■続・サクラな日々(3)

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土曜日には昼間に椎名グループ8人でファミレスに集まり、みんなでステーキを食べた。今日頑張る人多いだろうから、体力付けておこうという趣旨である。例によって深夜のドライブが設定されていたが今日は2時集合ということだった。
 
「それまでゆっくりと個々で楽しもう」と花梨。
「あはは、とりあえず私はバイトだぁ」と私。
 
進平はひとりでは寂しいと言ってバイト先まで付いてきて休憩室でコーヒーを飲んでいたのだが、そこらにいるものは誰でも使えというわけで、頻発するデートの監視役にもどんどん徴用されていた。私もその日は4回デートした。進平は後半は事務所に戻れないまま、デートの監視のハシゴをして私の分も含めて8回デートの監視をやった。
 
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ふだんより少し遅めの22時頃一緒に上がってファミレスで一息つく。
「またステーキ食べるんだ!」
「疲れた!エネルギー補給」
「デート監視8回は体力も精神力も使うよね」
「うん。ずっとお預け食ってる気分だった」
「うふふ」
「これからも疲れることするから、その準備もある」
「もう・・・」
 
彼はホテルに入ると、8回デートの監視したから私とも8回やる!などといって頑張っていた。が、さすがに4-5回目くらいからは最後まで到達できなくなる。お口でもしてあげたがやはり逝けない。何だか悔しがっていたが私は彼の背中を優しく撫でてあげた。
 
1時近くになった時点で彼がほんとに体力を使い切っている感じだったので「集合場所までは私が運転するよ」と言ったら「頼む」と言われた。
 
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それでホテルを出て、彼をRX-8の助手席に乗せ、集合場所のSAまで走った。ちょうど椎名君のフェアレディZと途中で出会ったので、連なってSAに入っていったら、向こうも運転席から花梨が降りてきた。「あら?」と私と目が合い、少し笑った。
 
私は進平に「寝てていいよ」と声を掛けて花梨と一緒に施設内に入る。椎名君も助手席で寝ているようであった。麻耶と美沙が手を挙げるので、そちらに行く。
 
「タッちゃん、何とかここまで運転してきたけど、疲れた、寝る!といって寝ちゃったから車に置いてきた」
「こちらも同様」と美沙。
「こちらは私が運転してきた」と花梨。
「私も。進ちゃん、体力使い切った感じだったから」と私。
「私、運転できないもんね−。免許持ってないし」と美沙。
「私、免許は持ってるけどペーパー」と麻耶。
 
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「取り敢えず男組は起きるまで寝せとこうか」
「うんうん」
 
そういう訳でその夜は女組はSAでお茶を飲みながらずっとおしゃべりをしていたのだが、男組はなかなか起きて来なかった。
 
「でも、私この集まりに参加するまで、車の名前って全然分からなかった」と私。「あ、私はいまだに分からない」と麻耶。
「タッちゃんのインプレッサのこと、しばしばインプレッションとか、インパルスとか言い間違えて、呆れられてる」
「私も似たようなもんだわ。ヒロのスカイラインGS-Rのこと、よくGX-RとかGH-Rとか言っちゃう」と美沙。
「GT-Rだよ」と花梨。
「あれ?今私なんて言った?」
「GS-R」と私と花梨。
 
「ああ、やっぱり全然覚えきれない」
「ちなみにあの車は確かにスカイラインのシリーズではあるけど、スカイラインGT-Rじゃなくて、単にGT-Rなんだよね」と花梨が細かい解説をする。
「そうなんだ?私もヒロもよくスカイラインって呼んでるけど」
「それは問題無いと思うよ」
 
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「だけど私も男の子と会話しててランエボって名前が出てくるの何のことか分からなくて、会話がチンプンカンプンだったことある。かなり後になってから車の名前だったのか!って思って」と私。
「ランエボって何かの略だっけ?」と麻耶。
「ランサー・エボリューション」と花梨。
「インプレッサとよく比較される車だよね」と私。
「へー」
「合わせてエボ・インプとか言うよね」と花梨。
 
「でも私、フェアレディZだけは名前知ってた」と私。
「私も名前だけは知ってたけど、実物はノリに乗せてもらった時に初めて見た」
と花梨。
「女の子3人で買い物してて荷物が重くなった時に、ちょうどノリと遭遇して。じゃ、俺の車で運ぶ?なんて言うから、乗せてもらったのが最初なのよね。その時、私と芳恵と、もう一人星香って子の3人だったんだけど」
「へー、それがきっかけで!」
「あ。その話、私は初めて聞いた」と麻耶。
 
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「ノリとは高校時代に一緒に校内新聞の編集してたからけっこう話してたんだけど、東京に出て来てからは、それが会った最初だったのよ」
「おお」
「わあ、かっこいい車!とか私が騒ぐもんだから、じゃ今度一緒にドライブでもする?なんて言われて、次の日曜日に私だけドライブに付き合った時、助手席さん募集の話が出て来て」
「わあ」
「芳恵はやるやるって乗り気だったけど、星香は私車酔いするからパスっていうんで、ミーシャとマーヤを誘ったの」
「なるほど」
 
「だけどフェアレディZの後部座席って狭いのよね」
「最近のZには後部座席そのものが無いよね」
「そうそう。デートするのに後部座席は絶対必要だってんで、古いモデルを買ったんだって」
「デートするのにというより御休憩するのにだよね」
「うんうん。元々狭いのに横になって寝られるようにクッション入れてフラットにして、更にマットレスまで敷いてるから、ますます狭い」
 
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「あ、うちのRX-8もそんな感じでフラットにしてる」
「こちらののGF-Rもフラット化してるよー」
私と花梨は『GT-R』と修正すべきかどうか視線で会話したが、放置しておくことにした。
 
「あのフラット化は最初いちばん広いRX-8で4人で色々研究したみたいね。その後、他の2台も同様にしてフラット化したらしい。クッション材を座席の形とフットスペースの形にきちんと削って安定させてるからね。クッション材自体もいろいろなものを試して寝心地をチェックしたらしい」と花梨。
 
「なるほどねー。でもこちらも元々の後部座席が凄まじく狭いのよね。前の座席を限界まで押し出してもけっこうきつい。ま、そのきつい中で天井に足ぶつけたりしながらするのも楽しいんだけど」と美沙。
 
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「タッちゃんは最初2人乗りの車を考えてたらしいけど、椎名君から後部座席はあった方がいいぞ、と言われて結局インプレッサにしたって」
と麻耶。
「インプはいいよね。そのままリアシートに寝られるもん」と花梨。
 
「うちの進ちゃんも最初はRX-7を買うつもりだったけど、リアシートが狭いよなと思って、RX-8なら後部座席が広いから、こっちにしようと思ったって言ってた」
 
「男の子って何考えて車選んでるんだろね?」と麻耶。
「いや、それこそが目的でしょ」と美沙。
 
女組の会話は盛り上がっていたが、結局男組がチラホラと起きてきたのは5時頃であった。それで、その日はすぐ先のICからそのままUターンすることになってしまったのであった。むろん女組は帰りの車内でぐっすり寝ていた。
 
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バレンタイン前日となる月曜日、学校で私達は各々の成果を報告し合う。涼世は金土日と3日間に3人のボーイフレンドと1人ずつ会ってチョコを渡したものの、お茶を飲んだだけで終了し、誰かと発展することも無かったそうであった。
「誰か1人くらい私を口説いてくれてもいいのに」
などと言っていた。
 
妃冴は竹下君とのデートを成功させた。お互いの告白もちゃんとして、ふたりは金曜日の晩から土曜日の朝まで一緒に過ごしたということだった。恋人として付き合っていくと嬉しそうに言っていたので、みんなで頑張れと言う。
 
そしてバレンタイン当日。私と涼世はせっせとクラスの男子たちに義理チョコを配布した。時々「当たり」と称して大きなものも渡すので、あちこちで歓声も上がっていた。
 
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莉子は昼休みに院生の男子にチョコを渡して告白したが撃沈してしまった。さすがの莉子も少し落ち込んでいたので、私達女子グループは午後の授業をサボり、莉子を連れてカラオケに行き、みんなで歌を歌いまくった。
 
莉子もたくさん歌っていたが、「今日はもう帰って寝る」というので、私が付き添って一緒に帰ろうとしたら「自宅まで帰るの面倒。ハルリンの所に泊めて」
という。
「私、今夜たぶん帰らないけど」と言ったら、涼世が「じゃ私も一緒に泊まる」
というので、ふたりを連れて自宅に戻り、「私は出かけてくるね」と言って鍵を涼世に預けて出かけた。
 
この日のバイトも忙しかった。いつもより早く16時前から入ったのだが、デートも多数発生したし、通常のメールも多かったので、22時過ぎまで対応に追われていた。それで23時前に上がって、進平に拾ってもらった。少しドライブしてから、予約していたホテルに入る。(進平は10日の日で懲りてこの日はバイト先には来なかった)
 
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なお、バイトしながらも時々、涼世に様子を尋ねるメールをしていたが、22時頃『私も寝るね』というメールが来た。ふたりは私の自宅に置いてあるビール(進平用)を結構飲んでいたようであったが、莉子は18時頃に寝てしまったということだった。涼世はその後、私の本棚に並んでいる少女漫画を読破していたようであった。
 
私の方はホテルに入った後、進平が買ってくれていたサンドイッチなど軽食でお腹を満たしてから、たっぷり愛し合った。2〜3時間頑張って、もう彼が「体力の限界〜」などと言っていたところで、私はチョコを渡した。直径20cmの巨大ハート型チョコである。
「美味しい、美味しい」といって食べていた。
「運動した後だから、よけい美味しいのかも」などとも言っていたが、最後の方ではさすがに「甘いのもいいけど、辛いものとかもいいかな」などと言い出した。
 
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そこで明け方、ファミレスに一緒に行き、辛〜いカレーを食べた。
「朝にカレーっていいよね」などというので
「じゃ、今週末は辛〜いカレーにしようかな」などと私は言う。
「うん、思いっきり辛いの作って」
「了解。食べてくれなかったら口を開けて突っ込むから」
 
私達がファミレスでカレーを食べているというのを聞くと涼世は「いいないいな」
と言ってきたので「来る?」というと、「行く!」といって、莉子を連れてファミレスにやってきた。莉子は進平が食べたのと同じ劇辛のカレーを注文し涙を流しながら食べていた。しかし食べ終わると「私、元気!」と宣言する。「それでこそ石岡さんだね」などと進平も笑顔で言っていた。
 
そしてその週末、彼は涙を流して辛いカレーを食べていた。ファミレスで言ったように超激辛カレーを私が作ったのである。
「ハルちゃんは食べないの?」
「だって凄まじく辛いんだもん」
「うん。辛い。でも辛いけど、すごく美味いよ、これ」
「そう。じゃ今度はもう少し辛さ控えめにして、このレシピで作るね。私も食べられる程度の辛さで」
「うん、それがいいかも」
そんなことを言いながらも彼は一所懸命このカレーを食べてくれる。それを見ていて、男の子って、ほんとに女の子のためにはくだらないことでも頑張るんだなあ、と少し感動してしまった。
 
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