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■続・サクラな日々(4)

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学校が春休みに入る。母が「一度うちに帰ってきて」というので、私は昨年のお正月以来、1年3ヶ月ぶりくらいに帰省した。
 
私の振袖姿の成人式の写真を見て、父はショックで丸1日言葉が出なかったそうであったが、実物の私を見ると
「なんで、お前、そんな美人になるんだ?」
と言った。
「あの写真、修正とかしてなかったんだな」
「そんな面倒なことしないよー」
「ちん○、切ったのか?」
「まだ切ってないけど、多分今年中に切ると思う」
「そうか。まあ、仕方ないな、お前がそうしたいんだったら」
「ありがとう」
 
父なりに悩んで私を許す気になってくれたのだろう。私はちょっと涙が出た。
「仕送り停めて済まんかったな。4月からまた少し送るように母ちゃんに言ったから」
「ううん。いいよ。私ももう20歳だもん。なんとかひとりで頑張るから」
「そうか?」
「その分、お父ちゃんたちの老後の資金を積み立ててて」
「馬鹿言え」
 
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私が帰省した翌日、上の兄・天尚(あまお)が彼女を連れて帰省してきた。その連絡があってから私は母に「私東京に戻ろうか?」と言ったが、母は「いいからここに居なさい」と言った。
 
天尚兄さんは私を見るなり「おお、美人になってる」と喜んでいるかのように言った。
 
その兄の彼女から自己紹介されて、私は
「初めまして。天尚の元弟で今は妹の晴音(はるね)です」と挨拶した。彼女は目を丸くしたが、すぐに
「可愛い妹さんね」と笑顔でこたえてくれた。
「でも、男の子だったようには見えない」
 
そして彼女はめざとく、私の左手薬指に指輪の痕があるのに気付く。
「あれ?そこに、ふだん指輪付けてません?」
私は照れながら、いつも付けている指輪をバッグから取り出すと
「えへへ、いつもこれ付けてるのです」
といって、そのエメラルドの指輪をはめた。
 
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「わあ、きれいなエメラルド。彼氏からのプレゼント?」
「ええ。大学出て就職したらダイヤのプラチナ・リングも買うから、それをこの指に重ねて付けてね、と言われてます」
「素敵〜。ね、天尚さん、私も指輪が欲しい」
「夏のボーナスまで待ってくれ」
 
「ちょっと、あんた私はそんな話聞いてないよ。例の彼氏とそんなことになってるの?」と母。
「うん。でも、この件、向こうのご両親の許可取るのが凄くたいへんだろうからもう少し向こう側が進められそうになってから、お母ちゃんには言おうと思ってた」
「そりゃ、向こうの親御さんはなかなか許してくれないでしょうね」
「うん。でも頑張る」
「今度私が東京に行った時、一度その彼と会わせてよ」
「分かった」
 
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両親と天尚兄、その彼女、そして私、と5人で食卓をかこみ、夕食を取ろうとしていた時、今度は下の兄の風史(かざみ)から電話が入り、急に帰省してきて、今空港にいるので、よかったら迎えに来てくれないかという。
ところが父も天尚兄も既にビールを飲んでいた。
「私、迎えに行ってくる」と私が手を挙げ、父の車を借りて空港まで走った。
 
このシチュエーションはたぶん風兄も彼女連れてるな、と思ったら案の定であった。
「初めまして。風史の妹の晴音(はるね)です」と挨拶する。
「ああ、あなたが例の妹さんね。カザンから、あなたのことは聞いていたけど美人さんね」
「俺はお前がどういうオカマになっているかと期待してたんだけど、美人すぎて拍子抜けしたぞ。声まで女じゃねえか」
 
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「お二方、ありがとうございます。私、お世辞はそのまま受け取りますので。さ、乗って乗って」
といって、ふたりを後部座席に乗せて出発する。
 
「ハル、お前運転できたんだな。ペーパードライバーだとか以前は言ってたのに」
「うん。だいぶ練習した。彼氏が車好きでさ。時々練習で運転させてもらってるの」
「へー、それでか。なんか安心して見てられる運転だなと思って、彼氏の車って何?」
「RX-8。MTだよ」
「すごっ!。そんなもん運転できるなら、ATのカローラは楽勝だな」
「こないだはお友達のフェアレディZも10kmほどだけ運転させてもらった」
「そんな化け物みたいな車、俺は触ったこともないな」
「最初の頃は運転できても駐車できなかったけど、駐車も最近は枠に1発でピタリと入れられるようになった」
「おお、すごい」
 
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風史まで彼女を連れてきた(しかも予告無しで)というので、両親も、特に母は大慌てであったが、やがてお互いの挨拶も済ませて、7人で食卓を囲む。今日はホットプレートを2個出して焼肉である。
 
「天尚も風史も、いつまでいられるの?」と母が訊く。
「俺は明後日帰るつもりだけど」と天尚。
「俺も明後日だな」と風史。
すると母が突然こんなことを言い出した。
「晴音(はるね)、あんた明日にもあんたの彼氏にここに来てもらいなさい」
「えー!?」
「飛行機代は私が出してあげるからさ。だって、これを逃したら、これだけのメンツが次集まれるのは、天尚か風史の結婚式まで無いよ。どっちが先に式を挙げるのかは知らないけど」
「よしよし、ハル、彼氏呼んでこい」と天尚兄。
「あはは。一応連絡してみる」
 
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私は進平に電話をしてみた。彼はびっくりしていたが、明日朝一番の飛行機で行くと言ってくれた。
 
翌日、彼の飛行機到着に合わせて私がまた車で迎えに行く。彼は成人式の時に着ていたスーツを着てきていた。
「ごめんねー、無理言って」
「いや、俺もそろそろハルちゃんに会いたいなと思ってた所だから」
「本当は私は今日東京に帰るつもりだったんだけどね」
 
家に着くと、進平はきちんと正座して
「お初にお目に掛かります。晴音(はるね)さんの恋人で、寺元進平と申します。ご挨拶が遅くなりまして申し訳ありません」
と丁寧に挨拶をした。
 
「いえいえ。こんな変な娘に目をかけてくださるなんて、なんて奇特な方だろうと思ってました」などと母。
 
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お昼は母に頼まれて私がお寿司を10人前、車で買いに行く。それを食べ終わると、母は「よし、みんなで温泉に行こう」などと言い出した。「はあ〜、なんで?」などと風史兄が呆れていたが、子供たちが3人とも恋人を連れてきて、ご機嫌になっている母の勢いに押し切られてしまった。近所に1500年くらい前に開発されたという伝説のある古い温泉があり、みんなでそこに行くことになった。
 
天尚兄の車(エクストレイル)と父の車(カローラ)に4人ずつ乗って温泉まで行った。私は進平に小声で「お酒、もし勧められても飲まないようにしてて」と言った。「OK」
 
男女に分かれて浴場へ入る。
「晴音さん、もうちゃんと女の子の身体になってるのね」と風史の彼女。「その付近については、当面ノーコメントということで」と私は笑って答える。
「でもよく女の子の友人たちと一緒に温泉に入ってますよ」
「えー?そうだったんだ」と母。
母は私の「身体」に何か秘密がありそうだと感じていたようだが、この場で追求することではないと判断したようであった。
 
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私達は初対面ではあったものの、母がうまく天尚の彼女(保恵さん)にも風史の彼女(窓歌さん)にも話題を振り、更に珍妙?な受け答えをするので、すぐに打ち解けることができた。
「私、一昨日に風史さんから急に帰省に付き合えって言われて『えー?どうしよう』
と思ったんだけど、こんな面白いお母さんと、こんな可愛い妹さんがいて、とても安心しました」などと窓歌さんは言っていた。
 
4人で楽しくおしゃべりしながら上がっていくと、案の定、男性陣4人は待ちくたびれた様子。父などお酒をかなり飲んだようで、酔いつぶれて?寝ている。天尚兄も風史兄もビールを片手にしていた。
 
「あら、あんたたちビール飲んだの?」
「いやぁ、女組がなかなか出てこないから、つい」
「進ちゃんは飲んでないよね」「言われた通り、飲んでない」
「ということで、帰りのドライバーは私と進ちゃんね」
「まあまあ、済みませんね」と母。
 
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「俺、道分からないから、ハルちゃん先行して。それに付いてく」
「OK」
 
私は父のカローラで、助手席に母を乗せ、後ろに風史兄と窓歌さん、進平は天尚兄のエクストレイルで、助手席に酔いつぶれている父を乗せ、後ろに天尚兄と保恵さん、という組み合わせで帰宅した。
 
そして夕方は昨日に続いての焼肉パーティーであった。温泉から帰宅した後で私が大急ぎでお肉や野菜をスーパーまで行って買ってきた。お昼のお寿司買いに続けての買い出し係だが、母としては『娘』の私がいちばんお使いに使いやすいようであった。焼肉は、天尚兄も風史兄も更に進平もよく食べるので4kgの牛肉があっという間になくなり、母はご機嫌であった。
 
その夜、みんなをどう寝せるか、母は少し悩んだようであった。昨夜は本宅の奥の部屋に天尚兄と保恵さん、離れの2Fに風史兄と窓歌さんを寝せて(離れの1Fは物置になっている)、父は仏間、母と私は中2Fの女部屋で寝た(女部屋は男子禁制なので、大学に入るまで18年間この家にいて、実はこれまでそこに入ったことは赤ちゃんの頃以外、ほとんど無かったが、昨夜は初めてそこで寝ることになった)。
 
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「進平さん、晴音(はるね)、あんたたち申し訳無いけど居間で寝てくれる?」と母。
「うん、それが順当だと思う。みんなが起きてくるまでには起きておくから」
「ごめんなさいね、進平さん。せっかく遠くから来てもらったのに」
「いえいえ、自分はどこででも寝られる性質ですので」と進平は答えている。「普段、ふたりでRX-8の後部座席ででも寝てるもんね」と私が言うと
「あらあら」と母。進平は「ハルちゃん・・・」と言って真っ赤になっている。
 
「でも、あんたたち、ほんとに仲がいいね」と母は笑って言ってから小さな声で「天尚と風史のどちらが先に別れると思う?」と私達に訊く。
「天尚兄」「天尚さん」と、私と進平はほぼ同時に答えた。
母は頷いていた。
「風史兄の方は結婚式を見られそうな気がする」
「私もそんな気がするのよねえ」
 
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そして実際、天尚は夏頃になって、保恵さんと別れたと連絡してきたのであった。風史のほうは、来年の2月に結婚式を挙げるという連絡があった。
 
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