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■続・サクラな日々(8)

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それは4月下旬、もうすぐゴールデンウィークという水曜日のことだった。前日の夜、バイト先からの帰りを車で拾ってもらい、そのまま進平のアパートに行き泊まった。朝、起きて御飯を炊きお味噌汁を作りながら(食材は私が来る度に少しずつストックしていた)「進ちゃーん、そろそろ起きてね」などと言っていた時、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。
 
私は迷ったが、進平はまだ寝ている。そこで玄関の所に行きインターホンで「はーい。どちら様でしょうか?」と訊く。
「あら・・・・えっと、進平の母でございます」と向こう側の声。
「はい、失礼しました。今開けますね」と言い、部屋の奥に向かって
「進ちゃん、起きて−」と呼びかけてから、ドアを開ける。
 
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「おはようございます。お邪魔しております、進平さんの友人です。どうぞ中へ」
と言ってお母さんを上に上げた。
「あら、こちらこそ、お邪魔じゃなかったかしら。ご免なさい」
と向こうも挨拶して靴を脱いで中に入ってくる。
 
慌てて進平は起きたが、裸のままである。まだぼーっとしていたが、慌ててそのあたりに落ちている服を着て、布団を畳み、テーブルを出す。
「何だよ、母ちゃん、突然」
「突然じゃないわよ。こないだ言っといたでしょ、お花の発表会で出てくるって」
「そうだったっけ?」
 
「あの、朝御飯、よろしかったらお召し上がられますか?」
「ありがとう、頂くわ」
と進平に話すのとはトーンが1オクターブ上がって、私に笑顔で話しかける。
 
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私は玉子を割ってオムレツを3人分作り皿に載せると、ケチャップで各々ハートを描いて食卓に運び、御飯とお味噌汁も盛った。
「あら、可愛い。頂きます・・・・美味しい!」
「うん、美味い、美味い」
「オムレツ、凄く形よくできてるし、半熟の具合がいい感じだし、お味噌汁の味付けも私の好みだわ」
「私、薄味で作るので、どうかなとは思ったのですが」
「私も薄味が好みなの」
「ありがとうございます」
 
「それで?進平、このお嬢さんをちゃんと紹介しなさい」
「うん。こちら、俺の恋人で吉岡晴音さん、こちら俺の母ちゃん」
「吉岡晴音と申します。お世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ、進平がお世話掛けてるみたいで。もう、こんな方がいるなんて、私全然聞いてなかったんですよ、今朝はお邪魔してご免なさいね」
「いえ、私の方こそ、ご挨拶もしておりませんで、失礼しました」
「あら?」
と言って、お母さんは私の左手薬指の指輪痕に気付く。
 
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「あなた、その指に指輪付けてる?」
「あ、はい。すみません。進平さんから頂いた指輪ですが、朝御飯の準備のために外してました」
と言って、私はバッグの中からエメラルドのリングを取り出し、指に付けた。
「可愛い〜。進平、このお嬢さんと、もう将来のことまで話してるの?」
「うん。母ちゃんにはその内言うつもりだったけど、彼女との間では、大学を出てから、結婚しようと言っている。就職してお金貯めてから本式のエンゲージリング贈るつもり」
「そこまで約束してるんなら、ちゃんと親にも言いなさい」
「御免」
 
「済みませんねえ、晴音さん?アバウトな息子で」
などと言った時、お母さんは本棚の写真立てに気付いた。
「あら?その写真は・・・」
 
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それは成人式の翌週、私達が振袖とスーツで指輪を買いに行った時の写真である。
「あ。これは成人式の時の」
と言って、進平は写真立てを下ろしてきた。
 
「素敵な振袖着てるわねえ」
「恐れ入ります」
「この振袖は自前?」
「はい。成人式用に買いました」
「いい振袖だわ。でもこれ、まるで結婚写真みたい」
「実は結構意識してる」
「ふーん。でも成人式だったの?あら?じゃ、同い年?」
「はい、進平さんと同じクラスで、1年生の時から友人だったのですが、恋人になったのは昨年の10月からです」
「あらら。だったら進平、お正月に帰省する時に、連れてくれば良かったのに」
「いや、その・・・」
 
「そうだ、ねえ、晴音さん、今日もし良かったら私のお花の発表会に付き合わない?」
「え?私、お花したことないです」
「いいのよお。若い女の子がいるだけで、盛り上がるんだから。会員がほとんど40代以上なんだもん。若い子が欲しいの。この振袖を持ってらっしゃいよ。着付けできる人はいるから」
「でも今日は学校の授業が」と進平。
「うん、いいよ、私休む。授業のノート、後で見せて」と私。
「分かった」
 
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朝の時間で車での移動はよけい時間が掛かるだろうということで、進平はそのまま大学に出ることにし、私は電車で自宅まで振袖と下着のセットを取りに行って、会場近くのカフェでお母さんと待ち合わせた。
 
「まだ少し時間あるからここでお茶でも飲んでましょ」
「はい」
「でも、あなた礼儀とかがしっかりしてる感じ」
「そうですか?うちの母には、いつもなってないって叱られるんですけど。ほら、畳の縁踏んでるとか、障子はちゃんと座って開けろとか」
「逆に今時、そんなことまで出来る子はほとんど居ないわよ。私だって畳の縁とか座布団とか平気で踏んじゃう」
「あはははは」
「でも、さっきあなたたちのやりとり見てて、凄く仲良さそうだし、それに相性も良さそうと思った」
「ありがとうございます」
 
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「あの子の彼女見たの、私実は3回目なんだけど」
「はい」
「いつもあの子、変な女の子ばかりつかまえて」
「えーっと」
 
「去年の今頃会った子は政治かぶれで」
「ああ、朱実さんですね。当時は私進平さんとお友達だったから、デートの途中で遭遇して紹介してもらったことありますよ。政治かぶれというのは後から聞きましたけど」
「そうそう、朱実さん。会っていきなり『お母さん、日本の政治は腐ってると思いませんか?革命を起こすべきです』って」
「凄い人だ・・・・・」
「見た目は穏やかな雰囲気だったんだけどね」
「でしたね」
 
「その前は高校時代だけど、またすごくおとなしい感じの子で、ちょっと見た目には今時珍しい大和撫子という感じだったんだけど」
「へー」
「実は精神的に凄く不安定だったのよね。うちに遊びに来ていた時に、何か進平が変なこと言ったのがきっかけで、ヒステリー起こしてしまって」
「あらら」
「発作的に手首を切って」
「きゃー」
「あれはもう大騒ぎだったわ」
「うーん」
 
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「今度は凄くまともな子みたいでホッとしてるの。それに付き合って半年で結婚の約束までしたって、あの子もかなりあなたに熱を上げてるのね」
「恐れ入ります。でも多分私もかなり変な子です」
 
「あら?」
「そのうち、ちゃんとご説明しないといけないのですが、取り敢えず、私赤ちゃん産めませんし」
「あらら・・・・でも、それはそう気にすること無いわよ。子供いなくたって、仲のいい夫婦って、世の中たくさんいるから」
「そうですか?」
「うんうん。進平には兄2人・姉1人いるから、誰か孫は作ってくれるだろうし」
「はい。そのことは進平さんからも言われました」
「じゃ、大丈夫よ。いちばん大事なのは、ふたりが仲良くしていけることと、私もそのお嫁さんと大喧嘩しない程度には付き合っていけることだわ」
 
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「ありがとうございます。でもこの件、その内、進平さんと一緒にちゃんとご説明にあがります」
「はいはい。あ、そろそろ時間。行きましょう」
「はい」
 
私は、お花の会の人に振袖を着付けしてもらい、それを着て、受付に立つことになった。もうひとり同年代くらいの女の子で英恵さんという人がいて、その人も会の人の娘さんということだったが、とても立派な振袖を着ており、ふたりで「いらっしゃいませ」と入口の受付の所でやっていた。
 
芳名帳に御名前を書いてもらうのだが、時々年配の人で「字が下手だからあなた代わりに書いて」と言われて、名前の字をお聞きして代筆することがあった。ああ、大学1年の時に毛筆の通信講座受けてて良かった、と思った。
 
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また、時々「お偉いさん」のような人が来るので、そういう人は個別対応で会長さんのところまで案内する。それ以外はおおむね、のんびりした仕事であったが、会場の雰囲気が華やかだし、来客にも和服を着た人が多く、何となく楽しい1日だった。
 
発表会は10時から夕方8時までで、お昼は英恵さんと交替で控え室に行き、お弁当を頂いた(今日もエプロン持参)。15時におやつ、18時にも軽食を頂いた。終了後、振袖を脱いでお母さんとそのお友達2人と一緒に夕食に行った。
 
「あなたのこと、私の娘かと思った人いて、うちの息子の嫁さんに、なんて言われたわ。いえ、うちの息子の嫁になる予定の人ですからと言ったら残念がってた」
「わあ、すみません」
と答えつつ、その言い方はお母さんは私のことをもう半ば認めているのだろうかなどと私は感じた。
 
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「でも、仕草が優雅よね。和服に合ってる感じ」とお友達。
「いいお振袖だったわ。高かったでしょう」ともうひとりのお友達。
「いえ安物ですよ。英恵さんの振袖が凄かった。あれかなりしそう」
「そうだった?」
「うん。あれかなり高い。たぶん300万くらい」とお母さん。
「でも晴音さんの振袖だって100万くらいしたでしょ?」
「いえ、78万のところ現金で買ったので3万円勉強してもらって75万円です」
「その値段で買えたらお買い得だわ」
 
お母さんのお友達たちとの食事は和やかに進み、終わった頃、進平に車で迎えにきてもらった。お友達2人は東京周辺に住んでいるので2人を駅まで送っていった後(4人乗りの車なので、お友達2人を駅まで送る間、私が夕食を取った店のロビーで待っていた)、お母さんは「お茶でも」と言ったのだが、進平が「俺、夕飯食ってない」というので、郊外のファミレスに入り、進平は食事、私とお母さんはお茶だけ飲んだ。
 
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「済みません。私のバイトがだいたいいつも9時頃終わるので、そのあと夕飯にするのが常になっているもので」
「あら、遅くまでたいへんね」
「以前、進平さんがしていたバイト先なんですよ。それで去年の春頃、私がバイトが見つからなくて困っていた時に進平さんが紹介してくださって」
「へー、そういう関わりがあったんだ」
「うん、まあ」
「でも、そしたら、進平、いつも晴音さんの手料理なの?晩ご飯は」
 
「うーんと、週の半分くらいはそうかな」
「あらあら」
「だいたい晴音の家に泊まってるから、俺。特に週末はほとんど向こうにいる」
「あ、うちの住所書いておきます」
と言って私はメモに書いてお母さんに渡す。
 
「ありがとう。でももうそこまで進展してるとは。あなたたち先に籍だけでも入れておいたら?」
「いや、そのあたりは卒業してからということで。ね?」
「あ、うん」と私。
「でも母ちゃん、晴音のこと気に入ったみたい」
「だって、あんたがこれまで付き合ってた中では最高にまともな子だわ」
 
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「うーん。もしかしたら、私、これまでで最高に変な子かも知れないです」
「いや、俺も母ちゃんと同じ意見。晴音は最高にいい子だよ」
 
私は視線で進平に問いかける。『そのこと』を今言わなくていいの?と。進平は迷っているようだ。ええい、言っちゃえと私は決断した。
 
「お母さん、やはり先に私ちゃんと言っておきます」
「あ・・・」
「いいよね。進平さん」
「何なの?」
「あの、私、今の段階では進平さんと籍を入れることができなくて」
「あら?もしかして、離婚して間もないの?」
「あ、それではなくて。。。その、私まだ戸籍上の性別が女性じゃないんです」
「へ?」
「自分としては来年の春くらいまでには性別を女性に変更するつもりでいます。それ以降は籍を入れることが可能になりますが、そういう経歴の女とそもそも結婚してもらえるものかというのがありまして」
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