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■続・サクラな日々(12)

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7月、夏休みに入ってすぐに、私はタイに行き性転換手術を受けた。
 
その後1ヶ月くらいは静養が必要だったので、その間はずっと進平が買い物したり御飯を作ってくれたりもして、面倒を見てくれた。
 
出会い系サイトの方は、私にそんなに長期間休まれると困ると店長が言い(何せ常時メールのやりとりをしている男性会員が50人以上いる)、本来はあの事務所でしかメールの送受信ができないようにしてあるシステムを少し改造して、私の自宅でも処理できるようにしてくれた。技術的には私の自宅に置いた専用端末をVPNで接続したもので、要するに私の自宅があの会社の支店扱いになったようであるが、私はその端末で毎日せっせとメールの返信作業をしていた。専用端末にはセキュリティケーブルを取り付け、その鍵は店長だけが持っていた。ハードディスクパスワードも設定し、またUSB・PCMCIAなどの端子は全部殺してあった。もし火事や地震で避難する場合は可能ならハンマーで叩いて破壊して欲しいと言われていた。
 
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私は外出も出来ないので毎日朝から晩まで返事を書いていたが、ほんとに気分が悪い時は進平が代理で私のIDでログインし返事を代筆してくれることもあった。結果的には、私は7〜8月の稼ぎだけで、性転換手術の費用をまかなえてしまった。
 
そして結局はこの手術の後、私達は完全に同棲状態になってしまった。
 
進平は手術後にずっと私のそばにいて面倒を見てくれたので、自分のアパートにいないから借りておくのもったいないといって向こうは解約し、荷物を全部こちらに持ち込んだ。とはいってもそれ以前から彼の荷物はほとんどこちらに来ていたのだが。駐車場もこちらのアパートの近くに借り直した。
 
手術の跡はホントに痛くて最初の頃、かなりの苦痛に耐えていたのだが、そういう私を心配して、店長が知り合い(正確には友人の友人の友人くらい)のヒーラーさんを自宅まで連れてきてくれた。中村さんと言って、性転換手術や腎臓移植手術・心臓移植手術・骨髄移植など、大きな手術を受けた人のヒーリングを過去に多数手がけた人ということだったが、まだ27〜28歳くらいかな?と思う若い女性だった。店長の弁では日本で五指に入る実力派のヒーラーさんで、過去には骨髄移植の後の状態が悪く死にかけていた人を回復させたこともあるなどと言っていた。店長は色々と不思議な人脈を持っているようであった。
 
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彼女は部屋でインセンスを焚きながら、足ツボなどを押さえたり身体のあちこちに鍼を打ったりしてくれたが、もうひとつ、とても大事なことを教えてくれた。
 
「移植手術などもそうなのですが、この手の手術で痕が痛むひとつの原因は、新しい自分の臓器を自分の心がきちんと受け入れてないことにあることが多いのです。あなたも新しいヴァギナが、実はずっと前から自分に存在していたかのように思ってみましょう。それがちゃんとふつうに自分の身体の一部であることを受け入れることができると、それだけで痛みはぐっと減るはずです。逆にこれが自分に本来無かった物と思っていると、免疫システムが異物と認識して排除しようと攻撃するので、最悪壊死しちゃう可能性もあります」
 
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「心に受け入れるって、もしかして洋服の着こなしに似た感じですか?」
 
「そうです。それに似ています。しばしば女装に慣れていない男性が女物の服を着ると、ものすごく変な感じになりますが、あれは女装している自分をちゃんと心に受け入れてないからなんですよね。あなたを見た時に、私は最初この人、生まれながらの女性なのでは?と一瞬思ってしまいましたが、あなたが女性の雰囲気を持っているし、女性の服をちゃんと受け入れて着こなしているからだな、と思い至りました。私は過去に性転換手術を受けた人を5人ヒーリングしましたが、今までの中であなたは最高に雰囲気が女性らしいです。あなたが女物の服を心に受け入れているのと同様に、ヴァギナを自分のものとして心にしっかり受け入れてみましょう」
 
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彼女のヒーリング・セッションを私は8月だけで合計5回受けたのだが、その度に痛みが軽減していったし、ダイレーション(ヴァギナが縮まないように特殊な棒を挿入して広さを確保すること)が全然苦痛でなくなっていった。その後9〜10月は月2回、11月以降は月に1回のペースで継続してもらった。
 
また彼女に言われた通り、私は自分のヴァギナが生まれた時から自分に備わっていたかのように、自分に暗示を掛けていった。そのことで、ヴァギナの感触が初期の頃とはまるで違うものになっていった。
 
彼女はまた自分のヴァギナの形を頭の中で思い描き、その形に自分のエネルギーが流れていく様子を想像してくださいと言っていた。そして、できたらヴァギナだけでなく、その奥に子宮、更には卵巣もあるように想像してみましょう、などと言っていた。そんなことを言われて毎日寝る前にリラックスした状態でそれを想像していたら、ほんとに自分には卵巣まであるかのような気分になってきた。
 
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私は国内の病院で手術後の経過観察をしてもらっていたが、病院の先生も「凄く回復がいいですし、ヴァギナの定着性が素晴らしいですね」と感心していた。先生は10月には「ダイレーションはもう時々でいいですよ。彼とある程度の頻度でセックスをするようになったら、ダイレーション自体しなくてもいいです」
と言った。先生はこれだけ傷が回復してるなら、もう温泉なども入っていいし、コンドームを付けて、(アクロバット的な体位などではなく)普通のセックスなら、してもいいですと言った。
 
私は9月に裁判所に行って、性別変更の申立書の書類をもらってきてすぐに提出した。私の性別変更は10月に認可され、1ヶ月ほどで戸籍や住民票が全部女性に切り替わった。運転免許証や国民健康保険、国民年金などの手続き、大学の学籍簿の登録、なども11月中には全部手続きを済ませた。
 
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私は椎名グループの深夜ドライブを7月下旬から9月上旬までお休みしていて、体力が回復してきた9月下旬から再び参加したのだが、温泉などは入浴をパスさせてもらっていた。しかし11月の草津温泉行きで、温泉再デビューを果たした。ただし入浴後にきれいにビデで洗浄するように、心配した進平から言われたので、それは実行した。
 
「はーい。掛け値無し・誤魔化し無しの女体です。ちなみに既に法的にも女性になっております」と私は裸になった姿を花梨たちに見せた。
 
「完璧に女の子になったね・・・・と言いたいところだけど、ハルは1年前から完璧に女の子だったよね」と花梨が笑って言う。
「そうそう。基本は変わってないよね。ずっとハルは女の子なんだから」
と美沙。
「私も違いを見つけきれないなあ。ただバストは1年前より大きくなったね」
と麻耶。
 
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「そ、そうね。今Dカップだから。手術のあとヒーリングしてもらった先生に、おっぱいも大きくなる暗示を掛けてもらったら、こちらも成長度が上がった気がする」
「じゃ、そのうちFくらいまで成長したりして」
「うーん。そこまでは無理かも知れないけど、なんか自分のおっぱい見るのが楽しい」
「夏はあせもが出来やすいから気をつけようね」と花梨。
「お、巨乳の先輩からのアドバイス」
「気をつける。ありがとう」
 
私の新しい性器を進平は早く試してみたくてたまらない感じであったが、最初手術をした先生からは半年間セックス禁止と言われていたので、お正月に解禁するつもりでいた。しかし国内で経過を見てくれていた先生から10月末には、コンドームを付けて、おとなしいセックスならしてもいいと言われたので、私達は11月の初旬、性転換後はじめてのセックスをした。
 
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なにせ私も初体験だし、かなり不安があったが、私達はうまく結合することができた。
 
入れる前に彼は私のクリトリスをかなり揉んでくれた。その感覚自体が凄く新鮮だったが、それで私は濡れてしまった。私は人工のヴァギナは濡れないからローションが必要と聞いていたので用意していたのだが、こんなに濡れたら多分不要と思ったら実際そのままスムーズにインサートすることができた。
 
彼は物凄く嬉しそうにしていて、かなり短時間で到達した。私も凄く気持ち良かったし、彼が到達したというのがこんなによく分かるのかというのは発見だった。彼は到達した瞬間感激してよく分からないことばを叫んでいたが、私も彼が到達した瞬間、ちょっと感激して涙が出て来た。私達はその後、しばらくそのまま、つながったままの状態で、優しく抱き合っていた。
 
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彼は2回目もやりたがっていたが、病院の先生からは当面は1晩に1回だけと言われていたので、2度目は以前と同じようにSを使ってした。しかしVの感覚を味わってしまうとSは少し物足りないようだった。「いっそA使う?」と言ったら、それでもいい、と進平がいうので私達は交際後はじめてAも使った。Vに比べると、私自身の快感は微妙だったが、彼は結構満足していたようだった。
「こんなに気持ちいいなら、ハルちゃんが性転換する前でも使えば良かったな」
などと彼は言っていた。
 
その後年内は私達は1回だけVを使ったら2回戦目以降はAを使って楽しんでいた。しかし年末頃には私自身の感触も凄くよくなっていたし、病院の先生に見てもらったのでも状態がとてもいいということだったので、クリスマスイブの夜に、とうとうVで4連戦した。すると彼は「やはりAよりVのほうがずっといいや」
などと言うので、それ以降、再びAは封印することとなった。
 
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そして私達は年明けに、双方の親の許可をもらって、とりあえず入籍してしまった。一緒に貴金属店に行き、おそろいのプラチナのマリッジリングを買った。私のリングの分は進平が、彼のリングの分は私がお金を出した。エメラルドのリングを買ったほぼ1年後のことだった。
 
「御免。まだエンゲージリングを買えない。順序が後先になるけど、就職してから必ず買ってあげるから」などと彼は言う。
「いいよ、気長に待つから」と私は笑って答えた。
 
私は今度は苗字が変わったので、またまた免許証その他の書換えに奔走した。大学の学生課の人からは「こないだは性が変わって、今度は姓が変わったんですね」
などと言われた。
 
私達は入籍だけで済ますつもりだったのだが「あんたたち式は?」と双方の親から言われたので、急遽手配をして、神社で式を挙げ、神社に出入りの写真屋さんに記念写真を撮ってもらい、またホテルの部屋を借りて身内だけで会食をした。双方の両親と兄弟(+風史兄の婚約者の窓歌さんと亜紀さんの彼氏の智和さん)が出席してくれた(参列者は私の側が5人、進平側が6人で合計11人。亜紀さんが司会をしてくれた)。本格的な披露宴は大学を卒業してからあらためてすることにした。
 
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マリッジリングを付けていたら、さすがにバイト先の「デート対応」はできないかと思ったのだが「夫が忙しくて放置されている若妻というシチュエーションは結構男性が萌えるんだ」と言われて、そういう役を演じることになった。レモンの方は相変わらず18-19歳の女子大生役をこなしているので「私達、演じる年齢が逆転しちゃったね」などと笑った。レモンは普段は24-25歳の雰囲気なのにメイクひとつで19歳の女子大生に見えてしまうから凄い。彼女の実年齢を知る同僚は私と店長のみである。セブンティーンやViVi,CanCamなどは愛読本らしい。
 
2月には風史兄が窓歌さんと結婚式を挙げた。私と進平は「妹夫婦」として式と披露宴に出席したが親戚から「あんたたちの披露宴をまだしてない」と指摘された。
「まだ学生なんで、大学を卒業してから、双方の田舎でそれぞれの親戚の前で披露宴しようかと思っています」と答えておいた。
 
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私は就職活動はしないことにした。進平が「三食昼寝付きでいいよ」などと言ってくれたこともあるが、バイト先の店長からも「フルタイムの仕事とか入れられて、こちらをあまりしてくれなくなると困る。何ならマージン少し上げてもいいから」
などと言われたので、その出会い系の方を当面続けていくことにした。そして、就職しないのなら、ということで私は大学院に進学して、あと2年学生をすることにした。私達のクラスの女子では他に莉子も大学院に進学すると言っていた。
 
また大学院に進学するなら2年後には状況が変わっているかもということで教員免許は取ることにし、4年生の6月に出身校で教育実習をしてきた(私の戸籍が既に女性になっているので、学校側も受け入れやすかったようであった)。私を知っている先生達からは「どうせこうなるなら、在学中から女子として通学していてもよかったのに」などと言われた。
 
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2年生にGIDの子がいて、戸籍上は男ではあるが女子の制服を着て就学していた。私はその子の相談に乗ってあげて欲しいと言われ、いろいろと話をした。何か困ったことがあった時や、単純に話し相手が欲しい時とかでも気軽に連絡してねと言って、私は彼女に自分の携帯番号を教えておいた。実際その後、時々彼女からは連絡があった。彼女には女声の出し方を教えて欲しいと言われ、教育実習の期間中にかなり指導した。おかげで彼女は教育実習を終える頃には女声で普通の会話ができるようになっていた。
 
進平は3年生の秋頃から盛んに就職活動をしていたが、4年生の夏休み直前に自動車メーカー△△△の東京本社に内々定が決まった。
「自動車だなんて、趣味と仕事が一致するのね」
「うん。でも車買い換えないとやばいかな」
「そうだね。さすがに他のメーカーの車では出勤できないよね・・・あ、それなら進ちゃんのRX-8、私にちょうだいよ」
「そうか。それで俺が新しく△△△の車を通勤用に買えばいんだ」
などと私達は話した。
 
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「だけど、どう考えても、俺はハルちゃんの稼ぎを上回れないなあ」などと言うので
「でも10年先まで続けられる仕事でもないし。私の稼ぎは私のお小遣い分と、何かあった時の予備費。基本的には進ちゃんの稼ぎだけで生活して行こうよ」と私は言う。「そうだね。じゃ、そのつもりで頑張るか」と彼は張り切っていた。
「あ、でも・・・・△△△の車買うお金だけ出して」
「いいよ。RX-8を私がそれで買い取るということで。60万くらいでいいかな?」
「えー?それでは新しい車買えないからせめて90万」
「でも元々80万で買った車でしょ」
「そこを愛情査定で」
「仕方ないなあ。じゃ100万」
「おお、感謝、感謝」
(ちなみに椎名君のZは120万、深谷君のインプが60万、高梁君のGT-Rが200万だったらしい。みな多少の傷や事故歴・不具合は気にせず破格値で買っていた。走行距離もGT-R以外は軒並み15万kmを超えていた)
 
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椎名君たちとのグループでのドライブは就職活動が忙しくなってきたこともあり、頻度は減ったが、それでも月に1回くらいは続いていた。「みんなが就職したらまた頻度が上げられるかなあ」などと椎名君は言っていた。椎名君と花梨も4年生の夏には婚約し、花梨は左手薬指にダイヤのプラチナリングをはめていた。「金が無いから虫眼鏡で見ないといけないようなダイヤで済まん」などと椎名君は言っていたが、花梨は嬉しそうだった。ふたりは大学を出たらすぐ結婚するんだと言っていた。麻耶と深谷君、美沙と高梁君は、もう少しゆっくりと付き合っていきたいと言っていた。
 
中村さんのヒーリングはその後もずっと毎月1回ずつ受けていたのだが、ある時、彼女はこんなことを言っていた。
「初めてお会いした時に、私、ふつうの男性が女装すると凄く変な感じになってしまって、まさに『女装した男』に見えてしまうという話をしたのですが、最近思うのですが、もしかしたらあなたが初めての女装でも凄く可愛い女の子になってしまったというのは、あなたが元々『女の子』だったからでは?という気がしてきました」
「元々ですか・・・」
 
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「そう。だから、あなたが小学生の頃、男の子としてはふつうの容貌だったのに女の子の服を着たとたん美人になっちゃったという話は、元々女の子だから男の子の服を着ると『男装した少女』になっちゃって、男の子としての美の基準とは違うので、誰もそれほど美男子とは思っていなかった。ところが、女の子の服を着たら、本来の性別に戻ることで、美少女になってしまったということなのかも」
 
「あはは・・・そう言われたらそうかもという気がしてきました」
「でも、ほんとにその頃、女の子になりたいとか、思ってなかったんですか?」
「みんなから言われるんですけど、自分ではそう意識してなかったんですよね」
「不思議ですね」
「ひょっとしたら自分でも忘れちゃってる何かがあったのかも知れないですね」
「そうですね」
 
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